SAOエクストラストーリー   作:ZHE

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第17話 狂気の余興(後編)

 西暦2023年4月2日、浮遊城第15層(最前線17層)。

 

 隠蔽(ハイディング)スキルを使用していたのだろうが、突如として背後から現れたフード姿の男も、やはり異常者だった。

 男はNPCショップでも市販されている《毒煙玉》をアイテムストレージからいくつか取り出すと、クズ箱に捨てるように円柱の底へ投げ入れていったのだ。

 ビスケットでも投げ渡すかのような気軽さ。

 劣勢のカズ達がさらに毒の追撃によって追い込まれ、悲鳴に近い絶叫が断続的に響いた。満遍(まんべん)なく広がった煙を吸い込み、トラップの底ではカズ達3人がせき込みながら《ポイズン》のバッドステータスを課せられている。煙のせいで視界にも制限がかかる。

 

「予定と違うけど、殺りますよねヘッド?」

 

 信じられないセリフが飛び交った。

 確かに《毒袋玉》というアイテムは、それ自体に攻撃力はない。毒煙が広がり、有効範囲内にいたプレイヤー/モンスターにバッドステータスを与えるだけのアイテムである。それゆえに、誤って人を毒状態にしてしまっても『プレイヤーへの攻撃認定』はされない。

 だがこの男は今、他人に向けてわざと《毒袋玉》を投げ入れたのだ。

 この男たちがまだ《オレンジ》になっていないことのほうが驚く。

 

「さァてな……こいつの返答次第だ」

「くっ、この……ッ!!」

 

 続く「気狂い共が」と言う言葉は、情けないことに喉を通らなかった。

 俺の生死など関係ない。意にも介さない。そんなニュアンス。もちろん《犯罪色(オレンジ)》カーソルのデメリットは理解しているだろう。しかし、こいつらはオレンジになるリスクをあまりにも軽く捉えていた。

 それを証拠に、殺人を平気で(ほのめ)かした。この行為が人の死に直結していると理解している。にわか脅しなどではなく、本当に目の前の人間が死ぬことをよしとしているのだ。

 なのに、いや、だからこそ……、

 

「Hey、ところでアンタなにしに来たんだ? 俺の見立てじゃ、下に落ちた3人に仲間はいなかった」

 

 このポンチョの男は、いけしゃあしゃあと俺に訪ねる。そこにはなんの後ろめたさも感じられない。

 ――ふざけやがって。

 怒りの丈をぶつけようかとも考えたが、俺は直前で考え直した。

 大剣は設定された1発毎の攻撃力こそ高めだが、それに比例して重い。現在常に背負っている相棒、片刃の名刀《ブリリアント・ベイダナ》も例外ではなく、長く分厚い刀身はグリップを抜いても1.1メートルを超え、構えるのにも振り回すのにも敵性ユニットの至近では弊害(へいがい)となる。

 おまけに奴らは臨戦態勢。きっと抜刀する前に決着はついてしまうだろう。

 反射で挑発に乗っては駄目だ。出入り口は1つ。そして今はその直線上に狂ったプレイヤーが2人もいる。

 奴らのハイドを見破れなかった……いや、そもそも看破(リピール)の努力すら意識外にあった俺の責任である。

 それよりも、奴らにプライドが少しでもあるのなら、ここは言葉に乗るべきだ。俺にとっても最終手段は戦うことだが、他の選択肢は今のところ限られている。

 

「落ちてる3人を助ける……つもりだった」

「ほう……?」

「でも、こいつらは俺を裏切ってる。仲間外れにした連中だ。……あんた達も恨みがあってやり返してんだろ?」

「えっ……そ、そんなっ……ジェイドッ!」

 

 剣戟(けんげき)音に混じり、広い落とし穴でも聞こえていたのだろうカズの返答が、明らかに普段よりも弱々しくダンジョン内にこだました。

 他の2人も、ある程度この結果を予想していたのか口にこそ出すことはなかったが、やはり絶望的な顔をして剣を振るい続けていた。

 

「恨み? 違うな。これは『遊び』だ。しかしさっきのお前の声は、まるで仲間を案ずるようだったな?」

「……昔のダチは1人。そいつ以外は、助けるギリすらねェよ」

「ふ、クックックッ……」

 

 笑っている。見抜かれたか?

