黄昏の姫と緑の勇者:転生者チート編   作:nocomimi

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珍しく真面目に雫集めをした後僕は貸船屋の姉ちゃんを騙して不正に爆弾袋を手に入れたうえさらなる寄り道を画策

僕はミドナに頼んで狼に変身させてもらった。今立っている場所は本来ハイリア湖が満水なら水際なのだが、渇水のため湖底だった場所に降りるにはやや高所から飛び降りる形になる。

 

僕は眼下を慎重に見下ろすと、下に飛び降りた。中央に向かってゆるやかに窪んでいる斜面を降りると、再び前方が直角の崖になっている場所に出た。

 

そこをもう一度飛び降りると、やっと最初に降り立った水際の平地だ。

 

僕は中央に残った水場を迂回するようにその西側を回ると北側にある小屋のような建物目指して走った。

 

建物は縦に尖った形をした小屋だった。木の板でできた土台の上に乗っている。

 

近づいてみると、その戸口の前に白い光が浮いている。感覚を集中してその白い光をよく見ると、背の曲がった老人だった。

 

だが老人の姿は枯れ果てたような風情ではない。サーカス芸人を思わせる派手な服装をして化粧までしている。

 

老人は湖を眺めながら自棄気味に足元の土を蹴って独り言を言っていた。

 

「湖の水がこんなに低くなっちまった日にはこちとら商売あがったりだぜ全く」

 

残念ながら、この老人の独り言は、どうしたわけか心の中で「スキップ」を念じても、飛ばすことができず最初から最後まで聞かないとならない。

 

老人はしばらく喋り続けていた。僕が辛抱強く聞いていると、老人が湖の残滓の北側の岸に目を向けた。

 

「お...客か?」

 

人影が岸にある。だが雰囲気が違う。あれは人ではない。鬼だ。

 

老人もどうやら同じ印象を受けたらしい。最初は手を上げて差し招くそぶりをしかかっていたが、途端に気づいて手を引っ込め、両腕で頭を覆った。

 

「やべえ...ありゃ化け物じゃねえか...」

 

怯えた老人が震え出す。僕は鬼の姿のほうに真っすぐ向かって走った。

 

人助けのためではない。あの鬼を倒すことが冒険を進める鍵だからだ。

 

みるみる鬼の姿が近づいてくる。相手もこちらに気づいて弓矢を上げた。白仮面の弓兵だ。

 

僕は停止して身構えると心のなかで「スキップ」を念じた。

 

すると、次の瞬間には鬼は巨大な怪鳥の上に跨がって僕を見下ろしていた。

 

その鳥の大きさは今まで見た怪鳥より群を抜いていた。翼の長さだけでも小舟くらいの大きさはありそうだ。

 

鬼は怪鳥を操ると、高度を上げ、上から弓に矢をつがえ放ってきた。

 

横に飛びのいて避けたがまた次の矢が襲ってくる。

 

続けざまにバックホップして矢の連射を躱した。矢が当たらなかったことを見て取ったのか、鬼は怪鳥を旋回させ一旦離れると、今度は低空飛行でこちらに突進させてきた。

 

チャンスだ。僕は相手に狙いをつけ大きく跳躍すると、怪鳥に飛び付いて続けざまに牙を立てた。

 

五、六回ほど攻撃を加えると、相手が身悶えして僕を振り落とそうとしてきた。僕は素早く相手から離れて地面に飛び降りると、一度バックフリップし、そしてもう一度相手に飛び付いた。

 

さらに五、六回噛みつき攻撃を食らわせる。

 

鬼はとうとう鳥から振り落とされた。地面に落ちた鬼に近づくとそいつが立ち上がるのを待ち、ミドナに合図する。

 

たちまち結界が広がり鬼を包む。力を解放すると敵は一撃で息絶えた。

 

そこからまた「スキップ」を念じる。すると今度はミドナが怪鳥に跨がり、僕はその鳥の爪に掴まれながら空に飛び立った。

 

