「んなもん許す訳ねぇだろ引っ込んでろ」
■ ■
「エリス祭があるなら、アクア祭があっても良いと思うのよ! 貴方もそう思うでしょ!?」
「思う訳ねぇだろバカじゃねぇのアンタ」
悪名高きアルダープからダクネスを取り戻してから数日が経過した。それから特に何かがあったという訳でもなく―――アルダープが失踪したという話は伏せておく―――平和な日々が続いていた。
そんな日々の中、毎度の如くと言うか相変わらずと言うべきか、酒と煙草に溺れていた―――結界と加護のお陰で健康体だが―――神父だったが、そんな神父の下に我が主神が訪ねて来て初っ端から上記の様な事を言い出した。
この世界にはエリス祭と呼ばれる祭り事がある。
文字通り、この世界の通貨の単位にもなっている、幸運を司る女神であるエリスへと日頃の感謝を伝えるという意味を込めた祭りである。
今回、アクアはそれに対して不満があるらしい。正確には、エリス祭があってアクア祭が無いのはおかしい、という文句である。
「今日までエリス祭は何度も開かれて来たわ! それなのに、あたしを祝う祭が無いってどういう了見かしら!? あたし水の女神よ!? エリスよりも皆に役立つ概念司ってる神様なのよ!? それなのに、なんであたしを祝う祭が無いのよー!」
「くっそどうでもいいわ」
このアクセルでも、エリス祭は既に何度も開催されている。だが、神父がそのエリス祭に参加した事はただの一度だってありはしない。
どんな理由があって態々いつも天から見下してるだけの神類に、いつも見守ってくれてありがとうございます等と感謝せねばならんのだ。
そもそも、たかが運を司っているだけで、神様の癖して器も狭くて見栄っ張り(或いは虚乳)な女神に感謝する要素などあるだろうか? 否、無い無い。ある訳ねぇだろバーカ。
それが神父の意見であった。なので、神父は今までエリス祭に参加した事はない。というかそもそも、神父はそういう祭り事には何ら無関心だった。
なので、当然の如く主神の言葉にも否定を返した。
「なんでよー!? あたし主神よ!? アクシズ教の女神なのよ!? なんであたしだけ祭りが無いのよー!」
「単純にメジャーかマイナーかの違いだろ。他の神や邪神に比べればそりゃ知名度こそあるものの、結局の所こっちはほぼ一神教みたいなもんでエリス教が最大。アクシズ教はエリス教に次ぐ宗教だの言われちゃいるが、どっちにしろ少数派である事に変わりはねぇぞ」
ぶっちゃけた話、この世界には我々が知る様なこれといった神話が殆ど存在しない。
この世界を管理しているのがエリスだからという事情もあるのかもしれないが、この世界において最もメジャーなのはエリス教である。なので、伝わる神話も殆どエリスが主流だ。
アクシズ教はエリス教に次ぐ規模を誇りはするものの、しかし実際にエリス教と比べてみれば規模も信者数もエリス教には遠く及ばない。絶対的な壁があるのだ。
何せ相手は国教だ。我々が知る所で言うとキリスト教みたいなもんで、アクシズ教はサタニズムみたいなものだ。そりゃ比べるまでもない。
「まぁ、質で言えば最強ならぬ最狂だから、ある意味じゃ少数精鋭だな。質は質でも悪質の方だが、しかしだからこそ祭り事なんざする訳ねぇ。それこそ碌な神話が存在しないこの世界じゃ尚更だ」
「悪質って言わないで! うちの子達は悪質なんかじゃないわよぉ!」
「どっちかっつーと俺は悪質な方だろ」
「あ、自分が悪質な自覚あるのね……」
「まぁな、自覚はある。つか、アルカンレティアじゃ騒がれてんだから文句言うんじゃねぇよ。レジーナ教を見てみろよ、信者一人しか居ねぇから小さな騒ぎも出来ねぇんだぞ。食っちゃ寝繰り返す酒呑み駄女神と比べればマシな邪神なのに、アンタよりもマイナーだから見向きもされん。可哀想だな、ざまぁねぇや」
しれっと邪神と魔王軍の幹部に罵倒を浴びせる神父。もし彼の会話を邪神レジーナとその数少ない信者が聞いていたならば是非も無くボコろうとしていた事だろう。