 しかし彼らの警戒を取り除くためにも、ここは『フリ』を続けなければならない。幸い辺りを照らすオレンジのガラス管ランプは淡く灯るばかりで、距離を保ちつつ余裕ぶった態度でも取っていれば、びっしょりとかいた汗も悟られまい。

 だから俺はできる限り演技に(てっ)した。

 

「見たとこ対人厨だろ、あんたら。モブ専の俺じゃ勝てないっつの。なら後はコスパよ。命かけて友情とるか……黙って見てるか。……残念ながら俺の残機も1だ」

 

 肩をすくめて言う。納得するかは奴ら次第だが、理屈自体は通るはずだ。

 そして俺の祈りが通じたのか、果てしない緊張の数秒を経て、ポンチョの男はこう続けた。

 

「クク、センスあるじゃねぇか。とっさにしていい根性だ。ジョーク以上のユーモラスを感じたよ」

「……チッ、運いいな。んじゃあ久々に観戦でもさせます?」

「(観戦……?)」

「お前はそこで眺めていな。面白いモノを見せてやる。ただし、逃げ出そうもんなら、そうだな……改めて穴ん中で『元オトモダチ』を殺すとしよう」

 

 俺が勝手な行動に出ないよう釘を刺しながら、フードの男は会話を続けた。しかし、この会話の間にも刻一刻とカズ達に危険が迫っているのだ。

 彼らを見捨てて逃げるだけならまだ可能だ。だが、それだけはできない。それをしたら、俺はもう2度と自分を許すことができなくなってしまう。俺が逃げ出すということは、カズ達3人の命を見捨てるということだ。

 そして……、

 

「(ジャリ石拾ってなにしようってんだ……?)」

 

 固唾(かたず)を呑んで見ていると、2人は足下の石を拾い上げて腕を肩に掛けるように構えた。

 これは《投剣》スキルの《シングルシュート》である。

 最も初歩技の予備動作(プレモーション)。攻撃用設定の《ピック》や《ブーメラン》、《投げナイフ》を使用しなくても、たとえば料理用ナイフでもソードスキルを発動できることは知っている。地面に落ちている石でも《シングルシュート》は撃てるのだろうが、しかし仲介物がなんであれプレイヤーに攻撃してしまうとそれは等しく《犯罪行為》。

 だが彼らの動きに迷いはない。こんなくだらないことで、数多の行動に制限を課せられる犯罪色になるのか?

 回りくどいことをしているということは、《オレンジ》になることを可能な範囲で避けるためのはず。奴らにとってはこれが『遊び』の範疇(はんちゅう)でも、だからこそグリーンのままで楽しんでいたのだろう。 攻撃したいのなら最初からそうすればいい。

 しかし、そう思った矢先だった。

 

「なにッ!?」

 

 2人が投げた石は1度壁に命中してから跳ね返り、それぞれジェミルとカズの顔に命中したのだ。ダメージはほとんど皆無に見えたが、2人は一瞬視界を奪われてよろめき、さらにその身を危険に晒している。

 『間合い』がすべての剣の世界において、視野を奪うことの重要性を理解しているのだろう。

 だが俺が驚いたのはその曲芸ではなく、当然変化すると思われた奴ら2人のプレイヤーカーソルの色だった。

 

「(こいつらグリーンのままで……!?)」

 

 どうなっているのか。なぜプレイヤーカーソルの色が変わらないのか。

 そしてその疑問には最初に投げナイフを持って登場したフードの男が答えた。

 

