SAOエクストラストーリー   作:ZHE

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ジャスティスロード2 犯罪の手口(ギミック・オブ・クライム)(中編)

 西暦2023年6月22日、浮遊城第29層。

 

 聖龍連合が副総長。リーダーの右腕として信頼厚く活躍するエルバート上官(ただし歳下)が口にした言葉、それがやたらとオレの脳内に張り付いた。

 攻略組に楯突く犯罪者とやらを。

 

「それはまた物騒な……しかし、攻略組と言ってもピンキリでしょう。DDAにまで噛み付いてくるんですか?」

「今のところ間接的な報告しかない。だが、オレンジ共が調子に乗ってるのは確かで、対策チームを作って調査の派遣をしたんだ。連合のメンバーと数人の情報屋にも頼んだ。……で、これが遅々として進まんわけよ」

「あ~、だからさっき。……ええっと数人の情報屋、ってことはもしかして、《クリント・クロニクル》以外にも依頼してるんですか?」

 

 『連合のクリクロ』と言えば、ブランドの力も相まってそれなりに名の知れた聖龍連合直属の情報屋2人組である。聖龍連合の、聖龍連合による、聖龍連合のための情報屋である。

 コルを定期的に渡す代わりに、いつどこでもオレ達の依頼を最優先に回してくれる。彼らの責任は重く、ギルド加盟当初こそ適当な仕事をしていたが、今ではそれなりにネットワークを構築して堅実に依頼をこなしてくれる双子のプレイヤーである。

 だが今回は、そんな直属以外の情報屋にコルを払ってまで犯罪者(オレンジ)連中を本気で追っていることになる。なお見つけられないということは、相手にも相応に頭のキレる奴が混じっているというわけだ。

 

「クリクロ以外の情報屋……となると?」

「ああ、《鼠のアルゴ》と《吟遊詩人》だ。詩人はともかく、敵味方すら曖昧なネズミへの金の積み込みもとことんやってる。抜かりはない、と思うが……」

 

 オレはそれを聞いて内心余計に驚いていた。

 《鼠》と言えば、まさかのデスゲーム最初期から活躍している『何でも知ってる情報屋』をウリにしている有名なプレイヤーである。もっとも、彼女のキャッチコピーは数知れず『売れる物は何でも売る』なるモットーを初めとした、自分のステータスやクライアント情報すら売買対象にしてしまう規格外だ。こと情報に関しては守備範囲も規格外である。

 《吟遊詩人》は陰では『過剰! やりすぎ!』と揶揄(やゆ)されるほど、対象者のプライベートを根掘り葉掘り集めてくると言われている者で、これはミンストレルという名である。こちらはアルゴと違ってボス戦などの情報をタダで売らない、そもそも率先して集めない、むさい男、と色々な理由で人気に劣る。がしかし、彼女と違ってクライアント情報を勝手に売らないし、人間関係を暴く際も確実な攻め方をする性格なため、むしろ金を積んで依頼する側としては信用における。

 しかもこいつは綱渡りが好きなのか、自らが危険に晒されることを(いと)わない。対プレイヤー情報……つまり《オレンジギルド》にも精通し、その潜伏地を幾度となく暴いている。このことから、今回の件での期待度も高い。

 しかし、彼らを(もっ)てしても潜伏場所を見つけられない今回のターゲット。にわかには信じがたいが、彼ら4人を上回る頭脳か、もしくはそれなりの人数をそろえて電子戦を繰り広げているということになる。

 

「路頭に迷った集まりかと思いきや、結構やるもんですね。頑張りすぎてドン引きですよ。そんなに反社会行動が楽しいんすかね?」

「知るか。共感できないから捕まえようとしている」

「なるです。ところで、せめてそいつらの『ギルドネーム』は判明してないんです?」

「そうだな、その報告もない。つーか、さっきは『ギルド』と言ったけど、まだ実際にギルドとして活動してるんじゃなくて、ただの2人組だ」

「えっ!? たったの2人……!?」

 

 これにはさしものオレとて驚いた。話半分で聞いていたが、わずか2名に手こずるとは。敵はよほど幸運なのだろうか。

 

「とんでもない奴らでな。非マナーを通り越して完全に悪質犯罪だよ。もうトドメの一撃を直接叩き込む以外は何でもありみたいなスタイルらしい」

「あっちゃ~。そーいうのって、野放しにしてたらその内絶対ヤっちゃいますよ。マジで」

「わかっているから焦っているんだ。クリクロの2人を含み、他の情報屋達も一部ネットを共有しながらアジトを特定しようとしているらしい。……だが、目撃情報も一致してないみたいでな。行ってももぬけの殻で、どっかで俺らの動き監視してるんじゃないかとすら言われているほどだ」

