SAOエクストラストーリー   作:ZHE

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ヒロインズロード2 忘れたい一生の思い出(中編)

 西暦2023年1月18日、浮遊城第5層(最前線7層)。

 

 5人ギルドの《シルバーフラグス》。通称《シルフラ》と行動を共にするようになってから11日が過ぎた。

 他のプレイヤーとの交流体験がなかったヒスイは、相手に対する気遣いやら、戦闘スタイルの共存を意識し戦っているからか、やや疲れていた。実際の日数より1日が少しだけ長く感じる。

 それでも、接点のなかったギルドであれ、彼らと過ごす時間は楽しいと思えた。

 1番体がしっかりしていて受け答えにも覇気のある隊長、両手用大剣(ツーハンドソード)使いの『ロキヤ』。少し周りを気にしすぎる傾向がある、ふくよかな体型の両手用長柄槍(ツーハンドポールランス)使いの『キヨマル』。対して楽観思考に寄るきらいがある、痩せ型で唯一の茶髪でもある片手直剣(ワンハンドソード)使いの『アドルフ』。同じく片手直剣(ワンハンドソード)使いで標準体型だが、少し内気な長髪の『ヴィルヘルム』。最後に長柄棍棒(ポールスタッフ)使いの『エド』。

 寒さが身を裂く5層のフィールドだが、彼らといられるならなんてことはない。

 

「(初めて……心を休ませてる感じね……)」

 

 寒草(かんそう)がまばらに配置されるだけの荒地を歩きながら、そっと独りごちる。着込めばシステムが体温補正をかけるこの世界では、手先が出ていようとかじかむことはないが、とっさの事態に援護し合える関係は想像以上に心に安泰(あんたい)をもたらしたからだ。

 ただでさえギルドメンバーだけで狩りが可能な5層のフィールドは、ヒスイが一時加入することで余裕すら生まれていた。

 

「慣れてきたなぁ、みんな。狩り場も移動するか?」

「まあ普通に枯渇してきたしね。てか、もう1層上げられるんじゃない?」

「だな。ヒスイちゃん来てから余裕だし」

「そんなことないですよ。あたしがいなくてもこのギルドは十分強いと思います」

 

 ゆっくりと話す温和なキヨマルに、アドルフがラフに同意する。比較的慎重に階層を上がり、控えめな攻略行為に勤しむ彼らだったゆえに、ヒスイの参戦でちょっと強気に出ているようだ。

 

「(フフッ、こういうところはやっぱり男の子だなぁ)」

 

 もちろん、それが暴走気味なら止めるつもりだった。見栄だけで話しているのではなく、次層へ前進できるタイミングなのは間違いなさそう、という判断だ。

 

「リーダーはどう思うん?」

「そうだな……」

 

 ぽっちゃり体型のキヨマルによる、質問系になる言葉は誰かが答えないと会話が成立しない。けれど、やはり最後はリーダーの采配によるところ。ヒスイは自分の口出しは厳禁と思い口をつぐんだ。

 人を纏める能力もさることながら、長身の彼は戦闘面でも手練れで、ヒスイ参戦まではシルフラ最強だった両手剣使いのプレイヤーでもある。

 しかし両手剣ときた。両手剣……。

 

「(いやいや、いま思い出すな……)」

「よし決めた、俺らは前線入りが目標だからな。今日を境に、5層の狩りは終わりだ。明日から6層で戦うぞ」

『おおぉ!』

 

 メンバーは歓声の次には「遂に6層かぁ!」「だな。ゴブリン系のMOBともこれでおさらばだ」と、本日をまだ7時間以上残しているのに明日のことを考えていることが伺える。

 しかし常に最前線を渡っていたからこそ、上階層への前進はRPGならではの胸高鳴る興奮があることをあヒスイはよく知っている。この雰囲気は大切にしなければ。

 

「この調子なら、あっという間に最前線行けちゃうんじゃないかしら?」

「あっハハハ、やっぱヒスイちゃんは強気だねぇ。βテスターだっただけのことはある。それに男だらけでむさくるしかったのに、今じゃ花があるよね!」

「つってもまぁ、最前線の奴らはもう7層の迷宮区を突破しかけてるんだし、まだまだ遠いぞお前ら」

 

 リーダーが冷静な判断を下す前、このやたらハイテンションな人がエド。エドは盛り上げ役なので、彼がいるだけで結構笑いは絶えない。

 だが気になるのは最後の1人。今もヒスイの方を見続ける人物がいた。

 