「へへっどうよ、面白ぇだろ? この方法なら俺らは撃ちたい放題。いわゆる《ジャンプバレット》さ!」

 

 ヒャハハハ、と笑い続ける。が、ウケるセリフではない。

 《ジャンプバレット》だと。俺は長い間最前線を生きてきたが、そんなソードスキルなど古今聞いたことがない。

 

「Wow、いいね。全弾命中じゃないか。ジョニーには、こういう的当てになると適わねぇな……」

「て……めェ、ら……」

 

 我慢しきれず、ほんの小さな声で呻くように声が出てしまう。

 しかし、まだだ。動くとしても、せめてこの疑問だけでも……、

 

「あァん?」

「あ、いや……ジャンプバレットってなんだろなって思ってさ……ハ、ハハ」

「いい質問じゃねぇか、特別に教えてやるよ。……いいっすよねヘッド?」

「好きにしな」

 

 そう言うと、ポンチョの男は再び石を拾ってゲームを再開する。

 悪事のどれ1つを止める手立てのないまま、その間にフードの男が自分の功績を自慢する科学者のように上機嫌で話しだした。

 

「確かに武器で攻撃すれば一発《オレンジ》だ。ぶつけてベクトルを変化させても、プレイヤーの意志である限り関係ない。命中させた時点で《プレイヤーへの攻撃行為》になる」

「そ、そりゃそうだ。……みんな知ってるさ」

 

 ここまでの知識は持っている。

 逆に無意識下では、乱戦中に剣が仲間を掠っても《オレンジ》になることはない。そして本人の手を離れたとしても、ピックやブーメランをわざと投げ当てたのならそのプレイヤーは《オレンジ》になる。5ヶ月も過ぎれば、もはやプレイヤー全員の常識である。

 

「だがよ、飛んでった投剣、抉られた地面、そこから石ころが流れ、崖から落下。下にいた人間に当たってダメージが発生……なァんてことになっても、オレンジにゃあならない。つまり、仲介物が増えると、どっかで『故意じゃない』と判断される境界線があるってわけだ」

「な、に……?」

「フヘヘ、《毒煙玉》も原理は同じ。結局バドステになる範囲に侵入したプレイヤーが悪いって話よ。そして気づいたんだ! 《フィールドオブジェクト》を当てるだけなら、1回のベクトル変更でその『境界線』を越える!」

 

 『バタフライ効果』なんて寓意(ぐうい)的な理論もある。詳しくは知らないが、蝶の羽ばたきが廻り回って巨大な突風災害にも繋がる1歩になりかねない、といった大層な理屈だそうだ。正しいかどうかを論ずるつもりはないが、彼の言う初動の関連性のくだりはまさにこういう(・・・・)ことなのだろう。

 説明されて俺はようやく理解した。つまり奴らは、武器ではなくフィールドオブジェクトを投げつけても、一旦『どこかに当たる』という経緯さえあれば、それは『運動エネルギーを持った敵意無き一撃』としてシステムに判断されると言っているのだ。

 貧弱な武器でさえその攻撃は敵に3桁数のダメージを与えるが、確か石や料理用ナイフだとシングルシュートを発動して直撃させたとしてもよくて1桁程度のダメージしか届かない。

 これらはファーストアタックでモンスターのヘイトを溜めてタゲを取るか、視線を別の方向へ誘導したい時にしか普通は使われていない。

 《毒煙玉》についてのトラブルも、β時代に聞いたことがある。

 このアイテムをフィールドの目につきやすい場所に放置したとする。そこで《所有者属性》が切れる5分の経過を待ち、そのあとアイテムを見つけて拾ったプレイヤーに泥棒だのなんだのと言って難癖をつける。するともみ合いの途中で破裂した《毒煙玉》の有効範囲にいると、なんとフィールドのアイテムを拾って所有者となったプレイヤーが優先的にオレンジカーソルになってしまうのだ。

