SAOエクストラストーリー   作:ZHE

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リコレクションロード2 フレンドエール(後編)

 西暦2023年5月22日、浮遊城第20層(最前線25層)。

 

 ジェイドとの久し振りの再会は、説明無しの一方的な突発決闘(デュエル)で幕を開けることになった。

 

「定期試験みたいな? 抜き打ちテストの方が近いかな?」

「まあ、そんなとこだ……」

 

 ジェイドに詳しく答える気はないようで、登場時のオフザケな雰囲気はもうどこにも無かった。

 いつものお調子者からは考えられない緊迫感が迫る。

 そして意外にも、なにかに恐怖しているようにも見えるし、またルガトリオ達を遠ざけようとしているようにも見える。

 しかも今回のデュエル、彼は「一振りしかしない」と宣言した。いくらルガトリオが準攻略組レベルの実力しかないのだとしても、これは相当なハンデでもある。

 

「(でも、今は勝つことに集中……)」

 

 理由の詮索は後回し。

 もうすぐカウントがゼロへ……、

 

「行くよっ!」

 

 ルガトリオは一気に間合いを詰める。ボクシングで例えるなら軽いジャブの感覚で、右側から棍棒(スタッフ)を振った。

 ルガトリオは初めから《初撃決着ルール》にある『初撃が直撃判定すれば勝利』という条件を満たす気はなかった。相手と違い縛りをしていないからこその牽制であり、この一撃に決定打としての速度も重さはない。

 間合いを強制的に限定させる、挨拶代わりの攻撃だ。

 

「どうした、トバさねぇのか!」

「わかってるよっ!!」

 

 金属バットのような武器は初速こそ両手で与えられていたが、途中からはほとんど片手で振り回している。

 そこでルガトリオは、半周軌道を描いた得物の『柄』の部分を左手で受け止めた。

 踏み込みの足を入れ換えながら、ベクトルは逆方向へ。柄の部分が長ければ、『てこの原理』と同じですんなりと攻撃方向を変える。

 その先はジェイドの足下。今度は先ほどよりさらに速い速度で足払いを敢行する。

 

「やぁああっ!!」

「くッ!?」

 

 連撃からの急加速にすかさずジェイドはバックステップで距離を空けた。

 ここまでの動きすべてが計算通り。あと1手でこの戦いは詰みだ。

 

「(……いける!)」

 

 そう判断したルガトリオは、長柄部分を両手で持つと、顔の横で武器の先端を相手に向けたまま、腰を低くしてダッシュ体制を取った。

 そしてジェイドが着地の瞬間、ルガトリオの得物が浅葱(あさぎ)色を纏った。

 

「いっけえぇええええッ!!」

「ッ……!?」

 

 《打撃(ブラント)》属性武器専用ソードスキル、中級単発剛突進打撃技《ガンストック・バーニア》。

 過剰な加速度を直進方向に与えられるだけの、シンプルといえばシンプルな突撃技だ。

 スキルアシスト起動。技の出は若干遅いものの、その速度が段違いである。武器を振るというよりただの突進にすら見えるが、激突した時のダメージ判定は一方的に相手が背負う。

 これを直撃で受ければ、ジェイドとてひとたまりもないはず。最悪、技を外しても強引な推進力を利用して距離を取り、リスクを回避する算段もある。

 

「うおォおおおおッ!」

 

 ブォンっ!! と、風を切る音だけが聞こえた。

 彼は真上へ飛んで避けきったのだ。あの距離で、この速度を、掠りもしないほど完璧に避けきって見せた。股を大きく開いた格好悪いジャンプだったが、敵ながら称賛せざるを得ない。

 信じられない。攻略組はいったいどんな反応速度を持っているのか。

 

「くおォおおお!!」

「うっそお!?」

 

 しかも後方への回避だったため、ルガトリオの真後ろにズダンッ、と舞い降り、土煙を上げた。

 一瞬、お互いに背を向け合った。

 ルガトリオの技後硬直(ポストモーション)的にはギリギリ。守りに徹すればどうにか間に合う。それに相手には『一振り限定』の縛りがある。一撃さえ耐え凌げば必然的に勝利だ。

 

「らああぁあァアアああッ!!」

「(間に合えェッ!!)」

 

