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《緊急クエスト! 緊急クエスト発令! 魔王軍幹部ベルディアが兵を引いて門前に現れました! 冒険者の皆様は、装備を整えて門前に集合してください!》
平穏というのは、いきなり崩れ去るものである。
今日も今日とて平和だった。別に大した仕事もなく、誰も訪れない教会で煙草と酒に時間を費やす平和な日を過ごすつもりだった。
が、現実はこれである。
魔王軍の幹部が、このアクセルの街に襲来しているというではないか。何たる厄日だ。ウィズとカズマ達が鉢合わせて以来、平和が続いていたのにすぐぶち壊された。
神父は思う。カズマと出会ってからというもの、自分の周りで面倒事が巻き起こっているという、隠しようもない事実に思う所が山程ある。
やはり、彼にはしっかりと呪いが刻まれているのではないだろうか。そう思わずにはいられないのだ。
「もう金とか要らねぇから俺がやるか…? 俺の生活の為に。でもアクア様が問題ないとか言ってたしな…いや、念には念だ。後でやっておこう」
ベルディアの一件が終わりし後に、神父は是非ともカズマに『セイクリッド・ブレイクスペル』を掛ける事を誓った。
それはそれとして、どうしたものだろうか。神父は酒が入ったグラスを揺らしながら考えた。
魔王軍の幹部ベルディア。討伐報酬三億の大物である。しかもアンデッドだ。
だが、残念ながら神父は冒険者ではない。冒険者登録をしていない神父がベルディアを倒したとしても、その討伐報酬が手に入る事はない。
なればこそ、神父がベルディア討伐に協力する義理は全くない。行く必要など欠片もないのだ。
だが、そうなった場合、おそらくアクセルの冒険者達の半分は命を散らす事になるだろう。相手は魔王軍の幹部であり、それでいて魔王の加護を持つ相手だ。
当時、凄腕のアークウィザードだったウィズとそのパーティですら苦戦を強いられた相手と考えれば、アクセルの冒険者達が勝てる道理など万に一つもない。
アクセルの冒険者達が散る事に、何も感じないと言えば嘘になる。少なくとも顔見知りは何人か居る筈だ。
だが、それが仇討ちを望む程であるかと問われれば、決してそうではない。悲しむかもしれない、その程度の情だ。
しかし、居なくなられても困る。収入源の大体は冒険者なのだ、それが激減してしまうのは看過出来ない。
とはいえ―――大変面倒だ。
「……面倒く」
《また、アクシズ教アクセル支部の神父様は、準備した後に門前へ急ぎお願いします!》
「………………」
因果応報ですよ、べーっ!
天界から巨乳ならぬ虚乳の女神からそんな電波を受信した様な気がした。
大きく溜め息を吐いた後、グラスに入った酒を飲み干して神父は椅子から立ち上がる。
机と椅子を片し、その場に屈んで床を見てみれば、机が立っていた場所の床には小さな凹みがあった。
丁度、人の指が二本くらいハマりそうな凹みだ。それが二つある。偶然とは思えない程に綺麗に間隔が取れたそれに、神父は指を入れて扉を開く。
―――そこには、階段があった。
無機質で、何も感じさせない不気味さを醸し出す、奥深くまで続く階段だ。ダンジョンを思わせる程の階段を、神父は降りていく。
一段、一段と降りていく。まるで洞窟の中に居る様に、こつ…こつ…と靴の音が鳴り響く。
「取り敢えず後で
『ま、まさか本当に撃つんですか!? 止めてください! 謝ります、謝りますからー!』
今更謝罪など受け付けない。答えはNOである。
先に馬鹿にしたのは女神エリスの方なのだ、売られた喧嘩は買ってこその神父である。
個人的な恨みと共に辿り着いたその場所は―――銃に溢れていた。
彼の祖父が残したモノが半分と、彼が自ら創り出したモノが半分。
壁に飾られた一つの銃火器―――アサルトライフルよりも銃身も本体も長いそれは、遠くから敵を狙い撃つ事に特化した銃、スナイパーライフル。
