SAOエクストラストーリー   作:ZHE

59 / 159
第45話 人質救出作戦(後編)

 西暦2023年10月14日、浮遊城第43層。

 

 ヒスイ、アリーシャと別れて2時間以上がたつ。

 ここは43層主街区《ヴィレシア》の北8区大通りで、俺は道の端でレジクレのメンバーと落ち合っていた。

 それぞれ覗き込むように顔を合わせ、(くだん)血盟騎士団(KoB)にまつわる事件について、各々(おのおの)が集めた情報をまとめていた。

 

「メッセージで知らせた通り、いま大ギルド達がヤバいことになってる。ただ、この事件はKoBの総意ではなく、一部が暴徒化したってだけらしい」

「短期間でよくこれだけ集めてくれたね。正直驚いたよ。……それで、オレもミンストレルさんに来てもらうよう頼んだから、みんなもう少しここで待っていてくれ」

 

 リーダーであるロムライルがそこまで話すと、あえて言葉を区切った。そして静かにうつむいていた仲間に話しかけた。

 

「あの~、ジェミル?」

「え……?」

 

 そばかすのちびっ子は不安げに顔を上げる。

 

「悪かったね。《はじまりの街》に残してきた友人と会ってたんでしょ? せっかくのオフの日だったのに……」

「い、いいよぉ。それにぃ、ボクだけ黙って見てるわけにもいかないしねぇ。けどボクらの出番は来ないかもだよぉ? このままだとぉ、犯人が自首しない限り流血無しの解決は難しいしねぇ……」

 

 幸い、レジクレのメンバーに事件に巻き込まれた者はいなかった。その点は安堵したが、KoBがアルゴをはじめ各プレイヤーに事件解決のための応援を依頼していたのだ。

 ジェミルは「自分達にできることはない」と言っている。しかし誰かが助力してやらないと、被害と混乱は増々拡大していくばかりである。

 毎度フロアボス戦がある度にレイドに乗っけてもらっているレジクレも、ここは一肌脱いで彼らに力を貸すべきだろう。

 

「あとジェイド。こっちで裏を取ったけど、犯人は間違いなく元KoBのメンバー『ロン』だった。クォーターポイント戦以来、攻略をしてないらしい。それにしても、今さら古巣のためにここまでするかな……?」

「確かにな。これじゃまるでオレンジと同類だ。元KoBだった奴のすることじゃねぇ……」

 

 ロムライルの意見には俺も全面的に同意しておく。

 ヒスイが25層のフロアボス、《リヴァイヴァルファラオ・ザ・ペアギルティ》にラストアタックを決めてから数分後。KoB……と言うより、ヒースクリフが次層を解放(アクティベート)しに行った後には、確かにその人物はいたのだ。

 リンドの抜けた聖龍連合(DDA)のギルドメンバー、怯えきった《軍》の人々、俺とヒスイの他に1人だけいたソロプレイヤー、他にも何人かフロアに()い付けられたようにうつろな瞳のプレイヤー達のなかに、紅白の装備をした男が。

 前に進むことをやめたプレイヤー。ただ無力感に苛まれるようにフロアに座っていた、KoBのユニフォームを身に纏う1人の男性。

 その男、ロンこそが今回DDAのプレイヤーを2人も(さら)ったというのだ。

 しかし。25層で目の当たりにした凄惨な戦場跡を前に、彼は人形のように放心していた。そこで攻略を断念した時点で、その精神力などたかが知れている。いったいどこにこれほどの行動力が……、

 なんて黙考(もっこう)していると、今度はカズが俺に疑問を投げかけた。

 

「結局ジェイドのが1番役に立ったね。……ずいぶん耳が早かったみたいだけど、どこでこんなに聞いてきたの?」

 

 しかし喉につっかえる疑問は一旦忘れるしかないだろう。なぜなら《生命の碑》で確認した限り、ロンは今も生きていて、実際に事件は起きているからだ。

 万が一、これが人違いで、彼が犯人でないというなら、その疑惑を晴らすために本人から連絡があるはず。

 

