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「王族からの招待状だ?」
その日、珍しく神妙な顔持ちをして一人―――一人で来る事自体は、別に珍しくはないのだが―――で教会に訪れて来たダクネスの言葉に、神父は特に何を思うでもなかった。
曰く、ダクネスを含めたカズマ達に王族―――ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス第一王女から招待状が来たのだと言う。
だが、別にそれだけなら何ら可笑しな事はない。彼女の素性を知っているのなら、予想出来て当然の事と言えるだろう。
知っての通り、ダクネスは貴族だ。アクセルの貴族、アクセルにおける剣にして盾であるダスティネス家のご令嬢ことダスティネス・フォード・ララティーナその人である。
そんな彼女であれば、別に王都の王族からパーティの招待状が来る事くらいは、普通の事だ。不思議な事など何一つとしてない
だが、どうやら今回はこれまでとは訳が違うらしい。
「私だけであれば、何も問題はなかったのだが……今回は、その…カズマ達が居るのだ」
「まぁ、絶対何らかの問題は起こすだろうな。馬鹿と駄女神と爆裂娘の三人だ、問題を起こさない方がおかしいまである」
悪い意味で、カズマ達は神父に信頼されていた。主にトラブルを起こすという方面で。
普通の貴族に対して無礼を働くだけでも場合によっては死刑だが、相手が一王国の王族であるならば一瞥の余地も情もなく極刑である。
だが……
「カズマだからなぁ……」
「まぁ、カズマだからな」
確実にカズマは無礼を働く。絶対に。カズマが無礼を働かない事など万に一つ足りともありはしない。
仮にカズマが何もしなかったとしても、何らかのトラブルには巻き込まれる。カズマもカズマでトラブルメーカーではあるが、カズマよりも秀でたトラブルメーカーであるアクアが居るのだから。
めぐみんは比較的常識人ではあるが、わりと感情の抑制が出来ない辺り貴族の態度に耐えられるかどうかはお察しである。下手すれば、王城で爆裂魔法が飛び出る可能性もあると否定出来ないのが何ともだ。
まぁ、だからどうしたという話ではあるのだが。その証拠に、神父はいつもの様に煙草を吸っていた。
煙草を吸いながら、で? と神父は続けた。
「それを私に説明した上で、貴方は私に何をお望みなのですか? ダスティネス・フォード・ララティーナ卿」
「ぐはっ…! で、出来ればその名前は止めてくれ…」
「では手早く説明をお願いします、ララティーナ殿」
「うぐっ…! その、どうか貴方にも付いていただきたく、同席してはもらえないかと誘いに来たのだ」
「その理由は?」
「貴方がレイン殿の元教師である事も一つだ。それとは別に、貴方が居ればいざと言う時に安心出来る」
「勝手だな。それに、招待状はもう無いんだろ? ならどちらにせよ俺は行けないと思うが?」
ダクネスの話から察するに、招待状はもう無い。
誘われたダクネスを含め、カズマ・アクア・めぐみんの三人で計四人。
王族達のパーティだ、同伴者の人数も限られているだろう。ともなれば、神父が同席する事など到底出来た事ではない。
「―――こう言っては失礼だが、貴方なら招待状など必要ないだろう? ベルゼルグ王国の大英雄であり、全知全能のラプラスを撃ち殺した貴方なら」
またそれか。と、神父は肩を竦めて溜息を吐く。
「魔神、魔神、魔神。どいつもこいつも口を開けばそれしか言わねぇ。何が大英雄だよ、バカバカしい。俺が一番嫌いな言葉だ」
魔神殺し。神狩り。
かつて王国を滅亡寸前まで追い詰めた、最古にして最強の悪魔―――全知全能のラプラスを撃ち殺した神父の異名である。
だが、神父にとっては心底重たく堅苦しいものでしかなく、自ら名乗る事などまったくとしてない。
何から今すぐにでも捨て去りたい。何故なら、実際に魔神を殺す事など出来ていないのだから。
現在進行形で神様として普通に生きているのだ、憎たらしい。神父の機嫌が少しだけ悪くなった。
「すまない。だが、私個人としても貴方には付いてきてほしいのだ。アイリス様の為に」
「それこそ御免被りたいんだがな」
「ジャティス様の妹君であっても?」
「ジャティスの妹だからだ、バカが。あのバカの妹なんざ、もっとバカで面倒くせぇに決まってんだろ。誰が世話したがるんだよ」
「貴方は本っ当に……!!!! 頼むからアイリス様の前でだけは言わないでくれ! 私は友人が王国を滅ぼすなど真っ平御免だぞ!」
平然と王族の悪口を吐く神父に、ダクネスは凄まじく動揺する。本人が居なくとも緊張してしまうものは緊張してしまうし、動揺はするものだ。
だが止めている様で止めていないぞ、ララティーナ。
もう完全に、神父が単独で王国を滅亡可能な危険人物だと理解し切っているが故の言動である。それもそれでどうなのだろうか、と思わないでもないが。
まぁ、不真面目神父だから致し方無し。ウィンチェスターの家系は揃いも揃ってバケモノばかりである。
まぁ、
神父としては、ダクネスの誘いはお断りだった。
「既に招待状が来てるんでな」
「そうか……それは残念だ。……ん? え?」
「ジャティスの野郎、前線指揮の最中にわざわざご丁寧に蝋まで使って送ってきやがった。暇なのかアイツ?」
何故ならば、もう既に元教え子にしてベルゼルグ王国第一王子―――ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・ジャティスによって王国へ招待済みだからである。
現在は王国から離れて暮らし、魔王軍との戦場において前線に身を投じている王子は、そんな状態でありながら我が師へと王国への招待状を渡していた。
『拝啓、我が偉大なる師へ。魔王軍の幹部だけでなく、機動要塞までも陥落させるとは、流石の手腕かと存じ上げます。師が王国から旅立ってから幾星霜、私も師を見習い腕を磨いていたつもりでしたが、師の活躍をお聞きする度にやはり己の力不足を痛感するばかりです。
突然の私の手紙に目を通していただき、誠にありがとうございます。今回、我が師へ手紙をしたためさせていただいたのは、他でもない私の妹の事についてです。
私の妹アイリスは、齢にして十二歳。そんな年齢だからか未だ内気で、王族としての責務に苦しんでいると聞きます
知っての通り、私は現在前線で指揮を執る身であります故、情けない限りではありますが血の繋がった妹の下へ馳せ参じる事は出来ません。
ですので、私達の元教師としての貴方に、どうかアイリスに暫くの間だけ相談役として就いていただければと思い、この手紙をしたため、王城への招待状を送らせていただきました。
追記
まぁ、招待状は既に通してあるので断る事は出来ないのですけども! どうですか先生、貴方に学んだ逃げ道を塞ぐ技術ですよ!』
「取り敢えずアイツぶん殴るわ、見返したら腹立ってきた」
「待て待て待て!!!! 許される訳ないだろそんな事!?」
「俺が許すんだよ。俺がどんだけあのバカをぶん殴って来たと思ってんだ、今更過ぎる」
「今更!?」
「そもそもアイツの親父にすら手出した事あんだぞ。たかが子供の一人や二人くらいに手出しても極刑なんざなんねぇよ」
「――――――――」
「そもそも極刑ぐらいぶち壊すのは簡単……あ? おい、ご令嬢?…………マジか、気絶しやがった。どこに気絶する要素あったんだ?」
まぁ良いか。放っておこう。
神父は気絶したダクネスを放置しながら、何事も無かったかの様に、酒を飲み始めた。