SAOエクストラストーリー   作:ZHE

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第120話 決戦

 西暦2025年1月22日 アルン高原内陸。

 

「くっ……この、忌々しいネズミ共が……!!」

 

 俺とアルゴがステップで同時に距離を取ると、須郷伸之と思しき人物は「システムコール」からなるお馴染みのチート技を繰り出して来た。

 放出されたものは風魔法の全方位系だが、俺には魔法遮断の非実態盾《スワロゥ・パーム》がある。とりあえず発動者の方へ向けておけばガード成功と見做(みな)してくれた。

 しかし、爆音を凌いだ俺達に再び緊張が走る。

 男が新たな魔法を使用してきたのだ。

 粉塵の隙間から周囲を見渡すと、先ほどまで対面で話していた豪奢な服の男が、少なくとも20人以上増殖して一面を包囲していた。

 

「げげッ!? スゴイ増えたゾ!?」

「ンだこりゃ……ヤロウの分身魔法か!?」

 

 敵の周囲に浮かぶ魔法名には《代替者達(オルタネイターズ)》とある。またオンライン実装前の試作魔法だろうか。

 いずれにせよ、プランBがあったわけである。効果範囲や持続時間はわからないが、すでに臨戦態勢の相手が教えてくれるわけがない。

 ただ問題は、これが単なる《幻属性魔法》ではなく、個々に実態が設定されている場合だ。相手側には無制限な大技がいくらでもある。AIか何かが動かしているにしても、それを()い潜るのは至難となるだろう。

 

「ターゲットは無差別だ! さぁ行けえぇっ!!」

 

 本体が興奮したような顔で分身に命令を下した。

 一斉に飛翔する無表情な人形達。察するに、やはりこいつらは目暗ましではない。

 そう確信した直後、20体以上の分身が魔法を唱え始める。口は動いていないが、スペル発音成功時の演出はされているので、『そういう仕様』と納得するしかない。

 しかし俺とアルゴは翅を広げて一気に飛翔すると、四方から放たれた即死級の魔法をすべて(かわ)した。

 言葉は不要。相手は元よりチーターだった。それは世界樹の頂上で初めて戦った時から変わらない。1度も勝ったことはないが、1度も負けたことだってない。

 分身魔法なんて、何を今さら。

 それに肝心の分身体が短調な動きしかできていない。俺達からすれば大型魔法を撃ちまくる人型のモンスターに等しい。

 

「(飛ぶのは速いな……けど、これなら!!)」

 

 直撃は一発アウト。おまけに攻撃座標の選択だけなら最適化されている。が、偏差射撃ができないのか数の暴力を活かしきれていない。所詮は決められた命令を遂行するだけの人形である。

 そして行く手を拒む人形に斬りかかった瞬間、嬉しい誤算が起きた。

 なんと、それなりの手応えと共に斬られた個体が消滅したのだ。

 

「うおっ!? 倒せるのかこの分身!!」

「オレっちも1体やったゾ! ヘッドショットならピックでも十分みたいダ!」

 

 とんだ攻略法があったものである。この手の分身は術者を撃破すれば消せる道理に違いないが、相手にダメージが通らない現状では防戦一方になると思い込んでいたのだ。

 しかし、一定量のダメージで消滅するというなら話は早い。

 

「おっらァアアアッ!!」

 

 バシュウゥゥ、と。腹部への一閃で次のアホ面を斬り崩した。

 進撃は止まらない。迫っていた1体の胸部を裂き、すぐ脇からムチが伸びたかと思えば、入れ替わるように結晶直剣が奥の個体の眉間を突き刺す。再び俺が前に出て魔法を防ぎ、振るった鉄塊が男の顔にめり込むと、さらに別の頭をアルゴのピックが打ち抜いた。

 気付けば、俺とアルゴは阿吽の呼吸で援護し合い、好き勝手に攻撃するニセモノ達をどんどん薙ぎ払っていた。

 形勢逆転だ。数はもう半分以下にまで減っている。

 攻略プロセスを暴けばたいしたことはない。

 そう気を抜いた、次の瞬間だった。

 

「アルゴ! 下から1体!!」

「わかってル!」

 

 対応したアルゴは手序(てつい)でに3本のピックを投擲する。顔面のヒットボックスは理解しているので、どれか1本でも当たれば消滅すると考えたわけだ。

 そして相手は、この行動を読んだ。

 愚かにも、ピックが急接近する個体の額で弾かれてから、ようやく俺達はそれ(・・)を本体だと理解したのだ。

 

「(くっ!? やられたッ!!)」

 

 焦るがもう遅い。

 右腕を掴まれ、短い女性の悲鳴が響く。

 

「ハハッ、捕まえたぞ! システムコォル!!」

 

 相手はまた嫌らしく笑い、ボイスコマンド1つで見たことのない金の輝きを放つ直剣を精製していた。そして彼女は、それを見届けるしかなかった。力で振りほどくことは絶対にできないからだ。

 数秒の油断。俺の目の前では分身も邪魔をする。

 ――間に合わないッ!!