「ああ、これはアリーシャから……ほら最近、前線にちょくちょく顔出してる金髪の女だよ。そいつが知らせに来てくれてな」

「あ~あの人。僕らのところにあいさつに来たのは先週だっけ? いろんなパーティを転々としてるらしいけど」

「アリーシャのことはもういいだろ。それよりジェミル、俺が頼んどいたことは……」

「うん、確認しておいたよぉ。さっきまで友達と《はじまりの街》にいたしねぇ。……メッセージ内容にあった『拉致された人リスト』の名前は1層の《生命の碑》でちゃんと見てきたけどぉ、拉致された人はみんな生きてたみたいだよぉ」

 

 それを聞いて一同は同時に胸をなで下ろす。

 

「そっか。てことは一応、まだ殺人事件には発展してないっつうこった。どうにかラチされた奴を救出できればいいけど……」

「それはKoBの手腕にかかってるね。僕らは特殊部隊じゃないし、せいぜい待ち伏せ(アンブッシュ)で斬りかかるのがいいとこでしょ……」

 

 消極的なカズの意見を前に、そこであらぬ方向から声がかかった。

 

「いや、そうでもなさそうだぞ」

「おお、ミンス! やっと来てくれたか」

 

 レジクレの会議に闖入(ちんにゅう)者が現れて、俺達4人は一斉に声の聞こえた方を振り向いた。

 そこに立っていたのは、専属護衛が1人雇われているものの、情報屋としてはソロで活動しているザ・地味プレイヤーのミンストレルだった。とは言え、今は本当に1人のようだが。

 

「遅くなってすまない。KoBから聞いたが、援護の依頼があるそうだ。もっとも、ジェイドだけかもしれないがな」

「ってかさ、俺はアンタんとこの『専属護衛』とやらを見たことないんだけど、ホントにいるのか?」

「いるともさ。物騒な世の中だからな。四六時中とまではいかないが、なるべく共に行動しているよ。ジェイドとは、そうだな……星の巡りが合わんのだろう」

 

 この台詞は前にも聞いた。いつだったか。

 そうか、あれは夏の深夜の出来事だ。俺とキリトが発案してミンスが後押ししてくれた『PoH鹵獲作戦』の一環で、このような会話があったことを覚えている。

 

「……ゴホン、時間を有効に使おう。あらかたは知っている。可能な範囲で答えるつもりだ」

「そりゃモチ。金は?」

「コルはすでにロムライル君から前払いで受け取っている」

「あの~、じゃあ早速。みんなも疑問に思ったこと彼にじゃんじゃん聞いてね」

 

 じゃんじゃん聞いてとは言っていたが、そこからはほとんどリーダーであるロムライル1人でミンスとの情報交換を請け負っていた。

 基本はおさらいであったが、そこには新情報も詰まっていた。

 

「《索敵》スキルの熟練度が800以上のプレイヤーを募集、か。オレもジェミルもルガも索敵は取ってない。後はジェイドだけど……」

「俺オンリーってのはそういう意味か。確かにサーチングは取ってるし、熟練度も800を越えてる。派生機能(モディファイ)の『プレイヤー索敵』も取得済みだ。名前さえワカってりゃあバッチリ追えるぜ。……捜索隊には志願するよ」

「そうか。しかし、ジェイドは変わらんな。死人を出さないためとなれば過剰に反応する」

「ワリーかよ」

「いやまさか。むしろ良い変化だ。その感覚は大切にしたまえよ」

 

 ミンスは少しだけ愉快そうに口元を緩めるが、どこか自嘲にも似たニュアンスを感じてしまったのは気のせいだろうか。

 もっとも、認めるのは悔しいが、独力では変化の兆候(ちょうこう)すらなかったと思う。周りのおかげだ。

 

「とにかく、行くなら急ごうミンス。KoBがプレイヤーを集めている場所まで案内してくれ」

「良かろう。《索敵班》の仕事が終了し次第、残りの3人にも任務が与えられるのでな。無論、参加は有志だが……」

 

 口を動かしつつも、全員は同時に足を動かして目的地を目指した。

 そして自然公園の一角には、事の重大性を表すかのように、3桁に届こうという上層プレイヤー達が集結していた。

 《血盟騎士団》をはじめ、俺の知っているところでは《風林火山》や《SAL(ソル)》、なかには大使館的役割なのか《聖龍連合》や《軍》のトップ連中の顔も確認できる。名はそれぞれ『エルバート』と『シンカー』だっただろうか。

