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計画は練られ、遂に決行日。
それ即ち―――アクセルの貴族ダスティネス・フォード・ララティーナの結婚式である。
ちなみに、神父は彼女の結婚にはかなり否定的であった。
彼女がどんな出来損ないと結婚しようがそれは自由で、彼が気にする様な事ではない。だが、その相手が悪魔を引き連れているのであれば話は別だ。
彼女はどうしようもないマゾヒストだが、しかし死にたがりな訳ではない。神父も彼女が痛めつけられる事には何ら抵抗も嫌悪もないが、彼女が死ぬ事には流石に拒絶を示す。
だが―――今回、神父が文句を言いたかったのは残念ながら彼女に関する事ではない。
いや、一応彼女が関わってはいるのだけれども、ダクネス自身に文句を言いたい訳ではないし、その逆でどちらかと言えばアルダープに文句を言いたい方である。
「マジよ、なんでよりによってこの教会なんだ?」
そう。
ダクネスとアルダープの結婚式の会場として選ばれたのは―――あろうことか、エリス教の教会ではなく神父が居座っている教会……要するに、アクシズ教の教会である。
それに対して、神父は文句を言いたくて仕方なかったのだ。
エリス教の教会であればいざ知らず、何故この教会なのだ。何故アクシズ教の教会で結婚式を開くのだ。人選ならぬ教会選を確実に間違っていると言わざるを得ない。
「おやおや、これはこれはインベル神父。本日は我が結婚式に相応しい天気ですな」
アクシズ教アクセル支部、その控え室にて。
流石に結婚式が行われるともなれば、いつもの場所で酒を飲む訳にはいかず、控え室で時間が来るまで酒に浸ろうとしていた神父の下に、中太りの男が現れた。
アクセルの領主―――アルダープ。今回の件の元凶、悪魔を用いてダクネスと結婚まで辿り着いた外道。
「うっせぇアホ。なんでよりによって俺の教会なんだ巫山戯てんのか?」
「相変わらず口が悪いな貴様! ったく……寧ろ感謝してほしいのだがな? このアルダープとララティーナの結婚式の会場にしてやったのだからな」
「だからそれが巫山戯てんのかって言ってんだよ理解力ねぇのかボケカス」
「本っ当に腹が立つこの不真面目神父……!!!!!」
よりにもよってアクシズ教だ。神父が居る教会であるとは言え、結婚式の会場として選ぶ様な場所では断じてない。
まぁ、逆に言えば神父が居るからこそアクシズ教の教会であろうとも気にする事なく選んだ、とも言えるのだろう。
しかし、だからなんだと言う話。面倒事を嫌う神父にとって、結婚式とは即ち面倒事以外の何ものでもありはしない。
これが教え子の結婚式であるならばいざ知らず、祝福するつもりなど欠片もない―――寧ろ邪魔するつまりでいる―――人間の結婚を、誰が喜んで祝うと言うのだ。
「なに、腹立たしいが貴様には何かと世話になったのでな。このワシの名が残るのは、貴様にとってもこの教会にとっても悪くはなかろう?」
「心の底から要らん。マジで要らん。誰も来ねぇならそれで良いんだよ」
「貴様と会話しているとワシの立場を忘れそうになるわ……ワシ領主ぞ?」
「まず国王になってから言うんだな。国王になっても殴り飛ばすが」
「マジ貴様恐れ知らずにも程がある!」
(なまじ力があるだけに厄介だ……くそっ、クソっっ!!! この男が居なければ、ワシの計画ももっと順調に進んだと言うのに!!!!)