次の瞬間には、僕たちはゾーラの里の水源から続く川の流れる巨大な洞窟に入っていった。

 

洞窟の中もまた影の領域に特有の黒い霧に満ちている。しかし、それがゆえにかえって暗闇であるはずの巨大洞窟の中にもオレンジ色の光が漂っていた。

 

そこかしこに白仮面の鬼どもがいる。本来ならば轟々たる水の流れを支えていたであろう洞窟は、今は底の方に細々とした流れがあるのみだ。その壁についた木組みの足場や岩棚の上に鬼どもが陣取って何事か作業している。

 

怪鳥は時折羽ばたきながら巨大な洞窟の中ほどに高度を保ちながら進んでいった。矢が風を切る音がする。その途端爆発音がして、前方の天井から下がった巨大な鍾乳石が落下した。鬼どもは矢の先端に爆弾を仕込んで片端から洞窟の壁や天井を爆破しているようだ。

 

少し鳥が進んだところで、天井から鍾乳石のような形の岩が垂れ下がった場所に差し掛かった。

 

僕は、その鍾乳石と壁の間に入り込むようにミドナに念を送った。

 

(不思議なことに、確かにミドナが怪鳥に跨がって操作しているように見えるのだが、実際には僕が念を送ると僕の思った通りに怪鳥が方向を変えるのだ。このことは何度も転生を繰り返した僕にとってもどういう理屈になっているのか説明がつかないことだ。)

 

怪鳥は、壁と鍾乳石との間に入り込み、次の瞬間には洞窟から出ていた。

 

上を見上げると周囲は何もない虚空のように見える。影の領域特有のオレンジの光に包まれているのだが、下を見ると、洞窟の外にいるのになぜか洞窟の内部の光景が見える。

 

僕は摩訶不思議なその光景を楽しむつもりはなかった。心の中に浮かんでいくる洞窟の地図に沿って、その外側をなぞるようにして鳥を飛ばし続ける。

 

やがて僕らが川の上流にたどり着くと同時に僕はまた「スキップ」を念じた。

 

いつのまにか上流の草地に降り立っていたようだ。背中にはまたミドナがどっかりと腰を掛けている。

 

周囲を見渡すと目の前に川床があり、左手にある小屋の下の岩壁に突き当たっている。岩壁にはよく見ると木の格子が嵌った水路が口を開けている。

 

小屋から草地に下る階段には白い光が浮かんでいる。だが僕はそれを無視すると、川床に飛び降りた。草地から三メートルほど下の川床には水が全く流れていない。

 

進んでいくと、右への分岐には小屋の下と同じように木の格子がかけられているのが見えた。

 

よく見ると川床に氷が張っている。それどころか、高さ二メートルもあろうかという氷の柱が川床のそこここに立っている。

 

幅が十メートルあまりの川床を走っていくと、それはしばらく左右にくねり、やがてかつては滔々と水をたたえていたであろう広い窪地に出た。周囲の岩壁には何層かの岩棚が人の手で彫りこまれているようだ。一キロほど先だろうか、正面には高い崖の上から巨大なつららがいくつも下がっていた。

 

「完全に凍り付いてやがる」

 

その光景を見ると、さすがのミドナもそう言ってしばらく絶句していた。

 

「どうなってるんだ?ここにはゾーラの集落があるんじゃないのか?一人の姿も見えないぞ」 

 

僕は彼女の独り言が終わると、巨大なつららの見えるほうに向かって走る。上を見ると真っ黒な蝙蝠が何匹か低空を飛んでいる。つららの足元に来て停止すると、一匹がこちらに気づいたのか頭上を旋回し始めた。

 

だが、そいつが襲ってくる前にミドナが浮上すると手近にあった背の高い氷の柱の上に移動した。僕が彼女目掛けて跳躍すると、魔法の助けで一挙に飛び上がり、狭い氷の足場に着地する。周囲には複数の氷の柱が立っている。ミドナとともに一段づつ高い柱に登っていき、最終的に川床から三十メートルほどの高さの岩棚に降り立った。

 