 しかし、硬直が解けて振り向くと大きな誤算があった。

 それは彼の武器がアッシュグレイに輝いていたこと。そしてこの技の存在を知っていたルガトリオは、ガードではなく回避の選択をしなければならなかった。

 振り向きモーションにソードスキルの反撃を混ぜながら大剣装備でそれを実行できるとしたら、それは《両手剣》専用ソードスキル、旋回単発上段水平斬り《サイクロン》しか有り得ない。

 大剣の重撃を、ルガトリオは手と手の間、つまり武器の構造上衝撃に弱い『柄』の部分で受け止めてしまった。

 

「ぐあぁああっ!?」

 

 バガアアァァアッ!! と、爆裂音を響かせ、愛刀ならぬ愛棒である《ボスマンズ・ハンマー +7》は半ばから完全にへし折れた。

 数秒とたたない内にハンマー武器が割れると、データの残照として光だけを手元に残す。

 唖然とするしかなかった。完敗である。

 彼は一昔前の、すなわち性能だけならルガトリオと大差ない武器を使用していた。丈夫さ(デュラビリティ)強化はしていなかったものの、プレイヤー武器が一撃で破壊されるなど、ゲームバランスが破綻(はたん)しているのではないだろうか。

 

「うっそ……でしょ……」

「ふう……これは俺の勝ちでいいだろ? 筋力値差はごまかしようがないけど、まあ仕方ねぇわな。デュエル中に武器の入れ替えとか普通ないし、これで……」

「じゃなくてっ! 信じられないよ、どーしてくれるの!? 僕、いま強い武器っていったらさっきの《ボスマンズ・ハンマー》しかなかったんだよ? ヤバいよこの先もう戦えないよ!」

「え? あ~、そういやそうだな。悪い……あ、でも《ボスマンズ・ハンマー》つったらもうこの辺が限界じゃね? それならほら……ってか、元々これルガにやるつもりだったしな」

 

 ブツブツ言いながら彼が取り出したものは、各所が金属で補強されつつも(きら)びやかな木製武器だった。

 カテゴリはルガトリオが使用する《両手用棍棒》。しかし、たった今破壊された《ボズマンズ・ハンマー》も木製武器。少しばかり不安が残る。

 ルガトリオはレジクレの中でも、特にダメージディーラーとしての役割を任されている。隙は仲間が作ってくれるので、手数が増えることより一撃ごとの攻撃力が重視されるのだ。

 

「木製武器はな~、とか思ってんだろ? 安心しろって。こいつもそこそこレア武器だ」

「『そこそこ』なの……?」

「……ぜ、ゼータク言うなって。それこそ強化で重さ(ヘヴィネス)上げれば、しばらく戦っていけるはずだ。おまけに要求筋力値が相当低い。筋力値重点上げのルガなら、きっと今すぐ装備できると思うぜ?」

「う~ん……あ、ホントだ余裕で持てる。でもいいのこれ?」

 

 ルガトリオがその武器を持ってみると、確かに遜色(そんしょく)ない重さだった。

 だがこのままだと、先ほどまでの武器をただ単にバージョンアップさせただけになってしまう。これを貰うだけというのはジェイドに悪い気がするが、もっとも相棒を壊した張本人は紛れもなくこの男だ。

 

「へぇ~、よかったじゃんルガぁ。いいなぁ1人だけずるいなぁ……」

「ハハハ、まあそう言ってやるなジェミル。あの~、なんか悪いね、気を使わせちゃって。ハンデもあったのに」

 

 ジェミルやろロムライルも、デュエルが終わるとみると続々と集まってくる。もちろんゲーマーとして癖となりつつある、自分より上位の他人の武器の鑑定をしながら。

 

「いいってことよ。あと一応、さっきのアレはシステム外スキル《アームブラスト》ってやつだ。まあ俺が命名したわけじゃないけど、攻略組が編み出した最新のシステム外スキルでな。武器に存在する『もろい部分』への直撃なら、なんと1回か2回程度で折れるらしいんだよ。でもこれが難しいのなんのってなあ。さっきのもぶっつけ本番でよ。いや~成功してよかった。最初はさ~、自信なかったんだけどさ~……」

「あーはいはい。ジェイドのシステム外スキルへの愛はいいから。ここに来た理由をそろそろ聞いてもいいかな?」

「…………」

 