 

「アルゴっ、自分の腕切れェ!!」

「遅い!!」

 

 男の奇声が上書きされると、黄金の直剣が彼女の胸部を貫通した。

 鉄が人体を貫く鈍い音。そして、急速に減るHPゲージ。

 受け入れがたい現実に、全身の細胞が理解を拒んだ。なぜ相手の策を見抜けなかったのか、己の節穴に虫唾(むしず)が走る。

 大剣の横薙ぎがとうとう最後の2体をまとめて斬り殺す。20体もいた移動砲台は完全に消滅したのだ。

 しかし、すべては遅すぎた。

 

「逃げろ……ジェイド……!!」

 

 発したのはたったそれだけ。初めて会った宿敵の手の中で、長く連れ添った相方は黄金(こがね)色の炎に包まれ、やがて手の届かない場所へ転送された。

 ほんの少しだけ漂った《リメインライト》を左手で握りつぶすと、男は恍惚の表情を浮かべて俺を挑発する。

 

「んん~……はぁ……いいねぇ。奪う感覚ってのは気分がいいよ。土渕がいかに手を抜いていたかわかったな」

「……アルゴを、返せッ!!!!」

 

 ガガァ!! と、けたたましい音が轟いたが、大剣のブレードは男の脳天でぴたりと停止する。

 それは本気の一振りだった。

 しかし敵には一切通じない。有効だった衝撃まで消えているということは、以前より庇護コードを強化しているのか。

 

「くっ……!?」

 

 今度はカウンターの横払い攻撃を靴底で腕の軸をずらして凌ぐと、俺は歯を食いしばりながら距離を開けるしかなかった。

 土渕が手を抜いたから、ではない。ましてやこの男がメチャクチャ強かったわけでもない。俺とアルゴは戦う前から限界で……ALOにおいて初めて、わずか2人で無敵チーターを迎え撃たざるを得なかったからだ。

 しかし言い訳は意味を成さない。

 もはや斬りかかっても無駄だ。いわんやこの男を倒せたとして、それがいったい何になる? 俺がここで深追いすれば、本当にアルゴの犠牲が無意味と化す。

 冷静になれ。冷静になれ……、

 

「くっくっくっ……」

「っ……!?」

「そんなに今の女が大事だったか。……いい顔だ。よもや恋仲だったのか? フフッ、そいつはいい。仮想世界でその気になってしまう愚かさは、時に意図しない弱点を生んでしまうものさ」

「なにが……言いたい、クソカス……ッ」

「もう感づいているくせに。……そうだな。今の女……アルゴ、と言ったか? 可愛らしい娘だったじゃないか。彼女には拷問ではなく、もっと違う趣向(・・・・)を凝らしてみるとしよう。……わかるだろう? モルモットにするだけが使い道ではない。意識の管理とは、それだけでずっと幅広い活用法があるのさ」

「……ンの……野郎……ッ!!」

 

 脳を引きずり出し、微塵切りにしたあと焼き殺してやりたい気分だった。少なくとも、今まで仲間が受けた仕打ちと同じ目に合わせてやらないと気が済まない。

 ……だが、翅を震わせかけた俺の頭には、アルゴが遺した最後のセリフが反芻(はんすう)されていた。

 わかっている。

 逃げなくては。

 記憶のキープだけが俺の存在意義。

 この男と会話を続けることすらリスキーな行為である。現実に復帰してすぐ悪事の報いを受けさせるには、あと数時間だけは何としても生き残らなくてはならない。

 しかし、男もそれを見抜いたのだろう。視線だけをリアルタイマーに向けると肩をすくめて切り出した。

 

「……もう時間か。仕方ない、我々も多忙でね」

「くっ、逃げるのか!!」

「言ったろう、スケジュールの問題だ。それに考える猶予だとは思わんかね? とうに手中に収める算段だったのに。……まあいい、今日中には必ず再ログインする時間を作る。その時は抵抗するなよ? もし私が少しでも不快と感じる行動を取れば……」

「……くっ……」

「フッフッ……ああ……きみの女は思いつく限りの屈辱に塗れることになる。それまでせいぜい、その辺にうずくまって考えるがいいさ。……もちろん、私への謝罪のセリフも忘れずにね。立場をわきまえる最後の時間を、どうか惨めに生き長らえてくれ」

 

 左の指を振ってウィンドウを押下すると、男はログアウトしてどこか得消えてしまった。

 フィールドには俺だけが取り残される。

 翅をたたみ接地すると、悔しさと歯がゆさに苛まれるとその場で両ひざをついてしまう。あってはならない結末に、唇を噛んで額を地面にこすりつける。

 そしてそんな姿勢のまま、誰に向けるでもなく吠え続けた。

 剣を投げつけ、腕が上がらなくなるほど地を殴り、ノドが枯れるほど叫んでから、ようやく1つの事実を受け入れる。

 手の届く仲間さえ救えない口だけの男が、また独りで生き残ってしまったことを。

 この2日間で紡いだ、2人だけの時間さえ意味を失う。

 俺のせいだ。防げたはずだった。なぜあの時、もっと早く意図を読めなかったのか。分身撃破が反撃の手段? バカバカしい。俺達の足を止めるためだけの場当たり的な策に過ぎなかった。