岩棚から凍り付いた滝の裏側に向かって走る。足元は完全に凍り付いていた。突如上から大きなつららが落下して数メートル先の床に突き刺さる。僕はそれを回避すると滝の裏を抜けて反対側の岩棚に辿り着いた。

 

そこからまたミドナが浮上する。凍り付いた滝から下がるつららに何か所かある出っ張りに取りつくとそこから僕を差し招く。跳躍すると、彼女も先導するように次々と上の足場に移っていった。 

 

その刹那、僕の足が滑った。だが想定済みだ。足場にしがみついてその上に登ると、再びミドナが浮上しはじめた。もう一か所の足場を経由して、凍り付いた滝の上に着地する。

 

そこからは、氷結した流れのもともとの源と思われる方向に明らかに人手によって建造されたとみえるゲートが、水源に至ると見える岩壁に開いた巨大な穴にしつらえてあった。蔓草模様に装飾された壮麗なものだ。

 

だが周囲は静まり返っている。頭上を飛び回る真っ黒な蝙蝠よりほかに生き物の気配がない。

 

僕はゲートのほうに走り寄った。凍り付いた川床の左右は石造りに装飾の施された歩道になっている。 

 

ゲートを抜けると、凍った水路が蔓草模様の装飾でぐるりを囲まれた広間に出た。天井は開いており空の淡い光が差し込んでいる。だが先客もいた。あの影の使者たちが三体。

 

僕はダッシュした。途端に次々と落下音がして、奇妙な文様の描かれた柱状の物体が僕たちを封じ込めるかの如く周囲の床に刺さった。

 

だが僕は知っていた。敵は魔法結界で隔壁のようなものを作って一匹の影の使者を孤立させることで、一気に全滅させられることを防ごうとしているのだ。

 

僕は右手に進んだ。近づくと、向かって右端に、広間を区切る結界と囲む結界の間隙があった。間隙に飛び込むとミドナに合図する。たちまち広がった黒い結界が、向こう側にいた一匹の巨大悪鬼をとらえる。力を解放すると一撃で敵は倒れた。

 

この一匹を倒せばあとは楽だ。向きを変え、再び魔法結界の間隙から二匹の悪鬼どもがいるほうに戻る。ミドナに合図して結界を出させ、両方を包むと一気に殲滅した。

 

三匹の巨大悪鬼たちの体がボロボロと崩れ始めた。天井の隙間から見える上空に出現した黒い渦巻に悪鬼たちの身体の残骸が吸い込まれていく。

 

氷でできた床越しに下を覗き込むと、眼下に無数の何かが閉じ込められているのがわかった。

 

目を凝らし感覚を研ぎ澄ますと見えてきた。おびただしい数のゾーラたちだ。湖畔で会った男たちと同様の装束をつけ、槍を持った兵士たちだ。皆氷の中に閉じ込められ微動だにしていなかった。

 

「こ...こいつは驚いたな」

 

僕は「スキップ」を念じてミドナの言葉を聞き流すと、彼女に対しゴロン鉱山の入り口までワープするよう頼んだ。

 

彼女はすぐさま空中に浮上した。身体をくるくると回転させる。するとリンクの周囲が真っ暗になった。風が吹くような音がし、やがて周囲に光が次第に戻ってきた。

 

降り立ったのはいわゆるデスマウンテンの麓の広場だった。光の世界の太陽の光が差し込んでくる。

 

すると、地響きがして、頭上から次々と噴石が降ってくる。足元に映る影でわかった。

 

不思議なことに、僕が走れば影もついてくる。まるで僕を狙う誘導ミサイルのようだ。

 

だが、直前でダッシュしたり飛びのけば回避することができる。

 

何個かの噴石を回避すると、やがて空全体を包むような轟音が聞こえてきた。

 

今までよりはるかに巨大な噴石が降ってくるようだ。やはり僕を追いかけるように影が迫ってくる。

 

だが僕は知っていた。この一個だけは、僕の上には降って来ない。

 

