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「それで、ウィンさんは何故アクセルに?」
見通す悪魔から悪感情を頂いて非常に満足したウィンチェスターと、悪感情を頂かれた見通す悪魔が数十年振りに本気の殺し合いを始めて―――結果はバニルが残機を■■■■■から■■減らされて惨敗―――数時間が経った。
日も暮れ始め、店も外に灯りを付ける頃合に、肉体と魂を元の状態に戻した元気溌剌おじいちゃんウィンチェスターに、ウィズは問う。
何故、隠居した筈の貴方がアクセルの街に現れたのか? と。
神父のものよりも使い古された、黒いスキットルに入った酒を呷りながら、ウィンチェスターはかかっと笑った。
「いやなに、最近はオレの町までアイツの噂が届くんでな? 久々に顔でも見に行くかーと思って来てみたら、まさかの入れ違いでよ。せっかく土産も持って来たってのに」
「……一応聞くが、その土産とは何だ、ウィンチェスター。まさか貴様の懐にずっと仕舞われているその禍々しいものではないだろうな」
バニルは顔を歪めながら、ウィンチェスターのコートの懐を指差す。
ウィズは何も感じていないので首を傾げているが、悪魔であるバニルには分かる。
それは神気。その中でも一際呪いを放つ、祟りの類だ。常人ならば持っているだけで生気を削られ、問答無用で祟られる様な代物に他ならない。
「禍々しいって何だよ。ただのカエルだぜ?」
「まず土産がカエルなのが意味不明なのだ! そもそも貴様の土産に『ただの』なんて平和的な言葉が付く筈があるか!」
「酷い言い草だな。奇跡を遺すカエルだぞ、お前」
「尚更信用ならんわッ! どうせ怪しい字面なのだろうが! 正式名称を言ってみろ!」
「奇怪な跡を遺すカエル」
「ほらやっぱり碌でもないではないか!」
「それはまるで奇怪な跡の……」
「喧しいわッ! それ以上口にするな寒気がする!」
祟りだよね、分かるよ。
いや分かりたくねぇよ。さっさと帰れクソカエル。
「いやー、アイツもまだまだ伝承魔法は使いこなしてないからな。こういう土産で色々とヒント与えてやろうと思ってよ」
「本当に凄いですよね、伝承魔法! ウィンさんが開発したんですよね!? 是非とも私にも教えてほしいです!」
「だろー? やっぱ神話とか伝承なぞらえる系の魔法は強い、はっきり分かんだね。ま、教えるのは吝かじゃないが……ウィズにはちと扱い難いかねぇ。これに関しちゃ、オレとかカズマみたいな知識が必要だからな」
伝承魔法が強力たらしめる要因とは、即ち開発者にして使用者であるウィンチェスターの『知識』だ。
神話、歴史、漫画、アニメ、小説、ミリタリー。彼が有するその豊富な知識こそが、伝承魔法を強力無比な魔法へと昇華させているのだ。
要するに、日本人であるからこそ強さが成立する魔法が伝承魔法なのだ。
「そうなんですか? 私、これでも知識には自信あるんですけど……」
「あー、言い方悪かったな。
「『転生者』……確か、ニホンジンというやつだったか?」
「そ。まぁ、正確には日本だけの知識じゃねぇんだけどな。神話とかだいたい外国だし」
「でも、趣味というだけでそこまで知識を身に付けられるのも凄いですよ!」
それはそう、とバニルは首肯する。
趣味という言葉では片付けられない程に、ウィンチェスターという男が持つ知識は豊富だ。もはや専門家と言っても過言ではない程の博識さを有している。
言うなれば、趣味に全振りした男なのだ。
「ウィズのフォローが心に染みるわ…。まぁ、趣味ってのもあるけど、オレが個人で色んな国渡ってたからな。その過程で知ったのが殆どだよ」
「そういえば、ウィンの身の上話って聞いた事ありませんね。あ、でも奥様にしか話せないんでしたよね…」
「いや、聞かれりゃ普通に話すけど?」
「え?」
「え?」
