SAOエクストラストーリー   作:ZHE

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第30話 各個撃破任務(キリング・イーチ・オーダー)

 西暦2023年5月22日、浮遊城第25層。

 

 攻略開始から約45分。

 

「本隊のみんな、聞いてくれ! E隊が抑えるから今の内に体力を回復するんだ!」

 

 俺も所属するE隊のリーダーが声を張り上げると、それを聞いた聖龍連合や軍の奴らがすかさずスイッチを敢行。俺は《ラディカルガーディアン》から受けたダメージを回復していたが、その間に取り巻きを倒したレイド1のF隊、つまりKoBの小隊も増援に駆けつけてきた。

 よって俺達を含み、16人がレイド本隊の代わりに戦線を維持する。

 ヒスイも独断先行の末にプレイヤーを守ることができなかったためか憔悴(しょうすい)しきった目をしているが、闘志が消えて無くなったわけではない。

 リーダーだけはケジメとしてヒスイに注意をしたが、E隊に戻るやいなや「ごめんなさい」とだけ言う彼女を、それ以上責める人間はいなかった。それは、ここにいる誰もが彼女の気持ちを痛いほど理解しているからだ。

 だがこの話はもう終わりだ。後は意識を切り替えてボス、ペアギルティを倒すために一致団結するしかない。

 

「ここまで来たんだ、絶対倒すぞ!」

「やられた奴らのためにも!! このまま引き下がれるかよッ!」

「解放の日のために!!」

「全員、突撃ぃッ!!」

 

 男達の雄叫びが力として顕現すると、ボスの体力が減少することで目に見える形で数値化された。

 ここまで来てようやく大剣とハンマーの動きに慣れてきたプレイヤー達は、ソードスキルを警戒しつつも攻撃の手を休めることはなかった。ダメージ効率も順調に上がっている。

 そして、ついに本隊とのスイッチだ。

 

「さんざん好き勝手してくれたやないか!」

「倍返しにしてやれやァッ!!」

「これで決めきる! 3本目飛ばすぞッ!」

「モーションはありったけ変更するモンだと思ってかかれ!!」

 

 全プレイヤーが憤怒の形相で押し寄せるのを見てたじろいだかのようにボスが半歩、また半歩とじりじり壁に追い込まれていった。

 数の暴力が、ペアギルティの体力ゲージ《レッドゾーン》すら見えなくさせた時。

 

「しゃあ! 4段目だ!」

「手ぇ抜くなよッ、人数差を過信するな!」

「でもあと2本! いっけぇえええッ!!」

 

 体力ゲージラスト2本。ようやくここまで来た。

 しかし、このボスだけは3人もの死者を出しておいてなお、未だにゲージを2本残している。油断は禁物。どころか、本当の戦いはまだ先にある。

 

「本隊からも死者が出てる。こっからだぞ」

「ええ、しかもボスはこれでさらに攻撃パターンを増やすわ」

 

 正直すでに多すぎるが、彼女の言うように奴はこれからさらに攻撃パターンを増やすはずだ。

 NPCからの情報では詳細まではわからなかった。ならば、ここからは俺達攻略隊が自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じるしかない。

 

『『グオォォオオオオオッ!!』』

 

 激怒の叫びを天井に吐き出すと、浅黒かったボスの肌が赤く染まり、人の幅ほどあった二の腕の筋肉はさらに盛り上がる。より威圧的で毒々しい姿になった。

 さらに、武器までも変化した。右手に持つ大剣は(つば)の部分から抜け落ちていき、支えを失った大質量の抜け殻はゴトンッ、と地面に落下。すると中には、隠し武器のように片手用直剣が顔を覗かせる。左手の長柄鉄槌は金属の塊がごそっと削げ落ち、長柄の部分のみ、つまり片手用の長槍に変わったのだ。

 

「なんっ、だッ!?」

「攻撃内容がどうとかの話じゃねぇぞ!? ソードスキルも一新されるッ!」

「武器そのものが変わった!? やっと慣れてきたってのに……か、各隊気を抜くなッ!!」

 

 赤黒い体からドスの利いたオーラを纏うペアギルティが、胸の中央にある金の仮面をより一層際立てながら上体をグググッと屈めると、その反動を利用して凄まじい高さのジャンプをした。

 

「うそ……っ!?」

「なんっだ、この技は!?」

 

