アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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矛盾とは何か?
生を受ける事


第四十三話「彷徨う者(様酔う者)」

 

■  ■

 カズマパーティ(ダクネスを除く)と不真面目神父がバニルから話を聞く為に、ウィズの魔道具店に向かったのと同時刻。

 

「まだ傷は痛みますが……ようやく動ける様になってきました」

 

 場所は魔王城。

 その廊下を歩くのは、動き易いように大きめのスリットが入ったシスター服を身に纏い、その右手に身の丈以上の日本刀を持った聖女だった。

 彼女は、シスター・アリアドネ。

 神父の宿敵にして怨敵である全知全能の女神ラプラスの信徒にして、紅魔の里襲撃の際に手も足も出せずボゴボコにされた女である。

 あと一歩で神父によって殺されていた所を主神に助けられた彼女は、魔王軍の中で唯一交友関係がある魔王の娘によって助けられ、そのまま療養する事になっていた。

 

「何故でしょう、何故か天の声から罵倒された様な……。はっ、まさかやっぱりラプラス様を怒らせてしまっていたのでしょうか……!?」

 

 一気に顔を青くするシスター。どうやらあらぬ誤解をさせてしまった様である。

 まぁ、地の文などというもはや人でも物でもない『概念』の様なものに、誤解をさせるなどという意図も意思も有ったものではないが。

 しかし、神からの声を聞ける―――かの地風に言うなれば『神の言葉を受信する事が出来る』というシスターとしての特性上、それを勘違いしてしまうというのは、何とも面白い話だ。

 

「あぁ、申し訳ありませんラプラス様…! あの憎き不真面目神父を殺すに至らないばかりか、態々ラプラス様から手を差し伸べていただくなど……これでは信徒失格です…!」

『いや、別に余、そこまで気にしてないんだけどなぁ……』

「次こそ、次こそは! 次こそ必ずや、あの卑怯卑劣邪智暴虐(ひきょうひれつじゃちぼうぎゃく)たる悪辣不真面目神父(あくらつふまじめしんぷ)の命を持ってきますので!」

『あっれぇこれもしかして余の声聞こえてない!? なんでぇ!?』

 

 さもありなん。

 何故なら神の声など、祈りを捧げている時以外には基本的に聞こえるものではない。聞こえるのであれば、それはもはや他のステータスを犠牲にして信仰心を上限突破した真の神官くらいだろう。

 あの神父も、直感的に女神エリスの文句やら愚痴を形だけ把握しているだけで、別に聞き取れてはいないのだ。

 あ、なんか今言われたなと感じているだけに過ぎないのだ。まぁ、そもそも神父に至っては信仰心が大して無いにも関わらずそれが出来るのだから、中々におかしな話ではあるのだが。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

「……今は、あの子に改めて感謝を伝えねばなりませんね。私なんかの為に独断で動いてくれたのです。魔王さんも態々許可していただのですから、それについての謝罪と感謝をしなければ……」

 

 彼女は魔王軍の中でも微妙な立場にある。

 そもそも彼女が魔王軍に所属しているのは、ひとえに神父を倒す上で都合が良いからだ。

 王都に進軍する魔王軍に所属していれば、必ず神父と(まみ)える事が出来る。彼女の目的は、神父を殺す事にこそあるのだ。だからこそ、魔王軍という組織は彼女にとって実に好都合な組織だった。

 そんな魔王軍の中で、例外と言うか予想外と言うか、交友関係が出来てしまった。その相手こそが、魔王の娘である。

 アリアドネから取って『アリアちゃん』なんて呼ばれ方までされるに至った交友関係は、魔王軍の中でも有名だ。特に父親である魔王は、娘に友人が出来た事を喜んでいた。

 そういう関係もあって、娘は独断に走り、そして魔王はそれを許した。娘に出来た数少ない友達を失うのは、可哀想だからと。

 

 都合が良いから所属しているだけ。

 それに変わりはない。だが、そうであるからと言って交友関係を築く事は決して悪い事ではないだろう。

 軍の長として私情を優先するのは如何なものではある。だが、気に掛けてくれた事もまた事実だ。

 しっかりと、感謝を伝えねばならない。

 彼女は神父を殺す為なら如何なる手段も問わないだけで、確かに一人の人間でありシスターなのだ。

 

 そして辿り着くは謁見の場―――即ち、魔王軍を統率する長にして世界の宿敵たる『魔王』が座す場所である。

 扉を開いたその場には―――

 

「お、来た来た。どうも、邪魔してるぜ」

 

 其処には魔王の姿など無く、その代わりに一人の老人が席に着いていた。

 

「――――――な、え」

 

 愉しげな笑みを浮かべるその老人を見て、絶句する。

 何故、何故。

 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

 理解が追い付かない。思考が纏まらない。

 何故だ、何故この男が居る!? もう前線を退き、隠居したのではなかったのか!?