 だのに、どうしてあの時……、

 

「あ、ぁ……っ……あああァアアアアアッ!!」

 

 汚い土に顔をうずめながら、俺はまさに丸まったまま惨めな後悔に打ちひしがれた。

 終わりのない逡巡(しゅんじゅん)がグルグルと回り、たまに歩き出してもすぐに近くのものに当たり、やがてアルゴの身を案じるあまり誰もいない世界でのたうち回る。

 どれだけ……時間がたっただろうか。

 無限に続く苦痛を一瞬で味わったような気分だった。

 木陰に座り込み、虚空をじっと見つめ、石像のように固まること数時間。

 メンテナンスが終わるチャイムの合図と共に、エリアの至る所で音と生気が蘇った。

 今はもう午後の3時ということなのだろう。アルゴが連れていかれてからすでに7時間近くたっている。

 

「(いや……もうなんだっていい……ぜんぶ終わったんだ。俺はヒスイと会って……キリトにも会って……ユイのおかげで事情は伝えられた。……じゃあ、もういいじゃねぇか……? やるだけやった。あとは……アルゴがひどい目にあわないよう、行動するだけじゃないか……)」

 

 座り込んだままシリカの激励を思い出す。アルゴのセリフを思い出す。

  今度は、この2週間で7人の仲間と誓い合った徹底抗戦の契りを脳内で復唱する。頭の中はとっくにグチャグチャだった。

 きっと誰1人として俺が屈することを望まないだろう。

 ノコノコ両手を上げたまま殺されでもしたら、むしろその情けなさに激怒するかもしれない。

 それでも、定まらない。俺にとってアルゴはただの戦友ではない。罪悪感に背を向けながら唇を重ねた時、この世界で最も高揚したことは誤魔化せないのだ。

 あの薄ら笑いを張り付けたゴミクズに、彼女が穢されんとしていたら……そう考えるだけで、どうしようもなく深い殺意が湧く。

 

「(クソッ、クソッ!! でも、相手はチーター……俺にどうしろってんだッ!!)」

 

 俺はいつしか走り出していた。

 一般人がログインできるようになって、視線の先にプレイヤーの影が映ったからだろう。移動は無意識だったが、目立つ場所でうなだれていては真っ先に狩られてしまう。

 まだ死にたくない、という生存欲か。しかし、プレイヤーから逃げ、モンスターから逃げ、何もかも受け入れられなくなった無様な男にもとうとう最後の瞬間が訪れた。

 

「やあ、迎えに来たよ。ジェイド君……だったっけ?」

「ッ……!?」

 

 すぐ近くまで来ていた。緑衣の金髪ロン毛、《オベイロン》こと敵の親玉。脱走者の座標を追えるからできる芸当である。

 頭がパンクしそうなせいで注意が散漫だったらしい。とっさに右手が大剣の方に伸び、その行動に対し男は眉をひそめた。

 

「そうやって構えるのは反射行為らしいな。……いいだろう、大目に見てやる。なにせ時間がない。その証拠に、今の私は無敵のアバターではない」

「……殺さない、とでも……?」

「いかにも。ただ、もう1度《ラボラトリー》で話をしないか? ……女を捨てるか、自分を捨てるか。条件が気に入らなければ逃げればいいし、意識を寄越す気になれば剣をしまえばいい」

「数時間でずいぶんな……変わりようだな。……あんたが、俺を逃がすとは思えないぞ……」

「……戦っても長引くだけ、というのは身に染みた。繰り返すが時間がない。ゆえに非武装で現れた。貞節を奪っていないどころか、あの女には指一本触れていない。きみにも聞きたいことができたんだ。交換条件だよ」

「…………」

「信じられないかな? 先ほど表の部署の仕事、つまりメンテナンスが終了したので、プレイヤーに聞かれない場所へ移動しようと言っているのだ。きみが大人しく来れば女は……いや、他の仲間にも危害は加えない。土渕と違って私には実行権がある」

 

 脚本ありきの行動なら、わざとメンテが終わってから現れたのだろう。そんなことはわかっている。

 しかし、俺に選択の余地はなかった。

 俺はしばし黙考すると、観念したように手を降ろした。

 

「……わかった。……俺と話すことが、あるんだな……?」

「それはよかった。私が触れてさえいれば『戻る』時にラボを経由できる。さぁ、手を出して」

 

 今はALOのルールに縛られる彼らでさえ、このオンラインフィールドで接続を切れば最終セーブ地点へ戻されるはずだが、それはこの地のいかなる村や街でもない。奴らの利己的なルールのみが適用される牙城だろう。