両者、間抜けた面を晒す。
ウィンチェスターは、人生で一度もそんな事を言った事はない。別に、自分の身の上を隠しているつもりもない。聞かれれば普通に話す、聞かれなければ教えないという、それだけの事だ。
ぶっちゃけて言えば―――ただ単に、神父の勘違いである。
「まぁ、話しても分からんだろってのもあるけどな。分かるのは、それこそカズマとかミツルギくらいのもんだ。だから色々と掻い摘んで言うと、先祖は剣聖とか呼ばれてた人。両親は揃って軍人。オレ傭兵経験あり。以上」
「ちょ、掻い摘み過ぎじゃないですか!? えっと、えっとぉ…」
あまりにも唐突過ぎて、ウィズはショートしてしまったらしい。まぁ、これまで聞かされてこなかった情報が一気に更新されたのだ、ショートしても仕方ない。
だが、バニルはしっかりと聞き取っていたのか、顎に手を当てて気になった疑問を投げてきた。
「ふむ、その日本というのは平和な国ではなかったのか? 戦争をしない、という憲法を掲げている国だとあの神父は言っていたが」
「あー、そりゃ本来の日本だな。オレの日本は違うんだよ。問題児シリーズで言うと『立体交差並行世界論』ってやつ? ジャンルで言うなら架空戦記か。まぁ兎に角、オレの世界じゃ規模がデカイ戦争が起きてたのさ」
「なら、貴様の技術もそれで培ったものか。そうであれば納得が」
「いや出来たらカッコイイなーで鍛えただけ」
「気持ち悪っ! 本当に何なのだ貴様は!? 暇人か!?」
「どうせ遊び人と呼んでほしいね。ついでに『人類最悪』って付けてもらえると嬉しい」
「喧しいわッ!」
まぁ、
ウィンチェスターは改めて、アクセルに来た理由をしっかりと話し始めた。
「顔を見に来たのは嘘じゃないが、あくまでついでだ。ちょっと伝えたい事があってな」
「でしたら、私が伝えておきましょうか?」
「いや。今考えると、伝えない方が面白くなりそうだ。迅悠一みたく暗躍するのも悪くない」
くくっ……と、怪しげに笑う。それを見て、うわぁ、悪い顔してる……と少し引くウィズ。
共に戦線に立っていた時も偶にこういう顔をしていたな、と思い返せば、味方からしてもえげつない戦法で魔王軍を叩き潰していた当時の記憶が蘇ってくる。
高速爆裂徹甲弾による連続狙撃。
転移魔法弾によるダンジョン生き埋め作戦。
思い出すだけで、魔王軍側が可哀想に思えてくる苛烈で残酷な作戦だ。
それをやってみせた時に見せる―――凶悪ながらに、愉しげな笑顔だ。
「要は、重い腰上げて前に出ようって話さね。隠居生活にも飽き飽きしてきてな、やはりオレはオレの好きな様に動くのが性に合ってる」
「えぇ!? ウィンさんが前線に出るんですか!?」
「正気か、貴様? 以前言っていた事と真逆の事をしようとしている自覚はあるか?」
「あぁ、いや、前線で戦うって意味じゃなくてだな。流石にそんな大人気ない事はせんよ、冗談抜きで。オレも爺だ、若い者の物語に手を出すなんざ無粋な真似は出来んさ」
ウィンチェスターは、己が既に過去の存在である事を受け入れている。
傭兵稼業の最中、核に巻き込まれてその人生を終えてこの異世界に転生してから既に数十年。己が趣味にその大半を費やし、魔王軍の撃退すらも趣味のついでとしか考えていなかった男だ。
そんな男だが、否、そんな男だからこそ、自分が歳を食った爺である事に誇りすら抱いているのだ。
故に、彼は神父とカズマ達の物語に直接介入するつもりは欠片もない。……そう、直接介入するつもりは、欠片も。
「知ってるか? オレみたいな奴等は、皆揃って生き残った老耄だ。色んな繋がり持ってて、そんで意外な所で誰かを鍛えたりしてるもんなんだぜ。因果が巡り巡って、鍛えた奴等が戦ったりするんだ。そして、それを何処かで観て笑ってたりしてるのさ。
なぁ、
カエルはうちの異形郷スタッフ(天地くん)が回収したのでご安心ください。