 ちなみに《SAL》と呼称されるそれは、《サルヴェイション・アンド・リヴェレイション》のイニシャルを取ったギルド名だ。4層で初めて知り合って、何度かフロアボス戦で共闘したアギンやフリデリックが所属する攻略組ギルドである。ついでに(そろ)ってイケメンのアギン達はギルドのリーダーと副リーダーでもある。

 

「す、凄い人数だね。こんなの初めて見たよ」

「そうだねぇ。……でもぉ、放っておくと人が死んじゃうかもしれないからねぇ。KoBも必死なんだよぉ」

「そっか、ルガ達は知らねぇんだったな。25層戦の時はこんなモンじゃねぇぐらい人いたぜ? まぁ今回はボス戦ですらないから、どっちかっつうと今日のがヤバいけど。……それに、必死なのは死者を出さないためだけじゃない」

「えっ、どういうこと?」

 

 カズは不思議そうに首を傾げる。

 

「いいか、まずKoBにとっちゃまさに身から出たサビ。信用ガタ落ちだ。しかも、今回ラチられた奴はDDAの正規メンバーときてる。戦争したくなきゃ必死にもなる。軍も一見、助けをヨコしてるけど、最近あった『子供プレイヤー誘拐事件』って覚えてるだろう? あれが起きたのは《はじまりの街》」

「あっ、そうか! いま1層は軍の統制下にあるから……」

「そゆことさ。勝手に《はじまりの街》を領土だとウタっといて好き放題してたのに、まんまとオレンジに出し抜かれて誘拐された。ミスの帳消し、ってほどじゃないかも知れんけど、まあ罪滅ぼし気分で来てるんだろう。治安維持っつう仕事はちゃんとやっていますよ、ってな」

「な、なるほど……」

 

 しかし人数の多さにはさすがの俺も息を呑んでいた。

 集団には有名どころのヒースクリフやアスナも見つけたが、その表情ですら一様に厳しいものだった。

 

「ジェイド、きみはこっちだ。アスナ君がお呼びでね。私も呼ばれているので急ごう」

「ああ、了解した」

 

 ミンスに先導されて到着した場所にいたのは、ギルドもフレンド登録もしていなさそうな10人と少しのミックスプレイヤー集団だった。

 アスナの全体説明と集団の1人が「ギャラは出るのか?」などと聞いていることから、これらがソロを中心とした《索敵班》であることが推測できた。

 そして次の瞬間にはそれが証明される。

 

「あらジェイドじゃない」

「よう、ヒスイ。さっきぶり」

「やっぱりあなたも索敵班に抜擢(ばってき)されたのね」

「まぁな。ソロ時代長かったし」

「そうね……せ、せっかくだから、あたしと組まない?」

「ん? 組むってなんだ? このメンツで一気に斬り込むんじゃないのか?」

 

 俺が問いを投げかけると、ヒスイは「緊張して損したわ」的な表情を作ってから、呆れ果てたように肩を落とす。

 挙動がなにかと失礼な女だ。

 

「あなたねぇ、察せるでしょ? あたし達の目的はあくまで敵を見つけること。ミンスさんとアルゴでおおよその迷宮区は突き止めたから、あとはツーマンセルで6つの班にバラけて索敵。最終的にはメイン集団が包囲して無条件降伏をさせようって作戦よ」

「ほへ~、相手の大まかな位置ってこんな早く見つかるんだな。……あ、でもよ。索敵班が先行して探すのはいいんだけど、本隊は入口で待機してるのにどうやって現場まで連れてくるんだ? 見つけた奴が往復してたら逃げられちまうぜ?」

「それについては問題ない」

 

 あれよこれよと疑問をぶつける俺に、今度はミンスが口を挟んだ。

 

「これのどこが……」

「まあ聞け。まず、突入するのは団長であるヒースクリフを含み、血盟騎士団だけだと思われる」

 

 そこからは順を追って説明された。

 1つ目は敵の数について。おそらく、ロンには複数の加担者がいるはずである。なぜなら捕まったのがわずか2人ペアとは言え、最前線で今なお現役の《攻略組》だからだ。

 いくら不意を突いたのだとしても辻褄(つじつま)が合わない。消去法で複数犯ということになる。彼らに武装解除を求めるに当たり、1番有効的なのが純度を100パーセントにした最強集団で包囲すること。

 という、長々とした無駄の多い説明だったが、堪え性のない俺はとうとう質問をしてしまった。

 