 

 現実的に考えればその危惧はあり得ない。何かトリックがあるはずだ。

 全プレイヤーの監視などこのゲームの創始者、今や唯一のゲームマスターと化した茅場晶彦にしかできやしないのだから。

 ただ、普段の情報屋連中を知っている人間からすると、とても考えられない体制をとっている。それでアジト1つ見つけられないという事態は尋常ではない。そもそも確率論的にもそんなことがあり得るのか。

 

「(っておいおい、オレは探偵かっての。自分の仕事じゃねぇんだから、難しいことはエルバートやアッドミラルに任せて、風呂でも入って着替えたらとっとと寝よう)」

 

 言い訳せずに内心を暴露するなら、「今日出会ったアリーシャちゃんが心配! それ以外はどうでもいい!」の一言に尽きる。男連中は自分の身ぐらい自分で守るだろう。

 そして、この憂患(ゆうかん)すら無意味な可能性が高い。今日出会って、上司の案件を聞いて、それらが深く絡み合っていて、彼女が事件に巻き込まれるなど。妄想にもほどがある。それで、オレがナイトのように彼女のピンチに出会(でくわ)して、最終的には王子様か?

 

「ハッ、バカバカしい……」

 

 それが創作物語だと諦めをつけてしまうほど、オレも歳を取っていた。

 それだけを吐き捨てて、若干ばかりもやもやしながらも、その日はさっさと床につくのだった。

 

 

 

 翌日。現在は6月23日の、午前11時40分。

 不足気味だった資材集めをギルドの会計士に頼まれ、午前中いっぱいを使って特殊クエストを4人で4回こなすと、昨日の心配事がまるっきり杞憂(きゆう)であることが判明した。

 

「やっほぉ~、せーりゅーのみんなぁ! おっ待たせぇ。どう、今日もキレイ?」

 

 ウフン、とわざわざ音が聞こえてきそうな仕草で髪を撫でるキュートなアリーシャちゃん。

 悔しい。こんなビッチっぽいことをしているのに、実は彼女はそんな安い女でないことを理解しているがゆえ、誘惑フェロモンにまったく抵抗することができないからだ。

 文句なしで可愛いのである。

 装備は重ね掛けできない物をわざと選んでいるのだろうか。ともかく健康的な素肌、正確に言うと扇情的なバストやヒップが見え隠れすると、男として目がいってしまうのはもはや自然界の摂理と言えよう。スラッと伸びた手足も実に(なま)めかしい。

 見目麗しい女性プレイヤーというのはすでに絶滅危惧種に認定されていると思っていたのだが、なんのことはない。少なくとも目の前に1人いるではないか。可愛いという表現が適切かどうかは賛否の別れるところだろうが。

 

「会いたかったよアリーシャちゃ~ん。それよりどうかな、今から俺と南にある《コッコリーの村》でも回ってみない? あ、村っていってもあそこはほぼ《街》レベルで発展してるから、結構見応えあるんだよ~。眺めもいいし飯はうまいし!」

「オイこらっ、堂々とサボる宣言すな! あとオレの目の色が黒い内にナンパすることは許さんッ!」

 

 リュパードはゲーマーにしては珍しく、女性を見ると結構な頻度で声をかけているらしい。だが彼女いない歴何とやらのオレを差し置いて異性同士でイチャイチャすること、それだけは許されない。

 ――嫉妬だと? 否、断じて否だ。

 

「んーだよ、おっさんッ! 俺がどうアプローチしてアリーシャちゃんと話そうが別にいいだろ!」

「ええいうるさい! おっさんじゃない! とにかく、ちゃっちゃと昨日の場所行くぞぉ! もたもたしてっと、まーたウチのギルドの先鋭達がボス部屋見つけちまうっつーの! ステルベン、オーレンツさん、準備できてる!?」

「早くしろ。こっちは、待たされてる」

「言い方、変えた方が得しますよ、ステルベンさん。私らは準備できてます。いつでもオッケーです」

 

 相変わらずステルベンがウザ……もとい、扱い辛かったが、とにもかくにもオレ達5人組は急速レベルアップのために休憩もほどほどに広場を出発しようとする。

 しかし、ここでアリーシャちゃんが手を挙げて何かを言いたそうにしていることに気付いた。

 

