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王都にて、王女アイリスと謁見し、見事にその役目をカズマに丸投げした神父は、何やかんやありはしたものの、何の問題もなくアクセルの街へと帰還した。
初日からかつての教え子達に追い掛け回されたり、古参の教え子に子供が生まれていたり、王女に対して遠慮なく暴言を吐いたり、王女の側近に勝負を仕掛けられたり、その側近に気を許されたり、知人二人が義賊であったり……。
うん、思い返してみても、何やかんやの一言で片付ける訳にはいかないものばかりである。
何なら、神父は一瞬だけではあるもののカズマをその手で殺害している訳だし。聞けば聞く程に、胸焼けを起こしてしまいそうな濃密さである。
まぁ、
兎にも角にも、神父達は無事にアクセルに帰還したのだ。
神父はシルビア討伐の報酬を受け取り、そしてそれら全てとベルディア討伐時の報酬を紅魔の里に寄付。
それから数日は平和な日々を送ったものの、この四月十六日、カズマ達の屋敷にはあのアルダープの執事が来訪していた。
そうして、彼等はダクネスがカズマを裁判から救った際の真実を嫌でも知る事になるのだが……まぁ、しかし残念ながら神父には一切関係のない事だ。
事実として―――
「あー……やっぱ此処で飲む酒が一番うめぇわ」
不真面目神父の名前の通り、神父はいつもの様に教会で酒を飲んでいるのである。
王都ではあまり吸えなかった煙草も存分に吸っており、既に灰皿が吸殻で埋まって零れてしまっている状態だ。
ここまで吸っても、女神アクアの加護のお陰で体は清浄されているので病気にはならないし、仮に病気になってもリザレクションでゴリ押しするという神父は、世界のどこを探しても彼だけだろう。
まぁ、この教会自体に浄化魔法の結界が張られているので、神父が病気になる事も空気が汚れる事も万に一つすら無いのだが。
「ここん所、建て込みが酷かったからな。久々にゆっくり飲酒と喫煙に明け暮れるわ…」
あいも変わらず神父らしからぬ発言である。
このアクセルにおいて、彼が不真面目神父である事を知らぬ人間など居ないと言っても過言ではない。誰もが彼が不真面目である事を認知している。
だが、だからと言ってツッコミが無いかと言われればそうではない。
こういう発言を聞けば、基本的に誰もが決まって「お前それでも神父か!?」というツッコミが飛んでくる。
勿論、そんな事は神父の知った事ではない。当然のように無視して喫煙と飲酒を繰り返すのみだ。
この神父を以てしても、自ら喫煙と飲酒を取るなど出来はしないのだ。
皆は喫煙と飲酒は程々にしよう。この神父が異常なだけだから。
そんな感じで、今日も今日とて神父は不真面目だった。
だからこそと言うべきか、こういう時に限って―――
「失礼しまーす!」
「思ったより綺麗ね」
「あぁ。もう少し汚いものかと思っていたが……」
仕事が舞い込んで来る。
酒が入ったグラスを一気に呷り、神父は椅子に座ったまま、教会の扉を開いた三人の少女達へと目線を移した。
「来て早々失礼な物言いするじゃねぇか。偶像娘その1、2」
「偶像娘!? 何よ、その呼び方! ぜんっぜん可愛くないじゃない!」
「偶像……あぁ、アイドルだからか。なるほど」
「それで納得するんだね…」
黒髪の少女。ブロンドの少女。ピンク髪の少女。
左からリア、シエロ、エーリカと言い、『アクセルハーツ』という名前で、このアクセルの街を中心にして活動している踊り子ユニットである。
アクセルハーツの名前は神父も耳に挟んでいる。
基本的に取り柄というか、特色が殆ど無いこのアクセルにおいて、唯一の取り柄とも言えるのが彼女達だ。
「はぁ……それで? アクセルハーツの皆様が、こんな教会に総出で何の御用だ?」
「この街で困った事があったら、取り敢えず此処に行けば何とかなると教えられた。だから協力を求めに来たんだ」
「いよいよ本気で教会を何でも屋扱いしてる奴等を潰した方が良さそうだな。彼奴等の辞書には、教会は何でも屋とか馬鹿げた事が書かれてんのか?」
青筋を立てながら、神父はテーブルに乗せた黒い鉄塊――――――銃口に無数の突起があるプレートを装備した銃を握り締める。