 そしておそらく、今度こそ俺は自力で脱出できない。今や《ラボラトリー》とフィールドの間には不可侵のシールドが張られているに違いない。

 須郷が近づく。歩きながら腕を伸ばす彼の表情は晴れやかで、安堵と、達成感と、そして白々しさが(にじ)み出ていた。

 躊躇(ためら)いそうになる、あるいは殴ってやりたくなる気持ちを騙し、俺はその手を握った。

 

「では失礼。……柳井、私を戻せ。ああ、『触れて』いる。彼も一緒だ」

 

 短いやり取りだった。

 魔法を唱えるわけでもなく、アイテムを使うわけでもなく、俺達の体が眩しい光に包まれる。見たことのないエフェクトだったが、そもそもこの世界には転位手段がないはずなので、これも管理者が持つ権限の1つなのだろう。

 光はものの5秒ほどで収まり、視界が明けるとそこは見たことのない空間だった。

 人が暮らすために用意されたような一室。通常のそれと異なる点があるとすれば、部屋を囲う壁が均等に並ぶ金属棒……すなわち隙間だらけの輝く鉄格子で、少なくとも標高はフィールドのあらゆる山より高いはずである。

 まるで2人仲良く、天空の鳥かごに捕まったような感覚だ。

 

「……ここは……?」

「おや、チラッと見えたんじゃないのか? 覚えているはずだ。もしかすると、きみは2回ほど見てるかもしれないね……」

「ちげーよ、連れてこられた理由だ。交換条件と言ったな? こんなタマが浮きそうな場所で、俺はアンタからどんな話が聞けるってんだ」

「……フッフッ……話す? ああ、そんなことを言ったっけな。ただ予定が変わった。きみへ一方的な尋問をすることにしたよ」

 

 ニヤニヤ顔のまま、悪びれもなくそういった。

 やはりそうきたか。元より話をするつもりなどないらしい。

 

「(ハッ、上等。俺の目的もテメェのくぎ付けだ。ヒスイが助けに来るまで、何時間でも……何日でも……ここで……ッ!!)」

 

 しかし、俺が大剣のグリップを握った瞬間だった。

 頭上からマイクを通すノイズ交じりの声が響いた。

 

『すご……あ、《オベイロン》でいくんでしたっけ? とにかく、モニター室来れます? メンテ明け早々、ちょっとオープンワールドがエラいことになってるみたいなんですよ』

「なんだ、これからだというのに。口頭で説明しろ」

『はい。それが《グランド・クエスト》の参加者がまた現れたみたいなんです。多種族構成なのかモノ凄い人数で……うわ、さらに増えた……!?』

「こんな時に攻略だと……? ……いや、クエスト難度と『その先のエリア』は我々が管理しているのだ。突破されることはない。やらせておけばいい」

『し、しかしもう限界です。多種族10パーティ分ですよ!? 装備のグレードだって並みじゃない。これでクリア不可だと、最悪運営が立ちゆかなくなります! そうなれば、このサーバを隠れ蓑にし続けることも……』

「……く……なんてタイミングで。あと数日も待てんのか、ガキどもは」

 

 須郷は苛立たしげに逡巡(しゅんじゅん)したが、今度は意を固めて振り返った。

 

「……いいだろう、どのみち長くなかった。このエリアは今日で破棄する。あと半日持たせるぐらい……!?」

 

 会話の途中でボウッ! と、金髪ロン毛の端整な顔が炎に包まれた。

 厳密には、俺の投げた《火炎大壺》は奴のアバターに届いていないので痛くも熱くもないだろうが、唐突なイタチの最後っ屁に対し須郷の顔は再び歪んだ。

 

『須郷さん……どうしました?』

「……いや、こっちのガキが噛みついただけだ。……僕への攻撃は無意味なわけだが、なんのつもりかな。ジェイド君?」

「『クソ食らえ』のボディーランゲージだよ。ウソついて捕まえたつもりか? ここなら『殺してリメインライト』にすンのも楽勝? ハッ、笑わせんなよ!!」

 

 言うや否や足元に煙玉を叩きつけ、《まきびし》をバラまきながら数歩下がる。背面はすぐに鉄格子に阻まれるが、近くにあった家具を手で引いて横倒しにすると、背を低くしてその影に隠れた。

 すると、もうもうと立ち込める煙の中で呆れたような溜め息が。

 

「ハァ~……うちのメンバーは『賢いバカ』なんて呼んでいたけど、僕の印象だと『ただのバカ』だよ、きみは」

「るっせェガイジ! かかってきやがれ!!」

「……システムコール、詠唱スキップ。《裂閃爪(ラクレイション)》」

 

