迷っているのは自分らしくないとライザは行動を起こすことにした。
※作者はまだライザ3をクリアしていません。この短編はキャラクタークエストのイラスト2枚で昂った結果です。
匂わせ程度の性描写があります。
隠れ家でアンペルさんが長い時間を生きる理由を知り、居場所がない行先も見えない不安定な風のようだった彼の魂がいずれ帰る場所を見つけたとでもいうように凪いで、それを嬉しく思うのにそのときあたしが抱いた感情は安堵だけじゃなかった。
わかったふりをしてわかってなかったのだ。
遠い未来、アンペルさんとリラさんの旅の果てにあたしの存在はない。その頃にはあたしはとっくに老いて死んで彼らの思い出話の中に生きることになるんだろう。
もしかしたら新しい弟子にあたしの話を懐かしそうに話すのかもしれない。
想像するだけでどうしてか泣きたくなるくらい嫌だと思った。数ある思い出のひとつでもアンペルさんならきっと大事にしてくれる筈なのに。
あたしにとってアンペルさんは大事な人だ。
錬金術の存在さえ知らないあたしに錬金術を教えてくれて今の生き方の選択をくれた師匠で、いにしえから続いていた問題を一緒に解決した仲間。
師匠と弟子の間柄だって充分特別な関係だ。アンペルさんから弟子がいたという話は聞いてないからあたしが唯一の弟子なんだろうと思ってる。
一緒に錬金術の話ができる貴重な存在でもある。
だけどあたしと過ごした時間もいつかはただの思い出になってしまうのだ。
アンペルさんの生きる時間の中ではほんのわずかな期間の出来事なのだから。
思い出に成り果てるのが嫌だなんてまるで……まるで……
その後に思い浮かべた感情はあまりに予想外で、でも腑に落ちるってものだった。
そうかあたしは異性としてアンペルさんのことが大好きなんだ。
勿論リラさんのことも大好きだ。二人の邪魔をする気はない。最後までアンペルさんのそばにいられるのはリラさんだと思ってる。
だけどそれは自覚した恋情を抑え込む理由になるだろうか? 時間は限られていて、生きる時間が違うなら迷っている時間はない。
目下の問題の解決が最優先だとしても、解決したらまた彼らはこの地を離れ、再会がいつになるかはわからなくなる。縁はあっても約束のない関係だ。そのまま死ぬまで会うことがないなんて可能性もある。
だけど今のアンペルさんにあたしの気持ちを伝えるのは迷惑かもしれない。ようやく心の平穏をひとつ手に入れたばかりなのだ。
今回の群島や神代の民の問題が片付けばオーリムの未来にも少し希望の光が射す。そこまでは恋心も嫉妬も抑え込もう。
そう思っていたのに、先に決意を固めたボオスの姿にあたしは動揺した。まだほとんどなにも解決してないというのに未来を定めたと言うのだ。
わかるよ。ボオスはあたしより自由が許される時間が少ない。
良いタイミングを待っていたらもう二度とキロさんに手が届かなくなるかもしれないんだ。
だから怖くなった。
漠然と死ぬのはずっと先だと思っていたけれど神代の民と対峙して必ず帰れる保証はどこにもない。なにせ未だ姿も見せない彼らはあたしより遥か高みにいるのだ。
それにこの問題が解決しない可能性だって大いにある。近付いてはいると思うけれど過去の錬金術士もエミルさんも結局辿り着けなかった。
あたしより優秀な錬金術士たちが成し遂げられなかったことだ。あたしが同じように成し遂げられず、仲間を失うことにだってなるかもしれない。
怖い。みんな大切な仲間だからなにかを失う人がいるかもしれないなんて考えたくない。
だけど先延ばしにはできないし立ち向かわなくちゃいけない。危ないからついてこないで、なんてみんな聞きやしないだろう。
後悔したくない。後からこうしていればなんて思いたくない。
よくよく考えれば気持ちを抑え込むなんてこと自体があたしらしくなかった。まず突進してぶつかってみるのがあたしらしさじゃない?