「…………」

「えっと、ヴィルくん? ……どうかしたの?」

「えっ、あっと……いや、なんでもない……」

「おいおい辛気くさいぞ。ヴィルはパチスロが趣味とか言ってなかったか? 6層は賭け事に関する建物が充実してるって聞くぞ」

「それ7層じゃね? まなんにせよ、今は喜ぶトコだろ」

「だよな。最近元気ねぇぞお前」

「……いや、スロットって言っても設定入ってそうな台しか座らないし。金が好きなんだ。賭けそのものが好きってわけじゃあ……」

「だとしてもだよ! テンション上げよーぜ」

 

 キヨマルやアドルフの呼び掛けにもあまり反応がないヴィルヘルム。ヒスイは気にしないように努めていたが、自分が来てからこんな調子が続いていると自覚していた。

 これについてリーダーは言及しないが、問題ないのだろうか。少なくとも、最近まで部外者だったヒスイに解決方法がわからないので、深いところまで踏み込んで理由を問い正せない。

 

「明日は6層に行くけど、だからって今日サボっていいってわけじゃないぞ。さあ、もうひと狩りだ、ヒスイちゃんもいい?」

 

 既存のギルドメンバー全員が年上だけれど、だからこそなのか『ちゃん』や『さん』を付けてくるのが少しだけむず(がゆ)い。名前だけならヒスイもタメだというのに。

 

「大丈夫です。これぐらいやらないと前線行けませんしね」

 

 「呼び捨てでいいです」とすでに断りは入れてあるため、不満はおくびに出さず賛同の意を表明する。

 そしてその日は午後20時まで狩りを続けるのだった。

 

 

 翌日、ヒスイ達は待ち合わせ場所に朝早く――5時半早すぎ!――から集まると、早速転移門で懐かしの6層に来てフィールドへの北ゲートをくぐる。

 しかしフィールドに向かったその足は、ほんの数歩で止まってしまった。なんと、ゲートの付近で怪しげな行動をしているプレイヤーを見つけてしまったのだ。こんな冷え切った早朝からご苦労なことである。

 正義感の強いリーダーは、物陰に潜む2人のプレイヤーを呼び止めていた。

 

「ん? ……おーい、キミらなにしてる!」

「うげっ、マジかよ!?」

 

 声でこちらに気付くと、なにやらごそごそしている2人のプレイヤーは作業を止めて一目散に走り出した。よく見ると、どうやら寝ていたプレイヤーを物色していたようだ。

 寝ているプレイヤー……に、見覚えがある。眉間にシワを寄せてガンでも飛ばせば即ヤクザ。実は臆病なくせに、気に入らないとすぐに声を荒らげる困った脳筋。

 例の男である。

 例の男に、コソ泥が2人張り付いている。

 絵に描いたような小者具合に肩から力が抜けかけたが、しかしここまで露骨(ろこつ)だと、例え怪しい者でなくとも追いかけたくなってしまう。

 そして、リーダーは案の定だった。

 

「あ、待てこら! お前らも追うぞ!」

「え~ほっとこうよロキア」

「隊長がまぁ〜た厄介ごとに首突っ込んでる……」

 

 逃げる2人と、なし崩し的に追う6人。しかし3倍の人数からかすぐに追い込んで、ふん掴まえてから怪しげな行動の詳細を聞き出した。

 それにグダグダと言っていた《シルフラ》の面々と違い、ヒスイは全力で追いかけていた。なぜならその『怪しげなこと』をされていたのが、あのジェイドだったからだ。理由になっているかはわからないが。

 

「なにをしていたんだ。寝ているプレイヤーのウィンドウを勝手に開いて物色か? 感心しないな」

「わ、悪かったって……ほんの出来心で……」

 

 リーダーも、このような利益の無い面倒ごとに片足どころか全身を突っ込むあたり、見た目通りな人だと感じた。しかし、そこが魅力だからこそ、このギルドができ上がったのだ。貧乏なギルドでも、それゆえに不満を漏らすメンバーがいないのだろう。素直に感心してしまう。

 それにしても、フィールドの端で寒そうに丸まったままぐうすか寝ているジェイドはアホの子なのだろうか。しかも、こんな男のことが脳裏をよぎって忘れられないヒスイはいったい……。

 

「(い、いやいや!)」

 