 歩きながら技名だけを言い放つと、白煙を切り裂いて突風の刃が幾層にも重なって垂直に飛来した。

 それは白煙や《まきびし》アイテムを飛ばし、家具ごと切り裂く必殺級の風魔法だったが、寸前で展開された《スワロゥ・パーム》がまたも救ってくれる。

 ほとんど無傷のまま、今度は天井の(はり)を利用して反対側にジャンプした。

 距離は変わらず4メートルほどだが。

 

「ハッハァ! 残念だったな!」

「……柳井、なにを見ている。早く彼の行動をロックしろ。いつまでアナログな処理をさせるつもりだ」

 

 戦う気すらない須郷は、右耳に指を当てて気だるげに命令したが、天井からの応答は俺にとっても意外なものだった。

 

『ち、ちょっと待ってください! なにかヘンなんですよ! オンラインフィールドからはアクセスできないはずなのに……わ、わわっ!? そんな!?』

「今度はなんだ! 結論を言え!」

『プ、プレイヤーにセキュリティを突破されました! でもどうやって!? ……とっ、とにかく! 今《ラボラトリー》に一般ユーザが紛れ込んでいます!!』

「なんだと……ッ!?」

 

 アクシデント続きのせいか今日一の焦った声を荒らげた男は、俺のことなど忘れたかのように取り乱していた。

 しかし、無線の先に「まだ監査が入らないよう手は打ったはず」だの、「担当部署はなぜ追い返さなかった!」だの言っているが、俺にはわかった。

 今この場で、絶対神を脅かす挑戦者の正体が。

 

「(キリト……ユイ……どーせてめェらだろ! ハハ、マジで1日でやりやがったのか、あのバカ!)」

 

 メンテが明けてすぐだというのに。俺の知る限り世界最強の二刀流使いは、あらゆる障害を乗り切りった。

 不可能とさえ言われた、グランド・クエストの先まで!

 

「く、ぅ……あり得ん、こんなことが……!?」

『でもやっぱり、ただのプレイヤーみたいなんですよ! 役人ならこんなこと……ラボまで来てコンタクトなしなんてあります? ……この人物、どこかに向かってますよ。これは……「アスナさん」がいる鳥カゴの方かな……?』

「明日奈だと? ……そいつの登録ネームはわかるか」

『えっと、「キリト」……ですかね。何者なんです?』

 

 俺の予想自体は当たったが、その名を聞いた瞬間、須郷の顔には2種類の顔が浮かび上がった。

 驚きと……もう1つは歓喜、だろうか。

 まるで新しいオモチャを見つけた子供のように笑うと、改めて耳に手を当ててささやきかけた。

 

「柳井、その者への干渉はどれぐらいできそうだ」

『それが、まったくプロテクタがかかってません。本当にただの一般人です。近くにちょっと重いプログラムが走ってますが、悪性のものではありませんし。……どうも、なにかのエラーで紛れ込んだみたいですね』

「フ……フフ……クックック……」

 

 今度は感慨深くはっきりと笑って見せると、須郷は俺を流し見にしたまま思いついたプランを口にした。

 

「今回だけは無能なプログラマどもを責めないでおこう。こんなことが起きるものなんだね。……柳井、きみはもう手出ししなくていい。管理者権限をすべて僕へ。きみはこれ以上イレギュラーが入って来ないか見張ってくれ。ネズミ共々すべてを消してから帰るとしよう」

「おいっ……なにをする気だ……ッ!?」

 

 言いかけた途端、スゴウは左手を振って素早くウィンドウをタップした。すると、再び無重力現象が襲いかかり、周囲がブラックアウトしてフィールドが入れ替わる。

 転移の割にやけにロードが速かったが、その理由はすぐにわかった。

 辺りの闇が消えなかったのだ。

 果てのない漆黒。背景なし。ロードに時間がかからないわけである。同時に須郷の姿も消えてしまったが、まさか俺はすでに意識を奪われたのだろうか。

 

「(いや、まだ大剣もある。俺はまだ『プレイヤー』だ。けど、ここはどこなんだ……?)」

 

 座標も出口もわからないまま走り出そうとした瞬間、しかしその必要はなくなった。

 目の前に三度(みたび)転位反応。今度は3人も。

 1人目は距離を置いて現れたスゴウ。2人目はキリト。そして、最後はアスナ。武装は剥がされ、身に纏う布は、とても『防具』と呼べるものではなかった。

 拙速的な応急措置だろうか。だとしても、

 

「なんでアスナが……?」

「なっ、なに、これは!? ジェイド君!?」

「アスナ離れるな! くそ、ユイがいない!? ジェイド、ユイは来なかったか!」

 

 三者三様の声の中、「だまれぇ!!」と、ひと際大きな絶叫が遮った。

 直後、上からの衝撃。

 肩に、背に、全身にかかる重圧。考える間もなく四つん這いにされてしまう。……一瞬の衝撃とは違う。これは、体に鉛を(くく)り付けられたような感覚である。

 

「ぐっ……ンだよ、これ!?」

 

 腕すらも上がらない。誰かに押さえつけられているわけではないが、その不可視の圧力は真っ黒なエリアにいた全員に降りかかっていた。

 