やがて衝撃音がして、見上げるような高さの噴石が広場の真ん中に突き刺さった。

 

僕はすぐさまその噴石に近づきながら、これをゾーラの里に運びたい旨の念を込めてミドナに唸りかけた。すると彼女はそれをきちんと理解し、言った。

 

「まだ熱を持ってるな。運んでみるか」

 

彼女の髪の毛が魔法の力で巨大な手のような形に開く。ミドナが大きな物を持ち上げるために力を入れているような声を漏らすと、その髪の毛でできた巨大な手がぐいっと持ち上がった。

 

再び「スキップ」を強く念じる。

 

いつの間にか、広間の床を構成していた氷がすっかり溶け、その周囲にある通路には白い光が散らばっている。ゾーラたちの魂だ。

 

僕はミドナに唸りかけ人間に変身させてもらった。目の前の泉から南に向かって伸びる水路に飛び込むと、すぐさま彼女の合図して鉄のブーツを履かせてもらった。

 

たちまち体が水路の中に沈む。僕はミドナに合図を繰り返し、鉄のブーツを履いたり脱いだりを繰り返しながら、浮上しないよう水路を進んでいった。

 

(これをしないと、ゾーラの女王の霊の独り言を聞かなければならなくなるのでそれを避けるためだ。)

 

少しすると、水路の終端の滝まで出た。そこで僕はブーツを元に戻し、滝に吸い込まれていった。

 

さらに「スキップ」を念じる。

 

気が付いた僕は半分水に浸された石段の上に立っているのに気づいた。目の前には石張りの回廊がありその先に岩壁にぽっかり空いた洞窟がある。

 

僕はすぐに洞窟に走り込んだ。やっとこれで雫集めができる。

 

洞窟の中に進んでいく。すぐに目の前が開け、天井が開いて光が差し込む丸い空間に出た。中央が泉でその周囲に自然にできた歩道がついている。また、泉に向かって通路の正面には岩が張り出していて、参拝者が捧げものを置いたり願をかけるため泉に近づきやすいようになっていた。

 

僕は張り出しの上に進むと、精霊の独り言を辛抱強く聞き流し、雫の器を受け取ると、すぐに取って返し洞窟から出た。(精霊は、闇蟲の居る場所も僕に教えようとしてくれていたが、転生を繰り返し過ぎた僕はもはや全てを暗記していた。)

 

洞窟から一歩足を踏み出すと右手の木道の上を何者かが小さな雷を発しながら向こうへ走っていくのが見えた。

 

僕はミドナに狼に変えてもらうと、木道を走ってそれを追った。相手は木道の先の広場に逃げ込んだ。意識を集中すると、蟲の姿が見える。すぐさま殺到して一撃で屠ると、飛び出てきた雫を回収する。

 

(雫集めは面倒だが、雫を回収すると体力も回復するのが唯一便利なところだ。)

 

次の闇蟲を求めて広場の東側の木道に足を踏み入れた。その木道を抜けた先はより大きな広場だった。

 

そこで周囲を見回した瞬間、巨大な管楽器が鳴るような不気味な音がし、同時に次々と柱のような物体が落下してきて広場の周囲に刺さった。魔法結界だ。

 

上空に黒い渦巻が出現した。みるみる大きくなってきたかと思うと、渦巻の中心から押し出されるように黒い塊が落下してくる。一つ、二つ、そして三つ。影の使者たちだ。

 

魔法結界の形を見てみると、広場の中央近くまで隔壁のようなものが伸びていて、敵の三匹のうち一匹は必ず隔離されるような形になっている。

 

僕は隔壁の左側の奥に一匹の黒鬼が陣取っているところに駆け寄った。素早くミドナの結界を出させてその中に捕え、一撃で倒した。

 

踵を返すと隔壁の始点あたりに戻る。そこに一匹、さらに隔壁の右側の奥にも一匹がいる。僕は二匹の間に入ると、攻撃を喰らわないように動き回りながら相手を誘い、二匹とも引き付けてからミドナの結界を出して一気に片付けた。

 