 頭をぶんぶん振って余計な思考を吹き飛ばすと、まだ起きないおバカさんを蹴りで起こして上げる。

 

「ジェイド! 起きなって……もう」

「んぁ? ……あ、あ~寝てたのかぁ……?」

 

 うつろな両目をこすりながら、彼はあくび交じりにあたしに答えていた。しかも背負った大重量の大剣が邪魔をしてうまく起き上がれないようだ。

 ――寝ぼけているわね。

 うん、やはり。何度見てもアホ面としか思えない。良かった。これで安心だ。

 

「ん……んん!? な、なんでここにヒスイが……ってかナンだッ? 誰だあんたら!?」

 

 ようやく脳の隅々まで覚醒したのか、しっかりと目を覚ましたジェイドに《シルフラ》のメンバーが今起きていた状況を説明する。追撃するように、ヒスイはなぜフィールドで寝ていたのか質問しだが、返ってきた答えは意外なものだった。

 

「いや、俺も《圏内》で寝てたぜ? ……しかも俺のアイテム無くなってるしッ!」

 

 これには思わず、捕まえたプレイヤーを(にら)んでしまう。少なくとも、どうやってアイテムを奪取していたのかは確認しておかないとヒスイ達も不安になってくる。

 ロキヤが「話して貰うぞ」と言うと、2人は観念した風に自分達のしでかしたことを切れ切れに話し始めた。その『アイテム奪取』のトリックを。

 以下はその要約である。

 1つ、NPCから借りた人力馬車及び担架(ストレッチャー)に寝ているプレイヤーを乗せて《圏外》まで運び出す。

 2つ、システムの仕様をつく。具体的には、《メインメニュー・ウィンドウ》の立ち上げだ。これは人の意思やボタンの押下で出現するものではなく、右手(欠損(ディレクト)中なら左手)の人差し指と中指を伸ばし、縦に振るモーションによってのみ現れる。逆にいえば、手を操作するだけで本人の意思とは関係なくウィンドウを開かせられる。

 3つ、そのまま手探りでウィンドウの可視状態ボタンを押し、《全アイテム完全オブジェクト化》の選択肢がある階層までタブを進める。

 あとは人力車に落ちたアイテムは荷台に乗せたまま、寝ているプレイヤーを地面に降ろしたらとんずらするのが作戦。

 だそうだ。

 

「(誉めれられたことじゃないけど、そーいうのよく考えるわね、この人達……)」

 

 正直、ヒスイが最初に(いだ)いた感想はそのようなものだった。

 ターゲットが起きないのであればそのまま逃げればいいし、万が一にも意識が覚醒する前にオレンジ覚悟で攻撃する。そして「死にたくなければ」と脅してその場で盗みをはたらく。戦う前から回避のしようがない。奪う側のリスクは、最低でも『オレンジ』になるだけである。

 

「テンメェら……ふざッけんなよ! 俺のアイテム返しやがれ!!」

「わ、わかった! 返すって! もうやらねぇから……」

 

 ジェイドはアイテムを返して貰ってようやく少し溜飲を下げたようだけれど、まだどこか納得していないようだった。

 その感想はヒスイも感じている。

 (かす)かな違和感。彼らのやっていることは、プレイヤーの拉致と生命線(アイテム)の強奪だ。こんな大胆な考えが思いつく人物にしては、肝が据わって無さすぎる(・・・・・)。そもそも善良市民なら考えようとすらしないはず。

 

「……ジェイド、ちょっといいかな。……あなた達2人に聞きたいんだけど、これを考えたのは誰?」

 

 怒り心頭のジェイドを退けて、座り込む2人の正面に立つと、相手に対し「どちらが立案者?」とは聞かず「誰が立案者か」を問う。

 すると、読みは当たっていた。

 

「じ、実は教えて貰ったんだ。黒い雨ガッパみたいなのを着た優男に……なあ?」

「あ、ああ。報酬は要求しなかった。ただやり方だけを教えて、その男はどっか行ったよ」

「顔は見た?」

「いや、視認妨害フード被ってたから。でも手慣れてる感じでさ。とんでもねー悪だくみを話してるはずなのに……すげぇ落ち着いてた。あ、あとは知らねぇ。ホントだ、それ以上は知らない!」

 