「はい、アリーシャちゃんどうぞ!」

「そう言えばアタシぃ~、昨日解散したあとヤッバいとこ知っちゃったの! 昨日よりぜんっぜん弱いモンスターなのにねっ、経験値同じぐらいくれるらしいの! あったんだなぁこれが、いっこ下の層にー!」

「へぇ、それは聞き捨てならんな。場所も知ってる?」

「もっちろぉ~ん」

 

 話を聞くと、この層に出現するモンスターより弱いモンスターが、獲得経験値やドロップアイテムの総量を変えずに下の層でも現れるらしい。予想に反して――おっと失礼――それなりに有益な発言だったわけだ。

 チマチマ狩るのと違って今から数時間ぶっ通しで戦闘を行うわけだから、正直このネタはオイしい。

 

「(ギルドのためじゃないぞ、決して……)……ところでさ、コルは払うからそこ教えてくれないかな?」

 

 オレは条件反射で取引にでていた。しかしオレの考えは浅はかで、相手を信用していない行為だということを次の発言で思い知った。

 

「やだなぁ~もう。ミケくん、アタシ昨日言ったよねぇ? 皆といるのが楽しいって! だから~、タダとかコルとかじゃなくて、楽しいから教えちゃうのぉ」

「アリーシャたん……」

 

 本当にイイ子である。きっと彼女は誰とでも打ち解けると思うが、ゆえに最初にオレ達に話しかけてくれたのは、神のお恵みか何かだったに違いない。

 そして彼女はパワーレベリングスポットについての説明を始めた。

 

「ほう、こんな28層の迷宮区にそんなモンスターが? 知らなかったな~。リュパードは知ってたか?」

「いや俺も初耳っす」

 

 「ちょっと最前線は苦しかった」と、昨日は解散後に1層下で狩りをしていたらしいアリーシャちゃんが、たまたま見つけたらしい場所を3Dマップアイテム《ミラージュ・スフィア》でこと細かく教えてくれた。

 しかしそこは、オレもその他のメンバーも知らないスポットだったのだ。これは相当なラッキーである。

 

「ま、でも勝手に決めるわけにはいかないな。予定にはなかったし、みんなの意見が一致したら変更する感じでいこう。オーレンツさんはどうです?」

「ええ、どちらでも問題ないですよ」

 

 よし、第一関門は突破だ。

 そしていきなり最終関門だが……、

 

「す、ステルベンはどうだ?」

「好きにしろ。決めるのはアンタだ」

 

 やはり最終関門は……。

 ――って、えぇええ!?

 

「えっ!? い、いいの? いや、いいならそれでいいんだけどさ……」

 

 珍しいこともあるものだ。こういっては根も葉もないが、彼はどちらかというとサプライズには乗り気になれない人物だと思っていた。むしろどうやって説得したものかと悩んでいたが、すんなり通ってしまったことが順当すぎて怖いぐらいである。

 

「まぁ、ともあれ皆オッケーで良かったよ」

「いや、俺聞かれてねーんすけど……」

「さ、そうと決まれば早速転移門だ。方向転しーん!」

「ねえ! 俺聞かれてねーんすけどぉ!!」

 

 答えの見えすいたリュパードをシカトし、一行はトコトコすたすた転移門へ歩くのだった。

 

 

 

 層を28層へ移動させると、オレ達5人は速攻で迷宮区の入り口に差し掛かってしまった。

 最前線より不気味度が増すのは28層の特徴なので仕方がないが、やはりモンスター全体を通すとレベルダウンしている感は拭いようがなかった。

 とは言え、この戦いやすさで同じ経験値がもらえるのだから儲けものだ。強いて問題点を挙げるならジメジメした気候が肌に張り付いて、狩り自体のモチベーションが下がるといったところか。

 しかも、壁絵でも貼られているように諸処がぐにゃぐにゃと傾いてて、じっと見つめていると酔いそうになってくる。近代芸術に似ているだろうか。あまり絵画系のアーティストについては事情に明るくないのである。

 

「お、この辺か。今のところそれらしきモンスターとエンカウントはしてないが……ん?」

 

 そこであることに気付く。赤目の小型コウモリで、今となっては唯一の迷宮区における連絡手段となった、《メッセンジャー・バット》が、こちらに向かって飛んできていたのだ。