 《軽業(アクロバット)》専用スキル、緊急脱出用跳躍《アラート・エヴァキューション》。技自体は目撃したこともあるが、巨体でやると回避の距離もインパクトも次元が違う。

 一拍ののち、ドガァアアアアアッ!! という爆音と土煙を上げながら、ボスが俺達と本隊との間に着地。

 今度は本隊を壁際に追い込む形を作ったのだ。

 続いて左手で《短槍(スピア)》専用ソードスキル、刺突強撃八連撃《ドミニックバニッシュ》を発動し、その効果範囲にいるプレイヤーを文字通り八つ裂きにしていた。

 そして絶命の叫びと共に聞こえる、3つの破砕音。

 

「くっ……そが……!!」

 

 後退して回復に専念していた無防備な連中を狙われたのだ。

 この時点で死者6人。負のスパイラルは、想像以上に本隊にも迫っていた。

 

『がああぁぁあああッ!?』

「くるなぁアア! やめてくれええ!」

「もうイヤだ! 誰かぁああっ、楽勝じゃねえのかよ! 話が違うじゃねえか!!」

「逃げるなやァあ! 軍が逃げとってどうするんやッ!!」

「隊列を乱すなッ! 奴にあるのはリーチだけだ! 死にたくなければ殺るしかねぇんだよ!!」

 

 キバオウやリンドは果敢にも前に出てパーティメンバーを守ろうとするが、それだけでは足りない。その証拠に、指示の声は届いているはずなのに、行動の統制ができていない。ボスはあれだけ徹底されていた強ギルド達の戦列をいとも簡単に打ち崩していた。

 

「くっ、F隊が前に出る! 今は敵の後ろを取っている! 諸君は手順通りにやれることをするのだ!」

『り、了解!』

「団長! 私がやります!」

 

 ヒースクリフが有無を言わさぬ声を張り上げると、戸惑う隊員が条件反射のように動き出した。

 アスナだけは正気なのか、唇を噛みしめながらもコンビネーションアタックのラストを請け負っていた。明らかに1番危険な役割である。

 彼女はレイピアを命中させることだけに集中していた。

 怖いはずだ。実際にプレイヤーが死ぬ瞬間を突きつけられた。それでも『この場でたじろぐことが、部下を危険にする』と割り切れている。

 素直に戦慄した。正直、その人間味のない正義感は気味が悪い。ボスが化け物だというのなら、最強ギルドを先頭で引っ張る連中も同じく化け物だった。

 

「(でも今はなんだっていい。誰かなんとかしてくれ!)」

 

 フロア攻略前にあった余裕の表情や態度はもう消え失せている。戦場にいる者は、全員が喉も枯れそうなほど狂った声を上げ、殺人をはたらく怪物を殺しにかかっていた。

 そしてF隊が多段攻撃を加えると、アスナの放つ《細剣》専用ソードスキル、中級高速三連突き《ファイパル・リニート》が全段クリティカルで命中し、ヘイトの蓄積に成功する。

 反撃はまだ終わらない。俺達の方へ振り返るボスの背景で、頭上すら飛び越えられるほどの高度にいる2人のプレイヤーが『壁を走って』いたのだ。

 あれは確か《疾走(ダッシュ)》スキルの熟練度が350を越えたところで獲得条件を満たす派生機能(モディファイ)の1つ、『特定部位摩擦係数上昇』を取得して初めて使えるスキル《ウォールラン》。

 見ると、彼らはリンドとキバオウだった。2人はとうとう壁を蹴り飛ばし、片手直剣を上段で構えているのが見えた。

 両者の武器が薄水色に発光する。

 

「うおおぉぉおおおおッ!」

「せあぁぁあああ!!」

 

 そしてボスの『上空』から、位置エネルギーと重力加速度を最大限に活かすダメージ。さらに、壁から受けた反動による初速を利用した《片手直剣》専用ソードスキル、上段単発突撃技《ソニックリープ》が、最高攻撃力でもって2つの脳天を貫いた。

 

『『ガゴオォオオオオオオオオッ!!』』

 

 弱点部位への同時ヒットで絶叫するボスを背景に着地する2人。その顔はすでに猛者のそれだった。

 さすがに効いたのか、今までにない声を上げるペアギルティは行動遅延(ディレイ)にも陥ったようで、前後の攻略集団から凄まじいほどの挟撃に遭いダメージを与えられている。