「ちょっと待ってくれ、有効的って言ったよな? 言っちゃあなんだけど、それは武装解除じゃなくて、単に敵を逃走させちまう可能性の方が高いぜ? 『逃げ』を選択させるのに有効なんだ。力の差がはっきりしてるなら、あいつらは逃げることを優先するからな」

「いい質問だ。きみの意見はすでに挙がっている。その対抗策として、この人海戦術だ。十中八九、犯人達は逃走するだろう。しかし場所は迷宮区で、周りはトッププレイヤー達によって包囲……ジェイド、この状況で君ならどうする? 彼らの立場なら」

「あぁん? ……そりゃあ、考えるまでもなく《テレポート・クリスタル》使って適当に《圏外村》の名前を……あっ!」

「そう、その通りだよ。32層を境に出現して、36層や38、42層と今となっては4箇所にまで増えた新たなエリア、《圏外村》」

 

 《圏外村》。正式名称は《アンチクリミナルコード無効圏内》だが、ややこしいのでそう名付けられたエリアである。ここは《街》や《村》と同じで、発声すれば《転移結晶》によるテレポート先に指定することができるのである。

 加えて先ほどミンストレルが発言した人海戦術。

 これを逆に利用すれば……、

 

わざと(・・・)テレポートさせるのか。《圏外村》がたくさん出てきて、事実上ムリになった『あの作戦』ができるってことだな?」

「フッ、やっと気づいたか。まさにその通りだよ」

 

 至ってシンプルだった。いや、それどころか俺は過去に1度、この作戦を実際に経験して(・・・・)いる。

 あれは8月に入って5日という時間が過ぎ、深夜にさしかかった32層の迷宮区付近でのこと。迷宮区に最も近い《カーデット村》で起きた、そして《PoH鹵獲作戦》として遂行されたほんの半刻の出来事だった。

 ミンスがスパイとして手引きし、それに引っかかったオレンジカーソルのプレイヤーが35層のフィールドにおびき寄せられたことがあった。そして、応援に駆けつけてくれた《風林火山》と《レジスト・クレスト》のメンバーが、その2人のオレンジを包囲。追い詰められた2人組は、《転移結晶》で当時の最前線から3層下にある例の《カーデット村》へ逃げ込んだのである。

 だがそれこそ俺達の仕掛けた罠であり、待ち構えていた俺とキリト、また同行していたクラインが、気を抜いた2人組を完全拘束したことがあった。

 しかしその後、《圏外村》が複数に増えたことで逃走先の候補が分岐した。

 これにより同じ作戦は通用しなくなった。逃げ場を埋め尽くすほど、大人数のプレイヤーを集めることができなくなったからである。

 大ギルドが個人を狙えばあるいは可能かもしれないが、敵が複数なら相応の膨大な数の協力者を集わない限り、ロジックとしては可能でも『事実上不可能』となったのだ。

 では現在はどうだろうか。

 答えは可能、である。

 なんと今はそれができる。皮肉なことに危機を前に人々は結託した。この時この瞬間においては、無理だと思われていた古くさい作戦が通用するのだ。

 

「よくもまぁこんな忘れ去られた方法を。これってミンスが提案したのか?」

「そうだ。もっとも、この作戦には穴があった」

「へ? どこがダメなん?」

「わからないの、ジェイド? 過去に35層にオレンジ2人を呼び寄せたのはミンスさんよ。『そっち』のネットワークにかなり顔が利いたからこそ、長い時間をかけて2人に接触、信頼関係を作り上げたの。だから本隊が包囲できた。……でも今回は……」

「ああ、そっか。今回はそんな時間がないんだ。いや、それどころか……ことは一刻を争う状況……」

「……残念ながらその通りよ」

 

 ヒスイの言う通りだ。これでは穴どころではない、決定的な欠陥ではないか。

 しかしミンスは焦った態度を取っていない。

 

「もっとも、そこについても対策済みだ」

「ど、どうやって!?」

「私とアルゴ君が共同で、奴らの潜伏する迷宮区が何層かは特定することができた。あとは6つの班に別れて行われる、この高速広範囲索敵が役に立つ」

「それは聞いたって! 結論ファーストで頼む〜っ」

「わかったわかった。……手順はこうだ。まず敏捷値の高いアスナ君を中心に、数人をあらかじめ迷宮区内で待機させておく。そして《索敵班》全員に1匹ずつ配布される《メッセンジャー・バット》で、敵を見つけ次第アスナ君に場所を知らせるのだ。そして彼女達はその者の元へ全力で駆けつける……」