 ちなみにこのゴーレムもどきなアイテム、登場当初こそ軽視されていたが、絶対数の減少からか今では貴重なアイテムとして重宝されている。

 原因は低層へ降りてわざわざ専用モンスターを狩らないとドロップされない上に、NPCによるショップ販売がされていないからだ。

 これにより上級者であればあるほど、手に入る機会が遠ざかってしまう。実際、オレとしてもまさか結晶系アイテムとの額が逆転するとは夢にも思わなかった。

 だが不可解な点もある。《メッセンジャー・バット》は『同じ層の迷宮区』にいるプレイヤーにしか届かないはずだからだ。しかも複数欄用意されているとはいえ、宛先にきちんとプレイヤーネームを書き込む必要すらあったはず。

 いったいどうして、宛先にこのメンバーのプレイヤーネームを指定できたのだろうか。

 

「(え、マジでオレ宛なのか? どゆこと? オレらが今日ここに来たのはまったくの気まぐれだぞ!?)」

 

 やや不審に思いながらも、近くで滞空するコウモリの鼻先をタップしてやる。するとコウモリはすぐに凝縮され、次の瞬間にはメッセージウィンドウとしてオレの目の前に表示された。

 差出人は《聖龍連合》の専属情報屋である《クリント・クロニクル》が片割れ、クロニクルによるものだった。

 実はこいつ、『最短の宛先に届く』という特性を持っていて、対象を最大10人まで設定して飛ばすことができるのである。

 しかし、そもそもフレンド登録やギルド登録をしていようが、迷宮区にいるプレイヤーはマップにアイコンが表示されない。隔絶されるのだ。下手な鉄砲数打ちゃ当たるではないが、同層にいる仲間を特定する手段がないことから、誰に届くかは状況次第ということになる。

 事実、オレの他にも《聖龍連合》所属の重鎮の名前が9人分、びっしりと列挙されていた。つまりオレがこれを手にしたのは、あくまで偶然に過ぎないということになる。

 次はその内容について。

 しかしそのあまりに衝撃的な内容の方は、2度ほど読み返してなお理解が追いつかないほどだった。

 

「(クリクロの奴らが例のオレンジ集団を見つけた……っておいおいマジかよ!? メッセンジャー・バットが届くってことは、この層にあるってことだろ? 冗談じゃねぇよこんな時に……しかも記述にある場所って、ここからメチャクチャ近いところじゃねぇか……っ!?)」

「ミケーレのおっさん、顔色悪いぜ? いったいどうしたんだ?」

 

 ウィンドウは他人には不可視だが、オレは咄嗟(とっさ)に飛び退いて文章を隠そうとしてしまう。だがその仕草を見て余計に周りの奴らを心配させしまった。

 オレはこの内容を、ここにいる4人の連中に伝えるかどうかを決め兼ねている。

 おそらく、クリクロの2人は発見した時点ですぐにでも《メッセンジャー・バット》を送れるように、場所以外の説明文は迷宮区に突入する前にあらかじめ記入しておいたのだろう。その点については彼ららしい実に周到な用意だ。

 

「(接点は少ないけど……クリクロの2人だって古い仲間だ。助けを求めているなら……)」

 

 それに敵は2人だと書いてあった。ならばこのメンバー全員で切り込めば、犯罪者とやらに勝てるかもしれない。しかもそいつらは、犯罪の中でも最大級のタブーである殺人にまで手をだしかねない連中と聞く。

 奴らを拘束してしまえば、間接的には他の人間を助けたことにもなるのだ。勲章や栄誉など貰えなくてもいい。しかし、1人の人間として行動するべきである。

 だが……そう、これは『デスゲーム』なのだ。

 ゆえに俗世に無頓着なオレですら、人を救う意識が生まれる。同時にそれは、こちらが『殺される』可能性にも繋がる。

 剣を抜いて反撃されたとしよう。我々との戦力差は2倍以上。単純に考えれば勝てる戦いである。

 しかし、限りなく低い確率だとしても、ソードスキルがクリティカルで決まってしまった場合、果たして『死ぬことはない』とオレは部下に言えるのだろうか。言いきれるのだろうか。

 ――いや、無理だ。

 レベルの低いモンスターを狩るのとは意味が違う。部下を危険には晒せない。曲がりなりにも、オレはこいつらの上官にあたる地位にいる。指導に耐えてきて、わがままにつき合わされて、それでも信じてついてきている。

 ならばオレができることは、絶対にこの4人を守りきること。この4人を生きて現実世界に帰すことだ。

 