 多くの死者を出したばかりだが、ほとんどのプレイヤーの脳はもう麻痺しているのだろう。仲間のことについての喪失感はおそらく後になってやってくる。

 しかし、俺達とクラインの隊がもう1つの弱点である胸の仮面に絶え間ない斬撃を与えた時、あと少しで4段目が《イエロー》まで届こうという時になって、再びボスが平行発動(パラレルオープン)を使用してきた。

 

「クッソ、またかよッ!!」

「両手の武器が光ってる! タンクを前面に!」

「もう間に合わねぇッて! 各自で備えろ!」

「おい来るぞッ!!」

 

 群青(ぐんじょう)色と(さび)色に輝く片手用直剣と片手用短槍。相互の武器が、二刀流さながらな斬撃を繰り出す。

 技の名は初級谷状二連撃《バーチカルアーク》と初級鋭角三連撃《トライアングルロスト》。技名は判明したが、俺には剣を振り回した後の光の跡しか見えなかった。それほどまでにボスにとってあれらの得物が軽すぎるのだ。

 

「ぐああぁあああああッ!?」

 

 俺も五連撃に巻き込まれ槍の一撃を受けてしまう。ヒスイやクラインも、アスナさえも1発以上はくらって後方に吹き飛ばされていたのだ。

 轟音と耳鳴り。

 この直撃を受けた俺の体力はイエローに差し掛かったが、奴はこれで本隊に背中を向けたことになる。

 

「ボスが背を向けている!」

「今がチャンスだ! 我々主力の力を見せてやれ!」

『うおおぉぉおおおッ!!』

 

 聖龍連合と、そのギルドではないが手練れの8人、さらには軍の主戦力の計44人は未だ健在だ。

 ボスが勢いを増したらしりぼみ、削がれたら攻撃的になれるのは、大組織特有の長所であり短所でもある。そして目まぐるしく移り変わる戦局の傾きは今、攻勢の時を示している。

 無防備な背中に向けて数の暴力が本領を発揮した。

 

『『ゴガアァアアアッ!!』』

 

 しかしボスも反撃。ストンプによる《ハイパーナミング・インパクト》が、数の多さゆえに逃げようのなかった多くのプレイヤーを呑み込んだ。

 そしてデバフカットの装備を着ていない、あるいは《対阻害(アンチデバフ)》スキルの熟練度が心もとないプレイヤーは軒並み《パラライズ》に陥る。

 次から次へと流れ込むプレイヤーに、適当に振られれば必ず命中する人口密度。敵と味方が互いの命を削り合う地獄絵図。さらにボスは体力ゲージを《レッドゾーン》へと。

 プレイヤーもその多くが危険域への低下による『戦闘不能』になっていき、混戦をよそに状況だけが進んでいく。ブレーキの故障した欠陥車のようなスピードである。

 

「ハァ……ハァ……手が付けられない。物量攻撃が成り立つのは、相応のレベル差があってこそなのに……!!」

「ええ。でも、もう本隊のトップも事態を収拾しようとしていないわ。今まではこれで勝てたんだから……っ」

 

 ヒスイのおっしゃる通りだ。前層も、前々層もこれでボスを圧倒できた。しかし俺から見える範囲でもHPが危険域にまで陥ったプレイヤーがもう数えられないほどいる。しかも彼らは激情に流されていただけで、いざ自分が死にかけると子供のように慌てだす。おそらく、視界に赤い(もや)がかかるレッドアウト状態になっているのだろう。

 これをいつまでも繰り返していると、取り返しのつかないことになる。

 そこで、戦域のどこかで絶叫が上がった。

 否、これは断末魔だった。

 声が途中で中断される。また1人、プレイヤーが割れた。これで死者7人。

 

「ひっ……死なねぇ……死なねぇよこいつッ!」

「もういやだ! まだ無理だったんだよ! 今からでも撤退を……!!」

「狼狽えるな!! 最終ゲージには突入している! ここまで来たらあと少しだッ!」

 

 総隊長のリンドはそう言うが、しかしそれは無謀というものだ。もうリンドやキバオウがいくら叫んでも、なにを訴えても、戦線は維持できていない。

 死の恐怖を越える説得力がないのだ。

 それを証拠に、数人のプレイヤーが勝手な逃走劇を繰り広げていた。

 

『『グオォォオオオオオオオ!!』』

 

 当然のように、ペアギルティは隙だらけのプレイヤーを屠るために剣を振る。その絶対的なリーチでさらに2人の攻略隊がいくらかの呪詛(じゅそ)を遺しながら消え去った。

 

