西暦2022年12月2日、浮遊城第1層。
攻略会議の日の夜、メンバーは開戦前夜を思い思い楽しんだ。しかし俺達3人のパーティは集団から離れている。元々陰気なのかもしれない。
それぞれが飲んで騒いでをしているというのに、俺達一行だけはぶられているかのようだ。
「ジェイドは座らないのか? ……飯は?」
「ああ。メシもいい」
俺が呆けて眺めていると、『キリト』と『アスナ』は会話を続ける。
あれからしばらく話したが、アスナはともかく、バーチャル界にどっぷり浸かるキリトの方は何とか会話を続けることができた。
ゲーマーの
ふと思い出すのは、俺のこの世界の名前『ジェイド』だ。
初めてキリトに呼ばれた時からどうしようもない違和感を覚えたが、考えてみれば当然で、俺すら半分忘れていたほどである。
しかもスペルは《Jade》。キリトはよく読めたものだ。俺が初見で発音する場合は間違いなく「ジャデ」とでも読んだだろう。アルファベット恐怖症は伊達ではない。
「例え怪物に負けてもこの世界、このゲームには負けたくない」
「……パーティメンバーに死なれたくないんだ。せめて明日はやめてくれよ」
疲れ切った顔のまま、長いこと続いていたアスナとキリトの会話がここで途切れる。
いくら情が沸いたと言え、意外なことに俺の喉はこの空白に震えた。
「あのさ……あんたら。今だから言うけどさ。俺にとって2人は……その、ただのパーティメンバーじゃない。……俺にとっちゃ数少ない話し相手だ」
ここで一旦言葉を切り、次の言葉を探す。沈黙のレベリング期間が長すぎたせいで、驚くことに声の出し方を忘れていたのだ。落ち着いてこんなに喋ったのはいつ以来だろうか。
「あァつまり……貴重な奴だ。絶対死ぬなよ……」
結局こんな言葉しか出てこなかった。
2人が
だが助かったことに真面目に受け取られたようで、キリトは「ああ、頑張ろうぜ」と言ってくれた。
「(くわ~このガキの方が余裕そうじゃねぇかちくしょうこんちくしょう)」
なにか
正確には半分逃げた。どもるところまでテンプレである。
俺は英気を養うためだと言い訳して足を早めた。悶々としながら宿に着くと、扉を少し強めに閉める。武器と防具を外し、その日もさっさと寝てしまった。
翌日、現在10時35分。ようやく日が高い位置に昇り始めてきた快晴の空模様。
第1層の迷宮区に来ている俺達は、森の中心にある道なき道を歩きながら3人でボス戦について話していた。
「先に俺が出るから、そこですかさず《スイッチ》して……」
「……スイッチ?」
ざっと立ち回りの予習中、キリトの《スイッチ》という言葉に首を傾げるアスナだったが、その反応に俺とキリトは逆に驚愕する。
というのも、《システム外スキル》の中で《スイッチ》は最もメジャーなものだからだ。他にもいくつかあるが、俺に至ってはレベル上げと同等か、それ以上の重要性を見出し日々訓練していた。
《システム外スキル》。チートやMODの話ではなく、ようは小技である。
例えば銃撃メインのオンライン対戦ゲームがあったとする。
ソードアートではその内の1つに《ミスリード》なるものがある。モンスターの戦闘による学習性を利用して動きを誘導し、急変化した行動で敵のAIに負荷を与える技だ。まさに知識と経験による鍛錬が重要となり、なかでも《スイッチ》は、《ミスリード》を2人以上で行うものである。
2人以上で行うメリットは複数ある。
まずは圧倒的な時間短縮。武器だけでなく個性のある戦闘スタイルが急に切り替わるのだ。モンスターでなくても混乱時間をゼロにすることは不可能なはず。
次にアタック中のプレイヤー以外はバフ行動がとれること。片方が《ミスリード》中は、回復なり武器への
最後は技による硬直がデメリットにならないこと。
硬直時間を交代時間へ。ファーストアタッカーは極論、敵の攻撃を防ぐ、弾くなどで役目を果たす。