「お前ら、今日の狩りは中止だ。全員速やかに迷宮区から離脱して、聖龍連合本部に向かえ。そして28層の迷宮区に犯罪者共がいると伝えるんだ」

「ちょっ、え……わけわかんねぇよミケーレさん。ヤバい雰囲気なのは何となく伝わるけど、じゃああんたはどうすんだよ!?」

「ちょっとぉ~、ミケくん? アタシなんだか怖いよぉ……」

「…………」

「ど、どうしたんです? 何があったんです?」

 

 ただのバカに見えて、リュパードの奴も中々鋭いではないか。それにアリーシャちゃんはこんな時も相変わらず可愛い。これからもそうあってほしいものだ。ステルベンは……いつまでも無愛想だが、こいつがいれば戦闘面は心配ない。撤退中の指揮は彼に任せるつもりだ。最後にオーレンツさん、この人は今後絶対いい職につけるはずである。こつこつキャリアを積み上げていってほしいものだ。

 

「(へっ、なんだぁ? オレとしたことが、死にに行くみてぇなこと考えやがって……)」

 

 だが悠長なことはしていられない。

 オレは手短に現状を説明するべく、周りを警戒しながらも考えるより口を動かした。

 

「いいかお前ら、1回しか言わねぇぞ。今この付近に犯罪者集団、俗にいう《オレンジカーソル》が複数いる。んで、連合の奴らが組織的にそいつらを追ってるわけだが、ただのオレンジじゃない。今のところ1番危険視されてるヤベェ2人組なんだ。……それでも、オレはこいつらを野放しにはできないし、お前らを危険な目に遭わせることもできない。だから1人でこいつらとやり合ってくる。……その間に援護をよこすよう、本部に連絡してほしいんだ」

「はッ!? 今から援軍って、どれだけかかると……ッ」

「……なに、オレだってバカじゃねえ。英雄気取りはしないで、時間稼ぎに徹するよ。……お前らもゴキブリ見たら目を離さねぇだろ? 目を離すと逃げるからだ。クズ人間2人をみすみす逃がして、後になって犠牲者を増やすわけにもいかない。ここで誰かが残らないといけない。だからオレが……」

「ちょっと待てよ! フザッケンなよそれッ!」

 

 しかしここでリュパードがブチ切れたまま怒鳴り散らすと、オレの言葉がきっぱりと途切れてしまった。

 

「信じらんね。ハッ、口では仲間とか言いつつ、アンタは俺らのことまったく信用してなかったってわけだッ!」

「そういう……わけじゃ……」

「だってそうだろう!? アンタは上官かもしんねえけどな、このクソゲーに閉じ込められたただの囚人っつう、根本的なとこは全部一緒なんだよッ! ……自分だけ命張ってんじゃねぇ。俺も連合の一員だ。俺は逃げない!」

 

 今度こそオレは息を飲んだ。リュパードが……あのお調子者の青年がオレのためにここに残ると言っているのだ。同じギルドとして、同じチームとして、こいつはオレと共に戦うと、そう言っている。

 そしてそれは、彼だけではなかった。

 

「やぁねぇ~、アタシが1番責任感じてるのに。……こちとらヤる気で来てんのよ? 仲間外れは悲しいな」

「連れて行け。俺もやる」

「私も微力ながら援護します。危険かもしれませんが、どうかここにいる皆でぶつかりましょう……」

「おま……えら……」

 

 不覚にも目頭が熱くなってくる。 

 行動を共にした時間だけならせいぜい十数時間ほどであり、ギルドとしては少ない方なのかもしれない。されど、重要なのは時間ではない。何をしたのかという、その過程だ。

 

「い、言ってくれるぜちくしょう。……だがな! 言ったからにはここにいる全員、最後までオレにつき合ってもらうぞ。そして誰1人死ぬんじゃねぇ! これは隊長命令だッ!!」

 

 そこまで叫んでようやくオレは後ろを振り向いた。

 背中を支えてくれるというのなら、そんな戯れ言を信じて前を向く。きっとこのゲームが終わる最後(・・)まで、オレはこんな選択を繰り返すのだろう。

 

「ハァ……ハァ……待ってろよクロニクル……今行くからな……」

 

 オレ達は幻惑背景を持つ迷宮区をひたすら走った。

 そしてオレ達はそのオレンジプレイヤー達と、運命の邂逅(かいこう)を果たすのだった。

 

 

 


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