 この嫌がらせにクレームが何件か寄せられたのか、運営スタッフはβテスト中の最後のメンテナンスで、《毒煙玉》による攻撃はいかなる場合であっても『故意ではない』と判断されるように設定変更していた。

 そしてこの特性をこいつらは悪用した。『顔に物を投げつけられる』という心理面で回避のしようがない原始的恐怖と、顔の間近で炸裂するサウンドやライトエフェクトで人の動きを逐一阻害。プレイヤーを逃げ場のない場所に追いやった後は、モンスターと戦わせつつ、システムの穴をついて文字通り遊んでいた。

 これがこいつらの遊びの答え。『余興』の意味。

 与えられた名が《跳弾(ジャンプバレット)》というわけだ。

 

「(くっだらねェ……こんなことッ!!)」

 

 しかし、これを聞いた俺の中には怒りが込み上がっていた。

 《システム外スキル》とは、自然界の法則を可能な限り再現したこの《アインクラッド》だからこそ許された、プレイヤーの編み出す誇り高き戦闘技法だ。ゲームメーカーである『アーガス』に勤める製作陣が丹精(たんせい)した至高の芸術品。いわば彼らのゲーム愛の結晶である。

 脱出不能の牢と化した今でも、俺はその素晴らしい傑作(けっさく)性にだけは素直に称賛を送っていた。こんな奴らが『遊び』だしたせいで、存在そのものが汚されるなど許せない。

 オレンジ専用のお遊戯など……、

 

「……ッ……!!」

 

 カズ達はどうにかキーオブジェクトを1つ破壊しているが、彼らはもう3人ともHPゲージを黄色に染めたまま戦っている。濃い煙が充満してしまったことで、今から残りのトラップ解除のキーオブジェクトに接近できる望みも低いだろう。

 これ以上迷ってはいられない。何度も何度も石を投げつけ、その『得点』を競い合い、出た結果に笑い合い、そして死にゆく様を楽しむようなクソみたいな奴らの好きにはさせない。

 

「ふッ……」

「ヒャはあ! させっかよォッ!!」

 

 ガチィッ!! と金属音が鳴った。投げつけられたナイフを俺の小手が弾いた音だ。

 態度と表情から、さすがに途中で動き出すと勘付かれたらしい。もっとも、過剰な挑発の仕方から考えて、初めからそのつもりだったのかもしれない。

 フードの男、ジョニーと呼ばれたプレイヤーが進路を阻んできた。

 得物はリーチより取り回しを優先させたナイフ。

 俺は背負った両手剣を手に持つと、それをほぼ真上に投げつけて相手の視界を誘導する。

 メイン武器を投げ捨てる行為に、さしもの男も「なっ……!?」と驚いて、半歩身を引いた。

 作戦は成功。行動の意味を理解できず、その剣を目で追ってしまう。そしてそれが、ジョニーとやらの横を通過するのを容易にした。

 

「あっ! テメェふざけた真似をッ」

「おいおい。……おっと、人のことは言えないか」

 

 俺は2人の会話を無視して円柱に(くぼ)んだ穴に飛び込む。

 さらに着地ざまに片手を主軸に両足を開き、逆立ちの状態かつ低姿勢で全周囲を蹴り飛ばす《体術》専用ソードスキル、全周囲回転蹴り《弧月(こげつ)》を発動してドワーフ共を《転倒(タンブル)》状態にさせた。

 

「(時間は稼いだッ!)」

 

 そして後から降ってきた今のメインアーム、片刃大剣《ブリリアント・ベイダナ》がザンッ、と地面に突き刺さると、その柄を改めて握り直し《ドワーフ・エリートアーミー》を次々と屠っていった。

 

「ルガッ……下がってろ! 俺が片付ける!」

「ジェイド!?」

 

 俺が早速2つ目のトラップ解除のキーオブジェクトを壊すと、3人はドワーフを倒して前へ進むという役目を捨てて守りに徹する。俺の邪魔をしないためだろう。

 

「Suck……余計な真似を……」

 