「くっ……あり得ねぇ! 死にすぎなんだよ!! お、おい止まれ!! ……背中を向けるなッ!」

 

 手足を動かしながら、焦燥だけが心を焼いた。

 切ないほどの、寂寥(せきりょう)感にも似た諦めが、なお声を出すことを強要してくる。

 しかし、激流の中では小さな水の流れなど無意味だった。ただ埋もれ、何事もなかったかのように物量で押し切ろうとしている。まるで急流に小石でも投石したような無力感。貴重な結晶(クリスタル)アイテムを使っているプレイヤーもかなりいるが、戦いとは自棄(ヤケ)になったら終わりなのだ。

 

「ジェイド! ヒスイさん! ガーディアンがリポップしてる! E隊はその撃退に移る!」

「本隊はもう任せるしかない! KoBの命令だって無視してんだぞ!?」

「くっ……わかった……」

 

 気づけばクラインの隊も取り巻き相手に移っている。冷静な人間がいるなら、その者だけでも本来の動きをしなくてはならないのだ。

 幸いボスの取り巻きである《ラディカルガーディアン》単体では弱い部類に入る。やれるなら俺達でさっさと倒してしまえばいい。

 

「行きましょうジェイド。今度も最速で助けに行けばいい……」

 

 ヒスイが言葉の後半を本隊のいる方へ向けながら小さく宣言すると、鬼人と化している主力メンバーをおいてガーディアンを捉えた。

 

「やるわよ! 先に仕掛けるから後ろについて来て!」

 

 その可愛らしくも男勝りな激励を聞いてなお、全力で応えない男はいなかった。

 彼女は特攻し、ガーディアンの正面に立ち、初撃から《反射》スキル《リペルバリア》を発動し、センターヒットでガーディアンをよろめかせた。

 最速で殺すなら、最も早く斬撃を見抜き、最も効率よく対抗手段を実施し、最も速くカウンターを浴びせる。

 妥当な難度だ。やってみせる。

 

「おっらァああッ!!」

 

 スイッチの要領でヒスイの脇を通って直進すると、槍を弾かれて大きく仰け反ったガーディアンの腹に、すれ違いざまに右側に振った愛刀《ファントムバスター》で横一文字の斬り込みを入れる。

 ガギィンッ! と、肉体を斬っただけでは本来発生し得ない金属音が響いた。が、それを無視し、右足を地面に擦らせて敵の真後ろで止まる。そして姿勢を低くしたまま、へし折る勢いで首に向けて両手剣を振り、それもクリティカルで命中。

 最後に、槍を左手に持ち替えて振り向きながら反撃をするガーディアンの攻撃を、俺は左手で受け止めた。

 

「ぐあぁあああああああッ!?」

 

 当然、防御にもなっていない行動で、俺の体力ゲージは相当減った。しかし、ようやく敵の得物を抑えられた。

 両側から介入者が現れる。

 F隊メンバーがシミターとランスをクロスさせるように挟み撃ちでガーディアンの両脇を抉った。

 すかさず追撃。俺は《体術》スキルの単発強撃突進技《凱膝華(ガイシッカ)》のプレモーションを作成。発動直前に敵の顎を片手剣でヒスイが真上に貫き、遅れて発動した《ガイシッカ》が再び顔の向きを元に戻そうとしていた敵の顎に直撃した。

 木板を割るような不快な音を立てつつも、そのまま1メートル近くジャンプしている俺は、着地間際に体の真上に掲げられた両手剣を筋力値の許す限りの速さで振り下ろした。

 

「ガあぁああああああああッ!!」

 

 ガギイイィンッ!! と、生々しい斬撃音が連続すると、そこへ追い打ちのように残りのメンバーがスイッチを実行しつつソードスキルを連発。

 ボスに伴って相当な量を誇っていたはずの取り巻きの体力は一気に半減し……いや、半減を通り越して《レッドゾーン》まで減り、なにが起こったか理解できない仕草すら見せていた。

 戦闘開始から20秒とたたずゲージの8割を消し飛ばした。小隊の息が合えばその爆発力は武器になる。

 

「もっとだ! これ以上好きにはさせねぇえ!!」

 

 次は俺とリーダーが先陣。休む暇などというものはない。どの隊よりも早くガーディアンを殺したら、次はペアギルティの相手である。

 混乱と激闘は、スパートをかけて加速する。

 

 

 

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