二匹の悪鬼どもが同時に崩れ落ちる。やがて三匹の遺骸がボロボロに崩れ、その破片が上空の黒い渦巻に吸い込まれた。広場を囲っていた魔法結界の柱も消滅した。

 

さてと雫探しの再開だ。

 

最初の蟲を倒した広場からの木道の左側に狭い上り坂があった。坂に入り、登ると左に道が折れている。

 

道は途中で途切れている。下は水面で、向こう側に岩棚がある。助走をつけて向こう側へ跳躍した。着地すると、さらに進んでいく。もう一つ同じような間隙を飛び越えると、右側にやや広い岩棚が見えた。慎重に距離を見極めてそちらに飛び移る。蟲の気配は近くだ。

 

岩棚を東に進むと上り坂になり、その上に草原の広場があった。

 

蟲がいる。その姿を捕えると一気にダッシュして襲い掛かった。草原の真ん中にいた蟲は慌てて地面に潜ろうとしたところを狼の牙にかかった。絶命した蟲から浮かび上がった光の雫を回収する。

 

次にあの尖った小屋を目指すことにした。北側に行く木道に進むと、狭い中州を通って左に木道が折れている。その終端にあの老人の小屋があった。

 

板張りの小屋の土台の上を歩いてその裏へ回る。裏手まで来ると、壁に体当たりした。意識を集中すると、壁に取りついていた闇蟲が飛び立つのが見えた。相手が高度を下げてきたところで素早く結界を張って捕え、一撃で倒す。

 

さて、次はワープだ。僕はミドナに合図してゾーラの里に飛びたい旨告げた。(唸っただけだが。)

 

ミドナはすぐに僕の意図を理解し、ワープを開始した。空中に吸い込まれ、数秒すると、ゾーラの里の広間の泉に着水した。

 

北方へ泳ぎ、岸に上がって玉座の脇を抜け左に回る。泉を囲む柵の切れるところまで来たところで、意識を集中しながら外側の壁に体当たりした。壁にとりついていた虫が飛び立つ。そいつを結界に捕えて屠り、雫を回収すると、僕はミドナに合図し人間に戻してもらった。

 

そして鉄のブーツを履かせてもらい、目の前の泉から南に伸びる水路に飛び込んだ。僕は前にやったのと同じ要領で、ミドナに合図を繰り返し、鉄のブーツを履いたり脱いだりを繰り返しながら、浮上しないよう水路を進んでいった。

 

(多少面倒くさいが何としてでもゾーラの女王の霊の独り言を聞かずに済むようにするためだ。)

 

水路の終端の滝まで出ると、今度は鉄のブーツを履いて水底に立ち、左側の岸に向かった。やや息が苦しくなったが、なんとか岸に近づく。水路から見て向こうに窪んだような岸の形になっているおかげで水流が遅くなっており、岸の近くではブーツを元に戻して浮上しても流されることはない。

 

岸に泳ぎ着いて這い上がる。今度は、滝の脇にある狭い草原の右手の縁を進む。やがて平原は岩壁に突き当たった。僕はミドナに頼んで狼に変身させてもらうと、そこで平原の縁ギリギリのところまで行き、ちょうど岩壁を目の前にするところで縁からぶら下がった。

 

手を離して落下すると、すぐ下にあったごくごく狭い足場に着地した。そこから南方には、岩壁を掘り抜いて作った回廊が伸びている。意識を集中しつつ回廊に入っていくと前方に蟲が飛んでいるのが見える。

 

駆け寄って跳躍し、一撃で屠る。雫を回収すると、今度は回廊から下の川まで一気に飛び降りて水面に飛び込んだ。

 

泳ぎながら意識を集中すると、川の真ん中あたりの大きな睡蓮の葉がいくつか浮いている場所に蟲が二匹飛び回っているのが見えた。

 

僕は睡蓮の葉に近づいてそこに這い上がり、ミドナに結界を出させて慎重に一匹づつ捕え、虫たちを狩った。

 

