アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第三十四話「誇りなんてねぇよ、うるせぇよ」

 

■  ■

「貴様に決闘を申し込む!」

 

 王女アイリスとその側近からヘイトを稼いで数日が経った頃。

 神父が暇潰しに散歩している時に、何ともデジャブの様な宣言と共に神父は再び決闘を申し込まれる羽目になったのだ。

 アイリスの側近の一人にして護衛、クレア。神父にボロくそに言われて涙目になってしまい、あろう事かカズマ達から慰められてしまった女である。

 そんな彼女から、神父は決闘を申し込まれてしまったのである。

 

「レイン、悪りぃけどコイツ殺すわ」

「待って待って待って待って!!!!!! お願いですから先生待ってくださいィィィィィィ!!!!」

 

 青筋を立て、腰のホルスターに納めたガバメント―――ではなく、SAAに手を掛けつつある神父をレインは必死に引き止めた。全身全霊で引き止めていた。

 お冠である。あの不真面目神父が普通にキレ掛けていたのだ、そりゃ全身全霊で止める。

 まぁ、前衛職ではないレインではどうやっても神父を止める事など出来ないのだが。

 神父は普通に腹が立っていた。

 わざわざ助言をしてやったというのに―――殆ど言葉責めでしたけども―――それを実行せず、仕事を放っぽって来た要件が決闘?

 巫山戯るのも大概にせぇよ台パン確定案件である。

 

「安心しろ、アイリス様より許可は取っている。思う存分に戦ってこい、とな」

「はっ、流石はガキだ。器の狭いこった」

「お前を殺す…!」

「諦めろ、お前じゃ俺には勝てん。千に一つ、万に一つはおろか那由多の彼方であろうとも、お前には足りん」

「落ち着いてクレア! あと先生もアイリス様を罵倒するの止めてくださいっ! 普通に死罪になってもおかしくありませんよ!?」

「俺が今までそういう事で遠慮した事あったか?」

「ないです……」

「レイン!?」

 

 諌めようとするも、言い訳のしようがない事実に即座にノックアウトである。

 レインとて、神父の元教え子だ。

 神父の人柄をよく知っている人間の一人。ならば当然の事、神父がそういった場面や立場において一切の遠慮も容赦もしない事は知っている。

 そして、だからこそ―――レインは、クレアが神父と戦うのを止めるのに必死だった。

 

 はっきりと言ってしまえば、クレアが勝つ可能性など万に一つすらない。先程も神父が断言した様に、もはや那由多の彼方ですら不十分だ。

 試合にもならない。

 勝負にならない。

 立ち合いにすらならない。

 それ程までに―――圧倒的であり絶対的。

 クレアはこんな人間だ。彼女を完膚なきまでにズタボロにした神父が優しくヒールを掛けてやる可能性があるかと自問した場合、自答の結果はどうやってもNoである。

 数ヶ月、或いは半年は仕事が儘ならない体になってしまう可能性すらあるのだ。

 仮にも同僚だ。レインには、見過ごす事など出来なかった。

 

「正直な所、私は貴方を信用していない。国王様とジャティス様から、幾度も貴方の話は聞かせてもらった。だが、どうにも信じ難い」

「だろうな、それは否定しねぇよ。神々が何億年という莫大な時間を費やして尚も殺せなかった悪魔を、たかが一人の人間が殺して国を救った……なんざ、御伽噺や神話でもそうあったシチュエーションじゃない」

「何より、アイリス様への無礼が許せない。ついでにアクシズ教徒のくせして正論を語る所も納得が行かない」

「レイン、本当に此奴は王族の側近か? 前半はまだ納得がいったが、後半に関しては完全に無関係の私怨だぞ。公務に私情挟み過ぎだろ嘗めてんのか?」

「普段はこうではないんですが…。でも、先生の話を信じていない人はクレア以外にも結構居るんです。仕方ないとは分かっているんですけど……」

 