「く、そ……ッ、スゴウ……またてめェの魔法か……!!」

「くっくっく、床をなめる姿はよく似合う。さて、先に重要なことを質問して……いや、待てよ。今のキリト君の反応……ネットに出回った例のスクショ……」

 

 あまりの重さに()い付けられたプレイヤーを睥睨(へいげい)しながら、長い装束を纏って悠々と歩く男は、気味の悪い笑みを浮かべながらしたり口調で言った。

 

「くひっ……くひっ……そういうこと(・・・・・・)か! フィールドで会ったというサバイバーは、この大マヌケな英雄君だったわけだ! ひゃははっ! こいつはいい。必要なら、アルゴとかいう女の身ぐるみを剥いで、ジェイド君に吐かせるつもりだったが……手間が省けたな」

「クソが……極まってんな、てめェは……」

「もう喋らなくていいよ。……それにしてもキリト君、問題はきみだよ。せっかく情報を得ても、それを生かせないんじゃ結末は悲しいものだ。どうせ《ナーヴギア》を使ってログインしているんだろう? なら条件は他の被験者と同じさ」

 

 言うだけ言うと、彼らチーターどもがよく精製していた金色の剣をオブジェクト化した。そしてそのまま逆手に握り、とうとう這いずるキリトの背に切っ先を穿(うが)った。

 彼の呻き声をよそに、信じられないことまで言い放つ。

 

「システムコマンド! ペインアブソーバをレベル8に変更」

「っ……ぐっ……」

「レベル6に変更!」

「がッ……ァ、あああああアアア!!」

「ヒャハ、ハハハハ! いい声じゃないか! これから見せるショーは痛みだけではないぞ!!」

 

 敵が抵抗できないと見ると、途端に強気に出るのがこの男の特徴である。

 その後も、須郷は言いたいだけ俺達をバカにした。最後には空間を丸ごと録画すると脅したうえで、アスナを鎖で宙づりにしたかと思えば、その清楚な服を引き裂いたのだ。

 もちろん、目的はキリトに屈辱を与えるためである。どうもこの男はキリトのことをやたら敵視しているようだが、ターゲットの恋人を利用しようという手段は、ほんの数時間前に俺に取った手段とまったく同じだった。

 この男の本質は卑怯な小心者だ。

 それゆえ、不可侵の力を振りかざす。

 半裸になったアスナの体に指を這わせると、今度は恐怖でにじみ出た涙を舐めとって愉悦していた。キリトの怒りは頂点に達し、それでもなおシステムの力には抗えない。俺は左の指を振ってみたがウィンドウすら出現しなかった。

 

「(クソ……どうすりゃいいんだッ……!!)」

 

 しかしその瞬間、誰にも予想できないことが連続して(・・・・)起こった。

 これが奇跡というやつだろうか。……いや、もっと具体的で、そのくせ理解が及ばない現象が起きたのだ。

 

「キリ、ト……?」

 

 響いたのは、キリトの震えあがるような咆哮。先ほどまで剣で縫い付けられていた彼が、この世の理不尽を吹き飛ばすように吠えながら、重力魔法に逆らって立ち上がった。

 いったいどうやったのか。ゲームにおける行動制限は気合いどうこうで解決する話ではない。俺はおろか、須郷にすらロジックがわからないようだった。

 しかしわからないなりにも、イレギュラーには対応しなければならない。アスナへの暴力を中断すると、運営チームへ小言をもらしながらキリトの前まで歩いてくる。

 それでも、絶対神を前にしても、彼は動じなかった。

 

「システムログイン。ID《ヒースクリフ》。パスワード……」

 

 聞いたことのないコマンドと、長ったらしい英数字の羅列。まるで人が変わったような冷静さ。

 それにいま、『ヒースクリフ』といったのか。あの男が使っていたコマンドを、突然キリトが使えるようになった? 茅場がまだ生きていて、どこかで耳打ちしたとでも?

 何もかもあり得ない。キリトはまだ、この世界に来て数日しか……、

 そんなことを考えているうちに、彼は粛々(しゅくしゅく)とすべきことをしていった。

 まるで、本当にゲームマスターになったかのように、須郷から管理者権限をすべて剥奪。続いて《ペインアブソーバ》のレベルを一律でゼロへ。これでプレイヤーへの痛覚信号は、須郷を含め例外なくダイレクトに伝わるようになったわけだ。

 そしてもう1つの現象。

 

「(うわっ、なんだ!? いきなり体が軽くなった……!?)」

 

 匍匐(ほふく)も満足にできなかったチート技の重圧が、ウソのように消えたのだ。

 さらに頭上数メートルで複数の発光。なんと、その光から見たことのない剣や槍やらが山ほど降り注ぎ、目の前にドスドスと突き刺さった。そのすべてが宝剣級。まるで魔王討伐済みの勇者が、神から自由な武器でも授けられるように。