迷うくらいなら相談しよう。
大丈夫。きっと頭ごなしに反対されたりはしない筈だ。
「それでわざわざ呼び出してなんの話だ? 例の進捗の相談ならアトリエでも……」
「ううん、もっと個人的な話。迷ったんだけどリラさんに相談したら今のうちに言ったほうがいいって」
「なんだ? 昔のような失敗でもしたのか?」
突然隠れ家に呼び出されたアンペルさんは全く見当がつかないという表情をしている。今ここにはあたしとアンペルさんしかいないのに。
「怖くなったの。糸口が見つからないまま無為に時間を過ごすことになるかもしれない。上手くいっても神代の民と対峙してみんなを無事に帰せないかもしれないって」
「少し前の私のように進む方向に迷い始めたか」
「うん。それでもあたしは進むしかないから止まったりしないよ。クーケン島のために、オーリムのために、できることはしたいと思ってる」
「そうだな」
「でももし失敗して、あのとき言っておけばよかったとかなんて未練があったら死んでも死に切れないから言うね」
一度目を伏せてから改めて視線をしっかりとアンペルさんの目へ合わせる。
この瞳で見守ってもらっていたんだと改めて思うとなんて幸せな時間だったんだろう。
この先はもうどんな結果でも完全に元には戻れない。だけど決めた。
「あたし、アンペルさんが大好き」
「ライザ?」
「師匠としても仲間としても大好きだけど、男の人としても好きだよ」
「……流石にそれを冗談として茶化すような若さは持ち合わせてないが、どうしてだ?」
「どうしてっていう理由はないけど、この前アンペルさんのお母さんの話を聞いて、夢に飛ぶアンペルさんの人生の中でひとときでも羽を休める止まり木になりたいと思ったんだ。あたしが生きてる間にアンペルさんたちの旅は終わらないかもしれないけど平和なクーケン島にときどきは帰ってきてほしいと思ってる」
「だが年が離れ過ぎている。私のためにライザの時間を犠牲にすることはない。そんなことをしなくてとクーケン島の雰囲気は気に入っているんだ。たまに帰ってくると約束するだけではだめか?」
「今まで通りじゃだめだよ。だって特別にならないといつかただの思い出になっちゃう。アンペルさんやリラさんと同じ時を生きられないあたしをただの思い出にしないで」
感情的でまるで子供のわがままだと自分でも思う。
ちょっとは大人になったと思ってたけどまだまだだ。
「リラは……相談を受けてなんと言っていた?」
「後悔するくらいなら言え。オーレン族ほど時間がないからライザが先に番えばいい。ライザとアンペルの子供なら良き錬金術士として育つだろうって」
「っ……あいつはっ」
うん、気持ちはわかるよ。あたしもあまりにストレートな物言いに面食らったから。
だって子供とかそんな、まだそれは早いと言うか、想像すら気恥ずかしい。
「だが……リラならそう言うだろうな。それに自分が情けない。背中を預けるに値する大事な弟子の真剣な気持ちから逃げるようなことを言ってしまった」
「逃げても責めないよ。だってこれはあたしの一方的な気持ちをアンペルさんにぶつけてるだけだもん」
「それでも師匠として受け止めるべきだろう。私だって恋情であるとは思わないがライザのことを憎からず思っている。この情けない男のどこが良かったのかわからないだけだ。お前ならばこの先もっと良い出会いだってある筈なのに」
「あたしは誰でもなくアンペルさんがいい。別に受け入れてくれなくてもいいんだ。夢破れて息絶えたとしてもこの気持ちを今伝えたことを後悔なんてしないよ」
あたしの言葉にアンペルさんは少しだけ強張っていた表情を変えた。今まで見たことのない泣きだしそうにも見えるふにゃりとした笑顔だ。
「ずるいなライザは」
微かに雨音が聞こえる。いつの間にか降ってきたみたいだ。
これは戻りが遅くなる理由になるだろうか?
初めて抱き寄せられて好きな人の腕の中で相手の心臓の音を聞く。あたしの早鐘と違って落ち着いた鼓動だ。
「もう離してやれないかもな。年長者ぶるには弱みを見せ過ぎた」
雨音は時間が経つにつれ大きくなっていった。まるであたしとアンペルさんを世界から隔絶するかのように。
アンペルさんの触れたところからあたしが変わっていく。子供時代はこうやって変質しながら終わるのかと実感しながら。
ごめんねアンペルさん。
旅の終わりにはリラさんと一緒にオーリムへ移り住むだろうアンペルさんが完全にこの世界との縁を切れない未練になってしまうと思う。
どうしたって先に死ぬのはあたしだし。
今はちょっと初心者だからいっぱいいっぱいで無理だけど生きてる間はアンペルさんが少しでも安らげるようにいっぱい気持ちを伝えるから許してね。
繋いだ手に力を込めると同じくらいの力で返ってきた。あたしを気遣う視線がくすぐったい。
初めては辛いという話を聞いたことはあるけどあたしは案外平気かもしれない。すごく優しく扱ってもらってるからかな?
「アンペルさん、あたしはアンペルさんの止まり木になれるかな? 今あたしばっかり幸せになってない?」
「ずっと前からお前のそばは私が羽を休める場所になっている。それに人の温もりはこんなにも心を暖めるのだと久し振りに思い出せた。ありがとうライザ」
「どういたしまして」
雨はまだ止まない。
心地よい雨音にうつらうつらとする中で夢を見た。
きっと近い未来の夢だ。
あたしのそばで錬金釜を覗き込む小さな女の子。少し離れたところにもっと小さな女の子とフィーが遊んでいる。フィーはなんだかお兄ちゃんみたいだね。
そんな子供たちを座って眺めるアンペルさんはとても優しい眼差しで、きっとあたしも同じような穏やかな表情をしてるんじゃないかな。
いつか叶えよう。
問題を解決して、みんな無事に帰って、それぞれが進む望む道へ行けるように。
この幸せな夢を本当にするためなら前よりもっと頑張れる気がする。
服は脱ぐときより着るときのほうが恥ずかしいかもしれない。いつまでもこのままでいるわけにもいかないんだけどさ。
まだじんわりと体のあちこちにアンペルさんの気配を感じる。みんなのところへ帰る頃には消えてしまう熱が名残惜しい。
「雨も上がったようだな。支度はできたか?」
「うん、いつでも出られるよっ……とと」
歩き出して少しよろける。痛みはないけれど体に軽い違和感があるみたいだ。
「……手を繋いで帰ろう。雨上がりは足元も悪い」
「えっ」
「それに隠すようなこともあるまい。遅かれ早かれ知られるならそれが今でも問題ないだろう」
「それはそうなんだけど、なんかアンペルさんちょっと様子がおかしいような……」
わりとクールで見せるよりは隠すタイプだと思っていたから意外な感じ。勝手に思っていただけだけど。
「お前はリラと違い異性に対して無防備過ぎるところがあるからな。相手がいると早いうちから知らしめたほうが安心できる」
「そう? あたしモテないし、そんな心配することもないと思うよ」
「つぼみに気付かぬ者も咲く花には気付くものだ。お前は気にせず年寄りに心配させておけばいい」
なんだか子供扱いされているような気もしたけれど差し出された手を嬉しく感じてしまったからもうなんでもいいや。
手をとって一緒にアトリエに帰ろう。
あたしたちが今までしてこなかった話もしながらね。