 口元だけにまだ笑みの形を残し、他のパーツから感情を取り除くという、中々に器用な表情を数秒間維持してから、彼は今1度まじめなオーラを出して次の言葉に繋げた。

 

「ん……じゃあまあ、単刀直入に言うけどさ。……レジクレの力はだいたいわかった。メンバー全員に言わせてもらうけど、今後は攻略組目指すのをやめてほしい。さっきのデュエルであんたらが向かないことはよく理解できた」

 

 そして彼の喉から発せられた言葉は、しばらくここにいた全員をフリーズさせるに事足りる内容だった。

 

「言い方悪いかも知んないけど、俺は直球しか投げれんからさ」

「は……え? ……いや、意味がわからないよ。一緒に旅をしようって言ったのに! それに、この武器だって僕らを攻略組にさせたいから渡したんでしょう? 本当に……わけわかんないよ。唐突に現れたと思ったら急にそれ? 今さらやめられないよ!」

「武器は安全のために渡しただけだ。しばらく換えなくてもやっていけるのは本当だけど、さっき上層でも通じるって言ったのは本心じゃない」

 

 でもだからといって、「はいそうですか」にはならない。

 ロムライルも彼の意見に異を唱えた。

 

「あの~。でもジェイド、こればっかりは意見を変えられないよ? オレはともかく、そこにいるジェミルは《はじまりの街》に知り合いを1人残してきてるんだよ。……あの日、『助けるから、ここで待ってて』って、そう残して前線に飛び出してきている。そうだよね、ジェミル?」

「えっ? う、うん……」

「まあ、その人物が誰かまではオレらも詮索してないよ。けど、ここで進むのをやめたら、その人への裏切り行為になってしまうんじゃないかな?」

「でもッ! それでも……こっからは危なすぎる。あんたらに死なれるよりはマシだ……」

 

 ジェイドは悲痛な叫びを漏らした。本気で心配しているがゆえに、そんなことを言うのだろう。

 

「ボクの友達のことはおいといてぇ。それでも危険というならぁ、それはジェイドにも言えることだよぉ? だって君こそ攻略組でしょぉ?」

「だからこそ、前線のヤバさを見た! 見ちまった! あんただって、攻略しない奴のために体張ってさ、そんなのおかしいだろ? んで、レジクレの誰か1人でも欠けてみろ。俺らバカみてぇじゃねぇか! そうなってからじゃ遅いんだぞ!?」

「あの~、だから、きみにも言えるでしょそれ。あと出会い頭にも言ったけど、それは『ビーター』の考え方だよ。《はじまりの街》にいるプレイヤー全員が、この世界で生き抜くことを頑張っているんだし、そんな言い方はよくない。……いったいどうしたんだ? 武器を渡すだけならともかく、オレらを止めようなんてこと……」

「今日……」

 

 そこでジェイドが口を挟む。

 今度こそ顔に暗過ぎる影を落として。

 

「今日、25層のフロアボスを倒したよ」

「え、すごいじゃん。ここにいるってことは2時間以上前に?」

「いや、2時間独占は攻略隊の特権だけど、俺が下層へ降りる分には制限がない。だから1人で降りてきた」

「ああ、そっか。で、ボスはどうだった? 20分ぐらいで終わった?」

「1時間で……討伐隊の25人が死んだ……」

『えっ……!?』

 

 ルガトリオ達3人は例外なく絶句した。それどころか、しばらく言葉の意味を理解することさえできなかった。

 それほどまでに、荒唐無稽(こうとうむけい)だった。あまりにも筋が通っておらず、場違いな雰囲気すら漂う。

 

「に、じゅう……でも……そんなはずは……」

「それは……いくらなんでもあり得ないんじゃないの? ジェイド、オレの記憶が正しければ、前層まではむしろ楽勝で……」

「そうだよッ! 余裕だった! でも変わっちまったんだよ。……もう今までの戦法は通用しない。これからも、時間かけてペースは戻ると思う。でも、ボス戦の死亡率は異常だ。そこに……みんなを参加させたくない」

 

 ジェイドはなおも続けた。

 