カタログスペックには記載されないが、様々な利便性を秘めた技術である。過去に挑戦してうまく行かなかったならともかく、こんな初歩的なことを『知らない』とのたまうアスナさんとやらは、もっての他の戦力外だ。
もっとも、俺とて《スイッチ》を実践したことはないが。
「(いや、でも俺できるしっ! やったことないけどできるし!)」
見えない誰かに
そこで気づいたことは、彼女がガチで初心者過ぎて使いものにならないということだった。
対するキリトはよく調べてあり、むしろ感触的には彼も俺と同種の人間……すなわち、βテスターなのだろう雰囲気がある。
「(実質2人……けどまァ、なるようになるだろ)」
まだ直面していないトラブルには案外楽観的だ。俺の美徳である。
そうこうしていると、俺達攻略パーティはボス部屋の前に到着した。
「ここまで来たら俺から言うことはただ1つ。……勝とうぜ」
暗い迷宮区で振り向いたディアベルが言うと全員がうなずく。アスナに関する心配事はノイズになる。申し訳ないが今は忘れるしかない。
いよいよである。
キギィ……と軋むように大門が開く。
奴が視界に映る。アインクラッド第1層《迷宮区》フロアボス。4ヶ月以上も前だが、あの巨体は初のフロアボスだけあって、多くのβテスターの頭に焼き付いたはずだ。
扉が開ききるとディアベルが歩き出し、それに続いて全員が前進。それらの歩調に浮き足立った音を感じると、俺も口の中が乾ききり、心臓が早鐘のようにバクバクしていることに気付いた。
4ヶ月前と違うのは、命を懸けているかどうか。
そして、俺達がテリトリーに侵入した途端。巨体が跳ねた。
ドッ! と、着地時の爆音をフロア内に響かせる。
ボス、《イルファング・ザ・コボルドロード》。頭はワニを彷彿とさせ、口元は狼。肥え太っているように見えるが、非常に筋肉質で巨大な
次に現れたのは《ルイン・コボルドセンチネル》。ボスに比べ一周りほど小さいこの3体だが、これでも立派な先鋭隊である。同じく二足歩行でスピードも並外れており、迷宮区に出現するどのモンスターよりも強い。
「戦闘開始!」
『うォォおおおおおぉぉおおッ!!』
しかし2.5メートルを超える敵を前にしても攻略隊は臆さなかった。
リーダーのかけ声。たったそれだけをトリガーに全員が咆哮を上げ、勇敢にも走り出す。
「おぉおぉぁああああッ!」
俺もこの時ばかりは皆の叫びに背中を押された。
自らも集約する声の渦に力を与え、全力で地を蹴り一直線にフィールドを駆ける。視界に映る全員の武器が光ると、多くの人間が1つの目的を成し遂げようという意思、それに伴う一体感が荒波の様に押し寄せる。
負ける気がしない。
『らァあああッ!!』
力の壁がセンチネル全匹を押し戻すと、さらに続いて迫るコボルドロードの体にプレイヤー達の剣が次々と突き刺さった。
『グォオオオオオオオッ!!』
しかしボスは絶叫を上げると、右手に持つ斧を人間3人を宙に浮かせる程の力で振り回す。
被弾者多数。人を薙いでなお止まらない。あまりにも大きい武器が各隊に追加で命中し、2人、3人と攻略メンバーの身体が地面を離れた。
「クッソ……っ!!」
「
『了解っ!!』
大隊長ディアベルはマシンガンのように命令を飛ばす。すると、それに呼応してメンバーが命令通りの動きを見せる。
俺達G隊はセンチネルの援護妨害。
「(負けてられっか! やってやる……)……やってやらァ!」
震える体を
そこをキリトがソードスキルで斬り上げ、跳ね上がった両腕の中に今度はアスナが滑り込む様に敵の懐に入る。そのまま彼女がレイピアによる追撃のソードスキルを容赦なく喉元へ叩き込んだ。
……瞬間だった。
『グギャアアアアッ!?』
視界を埋めたのは刹那の煌きだった。
