「お前はマゾヒストだろすっこんでろ」
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アクセルハーツを叩き潰し、そのついでに的確なアドバイスを残して、問題もなく屋敷に着いたはいいものの、しかし屋敷の中に居るカズマ達はどうにも暗い雰囲気を漂わせていた。
駄女神を撃つつもりでやってきた神父も、一旦はそれを仕舞い込んで、これは何事だとカズマに尋ねた。
カズマ達はクーロンズヒュドラを討伐しに出掛けていた事。
カズマは呆気なく食われたものの、またもや蘇生してもらって何とかヒュドラを討伐出来た事。
アルダープという貴族の執事がやってきた事。
ダクネスが裁判でカズマを守った代償が、ダクネスがアルダープと結婚するというものである事。
問題を起こした本人である事、そしてダクネスから何も言葉が無い事に困り果て、動けずにいる事。
それを聞いた神父は―――
「馬鹿かテメェ」
「いっ―――――――――てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
一切の遠慮も容赦もなくカズマの後頭部にゴム弾を叩き込んだ。
屋敷全体に、カズマの絶叫が木霊する。だが、そうさせた本人である神父は、それをうるせぇ黙れの二言で撃沈させた。
「何でっ!? なんで俺撃たれた!? 今明らか慰めるムードだったよね!? なんかそれっぽい助言かなんかくれる感じだったよね!? なんで撃ったのアンタ!?」
「男の癖して女々しく思い悩むな、腹立たしい。そうやってグズグズしている暇があるなら、さっさとそのこずる賢い頭をフルで回転させろ。今まで何をしてきたんだお前」
「よく言いました神父! もっと言ってやってください!」
「ほらカズマさーん、この子も言ってる事だし早くしたら?」
「くっそ辛辣ぅ! アンタらには人の心ないんか!? 神父さんは、王都で教え子さん達に向けた、あの笑顔を見せる様な優しさ俺には無いの!?」
「無い」
「一言!?」
ある訳ねぇだろ、と神父はカズマの叫びを一刀両断した。
「男がグズグズするな。お前はこれまで誰に叩きのめせされてきた? お前がこれまで戦法を使い続けてきた相手は俺だぞ。その俺と比べても、悪徳貴族の計画をぶっ壊すのは難しいか?」
「いや、相手の規模が違い過ぎるだろ!? 相手は貴族だぞ!? それに、元を言えば俺の判断の所為だし……」
「何が違う?」
「え? いや、だから規模が」
「規模がなんだ。相手は
相手は貴族。だが、人間だ。
様々な権力を持っている。だが、人間だ。
アルダープは人間だ。決して怪物ではない。モンスターではない。理性と感情で生きる人間だ。
人との戦い方は、カズマはよく知っている。実際の戦い方も、駆け引きも、それら全てを教えてもらっている。
そうして、カズマが考えて至った答えは―――
「……え、殺せって事?」
「んな訳ねぇだろ馬鹿かテメェ」
全然違った。
「違うのかよ!?」
「お前にそんな本当の意味で手を汚す様な事をやらせる訳ねぇだろうが。ったく……こういう計画事を立てるのは、お前らが結成して間もない頃以来だな」
まだカズマパーティが結成して間もない頃、日々のモンスター討伐で困った事がある都度、神父の下に訪れていたあの時が懐かしい。
やれモンスターの急所はどうだの、このモンスターと戦うならどういうやり方が良いだの、質疑応答と計画を繰り返したのは、彼らにとっては良い思い出だ。
まぁ、神父からしてみれば自分の時間を削られる毎日だった為、あまり良い思い出ではなかっただろうが。
まぁ、
久々の計画立てという事もあって、アクア達も乗り気だった。
「おっ、久しぶりに計画立てるのね! 良いわね良いわね、楽しくなりそうだわ!」
「貴方に手伝ってもらって成功してきた事は数知れず……私達のパーティの問題なので出来る限り手を借りたくはありませんが、仕方ありません。ご教授願います、神父」
「あくまで助言してやるだけだ。本筋はお前達でどうにかしろ」
「アンタが手伝ってくれるだけでも十分過ぎるよ。マジで頼む」
「よく言う。……では、まずおさらいだ。目的は、アルダープからダクネスを奪取する事。その過程で殺生は無し。間違いないな?」
「うん、それで合ってる。問題は、ダクネスをどうやって助け出すかなんだ。俺としては、ダクネス本人からそういう言葉が欲しかったんだよ。本人がそれを望んでいない、無理矢理やらされそうになってるっていう証拠にもなるから」
なるほどな、と神父は首肯する。その考えは確かに合っている。行動としても間違ってはいない。
何も言う事なくダクネスを助け出せば、確かにダクネスを救い出せる。だが、そんな事をしても非が向けられるのはカズマ達でしかない。
何故なら、悪評の噂が広まっている一方でアルダープの悪事には、アルダープがやったという証拠が一切として無いからだ。
噂は噂でしかない。要するに、信憑性が無いのだ。だからカズマ達が悪い立場になってしまう。
だが、ダクネスから助けを求める声があったならば、それも少し変わる。
花嫁となる筈のダクネスが、私を助けて欲しいという言葉を言ってくれたなら大義名分ができ、そこから何か裏があるのではないか? という疑いも生まれる筈だ。
ダクネスの為人は、アクセルの人々も知っている。だからこそ疑問に思う人間も、決して少なくはない。
故にこそ、カズマが待ちの姿勢を取っていた事は間違いとは言えない。それも一つの手段ではあったのだだから。
だが、神父はそこで思考の対象を変えようと言い出した。
「思考の対象を変える…? どういう意味なの?」
「ダクネスを救う方ではなく、まず相手であるアルダープに視点を当ててみるのです。アクア様、不思議には思いませんか? 悪い噂は広がる一方なのに、それに関わった証拠が一切出て来ない。仮に彼が本当に悪事に手を染めているとし、証拠を消すのが上手いのだと仮定して、だとしたら何故彼に関する噂は残るでしょう? 証拠を完全に消せるのであれば、そもそもアルダープが関わっているのではないか? という疑いを持たれる様な噂も残さない筈です」
「確かに……そう聞くと妙ね。証拠は無いのに、彼の悪い噂だけが独り歩きしてるなんて……まるで、事実が有耶無耶にされてる様な…」
アルダープには悪い噂が絶えない。
だが、あくまでも噂は噂で、アルダープがその噂の出元となる事件に関わっているという決定的な証拠は、一切として出て来ない。
あまりにも不自然な程に、証拠が無いのだ。
「そういえば確かに……。てことは、何か裏があるって事か?」
「確実に裏はあるだろうな、間違いない。肝心な点はそこだ。俺はアクセルの人間、特に貴族についてはよく調べてる。相手するのが面倒だからな、人格を知っておけばそれに合った回答をしておけばいなせる。その過程で悪事も知っている。だが、アルダープがやったという証拠“だけ”が見つからん。さっきアクア様が言った様に、事実が有耶無耶……いや、捻じ曲げられている様にな。あくまで推測だが、これは、証拠隠蔽が上手いとか、個人の技術ではなく――――――
神父はマクスウェルについて知りません。要は自力でマクスウェルの能力に(憶測ではありますが)至っています。