アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第四十四話「実力者の師匠になりたくて」

 

■  ■

「…………くくっ、クククク…………っはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! いやぁ、最高だ! この世界に来てから早何十年! 数々のシチュをやってきたが、こうもラスボスっぽい雰囲気を出せるとは思わなかったぜ!」

「――――――」

 

 緊張感と圧力といった、彼女の体を蝕んでいた諸々が一気に呆気なく霧散する。

 ぽかーん……と、聖女は間抜け面で口を開けてしまっていた。

 先程までの重圧的な空気、雰囲気は何処へやら。

 何処かのジョーク好きなスケルトンのBGMが聞こえても仕方ないくらいの拍子抜けに、シスター・アリアドネは困惑してしまっていた。

 

「いやぁ、すまんすまん! 女の子相手にちと大人気無かったな! でも悪気は無いんだぞ? 寧ろお前さんを思っての事だ。これくらい慣れとかんと、本気のアイツにゃ太刀打ち出来んだろうしな」

「えっと……ウィンチェスター様、で宜しいのですか?」

「様呼び! おうおう良いねぇ、実に良い! シスターに名前を様付けで呼んでもらえるなんざ、そうあった事じゃねぇからな!」

 

 ニカッと良い顔で笑う老人。それにさらに困惑してしまう聖女。

 そこには先程まで身に纏っていた鋭い雰囲気は影も形もなく、気さくで良い老人といった雰囲気だけが残っていた。

 

「その……貴方は、どの様な御用件で魔王城へ? というか、そもそもどうやって侵入なされたのですか?」

「ん? どうやってって……そんなもん、正々堂々と障壁ぶち破って城の壁走って此処まで来たに決まってるだろ」

「えぇ……」

 

 困惑の次はドン引きが押し寄せてきた。

 真正面から堂々と魔王城に張られている結界を突破する事が出来る時点でまずおかしいのに、それから壁の城を走ってこの魔王の間まで来る?

 言っている言葉は理解出来るが、その意味は欠片も分からない。というか理解したくない。

 

「結界が壊されれば、すぐに気付かれると思うのですが……」

「入った瞬間に張り直したからな」

「えぇ…………入った瞬間に結界を張り直すって、えぇ……?」

「伝承魔法は、伝承や神話と因果関係にあるもの全てに作用出来る。何の変哲もない紙でも、適当にそれっぽい漢字を書いて伝承魔法を用いれば、それだけで結界を張る御札の完成だ。中々使い勝手が良いだろ?」

 

 使い勝手が良い、どころの話ではない。

 そんな魔法―――チート以外の何ものでもありはしないではないか。

 アニメや漫画、小説といった創作文化が根強く存在している日本という文明に生まれた人間にとって、『伝承魔法』とはまさしくチートそのものだ。

 自らがそれに詳しいのならば、ただその知識に基づいてそれと因果関係のあるものを用意すれば、ものによっては神殺しすら成し得る技術。

 まるでそれを、呼吸をするかの様に当たり前に使って―――この男は、魔王城に堂々と侵入したのだ。

 

「あー、で来た目的なんだけど……」

「は、はい」

「その前に休憩していい? もうここ数ヶ月は『漣』使いっぱなしだったから体が痛くて痛くて仕方ないのよ。ま、そのお陰でSEKIROの見切りみたいな動き出来たんだけども」

 

 どっこいせっと……。

 老人らしい言葉を使い、バキバキと体の関節を鳴らしながら、ウィンチェスターはまるで自宅で寛ぐ様にカーペットが引かれた床に腰を降ろす。

 

 隙だらけだ。今なら攻撃も出来る。

 だが―――彼女は、そうはしなかった。

 もし仮に、攻撃してしまった場合の未来の自分を簡単に想像する事が出来てしまったが故に。

 今は、この男から何かしらの情報を引き出さねば……そう思考を切り替え、アリアドネもまたウィンチェスターと同じ様に床に座った。

 

「オレが思うに、やっぱ『終ノ空』ってのは最高の作品でな。特に音無さんと行人くんの哲学的会話、あれが好きだった。でも個人的にゃあアレだ、田荘さんの絶叫シーン。『全宇宙を分かち支えたる無始者の形を取る唯一なる魂』だっけか? あれも傑作だった、声優さんの凄さを思い知ったよ」

