アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第三話「パーティ」

 

■  ■

 女神アクアが転生者カズマと共に教会を訪れてから、早くも一ヶ月が過ぎた。

 冒険者になる為の金銭を得たは良いものの初クエストはジャイアント・トードに惨敗し、女神アクアはカエルの粘液塗れになって帰還した。

 一応クエストは成功したのだ、アクアが喰われた隙にカズマがジャイアント・トードを討伐する形で。

 それからも色々なクエストを二人だけでやりこなしていたが、流石にキツイと感じて再び神父の教会に立ち寄り、助言を貰った。と言っても、クエストを達成していく形で割とお世話になっていたりするのだが。合計で8000エリスの出費である。

 まぁ、そんな神父からの助言を理由に、しっかりとしたパーティを募る事にしたのだ。

 カズマとアクアの二人だけでは些か戦力が安定しない。

 カズマは最弱職の《冒険者》で、アクアは上級職の《アークプリースト》だ。前衛としてカズマはあまり役立たない上に、能力こそ素晴らしいものの性格に難があるアクアは後衛なのにも関わらず接近戦を挑んだと聞く。

 

 神父は声に出す。「やっぱりあの女神バカだわ」と。

 まぁ、そういう訳で、確かなパーティを組まなければ大成する事はないだろう。能力的に考えるならば魔法使いと盾役がいれば十分じゃないか、と神父は助言した。

 その助言の下にメンバーを募った結果として―――

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を操る者!」

「ダクネスだ。よろしく頼む」

 

 頭のおかしい紅魔族とアクセルの土地を任される騎士の家系の貴族がパーティメンバーとなった。

 

「Jesus……」

 

 決してバランスが悪い訳ではないが人選が完璧に終わっている。あまりにも最悪だ。

 元は水の都アルカンレティアに住んでいた神父だ、当然の事として紅魔族については知っている。というか何人かとは知り合いだ。

 一応は神父という立場である為、アクセルの住民についてもそれなりに調べている。特に貴族は相手が面倒なので入念に調べた。

 なので、神父はこの二人がどういった人物なのか知っている。

 

 片や紅魔族という魔法使いとして優れた人種にありながら爆裂魔法という強力無比にして無用の長物のネタ魔法しか使わないバカ。

 片やアダマンタイトを用いた鎧に加えて防御性能が高いにも関わらず被虐体質故に攻撃ステータスに一切のポイントを振らないドM。

 パーティメンバーとしてあまりにも欠点が有りすぎる。幸運値が高いというのは嘘ではないかと疑ってしまう程だ。

 

「おい、人の顔を見るなり天を仰ぐのは止めてもらおうじゃないか」

 

 眼帯をした黒髪の少女がむっとする。どうやら不快に思ったらしい。

 だが残念ながら、この神父はそんな事を言われたからと言って、はいごめんなさいと謝る様な殊勝な性格はしていないのだ。

 天を仰いだ顔を戻し、再び二人を見て、

 

「はぁ……」

 

 大きなため息を吐いた。

 

「今度はため息!? 何ですか貴方、喧嘩売ってるんですか!?」

「お、おぉ…! その気味悪がる様な視線、いいなぁ…!」

「―――カズマ、お前実は面倒事を引っ提げてくる呪いでも掛けられてない? はっきり申し上げてくっそ酷いぞ」

「本当に直球だな!? いや、実際にそうなんだけど!」

「ロマン砲しか使わんアークウィザードに攻撃が一切当たらんクルセイダーとか…酷い有り様だ。今度エリス教の教会を紹介してやる、そこでエリス様に祈っとけ。運にまつわる事限定だが、アクア様より役に立つ」

「なんでよ!? あたしも運系の魔法使えるんですけどー!」

「元が最低値だから上げても変わらないだろアンタ」

「かずまー! かずまさーん! うちの子が反抗期になったー!」

「事実なんだよなぁ…」

 

 はぁ…とため息を吐きながら、椅子に腰を下ろして一服を始める不真面目神父。別に何かされた訳でもないのにどっと疲れが出始めた。

 神父も今回ばかりは本気でカズマを哀れんだ。アクセルでもこんなに癖のある存在を引き付ける冒険者はそう居ないだろう。

 

「……おい、ちびっ子」

「誰がちびっ子ですか!? さっきから失礼な人ですね、爆裂して差し上げましょうか!! わたしにはめぐみんと言う名前があるんです!」

「その時は早撃ち(クイックドロウ)するだけだ。お前、本当に爆裂魔法しか使えないのか?」

「そうです。わたしは爆裂魔法しか使えませんし、爆裂魔法以外を使うつもりもありません。わたしが真に極めるは爆裂魔法のみですから!」

「優秀なのに勿体ねぇなぁ……まぁ、いいや。次に御令嬢」

「ん゛ん゛…! 私にはダクネスという名がある。出来れば名で呼んでほしい」

「そうかい、じゃ嫌がらせの意も込めて御令嬢と呼んでやる」

「くぅ…! こちらが嫌がっているのを理解しながら改めようとしないとは…! 心底面倒くさそうな声色で言われると…うん…いい……」

「これがお嬢とかマジかよ、ダスティネス家…。お前は完全タンクだって話だが、本当に攻撃関連にステータスポイント振ってないのか?」

「あぁ。振っていない、そして振るつもりもない」

「マジでクソ。終わってるよお前のパーティ」

 

 神父は再び天を仰いだ。匙を投げたくなってきた。

 