突き攻撃を瞬時に行っただけだが、精度と速度が想像をはるかに超えている。目を疑うような、散弾銃じみた光の筋がゴウゥッ!! とセンチネルに命中する。
人外の断末魔を上げる敵がその姿を無数の光片に姿を変えると、同時にその姿を眺める俺の口があんぐりと開けられた。
「(は……えぇ。ってか、見えねェ……ッ!?)」
レイピアの売りは剣速、なんて初心者用ガイドブックに載っているような長所の次元ではない。腕の引き、腰の捻り、足の踏み込み、それらが織りなす女性とは思えない『剣技』。
戦力外なんてとんでもない。この女はわずかなレクチャーで、レイピアの利点を理解し、理屈についてこられる程イメージトレーニングを重ねたということになる。
「(へ、へえ……す、少しは記憶力いいみたいだな……)」
心の中で女を小さく賞賛しつつしばらく戦闘を続けると、プレイヤーの奥で野太い咆哮が上がった。
何事かと見据えると、どうやらコボルトロードのHPバー最終段が赤く染まったようだ。さらに両手の武器まで投げ捨てている。これらの状況から、βテストの記憶通りならボスは《曲刀》カテゴリの
だがここで、ディアベルが「俺が行く」などと言って突っ込んでいくのが見えた。
「(1人で……っ!?)」
これはおかしい。彼がテスターでないと仮定すると、攻撃パターンを変えた敵に自由度を与えてはならないし、そんなことは奴も理解しているはずだ。
なぜプレイヤー全員で囲わない? なぜ《循環スイッチ》というスタイルを変える? 作戦に問題があるなら改善すればいい。だが、いきなり単騎で?
様々な疑問が浮かぶもしかし、周りのプレイヤーは信頼を置いていたからこそ行動を止められない。
それがまずかった。
なぜなら、俺達G隊の位置からは見えたのだ。持ち替えた武器がβテストの時と違い、
「おい、ヤバいぞ……武器がっ!!」
「ダメだッ、引け! 全力で後ろに跳ぶんだッ!」
キリトの叫びも空しくディアベルが斬り込む。しかしボスは身の丈倍以上のジャンプ力でもって床と天井縦横無尽に跳ね回り、とうとう真上からディアベルに襲いかかった。
人間は眼球の構造上、上下からの攻撃に弱い。結果、ボスの剣は彼の盾をすり抜けてその体を斬り裂いた。
「がァあああアアアっ!?」
「ディ、ディアベルはん!」
隊長の被弾にトゲ頭のキバオウが呼びかけるが、ディアベルは反動で宙を舞っているためどうするともできない。
そして遂にコボルドロードが左の腰溜めに剣を白く光らせる。
二足歩行ユニットがその手に武器を持つと例外なく発動できる技、《ソードスキル》だ。
アレが直撃したら……、
「おい……やべぇぞッ!」
俺は叫ぶが動けない。どうしようもないからだ。助ける方法が無い。両者の間にこの身を投げ出すか……いや有り得ない、俺が死んでしまう。それを解決方法とは言わない。
ディアベルは、もう……、
「ぐァああああああッ!?」
最後にはザンッ、という残酷な、そして淡白な音が響いた。
決定的なクリティカルを受けたディアベルが力なく床を転がる。
「ウソだろ……おい……」
「ディアベル!」
そんな彼らを俺は呆然と見続ける。しばらくすると、キリトの腕の中でディアベルが『割れる』のが見えた。
「あ、あぁあ……ああああっ……!!」
人が割れた。死んだ……死んだっ。リーダーが、あのディアベルが。
『グォォアアアアアッ!!』
怪物が吼えると、攻略隊の動きは目に見えて鈍くなった。原因は情報に無かった行動パターンと、おそらくはテスター以外にとっては初だろう《カタナ》専用ソードスキル。
そして何より、頭領亡き『残党兵』として。
「うわっ、うわぁぁあっ!?」
「くっ……リーダーがいなくなっちまったら……ッ!!」
「ディアベルッ、そんな……ディアベル!」
元より勝ち戦だったのだ。今さら、こんな終盤で、初見モーション相手にリスクを背負いたがる者はいない。
『誰かが生贄になってくれる』と。押し付けが始まる。