 『余興』を中断されてご立腹のようだが、知ったことではない。奴らはミスをした。これを止めたければ、オレンジになってでも俺を殺しておくべきだったのだ。

 

「《ジャンプバレット》? やってみろ! そんなんじゃ俺は殺せねぇぞッ! ……こいつら助け出したら4人でリンチにしてやる! そこで待ってろッ!!」

 

 叫びながら3つ目のキーオブジェクトを破壊。

 正直、エリートアーミーが脅威だったのはここが最前線だった頃の話であり、今の俺にはこの数すら問題にもならない。もとより、俺は高効率パワーレベリングが可能なトップ集団のソロプレイヤーだ。

 そしてモンスターに倒されようのない俺の『動きの妨害』に、さすがに意味が無いことを悟っている彼らは追撃をやめた。

 妨害を続けたいのなら、《オレンジ》覚悟でその投げナイフをソードスキルで俺に命中させるか、この落とし穴まで降りて改めてあの大型ダガーを振るうしかないからだ。

 そして、それでは『グリーンのまま遊ぶ』という前提を崩すことになる。

 

「(こねぇ、のか……?)」

 

 とは言うものの、つい先ほど俺を不意打ちで攻撃してきた奴らだ。

 敗北のリスクが伴わなければオレンジ覚悟で襲ってきても不思議ではない。むしろその可能性は高かった。

 

「……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 しかし最後の装置を破壊する頃には、あいつらはどこへともなく姿を消していた。まるで、動くなと言われたら悪人は動かなければならないルールでもあるみたいだ。

 そこで気付く。頭の中で冗談が言えるほど余裕が生まれ始めているということに。

 

「(今度はちゃんと《索敵》スキルも使ってる。……もういねぇな……)」

 

 トラップも予想通り解除され、円錐形に沈んでいた地面がゴゴゴゴッ、と頭に響くような低音と共に元の高さまで戻った。これで正真正銘の『安全』が一時的にも戻ったわけだ。

 そして俺は振り向くと3人を見る。

 

「ジェイド……」

「か……ルガ。ああ、なんつーか……悪かったな、さっきは。演技だったんだ」

 

 こういう時気の利いたことが言えないのは昔からだが、なんとか「カズ」というリアルネームで呼ぶことだけは踏み留まった。すでに何度も呼んでしまっておいてなんだが。

 

「ジェイド! その……ありがとう……」

 

 すぐにでも立ち去ろうとした俺だったが、予想外にも涙目を浮かべてカズが飛びついてきた。ついでに感謝の言葉も寄せてくる。

 しかし、俺は抱き合いながら場違いにも彼らの装備を隅々まで確認してしまった。そして装備もレベルもおそらく、以前に会った時より相対的に差はなくなっている。

 さらに意外なことに、俺を門前払いしてきたいかついランサーの大男が、怖い顔をしたまま話しかけてきた。

 

「あの~、オレ達からも礼を言わせてください。……本当に助かりました。命の恩人です」

「えっとぉ……あ、りがとぅ……ごめんなさい。あの時はひどいことを言ってぇ……」

 

 続くように、背の低いそばかす付きの茶髪男まで礼を寄越した。でかい男の方は相変わらず体格からは信じられないほどのテノール声だったが、威嚇(いかく)しているかのような顔はわざとやっているわけではないようだ。

 過去の物言いから俺への引け目があるのか、あるいは仲間を守ることもできなかった無力感か、2人は合わせる顔がないとでも言いたそうに頭下げる。

 だがその姿こそ真にカズを友と思っている証拠であり、俺の心は荒んでいく。

 

「あ、ああ、いいってことよ。それよりあいつらは誰だったんだ? トモダチにしては仲悪そうだったけど」

 

 気まずい感謝は俺も辛い。それに今となってはむしろ気になるのはそちらの方だった。

 その質問にはカズが答えた。

 