雫を回収した後、川を西側に向かって泳ぎ、親子岩の裏手の岸に這い上がると、意識を集中しながら目の前の斜面を駆け上がった。坂の上の平原にいた蟲が慌てて逃げようとするのを襲って屠り、雫を回収した。

 

また川に飛び込むと、水の流れに運ばれながら進んだ。トンネルを抜け、最初に怪鳥に乗って降り立った草原が見えるところまで行くと、右手の岸に上がった。

 

川が突き当たって地下に入っていく箇所に跨るように小屋が建っている。僕は小屋の扉の前まで上がると、そのまま前を横切って川の向こう岸に向かった。

 

川岸に降りる階段の途中に白い光が浮いている。意識を集中するとアフロパーマをかけたお姉ちゃんが座っている。お姉ちゃんの愚痴を聞いてやると、その途端に小屋の脇から雷を発しながら蟲が飛び出してきた。

 

ミドナ結界を出してそいつを狩り、雫を回収すると、僕はまた川に飛び込んだ。

 

川の流れに逆らいながら泳ぐ。流れが南に分岐しているところに向かうのだ。

 

どうにか分岐に入り込むと、すぐに流れがトンネルに入っていった。僕はそのまま流されながら南に向かっていった。

 

しばらくすると、流れはトンネルから出た。両側の岸に階段がしつらえられている。僕は左側の階段を登って岸に上がると、南東に向かって走り出した。城下町に向かうのだ。

 

街道の左右がやがて岩壁に挟まれる。そこをしばらく走ると、岩壁が切れて右手に城下町の壁が表れた。もうすぐだ。

 

壁沿いに走り、城下町入り口に着いた。だが跳ね橋に登る石段を上がろうとした瞬間、魔法結界の柱が落下してきて目の前に刺さった。

 

次々と柱が落下してきた。直径三十メートルほどを囲まれている。すると、次に上空に黒い渦巻きが表れた。動物の出産を思わせる様相で、渦巻きから大きな黒い塊が一つ、二つ、そして三つ押し出されてくる。影の使者たちだ。

 

魔法結界の形を見ると、前回と同じで中央の隔壁で空間を分割し、鬼たちの全滅を防ごうとしている意図が見て取れた。

 

僕はまず隔壁の左側の奥に進んで、そこにいた一匹を素早くミドナ結界で包み、一撃で片付けた。

 

次いで隔壁の始点に戻る。一匹はそこにいた。もう一匹は隔壁の右側の奥だ。

 

僕は二匹の間を動き回って敵を誘って引き付けると、距離が詰まったところでミドナ結界を出してに一気に殲滅した。

 

三匹の巨大悪鬼たちの遺骸が上空の渦巻きに吸い込まれる。周囲を囲っていた魔法結界も消えた。

 

僕は跳ね橋へと走り込んだ。大扉を抜けて城下町に入ると、通りを真っすぐ進み噴水広場に出、そこで左に折れ、目抜通りに入った。(転生を繰り返し過ぎたせいで、僕は城下町の地理も暗記していた。)

 

露天の並びを横目に南下すると、途中で右に折れ裏通りに入る。そこはうらぶれた広場だった。

 

隅に積み重ねられた箱から蟲の気配がする。僕は近づくと、箱に突進し顎で噛みついた。狼の一撃で箱の一つがバラバラになる。そこで素早く後ろに飛びのく。泡を食った蟲が雷を発して飛び出してきた。

 

そいつが落ち着くのを待ち、ミドナ結界を出して屠り雫を回収すると、僕はミドナに合図してハイリア湖畔にワープさせてほしいという意図を込めて唸った。

 

僕らはすぐに空中に吸い込まれ、数秒後にはハイリア湖畔で影の使者たちと戦った広場に出た。

 

僕は老人の小屋に向かう木道に入って、それが左に折れる場所にある中州にまで来ると立ち止まった。

 

中州には特徴的な草が生えている。僕がその草の前で座ると、なぜかメロディーが心に浮かんだ。そのメロディーを真似て遠吠えすると、羽音を響かせながらあの怪鳥が飛んできた。(仲間になったらしい。)