 ヒスイも、そしてシルフラのメンバーも頭を抱える。

 報酬が目的でないのなら。なぜそんなことをするのか。非マナー行為を通り越して『犯罪』を促しているということを、この手順を教えた人はわかっているのだろうか。

 それに、前にも似たようなことが起きている。

 ジェイドの友人である『ネズハ』という鍛冶職プレイヤーの武器強化における詐欺。その方法を思いついたのは、ネズハはおろか彼のギルドメンバーですらなかった。何者かが教唆(きょうさ)したのだ。

 報酬を求めない犯罪行為促進活動。今回のケースと酷似している。同一犯である可能性は、十分にあり得る。

 

「(やらしいわね。自分でやりなさいってのよ……)」

 

 実行犯が本人なら、ひん捕まえて更正ないし説教をすることができる。牢獄送りにすることも。

 しかし、火元を断たなければ、目の前の2人を拘束しても根本的な解決にはならない。無論、それが真犯人の狙いなのだろうが、把握していて対処のしようがない時ほど歯痒(はがゆ)いことはない。

 

「事情はわかった。見つけたらその男も捕まえておくよ。でも今回はぎりぎり『未遂』だったけど、2人とも次はないと思えよ」

「わかった。わかってるって……もうやらねぇよ……」

 

 それだけ言ってロキヤは2人を放した。

 おそらく、彼らも『リスクの少ない悪さができる』ということで、魔が差しただけとは思う。

 だがこの方法が広がるのだとしたら、ジェイドのように宿代をケチって公共的な(パブリック)スペースなどで寝ているプレイヤー達に注意を喚起させないと、最終的な被害はさらに深刻なものになってしまうだろう。

 

「ジェイド、これからはきちんと宿で寝なさいよ」

「わ、わぁったって。俺も不用心だった。ん、んでよ……名前知らんけど、そこのギルドもサンキュな。助かった」

「ああ、君もこれからは気をつけてくれよ……えぇと、ジェイド君」

 

 それだけ言って、まだ目をこすっているジェイドとは別れた。ここまで来てようやく平穏が戻った。

 シルフラのメンバーはリーダーしかほとんど喋っていなかったが、やはり朝っぱらからのアレは精神的に堪えたようで、せっかくの新マップ更新日和が台無しである。

 

「ハイハイ、テンション上げよーぜ! 気持ち入れ直してモンス狩りだって!」

「だな。犯人のこと考えたって今はわかんないわけだし、今回ばかりはエドの言う通りだ」

「今回ばかりってどーいう意味だよ!」

「ハハハハッ」

 

 こんな感じでエドとアドルフがその場を仕切り、本日のモチベーションの維持をはかってくれた。この力はリーダーには若干不足しているところだ。

 

「(やっぱり、仲間を持つことはいいことね。……ッ!?)」

 

 その時、ヒスイは安堵の直後に視線を感じた。

 鋭い視線だった。けれど、とっさに辺りを見渡すも、やはり一瞬浴びせられたピリピリとした気配は感じ取れなくなっている。

 

「(《索敵(サーチング)》にモンスター反応はない。この熟練度で探せないなら……気のせい、だったのかな……?)」

 

 ヒスイは釈然としないままギルドの行進に戻っていった。

 

 

 

 その日も、朝のいざこざを除けば無事に狩りを終えた。しかしその帰りに珍しいことが起きた。

 部隊後方、誰にも聞こえないような音量で、

 

「あの……さ、ヒスイさん。今朝のジェイドって人、知り合い? ……なんかさ……仲良さそうだったけど……」

 

 珍しくヴィルヘルムの方から話しかけてきたのだ。目線を合わせないため、真意までは読み取れない。しかし、その内容はヒスイにとって心外なものだった。

 

「ち、違うわよ。あいつはちょっと前のボス戦で一緒にいたってだけ。しかも半月以上前のことだし、以来ほとんど話してないわ。でも一応共闘したわけだし、その時名前を聞いておいたのよ」

「そっ……か……」

 

 そのセリフにはヒスイも少し違和感を感じた。それとも、ジェイドと知り合いだと困ることがあるのだろうか。

 

「(でも、ヴィルも彼とは初対面のはずだし……)」

 

 そしてその時のヒスイは気付けなかった。

 否、例え気づけたとしても避けようがない。これが原因で《シルフラ》との行動は、その日の夜に幕を閉じることになるのだから。

 まるで神様が、罪を思い出させるかのように。ソロプレイヤーとして縛りつけるように。

 

 

 

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