 自ら魔王に手を出す事など、しないのではなかったのか!?

 何故、なぜ――――――

 

「うぃん、ちぇすたー……」

「ご名答。会いたかったぜ、武装シスター。一度で良いから、日本刀を持ったシスターを生で見たかったんだよ」

 

 にやりと、老人は笑う。

 ウィンチェスター。猟犬、死神、触れてはならない禁忌(アンタッチャブル)―――その異名は数知れず。

 かつての魔王軍が最も警戒した男。何千何万もの大軍と一騎当千の幹部を含めた全員が、もう二度と戦いたくない個人だと口を揃えて言った男。

 人類最強の個人。たった一人で神すらも殺し切る事が可能であるとされる人類が―――目の前に居る。

 

「っ、あ」

 

 言葉が出てこない。言葉が紡げない。

 ただ笑って其処に座っているだけだというのに―――異様なまでの緊張感、我が身が押し潰されてしまいそうな程の、静かで、されど強過ぎる気魄が、其処には有った。

 

「いやぁ、オレの孫が随分と世話掛けたみてぇじゃねぇか。悪いねぇ、アイツもオレと同じで良い歳してやんちゃでよ。遠慮ってもんが無いのよ。ったく、何だって娘と父親の遺伝子じゃなくてオレの遺伝子なんざ強く受け継ぐんだかなぁ……くっくっく、いやぁ、まったく悪かないがね。実に孫キャラっぽくて最高だ」

 

 腰を上げ、椅子から立ち上がったその瞬間―――ほう、とウィンチェスターは感心した様にまた笑う。

 

「なんだなんだ、えらくやる気満々だな。()()()()()()()? 気を抜いてたとは言え、オレでも見えなかったぞ」

「え……?」

 

 そう言われて、自分の手元を見る。

 右手には、柄が握られていた。鞘は地面に突っ伏して、ただ彼女の長い打刀だけが右手には握られていた。

 無意識の抜刀。圧倒的な格上、絶対に敵う訳もない相手の一挙手一投足において、彼女の身体は敏感に反応した。

 瞬き、呼吸という些細なそれすらも読み取り、彼女の身体と意識が連動して本人が気付く間も無い程に素早く反応し、抜刀したのだ。

 

「いやぁ、()(かな)()(かな)。若い者は血気盛んだこった。そんなにやる気を出されちゃあ、それに応えてやるのが老耄(生き残り)の務めってもんかね」

 

 ガチャッ! と、鈍い打鉄音が鳴り響く。

 ―――ウィンチェスターライフル。M1894 Tactical Assault Customization。通称TAC。

 それを肩に担ぎ、未だ死ぬ事も知らぬ老耄(生き残り)は一歩踏み出す。

 

「なに、心配しなさんな。お前さんの(タマ)は取らねぇからよ。ちぃとばっかし確認をってな? やっぱ相手の力量分からにゃ加減もしようがねぇからな」

「っ、くっ……!!!」

「おーおー、おっかねぇおっかねぇ。止めてくれよ、シスターにそんな目で睨まれちゃ妻に何言われるか分かったもんじゃねぇんだ。べらべら喋り過ぎた所為で色々知っちまって手厳しいんだぜ? もうそういう目されるだけで同人誌やら音声作品がどうやらってな。お陰でアイツに『ぱれっと』やら『ゆずソフト』やらについて話すのに苦労したもんだ」

 

「―――!!!!」

 

 刹那、銀閃が迸る。

 隙など無かった。何処にだって、彼を斬る事が出来る場所など存在しなかった。

 だが、彼女は先手を切った。

 恐怖に竦む五体に無理を言わせ、今すぐにでも目の前の怪物(人間)から逃げ出す為に、敢えて先手を切った。

 だが―――徒労に過ぎなかった。

 

「喧嘩っ早いねぇ。だがじいちゃんそういうの好きだぜ?」

 

 刀の峰を踏んずけられ、彼女の頭にごりっと冷たい鉄が押し付けられていた。

 

「なぁに、まだ時間はある。ちっとお話しようぜ、お嬢ちゃん?」




そういや、アイツはしっかりエリス様に『乳部・タイラー』って言ってくれたかね?
なんて酷い言葉を教えてるんですか!?
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