黒鉄の体を持つその重厚な銃こそ―――バレットM82。重機関砲や機関砲に用いられる大口径の弾丸を用いたスナイパーライフルである対物ライフルの代表者と言える銃だ。
全長にして1,447.8mm、重量は12,900g。対物ライフル―――かつての対戦車ライフルに相当する銃なだけあり、その長さも重さも桁違いだ。
ガチャンッ! と、重圧的な音が鳴り響く。
装填完了。チャンバーチェク、異常無し。
重たい筈のソレを平気で持ち上げ、スリングベルトを体に掛けて颯爽と階段を駆け上がる。
外に出る。教会の扉を蹴飛ばして強引に開き、加速をさらに引き上げて街の中を疾走する。
神父の得意な戦い方を教えよう―――それは、不意打ちだ。
彼には戦いの礼儀がない。
彼には戦いの作法がない。
求めるのは上等な戦いではない。戦いに上等さなど求めてない。戦いに誇りも矜持も必要ない。
敵は敵だ。何であろうと、敵に回ったのならば敵以外の何者でもありはしない。それ以上でもなければそれ以下でもない、立ち塞がるならただの障害物だ。
理由が何であろうと、敵対したならば容赦する必要はなく、情けを掛ける必要もなく、躊躇する必要もない。殺せばそれだけで十分だ、それ以上に望む事など何も無い。
「…よし」
神父は外郭に立っていた。門前の外郭―――では、なく。後門の壁の上を駆け上がり、其処に陣取ったのだ。
門前では目視される可能性がある。だから後門まで下がり、その上に陣取った。絶好のスナイプポイントである。
体をうつ伏せて、バレットを構える。取り付けられたスコープから門前までを覗き込む。
取れた首を抱えた騎士―――首無し騎士。あれがベルディアだ。
その周りには冒険者が何十人と集っている。その中には、見知った顔がやはり何人も居た。
―――めぐみんが顔を反らしている。どうやら事の発端はめぐみんにあるらしい。
「よし確信。やっぱカズマは呪われてやがる、さっさと解呪してやらねば俺の生活にまで影響を与えかねん。どうなってんだアイツは」
神父は決意した。必ずやあの不幸悪運なる少年カズマの呪いを解呪してみせると。
神父には政治が分からぬ。けれど自分の生活の平穏には、人一倍敏感であった。
「すぅ――――――はぁ」
深呼吸。思考をクリアに、ただ一つの目的へと意識を落とし込む。
狙うは頭部。偶然というか、幸運というか、どうやらベルディアと冒険者達が戦闘を開始しようとしている。
好都合だ、戦っている最中であれば首が狙い易くなる。
「―――天に住まわしき我が主よ。地に降り立ちし我が神よ」
本来、この世界の魔法は殆どが詠唱を必要としない。ただ魔法の名を言う、それだけの事で発動する事が出来るからだ。
だが、例外として爆裂魔法が存在する。爆裂魔法を極めんと日々爆裂道を歩むめぐみんは、爆裂魔法を使用する際に必ず詠唱を口ずさむ。
それは傍からすれば単なるカッコつけでしかないのだろうが、しかしこの詠唱には重要な意味が含まれている。
魔法の威力を安定化させ、制御しやすくする上に、詠唱という定めるため行動を取ることで魔法の暴発を防いでいるのだ。
神父は敵対戦闘の際、上級の浄化魔法を使用する時にのみ限り詠唱を口ずさむ。
自らの主神を詠唱に組み込む事で、その魔法の威力を向上させている。
「いと慈悲深き水の女神よ、どうか我が使命に力を与えたまえ。我が為すは救いたれ、怨みに身を焼かれた憐れなる魂の浄化なり
降り注ぐ涙こそ浄化の証。大地を潤す雨こそアクアの御力。聖浄を以て、魂を天に召す
『セイクリッド・ターン・アンデッド』」
ゴゥンッッッッッッッッッ―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
鐘の音が如き銃声が、轟き奔る。
亡者の魂を天へと召す聖なる弾丸が、俯瞰する為に投げられたベルディアの頭部へと駆け抜けた。
神父らしからぬと余も思うぞ。
うるせぇ、黙っとけ没落野郎。