しかし、そう諦めたのもつかの間。信じられないことに、暴れ出す怪物に挑む影が2つあった。そして俺はそれを見て「バカッ、アイツら!!」とつい吐き捨ててしまう。
2人のプレイヤーはキリトとアスナだった。
士気の瓦解という波に飲まれず、立て直そうとする彼らには素直に感心する。されど、これは勇敢と履き違えた無謀な行為である。彼らのレベルはレイド平均よりは高い程度。ボス単体との戦力差はいかんともし難い。
たった2人が
「ハァアアアッ!」
ガギィィ!! と、耳をつんざくような金属音。キリトの持つ剣がコボルドロードの持つ《ノダチ》の芯を捉える瞬間が映った。
そして彼らは、俺の期待を良い意味で裏切ってくれた。
「ぐっ……スイッチ!」
「セヤァァアアアッ!!」
キリトに変わり、華奢なアスナが前に出ると、今度こそザシュウッ!! という斬撃音が聞こえる。技のヒット。直撃だ。
直後に『グオオオォォオオオ!!』と、ボスが大きくわなないた。
キリトの剣が人の胴ほどもある巨大な野太刀を弾き、アスナの剣が膨れる腹を抉る。あれだけ威勢が良かったコボルドロードがたまらず怯む。
凄まじい。凄まじいほど完璧な《スイッチ》だった。
「ス……ゲェ……」
キリトが、アスナが、コボルトロードの剣を防ぎ、いなし、避け、そして斬る。
心が震え上がる。攻略隊のメンバーから、闘争心が頭をもたげてくるのを感じる。
そこで、さらに信じ
「マジ……かよっ!?」
一帯の野郎どもが全員同じ反応を見せた。
身バレ対策で導入されたのか、武装に付随する一部のフードには顔を認識されないよう隠す機能があるのだ。だからこそ、その機能を利用して素顔を覆う彼女の……つまり、現実世界と同じはずのゲーマーもどき女の顔面偏差値に対し、俺はいかなる期待もしていなかった。
しかし実際はどうだろうか。
その姿は眩しいほどの美少女だったのだ。
彼女の着ている戦闘服だけ光り輝いて見えるほどの、そして姫騎士としてこの世に降臨した、天使のような美しさ。栗色の髪を腰まで伸ばし、整った
信じられない光景だが、しかし見惚れている場合ではない。
たった今、油断したキリトが吹っ飛ばされて、その身をアスナに激突させていたからだ。そこにコボルドロードが使い込まれた《ノダチ》を構える。
ディアベルの時のように。
「キリト……や、やべぇぞっ!!」
俺はいつも言うだけだ。叫ぶだけだ。ネットの世界では口だけ大きく、いざ現実では1歩も動こうとしない。傍観者効果に呑まれたモブの端くれ。
こんな時になっても動けない足を、これほど憎んだことはないだろう。
すると、付近に展開していたの4人が動いた。その巨漢は確かキバオウが揉め事を起こしそうになった時に割って入った『エギル』というプレイヤーで、その他の3人も一致団結したパーティとしてコボルドロードを押し返す。
すぐには実感しなかったが攻略隊に士気が戻っている。
あの2人が取り戻したのだ。
しかしいかんせん、彼ら4人は本当にテスターですらなったのだろう。即座に対応したコボルドロードによる下段斬り払い全周攻撃が、戦略的にボスを囲っていたメンバー全員を
直後、コボルドロードは真上に何メートルも飛び上がる。《ノダチ》を振りかぶり、そのまま奴の剣が深い青のライトエフェクトを纏った。
決まれば死人が追加されると、直感で理解した。
「(は……?)」
その瞬間、俺は時が止まったような錯覚を覚え、間抜けにも気の飛んだ声を上げそうになった。
背に《ノダチ》を構えるコボルドロードが何をするか、どう動くのか。当然、斬り降ろすのだろう。右手を振り抜いて、《ノダチ》に死者の魂を閉じこめるのだろう。シンプルでわかりやすい結論である。
だが俺にははっきりと『見えた』のだ。信じられないことに、コボルドロードの攻撃が明確な映像として視界に映った。
足の震えが止まる。