 魔神の単独討伐。魔王軍幹部単独討伐。機動要塞デストロイヤー破壊の支援。

 そのどれもが、あまりにも大き過ぎる話だ。誇張され過ぎた噂話だと笑う者達が現れるのも、決して無理な話ではない。

 神父としては、そんな事は心底どうでもよくはあるが。

 面倒事も名誉も不必要で、直ぐさまドブにぶん投げる様な男だ。寧ろそちらの方が、彼としても都合が良いのだろう。

 だが、それとこれは話が別だ。

 売られた喧嘩は買う。それがどの様な形であろうとも、成すべき事は十分以上の結果で達成するのが神父だ。

 

「お前は俺に決闘を申し込んだ。手足の一つや二つくらい使いものにならなくなる覚悟は―――してんだろうな?」

「先生お願いですから本当に待ってくださいィィィィィィィッ!!!!!!!! まだ弁明の余地がありますっ! クレアも貴族なだけあって色々と世間知らずなんです! 言い方があれなだけなんですぅ!」

「知らん」

「たった三文字で片付けられた!?」

 

 相変わらずキレの良い一刀両断である。

 泣きついてまで止めている元教え子にもこれが出来るのは、世界でも神父くらいのものではないだろうか。

 

「先に言ってきたのは此奴だ。先に喧嘩を吹っ掛けてきたんだ、なら俺はそれを買うまでだ。言葉で理解出来ないなら暴力で。指導の基本だろ」

「そんなぁ!?」

「ついでにお前もだ。此奴だけだと話にならん」

「流れ弾…!? クレアッ! 私まで参加する事になったじゃん、どうしてくれるの!? 私先生と戦いたくないのに!」

「大丈夫だ、レイン。お前が居なくとも私はやれる!」

「そういう問題じゃないんですけど!?」

「王城に広場があったな、そこでやるぞ。結果は明らかだがな」

 

 ……数分後。

 

「――――――――――――――――――――――」

「わたひははいへんけんほうへす」

 

 クレア&レイン―――惨敗ッ!!!

 王城の庭についてから間もなく開始された、神父VSクレア&レインという試合。

 しかしそれは、開始してからたったの3秒で終了した。

 

 何だ何だと興味本位で集まってきた王城の衛兵達の一人を立ち合い人とし、合図を指示してもらってから1秒が経過した瞬間。

 神父は脚部にのみ『(さざなみ)』を使用して一瞬で距離を詰め、クレアの腹へと掌底を一発。これにてクレアKO。

 その後ろで杖を構えていたレインがそれに気付くのに2秒が経過した頃、既に眼前まで迫った神父はレインの顔面手前で強く両手を叩いて―――所謂『猫騙し』―――意識の外側から爆発を引き起こし、レインの意識を混雑させた。

 これにて3秒。瞬殺も良い所である。

 

「っつ……あー、痛ぇ。脚だけ使ってこれかよ。ジジイの体はどうなってんだ? 機械なのか? いや、仮に機械でも1秒足らずで故障通り越して破損するぞ」

 

 骨、筋肉、関節。体を動かす上で必要な部分全てを一斉稼働させ、音速へと至る技術―――『漣』。

 神父は未だ、それを完全には使いこなせていない。あの神父ですら、だ。

 神父の祖父―――ウィンチェスターは、これを全身を用いて使っていた。全身に漣を使用し、もはや神速の領域にまで至っていた。

 脚部にのみ使用して、その代償は―――常人であれば関節が壊れ、骨が砕け、筋肉が断裂したのではないかと錯覚してしまう程の激痛だ。

 僅かに顔を歪めているだけの神父が可笑しいだけで、人が人ならば激痛によってショック死していても何ら不思議ではない。

 

「『ヒール』。ついでに『クリエイト・ウォーター』」

「がぼぼぼぼっっっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

「いつまで寝てんだ、さっさと起きろ」

 

 女性にあらぬ間抜け面を晒していたレインに、神父は容赦なくクリエイト・ウォーターを放った。

 ついでにクレアにもヒールを掛けて。

 