 

「スキップ」を念じると、次の瞬間には僕は怪鳥の爪に掴まれて水源地からの川が流れる洞窟の中を飛んでいた。

 

前回と違い洞窟の内部は半分ほどが豊富な水流で満たされていた。白仮面の鬼たちの姿はもはやどこにも見当たらない。怪鳥は時折羽ばたきし、高度を保ちながら前進していく。

 

洞窟の天井が低くなり、鬼どもが建てたと思われる足場の残骸がぶら下がっている箇所に闇蟲が二匹ほど飛んでいるのが見えた。

 

僕は怪鳥の背中に陣取ったミドナに念を送って怪鳥を下降させ、足場の残骸の下を潜らせた。

 

(以前にも書いたが、ミドナが怪鳥を操っている体でありながら、その実僕が念を送らないと彼女は怪鳥を操作することはできないのだ。つくづく不思議なことである。)

 

闇蟲が慌てて逃げようとする。だが巨大怪鳥が一気に加速して突っ込む。闇蟲たちはその嘴に捕えられ潰されて果てた。

 

漏れだした光の雫を回収する。洞窟が左右に曲がりくねるのを怪鳥が旋回しながら進んだ。

 

前方にあった岩の柱を怪鳥が回避する。翼が岩をかすめる。天井が次第に高くなっていき、やがて前方に水流による破壊を免れた足場がかかっているのが見えた。その周辺の岩棚に生き残りの白仮面の鬼たちがいる。矢が散発的に飛んできた。

 

僕はミドナに念を送り怪鳥を羽ばたきさせて加速すると、一気に通過した。矢がすぐ背後を通過した。だがかまわず前進すると、また洞窟の天井が低くなっていく、水面が天井に近い。天井と水面の間ギリギリを怪鳥が通過すると、はるか前方にまた闇蟲が二匹見える。再び天井が高い空間に出た。水流の真ん中にあった中州に白仮面の鬼が立っていて、矢の狙いをこちらにつけている。

 

左に急旋回して鬼どもの脇を通り過ぎる。さらに、高度を下げたまま加速すると、怪鳥がぐんぐん闇蟲たちに接近した。

 

一気に加速すると闇蟲たちを次々と捕えた。その残骸から漏れ出てくる光の雫を回収すると、僕はミドナに念を送って怪鳥を急旋回させ壁に激突させた。

 

僕とミドナは水面に落下した。急な川の流れでみるみる下流に押し流されていく。

 

「おいおい、しっかりしろよ。もう一度行きたいか?」

 

ミドナの声が聞こえる。だが僕は首を横に振った。もう洞窟の中には用はないからだ。

 

気が付いて顔を上げると、僕はゾーラ川がハイリア湖に流れ込む滝の近くの岸に打ち上げられていた。

 

だがこれも計算ずくだ。意識を集中しながら周囲を見回すと、近くに蟲が飛んでいる。僕はそいつに駆け寄りいいきなり飛び付いて噛み砕いた。

 

浮き上がってきた雫を回収すると、また心の中で「スキップ」を念じた。

 

次に来るものはわかっている。蟲どもの親玉だ。

 

僕は走ると湖に飛び込んだ。遠くから雷鳴が聞こえてくる。空気が湿っぽく、今にも雨が来そうだ。

 

蟲の親玉の気配は東の方向だ。僕はしばらく泳ぎ続けると、五メートル四方ほどの木製の足場の残骸が浮いているところに出た。

 

その上に這い上がって「スキップ」を念じた。

 

そこで目の前にいきなり現れたのは巨大な蟲だった。その大きさが桁違いだ。全長は三メートルくらいあり、腹の部分が異様に大きく肥っていて、そこだけで体の大部分を占めているようだ。

 

巨大蟲は羽ばたいて滞空し、前足を擦り合わせながら威嚇するような音を発すると、こちらのほうに体当たりしてきた。雷を全身から発している。

 