グロック18C。
現世において若者が知る銃の中でも一桁台に入るであろう、現代社会で最も名が知れた拳銃―――グロック。
大元となるグロック17をベースに、とある国の精鋭対テロ部隊が、会社に要請して開発されたのがこのグロック18である。
スライド部分にあるセレクターによってセミオートとフルオートに簡単に切り替えが可能であり、拳銃ながら非常に強力な銃だ。
これは、そのグロック18にストライクプレートと呼ばれるオプションパーツを装備したカスタム品。
早い話。彼の祖父が、彼岸花の名を背負った、人殺しの天才少女をカッコイイと思ったが故に作り出した銃である。
まぁ、
神父にとっては、教会が何でも屋扱いされている事は非常に不服であった。
それでは自分の仕事が増える一方ではないか! と、憤慨せざるを得なかったのだ。
「此処は何でも屋じゃねぇんだぞ」
「違うの? カズマ達からオススメされたんだけど……」
「またアイツか。ふざけやがって…。まぁ、その事はどうでもいい。まず前提として、此処は教会だ。決して何でも屋じゃねぇ。俺はただ相談を受けて、金を取り、助言を与える。それだけだ」
「お金!? 神父さんなのに、お金取るの!?」
「慈善活動で仕事が出来る訳ねぇだろ。現実を見るんだな」
「なんか闇を知った様な気分だよ、ボク……」
「現実を知れて良かったな。いいからさっさと要件を話せ。取り敢えず、話ぐらいは聞いてやる」
心底、面倒臭ぇけどな。そう付け足しながら、神父はアクセルハーツの悩みを聞く事にした。
アクセルハーツは、作曲をリア、作詞をエーリカ、振り付けをシエロが担当し、プロデューサーはカズマが務めているという事。
近々、エルロードで開催されるアイドルフェス選抜戦にて新曲を持ち込んで挑戦する予定である事。
だが、新曲と振り付けを確認するプロデューサーであるカズマが忙しい事。
それに困っていた時、アクアが神父の教会の事を教え、それに従って此処に来た事。
要するに、アクア撃つべし慈悲はない―――である。
「なるほど。取り敢えず此処で待ってろ、先に用事を済ませてくる」
ガチャンッ! と、スライドを引いて弾丸を
スライドを僅かに引いてチャンバーチェックを行い、神父はグロックを握り締めて扉へと歩き出した。
あの駄女神が……遂にマッチポンプに巻き込むでもなく、自ら俺を勧め出したか。一発撃ってやる。
「待って待って待って!!!!!! 何するつもり!? ねぇ何するつもり!?」
「用事を済ませてくるだけだ。なに、3分もすれば戻ってくる。ただ狙いを定めて引き金を引く、簡単な事だ」
「なんかヤバいわ! あたし分かる、絶っ対これヤバいやつだわ! 確実に持ってかれるやつだわこれ!」
シエロとエーリカの察する通りである。
神父が為すはただ一つ、女神アクアの頭にゴム弾を叩き込む事である。フルオートで全弾命中させる事である。
持っていかれるというのも、あながち間違いではないかもしれない。それくらいの威力はあるだろう。
だが、神父は途中で足を止めた。
何故ならば、一人の少女―――リアが、ある単語を口にしたからだ。
「それは……銃?」
「あ? なんでそれをテメェが知ってる」
銃という単語は、この世界には存在しない。
知っているのは日本人転生者か、別の世界を知っている者。或いは神だけだ。
「え? あ、いや……何となく、そうじゃないかと思って…」
「……お前、誕生日は?」
「…? 7月4日」
「それはお前ら『アクセルハーツ』の結成日だろ。お前自身の誕生日だ」
「いや…私は、自分の誕生日は憶えていないから……」
「……なるほど」そういう事か。
それだけで、神父は凡その察しがついた。
彼女、リアの正体を。彼女が何者であるのかを。
まぁ、だから何だと言う話だが。
「取り敢えず
「ほらやっぱりだ! マズイよエーリカちゃん、このままじゃアクアさんが死んじゃうよ!」
「分かってるわよ! だからあたし達で止めるんでしょ!? リア、貴方も手伝って!」
「あ、あぁ。分かった!」
「チッ。また面倒な……」
どうやら、主神の所に行く為には三人の偶像を退ける必要があるらしい。