「モンスターとエンカウントするだろ。その辺どうするよ、時間的に」

「『数人で待機』と言ったはずだ。迷宮区内で待機する人はアスナ君を含みゴドフリー、ウィックマン、クラディールの計4名。エンカウントの度に誰か1人をその場に残すことで、一挙に担ってもらう。言わば、敵を無視して走り抜けるのだ」

「4人にしたのはなんで?」

「走りやすさを阻害するか否かだ。4度目以降は……アスナ君に振り切ってもらうしかないだろう。鍛え上げた敏捷値を存分に発揮してな」

 

 つまり連続なすりつけ(トレイン)の要領で迷宮区を強行突破し、あくまでアスナを目的地へ届けることを優先するわけだ。

 

「そしてアスナ君は《回廊結晶(コリドークリスタル)》を所持している。……あとは理解できるだろう?」

「あ……ああっ、なるほど!」

 

 やっと理解した。だからKoBの本隊は主街区から動こうとしなかったのか。

 《転移結晶》はプレイヤーが街や村の名を口にすることで、使用者をその特定エリアに転移させるアイテムであるが、《回廊結晶(コリドークリスタル)》はいわばその多人数版。しかも転移先は《転移門》がある主街区に限定されない。

 あらかじめ転移したい場所へ行き、『コリドーの出口』を設定しておく手間はあるが、アスナがコリドークリスタルの出口を現場で設定し、《転移結晶》で主街区に到着した瞬間、今度はコリドーを使って血盟騎士団を集団移動させるのだろう。

 敵からすれば、少数の人間に位置を知られた数分後に、いきなり目の前に攻略組の大部隊が現れたかのように錯覚するはずだ。

 凄まじい作戦である。コリドークリスタルと言えば、値段がつけられないほど高価なレアアイテムなのだ。それを2人のプレイヤーを救出するためだけに使用するなど……、

 

「(いや、そのぐらいして当然か。なにせ……」

 

 なにせ、この世界での死は、現実世界でも死ぬことを意味するのだから。

 もちろん、おいそれと実行できる作戦ではない。協力に名乗り出た多くのプレイヤーも各《圏外村》で待機させられるし、彼らを招集するのは一苦労だっただろう。血盟騎士団のブランド力があったからこそ、これらの作戦が可能なのだ。

 そしてプレイヤーの命を救うためなら、できることはすべてしなければならない。

 

「なんにせよ、決着がつくのは時間の問題だな。で、出発はいつよ?」

「5分後のはずだがヒスイ君、アスナ君に確認しに行ってくれないか? ついでに催促を頼むよ」

「ええ、わかったわ」

 

 それだけを言い残し、ヒスイは駆け足でアスナの元へ走っていった。

 しかし、ここでミンスが改めて俺の前に立つと少しバツが悪そうに、それでいて眼光に鋭い何かも含みつつ低いトーンで語り出す。

 

「ヒスイ君がいなくなったことで、改めて君に話がある。真面目に聞いてくれ給え」

「お、おう……」

 

 いったいどうしたというのだろうか。並々ならないオーラを感じるが、ヒスイがいなくなったことで話せる内容とは何だろうか。キケンな告白的なアレでないことを祈るばかりだ。

 

「(なんだぁ? なんで黙ってるんだ、こいつ……)」

 

 そして俺がひたすら待っていると、彼はたっぷり20秒も空けて難しい顔のまま再び口を開けた。

 さらにそれは信じられない内容だった。もしくは『信じたくない』、かも知れない。そんなセリフをミンスは(つむ)いだのだ。

 

「アスナ君、ヒスイ君、アルゴ君、アリーシャ君、きみが接触してきた女性方のなかに……まあ、裏切り者がいる可能性が高い」

「はっ? う、裏切りってどういう……」

「文字通りの意味さ。オレンジ共への情報漏洩。最近続いている事件への関与。今回についても、敵の内通者かもしれない。……いや、断定すべきだろう。そして君にはしばらく、彼女らの言葉を信じないようにして行動してほしいのだ。……できるな?」

「……な、ん……ッ」

 

 最後の問いに対して俺は、長い間言葉を返すことができなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。