 そして、天井からノイズ交じりの声が響いた。

 

『ジェイドくん、無事かいっ!!』

「こ、この声……土渕か!? あんたどうしてここに!?」

『事情は察して! きみへの干渉は全部ブロックしたし、リリース前の武器も適当に送ったよ! 数分で出られるようにするから、どうにか凌いでくれ!』

 

 土渕はそれだけ言って、ドタバタとマイクから遠ざかっていった。リアル世界はずいぶん慌ただしいらしい。

 なるほど、「事情は察して」か。きっと裏でコソコソと俺達への干渉を企てていたのだろう。そして機は熟し、クライマックスで登場する。なんとまあ、彼もやるときはやる男である。

 迷うことはない。自力でシステムの鎖を引きちぎったキリトですら、その声色と内容から俺との関係を一瞬で見抜いていた。

 須郷は仲間にさえ裏切られた。

 立たされた劣勢を自覚した惨めな男は動揺し、皮肉にも現実から逃れようと必死だった。

 

「そんなバカなことが……土渕、全部お前がやったのかァ!! ……クソ、こんな……はずじゃ……!!」

「ハッハァ! 気ィきくな、あのインテリ野郎!!」

 

 ラスボスを前に高性能な剣を授かったから嬉しいのではない。

 溜まったうっぷんを晴らせるチャンスに浮足立っているのではない。

 土渕の悲痛な顔を改めて思い出す。恩人だろうと悪を裏切り、自分の正義に従ってくれたあのクソ野郎(・・・・)の顔を思い起こすだけで、俺の中に大きな達成感が流れ込んできたのだ。

 もう、思い残すことはない。

 俺は付近に刺さる、微かに火の粉を纏う大剣を手に取った。もちろん、土渕はキリトの存在までカバーしたわけではない。《ラボラトリー》に紛れ込んでいることにも気づいていないようだった。

 しかし武器は余るほどある。近づいてきたキリトも、適当に強そうな直剣を2本引き抜いてニッと笑った。

 

「俺も借りるぜ、これ。……なぁジェイド、いつの間に敵と仲良くなったんだ?」

「ケッ、仲良くねェよ。かしといたデッカいツケを返してもらっただけだ。それに見ろよキリト、この大剣!」

 

 チラッとだけ視線を寄越す。初めは首を傾げたが、やがて思い出したような表情を見せる。

 《はじまりの街》の地下ダンジョンで、ドクロと大鎌が特徴的な強ボスに襲われたことがあった。しかし炎の大剣を持った小さな女の子……ユイがその脅威を一刀両断にして退治したことがある。

 固有名《デモンズゲート》。SAOにおいても最上位武器。それがこの得物だ。

 おそらく、開発費を惜しんで武器やアイテムを流用していたというオチか。まさかこんな形で郷愁(きょうしゅう)に浸れるとは思わなかったが。

 

「かりるぜ、ユイ……」

 

 何にせよ、お膳立ては十分である。

 向き直ると、須郷はまた情けない声を上げて後ずさった。

 

「ヒィイイッ、ちくしょう! 出られない!? なんで僕の方が閉じ込められているんだ!! 言うことを聞け、このポンコツが!」

「土渕を信じるなら、もうすぐ出られるだろうぜ。そん時は俺らもご一緒するだろうけど」

「それまではアスナに指一本触れさせないぞ! ……それとも、斬られたくないんだったら、この場で泣いて頭を下げるか?」

「ク、ソ……ガキどもがァ……!!」

 

 激昂した彼は、すでに精製していた金の直剣をブルブルと構え直す。

 大変すばらしい。相手が丸腰なら俺も剣を捨ててゲンコツで挑むところだったが、剣を構えてくれるなら気兼ねなく斬りにいける。

 しかし須郷から冷静な判断力が失われた、というわけではないらしい。

 「直接斬り合う」行為が極めて危険になったこの空間において、自らが矢面に立てばすべてのリスクが跳ね返ってくる。さりとて、生意気な小僧共に調子づかせたまま脱出するまで許しを懇願(こんがん)し続けるなんて、培ったプライドが許さない。

 そんな都合のいい願いを叶えようとするうえで、須郷の出した結論は最適だった。

 

「システムコール、詠唱スキップ! 代替者達(オルタネイターズ)!」

 

 使用したのはかの分身魔法。今度は剣を持ったまま増えている。

 納得だ。自らは安全な場所に逃げ、痛覚のない人形20体に代わりに刑を執行させようという腹積もりらしい。

 しかしそれは、最適であっても最善ではなかった。

 

「オウ、そう来たか! どうするよキリト!!」

「どうって斬るさ! 泣いて謝ってでもいれば……いや、だとしても!!」

「いいねェ! ノッたぜ!!」

 