「俺は頭悪いけど、悪いなりにも考えたさ。順番通りならあのバランスブレイカーは50層でも来る。75層でもだ! んで、このペースなら次の50層戦に参加できちまう。レジクレが前線に来たら、大規模ギルドから絶対オファーがくる。……参加しろと言われたら……するんだろ?」

「……オレらは……きっとするだろうね……」

「だから止めにきた」

 

 ジェイドがここに来た理由は明かされた。そして主張自体も理解した。

 しかし肝心なところが抜けている。それは過去に犯した罪の(あがな)いのために、彼自身は攻略をやめる気がないということだ。自分を犠牲にすることを(いと)わないということだ。

 彼は守らなくてもいいように人を遠ざけ、悲しみを背負わないように保険をかけているのだろう。だがそれは間違っている。ルガトリオが死んだって、レジクレの誰が死んだって、ジェイドを含むこの世界の誰であれ、死ねば悲しむ人がそこにはいる。

 だとしたら、ルガトリオ達だけ安全地帯で縮こまれという話は筋が通らない。

 はるか高みから弱者を睥睨(へいげい)したまま、同情され、過保護な判官贔屓(ほうがんびいき)を受けるいわれは毛頭ないのだ。

 1番恐ろしいことは、死ではない。戦地の友人の帰りを、指をくわえて待つことである。ジェイドが強要していることそのものだ。

 ――冗談じゃない。

 

「冗談じゃないよ……」

 

 ゆえにルガトリオは拒絶した。こんな交渉は成立しない。こんな要件を提示できるほど、彼は最低条件を満たしていない。

 

「ジェイドが攻略をやめないなら僕もやめないっ!」

「ンでわからねェんだ! 言うこと聞けって!」

「イヤだ! きみが言うべきはこんなことじゃないはずでしょ!? 捕らわれてる人を解放しようとしてるなら! みんなを守る気概ぐらい持ってよ!」

「ルガ……そうは、言っても……ッ」

「こっちでやるから後は見てろ? そんなの通用するわけない! ……もうあの時とは違う! 僕だってジェイドを守りたいよっ!!」

「そうだよぉ、ジェイドだけはずるいよぉ。ボクはねぇ、もーすっごく強くなったんだよぉ?」

「ま、そういうことだ。それにジェミル、『ボクは』じゃなくて『ボクらは』……だろう? ナメないでほしいな、オレだってレジクレのリーダーなんだからさ!」

「ル……ガ……みんな……」

 

 ここまで言って、聞いて、時間がたって。初めてジェイドは、ルガトリオらに対して弱者というレッテルを()がしたようだ。

 

「一方的に支えようなんて考えないで。僕らはこれから死に物狂いできみに追いつく。やれることは全部やるし、負担がかからないように強くなる。へへっ、その時はまたデュエルの1つでもしようよ。正々堂々とハンデなしで、ね」

「ルガ……」

 

 そういうと、ルガトリオは右手を差し出した。

 差し伸べるのではない。変わらず対等な立場として。

 レベル差やステータス差なんて些細(ささい)なこと。本当に必要な本質は、相手に頼られて、相手を頼る。互いが力を合わせて困難に立ち向かう。そういうものだ。

 信頼があれば人はいつだって対等なのだから。

 

「そう……だな、ああそうだ。ヤッベ、ざまーねェな俺も。ちっとばっか敵が強かったからって超ナイーブになってたよ、悪いな」

「えへへ、ジェイドは考えるより先に体が動くタイプだからね~」

「オイオイ、俺が脳筋の考え無しみたいに言うなよ!」

 

 おどけて言われて僕らは皆笑っているが、かなり冗談では済まない部分があったからか、苦笑いがいくらか占めてしまっていた。

 

「ハハハッ……ああ、ところでだな。ナイーブって使い方あってるっけ?」

 

 ――意味知らずに使ってたのかい!

 

「やっぱりジェイドはジェイドだなあ、まったく。……でもおかげで俄然やる気がわいたよ。上で待っててね、すぐ追い付くから……」

「ああ、待ってる。もう止めに来ねーから覚悟しろよ!」

 

 こうしてジェイドは最前線に戻っていく。

 そしてルガトリオ達は最前線を目指していく。

 再会の時は近い。なぜなら、彼が前を歩く限り、ルガトリオ達はこの足を決して止めたりしないのだから。

 

 

 

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