「分かるけど言わないでっ! 改めて悲しくなるから! でも出来ればアドバイスください!」

「俺はお前のアドバイザーになったつもりはないが?……だが神父だからな、助言も仕事になるのか。はぁ……ほんっとに面倒だな、マジでこの職業」

 

「カズマカズマ」

「カズマです」

「本当に大丈夫なのですか? カズマとアクアは随分とこの人の事を信頼している様ですが、わたしにはどうも単なる不真面目神父にしか見えないのですが」

「実際に不真面目神父だからな…。でも、頼りになる人なのは確かだぞ。この人からのアドバイスで結構助けてもらってるし」

 

 この一ヶ月、本来よりも早く冒険者となった二人はめぐみんとダクネスを加入するまでに様々なクエストをこなしていた。

 そのクエストの助言を行っていたのは、他でもない神父本人である。

 煙草を灰皿に押し潰し、小さなコップに入れていた酒を呷って神父は語り始めた。

 

「爆裂魔法の使い手が居るなら、ダンジョン関連のクエストは無理だな。ダンジョンで撃つと威力が高過ぎて崩落に巻き込まれる。爆裂魔法は魔法の中でも特殊な無属性でな、神や霊体にすら必ずダメージを与えられる。それだけの破壊力を持つんだ。さらには全ての魔法の中でも射程距離が最も長い、要するにスコープとなる役目の人間が居れば狙撃が可能だ。カズマが千里眼を習得すればそこは問題無い。爆裂魔法に極振りしているのであれば、『初心者殺し』程度なら一撃で仕留められる筈だ」

「おぉ…アンタから聞かされると本当に凄いって思えるな」

「おい、それではわたしの説明では凄くないみたいじゃないか。ここでお見せしても良いんですよ、わたしは」

「やめとけ、命が無駄になる」

「…そんなに強いんですか、この人?」

 

 真剣な表情で詰めるカズマに、めぐみんは少し引き腰になる。

 失礼だなお前、と神父は不満をもらした。人をなんだと思っているんだ、と。

 

「名乗り上げてる時とか技名叫ぶ時に急所を狙ってくる様な人だぞ。お前が杖構えようとした瞬間に脳天撃ち抜かれる」

「な、なんて礼儀のない…! 貴方それでも男ですか!?」

 

 めぐみんはドン引きした。神父の容赦の無さに。神父らしからぬ冷徹さに。

 簡単に言い換えれば、戦隊モノや特撮、はたまた某少女向けヒーローの様な変身シーンに遠慮なく頭や心臓目掛けて銃を撃つ様なものだ。

 この神父にはそれが出来る。それを為す冷徹さがある。矜持も誇りも無駄だと断言する冷酷さがあるのだ。

 敵対したならば、倒す為ではなく殺す為に引き金に指を掛ける男なのだ。

 

「悪かったな、こんなんでも男だ。つか話折るんじゃねぇよ」

「あ、ごめん。えっと、一つ質問なんだけども」

「なんだ」

「その『初心者殺し』、結構素早いって聞くんだけど…どれだけ疾いの分かんないけど、爆裂魔法を撃つ前に逃げられるんじゃ?」

「ちゃんとそこを考えられるか、良い視点だ。だが、そこは問題ない。ここで役に立つのがタンクの御令嬢だ。コイツを囮役にして初心者殺しを誘き寄せ、戦ってる最中に爆裂魔法で狙撃すれば良い。俺の見立てでしかないが、おそらく御令嬢は爆裂魔法にも耐えられる。女の癖にゴーレムみたいに硬いぞ、女の癖に」

「はぅん…! あ、に、二度も言うな!」

「ま、それで死んだらその時はアクア様に頼め。一回限りじゃあるが、蘇生が出来る」

 

 この世界、ひいては天界には法則が存在する。

 『蘇生は一回限り』。生ある者が命を吹き返していいのは、たった一度だけであるというルールだ。

 アクアは女神である為、その蘇生が可能なのだ。

 

「え、お前そんな事出来んの?」

「当たり前でしょ、あたしは女神なんだから! エリスよりも圧倒的に上の女神なんだから!」

「えぇ、アクア様の御力はエリス様よりも優れております。流石は生命の母たる水を司る神に在られます」

「そうでしょ、そうでしょ! 二人共分かった? あたしは本当に女神なんだから!」

 

 いつの間にか泣き止んで、ふふんと胸を張るアクア。

 チョロいなコイツ…と神父とカズマは思わずにいられなかった。

 しかしめぐみんは、蘇生云々よりも神父の明らかな雰囲気と口調の変化を恐れた。

 

「アクアが女神かどうかよりも、この神父の変わり様が気味悪いのですが…」

「アドバイスしてやったのになんつー態度だ。あんま嘗めた口利くと本当に眼帯にするぞテメェ」

「ほう? そんなことが貴方に出来るのですか?……あの、すいません。謝りますのでその腰のホルスターに入った謎の鉄塊に掛けた手を離してはもらえませんか? 大変嫌な気配というか、わたしの命に関わりそうというか…」

「爆裂してみろよ、音速に勝てるものなら」

「ごめんなさいすみませんでしたー!」

 

 明らか西洋の装いだが、何故かその神父服に西部のホルスターとSAAは大変お似合いである。

 かちゃ…とハンマーが親指で引かれた音に命の危機をわりかし本気で感じ取り、怯えた様にめぐみんは頭を下げた。

 対モンスターならば兎も角、ルール無用の対人戦であれば神父に軍配が上がるのだ。

 冒険者カズマのパーティは、改めてそれを思い知る事になるのだが、それはまた別の話。

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