 直後、グッシャア、と。最前列にいた2体の人形が崩れ落ちた。

 人形は剣をかざしていたものの、俺やキリトの重撃を凌ぐ技がない。そして『当たれば消える』のはすでに検証済みである。

 瞬間加速。

 連続攻撃。

 秒を刻むごとに千切れ跳んでゆく妖精王の手足。フッ切れた俺達に、シロウトの分身はなす術がなかった。

 そして……、

 

「いっ、いい加減にしろよこのォオオッ!!」

 

 《本体》が側面からキリトに斬りかかってきたのだ。しかしそれは、最高のステータスと最上の業物が地の底まで台無しとなる、クソのような一撃だった。

 ガチンッ! と鳴ったが、剣で受けたキリトは不動。むしろ反動で須郷の方がよろめいた。

 スキだらけだ。

 

「おーらよォ!!」

 

 ズンッ、と。俺の介入で相手の両腕が半ばから切断される。

 燃える大剣に斬られたからか、切断面に「焼き」の痛みも加わったらしい。

 一拍遅れで発せられた彼の金切り声は、すでに人外のそれに近かった。

 

「ひゃああああアアアアッ! あっ……ぁァァアア!! イタイ! なんだこれはっ……僕のウデがぁアアア!?!?」

「だまれ」

 

 キリトはおざなりに追撃を加えた。その薙ぎ払いは口元に直撃し、須郷の鳴き声は潰れたカエルのようなものに変わった。

 口と両腕の受傷痕からは、ピンクのポリゴンがとめどなく溢れ落ちる。痛覚が等倍の今、このダメージは単なる演出の域を超えているのだ。さぞ激痛を味わっていることだろう。

 されど、なおキリトの怒りは収まらなかった。

 怯え切った須郷は、『本当に潰れたわけではない』ノドをどうにか震わせて言った。

 

「や、やめろォオオ!? ぼぐ……は、もう戦えない!! こんな状態でッ……もう止めでぐれぇええええ!!」

「……お前が1度でも、アスナの声に耳をかしたか!!」

 

 ザクン! と、今度は両足が飛ぶ。

 妖精王カッコ笑いはダルマのサンドバッグになり果て、壊れたスピーカーのような絶叫を上げながら高く放り投げられた。

 そして、手足のないズタボロのお男は終焉を迎える。

 剣士の一閃。背骨から脳天まで、一気にブレードが貫通したのだ。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 貫かれた本体がとうとう壊れると、ブッ飛んだ悲鳴を上げながら、やがて白い炎に包まれてこの世界から消えていった。

 周りにはウソのような静寂が舞い降りる。すると元凶を消したキリトは、半裸のままへたり込むアスナのもとに寄って慰めていた。

 恋人同士の再会である。俺とヒスイがそうだったように、彼らにも2人の時間が必要だろう。

 しかし、それを遮ったのは天からのおっさん声だった。

 

『待たせてすまない! ラボにいる300人を含め、ログアウトの準備ができた。すぐにでも戻すが、そっちは大丈夫か……!?』

「……タイミングわり」

『えっ……?』

「いや、さっさと頼むよ土渕。こっちも今終わったところだ」

 

 どこにマイクがあるのかは知らないが、キリトらの代わりに俺がそう答えると、数秒後には3人のアバターが光に包まれた。

 心地のいい、光に。

 

「(ああ……すべて、終わったんだな……)」

 

 この2ヵ月半の戦いが凝縮(ぎょうしゅく)されて去来する。変化と、決意と、そして再会。仮想世界にダイブしてからは実に2年以上もたってしまった。

 家族はまだ俺を待っているだろうか。不良高校の連中はみんな卒業済みか……あるいは退学でもしたのだろう。その大半と、もう会うことはない気がする。

 そして俺のギルド《レジスト・クレスト》のみんながいる。

 この光の送還は、それらすべてにおいての祝福である。

 

「なあ、ジェイド!」

 

 同じように光を纏うキリトが直前で声を上げた。

 俺は2人に向き直る。

 

「どした、キリト」

「……ありがとう、な。アスナに会えたのは、お前のおかげだ」

「ハハッ、じょーだん。キリトが勝手にやったことだろ」

「そっか……じゃあ、須郷のラストアタックを奪って悪かった。ジェイドこそ斬りたかっただろうに」

「お~そりゃ確かに。けどま、人質がアスナだったからゆずる気でいたさ。ヒスイだったら俺が殺してた」

「あはは。……もう時間だな。なあ、向こうに戻ってもまた会おうぜ!」

「おう! けどその前に、ヒスイとイチャついてからな! あとアスナ!」

「えっ、な、なに!?」

「前見えてるよん」

「っ、……っ!? もう!!」

 

 シュババッと破れた服を手繰(たぐ)り寄せた赤面アスナを最後に、俺の視界はホワイトアウトした。

 最後が楽しければ、道中の辛さなんてなんのその。

 全部シニカルに笑い飛ばしてやると、俺は光の出迎えに意識を任せるのだった。

 

 

 

 

 




次回、最終回です。
ああ……長かったなぁ。
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