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その日の夜、王城に盗賊が入り込んだ。いや、彼等の為に言うのであれば義賊だろうか。
義賊。それは国や権力者にとっての犯罪者でありながら、しかし大衆から支持される者達の事を指す。
簡単な例えを出すとするならば、悪事に手を染めて金銀財宝を手に入れた貴族の財宝を盗み、その金の一切を貧困の民に手渡すなどの行為を働いたりする存在。
それが、世間一般において義賊と呼ばれる者だ。
王都には、悪行成す貴族の宝を奪う義賊が存在する。今回はその義賊が、ベルゼルグ王国の王城―――つまり、王家の城に入り込んだのである。
力の差を理解出来ていない愚者と言うべきか、或いは義賊という在り方に誇りを持った真の義賊と言うべきか。
そんな義賊の正体は、
「ふははは!!!! 楽勝も楽勝、悪感情も味わえて実に良い気分だ!」
「自分の助手が悪魔みたいになっちゃった……」
あろう事か、
カズマとクリス。わりと長い付き合いになるこの二人が、その義賊である。
まぁ、カズマは入ったばかりの(ほぼ不本意な参加だった気もするが)新人なので、正しく言えばクリスがその義賊だった訳なのだが。
皆様はご存知の通り、彼女の正体は女神エリスである。
女神アクアの後輩に当たる彼女は、アクアによってこの世界に転生したものの、しかし無残にも死んでしまった転生者達の転生特典―――神器と呼ばれるものを回収するという仕事をしているのだ。
神器というのは非常に強力極まりなく、同じく転生者であるカズマからしても「チートアイテム」と言わ占めるものだ。この世界の住民がそう易々と扱っていい代物ではない。
特典を選んだ本人しか真価を発揮する事は出来ないというデメリットこそあるが、それを抜きにしても強力な効果を有する神器も幾つか存在する。
女神エリスは、クリスという一人の人間の姿で下界に降臨し、その神器を回収して回っているのである。
『他者と身体を入れ替える』神器。
王女アイリスが着けているネックレスがその神器であり、今回の王城潜入はそのネックレスを回収する為である。
まぁ、その途中でカズマに見付かり、そこから訳あって協力する形となったのだが、普通に衛兵に発見。
しかしカズマは顔を隠す為のマスク(バニルの仮面)によってパワーアップを果たし、捕らえんとする衛兵達を悉く薙ぎ倒し、遂にはミツルギすらも倒した。
その結果として、もうあと少しでアイリスが居る部屋へと辿り着くにまで至りつつあった。
「あとちょっとで部屋だよ、助手くん!」
「了解! 今の俺には怖いものなんてないぞ、さぁ何処からでも何でも掛かって来ーい!」
気分上々、ハイテンション。調子に乗ったカズマは恐れもなく、正直に廊下を駆け抜けていた。
だが、クリスは僅かな疑問を抱き、現状を訝しんでいた。
衛兵は撒いた。そう考えたとしよう。しかし……
(これは、幾らなんでも人が居なさ過ぎじゃない…?)
走る廊下には、自分達以外に誰も居ない。
さらには追手の気配すらも無い。衛兵を撒いたと考えても、ここまで気配が無いのは逆に不気味だ。あのアイリスに絶対の忠誠を誓うクレアであれば、後先考えず全速力で追い掛けるだろうに、それすら無い。
あまりにも、自分達に都合が良い状況が続いている。それが、クリスに疑問を抱かせていたのだ。
(何かあるかな……けど、『敵感知』には何ら反応が無いし、私の考え過ぎなかな…?)
スキルを使っても敵は映らない。
作戦に何ら問題は無い。このまま無事に回収する事が出来れば、万事解決。
そこに何ら間違いはない。だが―――どうにも引っ掛かるのだ。この好都合な状況が、何故だか怪しく見えて仕方ない。
まるで、こうなる様に誘われているかの様な―――
「―――」
それは、本当に偶然だった。
考え事をしながら走っていたが故に、ついバランスを崩して少しだけ転けてしまったという、単なる偶然に過ぎなかった。
いや、幸運を司る女神である彼女だからこそ、それを引き出す事が出来たのだろう。幸運値が凄まじく高いクリスだからこそ―――
「チッ。外れたか」
背後から繰り出された、確実に首を斬り裂く一撃を躱す事が出来た。
「っ!?」
「お頭!」
理解が追い付いた瞬間、クリスは跳ねる様に仰け反って腰に差した短剣を引き抜く。
『敵感知』を発動し、暗闇の中に潜む敵の姿を目視し、
「あ、終わったもう無理おうち帰りたい」
「いきなりどうしたお頭!?」
盗賊クリスの精神は崩壊した。
目から光が消え失せ、自分達が目の前の相手から逃げ切る事など決して不可能なのだと理解してしまったらしい。
いったい何を見たんだ? そう気になったカズマは、クリスとは別で千里眼を発動して、
「あ、終わったもう無理おうち帰りたい」
一言一句違わず、同じ言葉を発した。
「『敵感知』に引っ掛からない様、気配も含めて空間と同化させてた筈なんだが。しかし、まさか転けで躱されるとはな。最近の義賊は超高校級の幸運でも持ってるのか?」
余裕を包み隠さず出しながらも、しかし一切の隙を感じさせないままに、暗闇の中から一人の人間が姿を表す。
今回は珍しく、ハンドガンではなく右手にナイフ持った男――――――我等が主人公、アクシズ教の不真面目神父である。
(なんで貴方が居るんですかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
(なんで神父さんが居んだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?)
(女神と人間が義賊とは何とも凄い絵面だな、こりゃ。つか、カズマはなんでバイト悪魔の仮面着けてんだ?)
心の中で、それはもう慟哭にも似た思いを絶叫する二人とは裏腹に、神父はあっさりと二人の正体を見抜いて冷静だった。
それもその筈。初対面から女神エリス、主神アクアの正体を見抜いた男なのだ、たかだか仮面程度の変装などで見抜けない訳もない。
そもそも、クリスに至っては髪と格好で丸分かりである。神父の場合、例えそれが見えずにいたとしても―――知人に限った話ではあるが―――声か足音で分かるのだが。
まぁ、それはそれとして。
「生憎、あんなガキでも教え子の妹だし、仕えるべき主なんでな。その飾り物を奪うならまず俺を殺してみせろ、
気付いているからと言って見逃すなんて甘く優しい事を、この男がする訳もない。
王都での面倒事(クレアとかクレアとかクレアとか)によって溜まったストレスを、彼等を使って発散する。そういう算段を立てた神父は、躊躇なく腰を落としてナイフを構えた。
「ねぇ気付いてるよね!? 絶対気付いてるよね!?」
「俺分かる! 神父さんと手合わせした事あるから分かる! これ絶対に八つ当たりだ!」
「知った様に喋るじゃねぇか、義賊共。残念ながら俺の知り合いには、銀髪で貧乳なエリス教徒も幸運高い割に何回も死んでる最弱職の冒険者も居ねぇよ」
「やっぱ気付いてんじゃねぇかッ!!!!」
「うるせぇ。取り敢えず
「殺されたら奪えるものも奪えないんですけど!?」
「知らん」
「三文字で切り捨てられた!?」
容赦なく相手の言い分をばっさり斬り捨てるのは、もはや神父の得意である。
かくして―――銀髪盗賊団結成以来、最強にして最悪のボス戦がスタートしたのである。