「名前はP、o、Hで、プーって読むらしいんだ」

「うえ、なんか拍子抜けな名前だな……」

 

 (はた)から見ていきなり残酷な名前だと認識できるプレイヤーネームを付ける犯罪者もどうかと思うが、それにしてもだ。

 

「僕らもその適当な名前と、人当たりがよくて格好いい人だったから、つい『仲間に入れてくれ』って言われた時に断り切れなかったんだ……。なにも疑うことはなかったよ……」

「そうか。確かに声とか聞く限りじゃ、とてもあんな卑劣な奴だとは思えないしな」

「うん……それにとっても強かったし……」

「まあ、今回は誰も死ななかったけど次はたぶんねぇぞ。……だから仲間選びもシンチョーにな」

 

 『個人の強さ』が組む理由ということは、やはりカズ達の最終的な目標は前線入りすることだろう。それ自体はいいことだが、今回は焦りすぎたといったところか。

 しかも仲間選びを慎重に、なんて偉そうに言ったが、これほど自虐染みた助言があるだろうか。俺には仲間がいないのである。

 だが言葉は止めなかった。それに、と俺は続ける。

 

「あいつらはさっきのを遊びだと言った。今回の……その、遊びとやらはあのフードの男が考えたっぽいけど、野郎はポンチョ男を『ヘッド』と呼んでいたんだ」

 

 その言葉にカズを含む3人が頷いた。誰も言葉にして表現しなかっただけで薄々は気付いていたのだろう。

 

「つまりぃ、今回ボクらと一緒にいた人はぁ、あのフードの人以上にスゴいことをぉ?」

「ああ、過去にしたんだろうな。あーいう連中は意外に体育会系で、自分を上回る人間見るとアガめたがる。良くも悪くもな」

 

 これはリアルの話だが、犯罪者集団はその長を病的なまでに崇拝しているケースが多々ある。

 あまり考えたくはないが、今後狂った連中が増えるのだとしたら、きっとジョニーとかいうフード男のように、組織のトップに対して絶対的な服従を誓っているだろう。

 

「とにかく、前線入りしたいのなら警戒心は常に持っておくことだ。あと敬語はいらんぞ」

「……ジェイドさんにはオレらの考えなんてお見通しってわけだね」

「だから、さん付けはいいって」

「ハハっ。あ〜、今回はオレが焦りすぎていたんだ。この層もレベル的にはギリギリで……でも、だからって諦めるわけにはいかない」

「うん。今の僕らはジェイドに届かないけど、いつか必ず前線で戦う。だから待ってて。そしてそこでまた会ったら、その時は……一緒に戦おうよ!」

「え……る、ルガ……?」

 

 他の2人も今度こそ強く頷いた。

 一緒に戦おうと言ったカズの言葉に。今の申し入れはつまり……、

 

「許して……くれるのか? 知ってるだろ……こんな、俺みたいな奴をだぞ? 初日に、真っ先に見捨てたのに」

「いいんだ。僕だって謝らなきゃ。ごめんよジェイド……きみの事情も考えないで、酷いことをしちゃった……」

 

 その声の震えに喉の奥からこみ上げてくるのを感じた。

 

「……るっせぇ……謝んなよ、ちくしょう……」

 

 悪いのは俺だというのに、泣くなんて卑怯だ。

 

「い、言ったからな! 忘れんじゃねぇぞ! 約束だ! ……俺はちょっと上で待ってるけど、必ず前線に上がってこいよ!」

「うん……行く! 必ず追いつく!」

 

 涙を拭き取るとカズもしっかりと俺を見据えた。

 その後は4人で近況を話し、意見を共有し、終いには会話も弾んで笑い合いながら帰った。そして迷宮区を出る頃にはつい数分前のことも乗り越えてその顔を戦士のそれに変える。

 

「ルガ……」

「ジェイド……」

 

 そして俺達はまた別れる。

 

「「また会おう!」」

 

 再び出会うことを心に誓って。

 

 

 

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