「はぁ……」

「でもなぁ、流石にそれを教えるのはちょっとアレかなーと思って、止めた。伊達に三大電波ゲーの一角を担ってねぇからな。そういう訳で『ぱれっと』とかそこら辺の優しいやつを教えたんだ。つーかアニメで新海兄妹の会話見れなかったのがマジで心残りだ。是非とも見たかったぜ……」

「あの……先程から何を仰ているのか全く分からないのですが」

 

 休憩がてらと言った感じで始まった会話だが、しかし転生者でもなければ日本人でもない彼女には、ウィンチェスターから出て来る単語は全て分からなかった。

 現地人にエロゲの話してんじゃねぇよ、何考えてんだこのジジイは。

 

「え、マジ? もしかして現地人? 転生者じゃなくて?」

「私は、ラプラス様の言う『ニホンジン』ではありませんので…」

「わーお。現地人なのに武装シスターしてんのか、スゲェな天然もんじゃねぇか。って事は、この刀も転生特典じゃない訳か」

「はい。この刀は、私の先祖から始まり代々受け継がれてきたものです」

「オレの先輩の品って訳か」

「いえ、私の先祖は鍛冶師でして」

「現地人で転生特典と見間違える様な品作り出したのか! くっくっく、そりゃスゲェや! 四季崎記紀もびっくりする刀匠だぜ! 是非とも会ってみたかったもんだ」

「先祖に代わり、感謝を。……それで、貴方が私の元を訪ねた用事とは、一体?」

「おぉ、そうだったな。さて、どっから話すかな……」

 

 彼女にとって気になるのは、やはりそこだった。

 ―――ウィンチェスター。

 生ける伝説、魔王軍の最重要警戒対象。己が宿敵を鍛え上げた祖父。そんな存在が、何故わざわざ自分の前に現れたのか。

 先の攻防―――攻防と言っても良いのか分からない程に、一瞬かつ一方的なものだったけれど―――の件も含め、気掛かりでしかない。

 

「んー……じゃあ、単刀直入に結論から言おうか。お前さんよ」

「……なんでしょう」

「俺に師事しねぇかい?」

「―――――――――は?」

 

 思考が固まった。

 師事、師事? 師事って、あの師事?

 自分が、あのウィンチェスターに師事?

 

「………………へぇ?」

「わぉ、シスターがしていい顔じゃねぇなこりゃ。完全にこの世界の住人みてぇな阿呆面してやがる。これキャラ崩壊に当てはまるんじゃねぇか? まぁ、そっちの方がいいっちゃ良いのか? やっぱこの世界はシリアスぶっ壊してなんぼだろ。なぁ、お前さんら? やっぱ笑顔と阿呆面が似合うよな、この世界」

 

 そうも易々と第四の壁を越えないでいただきたい。

 こちらとしても反応に困る。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

 少し時間が経って、ようやく思考が追い付いて周り始めたのか、聖女は未だ困惑しながらも言葉を紡いだ。

 

「その……何故、私に師事を仰ぐのですか? 貴方の孫を殺そうとしている者に」

「だからこそだよ。ぶっちゃけた話、今の君ではかの全知全能の女神の恩恵を幾ら受けようとも、本気を出したアイツには勝てんよ。何せアイツは俺と違って、空気とか読まない敵対者絶対殺すマンだからな。相手を殺す為なら小狡い手段なんざ百通りくらい用意するし、最初から手抜き無しで掛かる奴だ」

 

 それは彼女もよく知っている。その身で深く味わっている。

 高速で飛来する爆裂魔法の嵐。それによって彼女の体はボロボロになり、お陰で瀕死の状態で万全の状態である神父と戦闘する羽目になったのだ。

 彼は敵に容赦しない。敵は敵、殺す相手以外の何者でもありはしない。殺す為ならば卑怯卑劣も上等の現実主義者である。

 

「正直、それじゃ面白くないのよ。俺TUEEEE系のラノベなんざ沢山読んできたが、やっぱり面白いのは王道の真反対。俺はな、強くなった主人公が自分より強かった相手を圧倒するんじゃなくて、元から最強レベルだった主人公を驚愕、焦燥させるくらいに相手が強くなったパターンが好きなのよ。敵はただ倒されるだけじゃない、ぽっと出のキャラだってやれば出来るって魅せてくれるアレが好きなのさ。

 

そして、そういう師匠はだいたい老人だって決まってんだ。主人公を育てた師匠が、まさか敵も育てたなんて展開、そうあるもんじゃねぇだろ? だからまぁ―――取り敢えずお試しでも良いんで、ちっとやってみねぇかい?」

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