アルダープにとって、神父とは警戒しなければならない相手であり、絶対に敵に回したくない存在だった。
彼が契約している悪魔―――マクスウェルの能力を以てしても捻じ曲げる事が出来ず、さらには呪いといったものの干渉すらも不可能。
魔王軍幹部を討つだけに留まらず、機動要塞デストロイヤーの足止めも担った大物。かつて魔神すら撃ち殺した男だ。
後ろには王族という超強力なバックを有しているこの神父と敵対すれば、確実に自分の身が危うい。
だから出来る限り敵対はしない様に、アルダープは振舞ってきた。この男の件には介入しない様に、と。
だが―――神父は既に、
「まぁ、金を払うのであればその分の仕事はしてやるよ。マジで面倒だが。本当に面倒だが」
だが、神父はそれを表には出さなかった。
忌々しくはある。憎々しいとも思う。ここで自分が派手に動いたとしても、後処理は幾らでも出来る。
だが、これはカズマ達の問題だ。カズマの大切な仲間の事だ。それに部外者である神父が介入するのは、無粋ここに極まれりというやつに他ならない。
―――今は耐えろ。処すのなら、それは後だ。
神父はスキットルを置き、アルダープを部屋に残して花嫁の控え室まで足を運び、
「邪魔するぜ」
ノックもせず、しかも扉を開いてから声を掛けて堂々と部屋へと入って行った。
「っ……あぁ、神父か。どうも。久しぶり…だな」
「おう。随分とまぁ、乙女らしい格好になったもんだな。馬子にも衣装だ」
「んぅっ…! くっ、これから人妻になろうとしている私にすら酷い言葉を…! やはり貴方もカズマに負けず劣らずの鬼畜だな」
花嫁姿であると言うのに、
馬子にも衣装という言葉も、実に理に叶った表現だ。
見た目が立派だからと言って、中身がそれに伴っているとは限らないという警句でもあるのだ、何ら間違いはない。
「いや言っちゃなんだが鬼畜さで言えば俺の方がアレだぞ」
それはそうである。
カズマの場合は敵を『倒す』という点において、まさしく外道というか奇想天外な手段で味方すら囮にするあれだが、神父の場合はただ『殺す』事にのみ特化している。
相手を殺す為ならばあらゆる手段を問わない。それはカズマとは似て非なるもので、ダクネスが好きなのはカズマのそれだ。
「それもそうか。うん、だがあのリー・エンフィールドという銃でやって見せた爆裂魔法は、是非とも私にやってほしかったぞ」
「花嫁にあるまじき発言だな。仮にも結婚する身だろ、そんなんでやってけるのか?」
「ふふ、普段から神父らしからぬ発言ばかりの貴方には言われたくないさ。……そうだな、やはり不安だ。だが、これで良いとも思っている。私一人の犠牲で、カズマ達を助けられるなら……」
「フッ―――!」
「いっっっっっっったぁ!?!?!?!?」
ドゴッ! と、完全に鳴ってはならない鈍い音が鳴り響く。
後頭部に対する容赦のない拳骨である。もう完全に意識を刈り取るつもりで放ったと疑われても、何ら弁明のしようがないくらいの威力だ。
さしものダクネスも突然の神父の強めの拳骨には涙目になってしまい、「い、いきなり何をするんだっ!」と子供っぽくなってしまった。
「よくもまぁ俺の前で自己犠牲発言が出来たもんだな。生憎、俺はそういう聖人君子的で英雄的な発言も思考も思想も歴史も大っ嫌いでな。今度そういう発言してみろ、痛みを感じさせずに気絶させてやる」
「なっ……! くっ、気絶させられる程の痛みを味わえると思ったのに! アルカンレティアの時と言い、なんて酷い事をするんだ貴方は! だ、だが、痛みを感じる間もない気絶……少し味わってみたい気もするなぁ…いいなぁ」
「お前わりと安定してんな。これじゃカズマ達のあれも大して意味なかったか…? まぁ、いいか」俺もカズマ達も、どうせやる事は変わらんしな。
懐に納めたガバメントのセーフティを外し、神父は控え室から退室し、教会の祭壇まで向かう。
いつもは酒と煙草に塗れている祭壇部分は綺麗に掃除されており、教会は既に沢山の住人達で埋まっている。
(都合がいい。こんな舞台なら、お前が派手に動いた方が気分も良い。―――やってみせろよ、カズマ)
これより行われる結婚式。
それを真面目に取り組む気など―――この男には、微塵もない。