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時間は深夜。今日に限っては珍しく、不真面目神父はこんな時間帯にアクセルの教会から離れていた。
カズマのパーティに助言を与えてから3日が経った。
頭のおかしい紅魔族とドMのクルセイダーをパーティメンバーにしたと聞いて間もなく天を仰いで、カズマの呪いの有無を疑ってしまった神父だが、それはそれとして仕事はこなす。
仕事は仕事だ。面倒であっても、内容によっては金を取るのでそこは達成しなければならない。
そんな神父の助言を頼りにする冒険者は、何もカズマ達に限った話ではない。アクセルに在住する冒険者の殆どは彼からの助言を受けているのだ。
ちなみに言っておくと、彼は神父でこそあるが決して冒険者ではない。彼の職業はあくまでも神父であり、依頼を受けてこなす冒険者ではないのだが、よく勘違いされるのだ。
こうして、稀に教会の仕事以外で頼み込まれる事があるからだ。
「ふぁ…ったく、何だって俺まで巻き込むんだよ」
「すみません…でも、貴方が居た方が捗りますから……」
此処はアクセルの郊外。森の中の墓地であり、其処には煙草を銜えた神父と一人の女性が立っていた。
茶色のロングヘアーと紫色のコート、そして凄まじい胸囲。おっとりした雰囲気を漂わせるその女性は、アクセルに魔道具店を構える店主である。
名前をウィズ。人間ではなく、アンデッドである。その中でも一際強力なアンデッド―――アンデッドの王、リッチーなのである。
「そもそもだ。お前の懐、俺に依頼出来る程の金なんざあったか?」
「うっ……あ、ありますよ? ちゃんとありますよ、勿論」
「信用ならんわ。せめて目を泳がせんな。……なぁ、本当なら寝てる筈の時間にわざわざ眠たい体に鞭打って来てんだぞ、こちとら。報酬の一つや二つくらい無いと割に合わん」
「うぅ…で、では、私の店の魔道具を一つタダであげちゃいます! どうでしょうか!」
「要るか。商才皆無のお前が仕入れた魔道具なんざ買った暁には俺が苦しむ未来しか見えん」
「そこまで!?」
「それだけ才能が無いんだよ、いい加減に自覚しろ」
涙ぐむ女性を相手にしてもバッサリと切り捨てる。それが神父である。
だが悲しいかな、ウィズに商売の才能が欠片も無いのは確かな事実だ。
彼女は頑張れば頑張る程にお金が減っていくという、もはや呪い以外の何ものでもないような特技を持っているのだから。哀れである。
まぁ、そもそもとして、見てくれと職業に関してだけは神父なのだから、アンデッド、しかもそれがリッチーであれば当たりが強いのは妥当と言えば妥当なのだが。
しかし残念ながらと言うべきか、だろうなと言うべきか。この男、別に神父としてリッチーに当たりが強い訳ではない。アクシズ教徒としてアンデッド死すべし!な訳ではない。
単純にそういう性格だから、そういう人物だから、誰が相手でも関係なくズバズバ発言しているだけなのである。
不真面目なのだから、アンデッドや悪魔に対する殺意も敵意も、「面倒」の一言で片付ける。そういう男だ。
「ほら、さっさと始めろ。言っとくが、余程の事がない限り動かんからな」
「はい、それで構いません。私個人の依頼で、無理して同行してもらってる訳ですし…」
「それを自覚しているなら、止めてほしいもんだがな。そもそも、
「あはは…確かに、そうですね。けど、私には彼らを放っておくなんて出来ませんし、報酬欲しさで動いてる訳でないので」
「……はぁ。出たよ出たよ、そういうの。本当にお前達みたいな奴は、話を聞くだけでも気色が悪い」
煙草の煙と共に、毒づく。
神父は明確に聖人というものを嫌う。聖人そのものも、聖人君子と言われる様な人間も含めて嫌っている。
無償の人助け。何かを得る為だとか利己的な理由もなく、何も必要とせずに自分の意思というモノだけで行動する存在が嫌いなのだ。
そんな幻想を掲げて名を馳せて、そして朽ち果てる。人々はそれを英雄と呼ぶ。
理由無き人助け。無類の強さ。何も選ばない優しさ。人々に英雄と謳われる者達の要素が、しかし何時しか英雄を殺すのだ。
理由もなく人を助け続ければ信頼は失せていく。何を考えているのか分からなくなるから。
無類の強さは上の人間に恐怖を抱かせる。もし反乱でも起こされたらどうしよう、と。
選定なき優しさは気味が悪い。敵にすら慈悲を与えて生かせば、いつか報復されるかもしれないのに恐れないのか。
そして、実力も思考も及ばない者がそんな英雄の真似事をすることはもっと嫌いだ。もはや忌み嫌っている。憎悪の域である。
彼女の場合は、それらが伴っているからまだマシではあるが。
「