「くっ……そ!!」
ダンッ!! と。気がつくと、俺はフロアを
すべての記憶と経験がリマインドされる。ゲームシステムの生み出すグラビティ・エンジンは、ボスをどう地面に導くのか。巨大な《ノダチ》を振る《
具体的な数字ではない。例えるなら磨き職人が肉眼で確認できないはずのバリを感覚だけで見つけだし、綺麗に磨きあげるがごとく。現場のプロが1キロ近い物体を両手に持ち、グラム単位でどちらが重いかを当てられるように。
漠然とした体感の世界。だのに、それらが精密に加味された未来の動き。それが『見えた』。
こういう時、動けないのが俺だった。
本番になると、逆境に立たされると、
VRMMOがそのアバターをあまりにリアルな感覚で動かした《ソードアートオンライン・クローズド・βテスト》を体験するまでは、俺が何か生産的なことをする器の大きな人物になれるなど考えもしなかった。……いや、ゲームへの感情移入など悲しく虚しいだけだと、考えることすら拒否していた。
それなのに俺は今、猛然と走っている。剣を振り、リスクを省みず。
「らァああアアアッ!!」
時間にして数秒だった。ついに俺の足がフィールドを蹴った。
溶解するほど染み付いた『費用対効果』の観念を捨て、脇役に徹するとした誓いを捨て、見えたビジョンから『必中』を確信した一撃を乗せ、俺の剣が赤く光る。
人はチープだと、幼稚だと、厨二病だと笑うだろう。
こんな感情は継続しないはずで、信念を曲げない創作世界のキャラクターとは違う。
なれど、それでいい。
一瞬もあれば十分だ。
この時だけでも、俺は『主人公』でありたい!
「あァあアアアっ!!」
すれ違いざま、空中でズバァァアッ!! と残響を生み、コボルドロードが錐揉むようにあらぬ方向へ派手に落下する。
《両手剣》専用ソードスキル、空中回転斬り《レヴォルド・パクト》が巨体の腹を抉ったのだ。
縦に回転するこの技を決めた俺は、斬ったと時の姿勢とほとんど変わらぬ姿勢のまま両足を地面に強く叩きつけて止まる。
「ハッ……ハッ……ハッ……ハァ……」
たった一撃で息が乱れ、膝が震えてもう立てそうにない。極度の緊張とストレスが神経を焼ききったのだろう。空中でソードスキルを命中させる難度は意外に高く、ヒット時のダメージ計算にボーナス判定が付くなんてメリットすら頭から飛んでいた。
荒技に周りの奴らが少し驚いた様にこちら見るが、今はそれが心地いい。だが俺の時間はもう終わりだ。
キリトが勢いを殺すまいと続く。
「アスナ、ラストアタックだ! 頼むっ!!」
「ええ!」
夢のような体験は終わった。
あとはやってやれ……キリト、アスナ!
『ハァアアアアッ!!』
シンクロする声の中、2人は立ち上がるコボルドロードに向けて疾走する。
キリトの剣をボスは鈍い動きで防ぐが、たちまち弾かれて大きな……そして死と直結する隙を作る。
「セヤァアッ!」
すかさず《スイッチ》で距離を詰めたアスナが腰下に刃を入れ、斬り傷を与える。
『グォオオオオオオオオオオオッ!!』
叫ぶコボルドロードのHPバーラインが減っていき、あとほんの数ドット。
往生際悪く反れた上体を起こそうとするボスの腹に、今度こそキリトの剣がくい込んだ。
さらに気合一閃。ガァアアアア!! と、そのまま剣を持ち上げ、キリトはとうとうボスの顔を両断するように腕を振り抜く。
『ヴォカァ……ァァ……』
ジジ……と掠れた音がすると、ボスはバリィィン、とガラスを割ったような音と共にその巨体を今度こそ散らした。
しばらくの静寂。
ついに全員がこれ以上のアクションがないことを確認すると、フロア内に割れんばかりの歓声が鳴り響いた。
「終わった……な……」
張り付いたように右手から離れない両手剣を愛おしく感じた。
この日、西暦2022年12月3日13時9分。
アインクラッド第1層が完全制覇を果たされるのだった。