だが悲しきかな。信者は勿論、レジーナの方もこの神父には遠く及ばない。復讐の権能すら容易く打ち破ってみせるのが、アクシズ教の不真面目神父である。
「キリストと他の神を比べてみろ、ゼウスとかオーディンとかの主神と幾ら比べようが、誰もがキリストの方を祝うぞ。何ならヤハウェとキリストを比べてもキリストを祝う。キリスト教の奴らなら兎も角、無神論者は特にな。何せクリスマスはキリストの日だからな。人間、自分達に有益な方の神を祝うもんだろ」
「なら尚更あたしが祝われないのおかしくない!? あたし水の女神よ!? 貴方がいっつも言ってるじゃない!」
「この場合は積んだ徳の差だな。諦めろ」
アクシズ教とエリス教では、どうにもそこら辺の積み重ねというものが差として現れる。
世間からしてみれば、アクシズ教なんざキチガイ共の集まり以外の何者でもありはしないのだ。神父から見ても狂人以外に存在しない危険集団である。
まぁ、その危険集団に神父も身を置いている訳ではあるのだが。ある種、アクシズ教の中で最も怠惰で尚且つ色んな意味で容赦や躊躇がない神父も狂人ではある。
まぁ、
「なぁぁぁんでよぉぉぉぉ!!!!!!! 嫌よ、今回は絶対に諦めないわ! アクア祭を開く為には貴方の力が必要なの! お願い! お願いだから協力してェェェェ!!!!!!」
「うるせぇ引っ付くんじゃねぇ! なんで態々俺がそんな面倒事に首突っ込まなきゃならんのだ!」
涙を流しながら必死になってしがみつくアクア様。しかし、そんな事知った事じゃねぇと言わんばかりに神父は、容赦なくアクアのチャームポイントである頭部の髪を引っ掴んで退けようとする。
「痛い痛い痛い!!!! やめて、あたしのチャームポイント引っ張らないでぇ!」
「嫌だったら早く離れろこの駄女神が! 毎度の如くカズマと一緒に俺に面倒事を持ってきやがって! そのデコに焼入れしてやろうか、あ゛ぁッ!?」
「いつもより当たりが強いっ!?」
自らの主神に対してこの態度である。アクシズ教の人間が見たなら全員揃ってぶち殺し確定案件だが、相手が神父の場合は漏れなく返り討ちだ。
まぁ、返り討ちに遭うと分かっていながらも突撃するのだが。大丈夫、死ねば日本に行けるのだから。アクシズ教徒の来世は安泰です。
神父の膂力の前では為す術もなく、呆気なく引き離されてぐすぐすするアクアを一瞥し、溜息を吐きながら神父は腰を下ろす。
「ったく……大体、そういう計画事はカズマの分野だろうが。アイツはどうした?」
「カズマはもう頼ったわよ! そしたら貴方に相談して来いって!」
「あのトラブルメーカーが…。つい最近、バツイチの救出を手伝ったばかりだろうが。アレだけの為に態々この教会で式開く手間まで掛けて、デザートイーグルまで持ち出してんだぞ。それに対価もねぇときた。一々アンタらの騒動に俺を巻き込むんじゃねぇよ」
「こ、今回はあたし達だけの問題じゃないわ! だってこのあたし、アクシズ教の主神であるアクア様を祝う祭りが無いのよ!? アクシズ教徒として、それは見過ごしちゃダメじゃない!?」
「はぁ……立て込み続けで疲れてんだよ、ちょっとは休ませろ。あのバツイチ令嬢救出の為に、こちとら動き回ったんだ。……チッ。今日は休み込むって決めてんだ、明日来い」
酒が入ったグラスを片手に、疲れた様にしながらシッシッとする。だが、その言葉を聞いてアクアはぱぁっと顔を明るくした。
「! それって、手伝ってくれるって事!? そうよね!?」
「でなきゃアンタ、ずっと居座るだろうが。一々アンタに弾使うのは無駄だからな。さっさと仕込んで終わらせた方が速いと判断したまでだ」
「もー、素直じゃないんだからぁ! やっぱり何だかんだ言ってアクシズ教が大好きなのね! あたしは信じていたわ!」
「其処に座ってろ、しっかりと焼入れしてやる」
「ぎゃー! 待って待って!!! 謝る、謝るからその煙草置いてー!」
「余も祝われたり?」
「しねぇよ死ね」
「(´・ω・`)」
「うわキッショ」
「流石に酷くない!?」