「ふふっ…そうやって心配してくれるのは嬉しいですが、冗談としてはあまり笑えませんよー?」
「へぇ、これが心配してる様に聴こえるのか、お前。それは大変だ、今すぐ治療してやらねぇと」
「へ? あ、あの、なんで近寄ってくるんですか!?」
「動くなよ、鼓膜撃つから。安心しろ、リッチーだから物理攻撃で死にはしない」
「私の耳が死んでしまいます!? ごめんなさい、謝りますから撃たないでくださいー!?」
遠慮なく彼女の側頭部に銃口を突き付ける神父。
傍から見れば完全に犯罪現場なのだが、神父とリッチーという構図で考えれば別に悪事ではなく、何なら真っ当な仕事になるのが恐ろしい。
泣いて謝るリッチーに、どうしてくれようかと悩む神父に―――
「『サンクチュアリ』!」
主神の要らぬ世話が襲い掛かった。
「悪い」
「え? 突然どうしまぐっ!?」
魔法陣が形成された次の瞬間、神父は全く謝意のない謝罪と共に左手でウィズのローブのフードを鷲掴みにし、後ろに投げ捨てる様に全力で引っ張った。
祓魔の魔法。もっと分かりやすく言うならば―――『浄化魔法』。プリースト系の職業ならば殆どが扱える、アンデッドを浄化して天に召させる魔法である。
『
聞き覚えのある喧しい声に、神父は舌を打って顔を顰めた。
「あれ、なんか手応えが…って、なんで貴方が此処に居るの?」
「神父だから自主的に来たんじゃないか? 不真面目だけど」
「また会いましたね、鬼畜神父!」
「こんばんはうぅ! 私が来た瞬間に酷く顔を顰めたぞ!」
女神アクア。サトウカズマ。めぐみん。ダクネス。
神父にかなりお世話になっているパーティが、其処には居た。
「はぁ………。カズマ、やっぱりお前は面倒事を引っ掛ける呪いがあるぞ。今すぐ『セイクリッド・ブレイクスペル』でも掛けてもらえ」
「会って早々酷くないか!? でもアンタが言うと本気にする自分がちょっと怖い! え、大丈夫だよな!? アクア、俺呪い掛かってないよな!?」
「別に掛かってないわよ。いつも通りだわ。それで、貴方はどうして此処に? 普段なら、もう寝てる筈なのに」
「それは」
「も、もう! いきなり引っ張らないでくださいよ! 首が絞まっちゃったじゃないですか!」
ローブは土で汚れ、頭に木の葉が乗ったウィズが頬を膨らませて神父に怒りの言葉を吐いた。
コイツ……と、神父はさらに顔を顰めた。タイミングがあまりにも悪過ぎるだろうが、と。
そして、
「『ターン・アンデッド』!」
間髪入れず、女神が魔法を解き放った。
「『セイクリッド・ブレイクスペル』」
だが、それは神父も同じ事だった。
銃口は己の女神の方へと狙いを定め、神父は何の躊躇もなく銃を弾いた。
アクアが魔法を発動した直後、神父もまた魔法を発動した。
『セイクリッド・ブレイクスペル』―――強制的に相手の魔法や呪いを無効化することが出来る、強力な上級魔法である。
だが、それは拮抗していた。
単なる『ターン・アンデッド』と、それより上である筈の『セイクリッド・ブレイクスペル』は何故か拮抗状態を作り出していた。
何も難しい事はない。誰でも分かる様な単純な話だ、年端もいかない子供でも理解出来るくらいに単純だ。
神と人間が放つ浄化魔法。そのどちらが、
「ちょ、なんでよ!? なんで邪魔したの!? 其奴アンデッドよ、リッチーよ!? 滅すべき存在でしょ!?」
「そんな事は分かってるっつーの。その上で邪魔したんだ。はぁ、これだから神っていうのは困る。てめぇの
「なんか苛立ってね? あの人。……ヤバいな嫌な予感してきた、よし俺帰るわじゃあなお前等骨は拾ってやるよ後で」
「待ちなさいカズマ! 逃がしませんよ、死なば諸共です! 貴方も鉛玉を喰らいなさい!」
「いやだが!? 絶対に嫌だが!? 俺は死にたくねぇんだよ!」
「そんなのわたしだって同じです! ですが貴方だけ生き残るのは納得いきません!」
「お前ら人の事好き勝手言いやがって…本当に撃ち抜くぞ」
「すいませんでした」
「パーティ結成して3日しか経ってないのに仲良いな、おい」
息を合わせた様に揃った謝罪。流石の神父も驚いた。
「いや、今はそうじゃないか……取り敢えず此方の事情を聞け。コイツを浄化するかしないかは、俺の説明を聞いてからでも良いだろ。不真面目な俺がこうして立ってるだけで、それなりの理由があるのはアンタが一番分かる筈だ。俺の主神たるアンタなら」
「ぐぐぐ……分かったわ。可愛い信徒の頼みだもの、話を聞くわ」
「ありがとうございます、アクア様。その慈悲に応えられる様、これからも精進して参ります」
今回ばかりは感情を込めた。
かなり本気で感謝したからだ。それを感じ取ったのか、いきなりのデレに女神アクアは舞い踊ったとか何とか。
神父はドン引きした。