「あぁ、懐かしい……先生のこのスパルタな感じ。……久々に死ぬかと思いましたよッ!?」

「お前に手出してねぇだろ。猫騙ししただけだ」

「私の知ってる猫騙しってあんな鋭い衝撃音鳴らないんですけど!?」

「ぐぅ…! い、いったい何が……!?」

「腐っても王族の護衛か、ヒールしたとは言え喋れるとは意外だ。わりと強めに打ち込んだんだが」

「……因みにどれくらいの強さで?」

「衝撃で肋が3本くらい折れる程度」

「それ強めどころの話じゃないですよね!? 絶対殺すつもりでしたよね!?」

 

 ある意味で、銃は神父を制御する為のセーフティとも言えるだろうか。

 銃は威力が統一されている。

 どんな構えで撃とうとも、銃弾のダメージ表記は決して変わらない。当たる場所による増減はありはすれども、しかしダメージそのものは決して変わらない。

 生身というのは複雑だ。人間は、1度やった動きを完全に再現する事は出来ない(大脳基底核が破損し、身体をマニュアルで操作出来る人間を除く)との事だ。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

 神父の御話である。

 

「護衛としては弱過ぎるな」

「ぐっ…」

「うぅ……反論の余地もありません」

 

 弱過ぎる。

 それが、神父が出した結論であり、そして彼女達が戦闘で出した結果だった。

 

「ベルゼルグ王家は勇者の血を引く者達の家系。その王女たるアイリスもまた、勇者の血を引いている。ぶっちゃけて言えば、王家の装備を持ったアイリスならお前等はお荷物だ」

「………その通りだ」

「だが、それは装備を持っていた時の話だ。もしアイリスを狙ってくる敵が居るとすれば、それくらいの事は理解してるだろ。アイリスが無防備な状態で奇襲されてしまえば、如何に勇者の血を引いていても死ぬ」

「そんな事はさせない! その為に、私達は護衛として」

「そうだな。それがお前達の役目だ」

「アイリス様の傍に……。ん?」

 

 言葉を続けようとして、止めるクレア。

 今、否定の言葉が出なかった様な…? といった表情を浮かべると、神父が呆れたように肩を竦めた。

 

「何だ、その阿呆面。否定されるとでも思ったのか?」

「正直……。何かは言われると」

「それに関しちゃこれから言うわ。お前達はアイリスの護衛だ。最悪な事態を防ぐ為に、アイリスを護る事を役目とする。それに違いはない。だが―――護衛であると同時に側近でもある。なら、ただ護るだけじゃ意味がない」

「…!」

「仕える主に無礼? 知るか、そんな事。主が間違っているならば正す、迷っているなら導く。主の『側近(そばちか)』くに立ち、支える―――それが側近だろ。まぁ、それ以前で言うならお前達は大人で、アイリスは子供だ。そうだろ、レイン」

「……はい」

 

 かつての事を思い返す。

 自分は、あの時は子供で。

 その周りには―――神父や、神父の教え子達が居た。レインにとっては彼等が、自分に教え導く大人達だった。

 

「大人なら、子供に教えてやれ。子供を導いてやれ。子供を叱ってやれ。ただ守ってやるだけが、子供の為にはならねぇんだ。時に厳しくして、喧嘩する事もある。だが、喧嘩ってのは人と人が理解し合う為の手段でもある。身近な相手のお前達なら、それくらいの事でクビする様な奴じゃないのは分かってるだろ」

「…その通りだ。いや、仰る通りです」

「立場なんざ些細なもんだ、彼奴がお前達を大事にしてるのはあの時分かってんだろ。後はお前達次第だ」

 

 久々に神父らしい事したわ……柄じゃねぇ。

 そう言いながら、神父は王都に着いて久しく煙草に火を付けた。

 

 

 

 

 

「先生! アイリス様の事で御相談があるのですが!」

「なんでテメェに先生呼ばわりされなきゃなんねぇんだ帰れ」

 

 何故か、クレアからも先生呼ばわりされる羽目になった神父であった。

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