だが僕は落ち着いてやや後じさりし、足場から降りて水に入った。そいつが通り過ぎるのを待つ。

 

巨大蟲は僕のいた足場から少し離れると、また雷を発しながら近づいてきた。だが、僕の姿を見失ったのか、雷を止めて少しの間ぼんやりと足場のすぐ上に滞空し始めた。

 

僕はすぐに足場に登ると跳躍して巨大蟲に襲い掛かった。五、六回の噛み付き攻撃を喰らわせる。

 

身悶えした巨大蟲に振り落とされつつも僕は足場に着地した。敵は怒り狂って雷を発しながら足場の周囲を飛び回った。

 

だが僕は慌てず待った。相手がこちらに突っ込んでくるタイミングを見計らって足場から水面に退避する。そして、相手がもう一度足場に近づいてきた後、そいつが雷を発するのを止めた途端足場に這い上がって飛び掛かった。五、六回の噛み付き攻撃を喰らわせると、足場に降り立って最後の攻撃へ備えた。

 

周囲を飛び回ってから突っ込んでくる巨大蟲を回避し、二度目にやってきた後相手が雷を止めた瞬間に飛び掛かる。これで仕上げだ。一連の噛み付き攻撃を喰らわせると、相手は水面に落下し、気絶して浮き始めた。

 

僕は相手の腹の上に這い登るとミドナに合図して結界を出させた。

 

巨大蟲の六本の腹脚全てを結界が包むと、僕は跳躍した。腹脚の一本に噛み付き引きちぎる。ミドナの魔法の力によって僕は弾かれたように対角線上に飛んだ。

 

六本の腹脚全てが引きちぎれた。ミドナの結界が消え僕は再び水面に落ちた。蟲が致命傷の痛みに断末魔の鳴き声を上げ、身体を丸めたかと思うと、その身体が破裂した。

 

やがて大蟲の死骸から光の雫が浮かび上がってきた。僕は泳いで近づくと雫を回収した。

 

その途端周囲に光が満ちた。影の領域が晴れたのだ。

 

だが僕には何の感慨もなかった。

 

(初めての冒険でこの過程を成し遂げたときには感動したものだが...)

 

心に「スキップ」を念じて精霊ラネールのお説教を聞き流すことにした。

 

気が付くと僕はラネールの泉の前にいた。だがもうここに用はない。僕はミドナに話しかけゾーラの里にワープさせてくれるよう頼んだ。

 

たちまち狼に変身し、ワープが開始された。数秒後にはゾーラの里の広間の泉に着水していた。僕はそこから南に向かう水路に入って泳いだ。滝を落下して、水に流されていくと、やがてあのアフロパーマの姉ちゃんのいた小屋が見えてきた。

 

僕は小屋に着く前に右手の岸に上がると、物陰に入ってミドナに合図し、人間に戻してもらった。

 

(ミドナは、僕が彼女に変身を頼んだとき周囲に人がいると「周囲がびっくりする」とかいう超常識的な理由を挙げて断ることがあるのだ。普段は非常識な癖によくわからん奴だ。だが、僕はそのミドナの常識さえも打ち破るある技を後で披露するつもりだ。)

 

僕はポーチからガラス瓶を取り出すと、川岸に降りてそれを水で満たした。そして改めて小屋に向かった。

 

小屋の前に人影がある。あのお姉ちゃんだ。

 

僕は近寄って話しかけてみた。

 

「あ~、今ちょっとうちの店休業中なのよ。また今度来てくんない?」

 

構わずもう一度話しかけると女は煩そうに手を振った。

 

「だから休業中って言ってるじゃん?」

 

僕はその場を離れてしばらく歩き回った。ナンパを断られて落胆したからではない。これはある出来事を発生させる条件なのだ。

 

そのとき、上空から不気味な音がした。巨大な管楽器を吹くような音。見上げると、黒い渦巻きが空中に現れてきている。その渦の中心から、黒い塊が押し出されるように出てくると、女のいる小屋の近くに次々と落ちてきた。一体、二体、三体。影の使者たちだ。

 

時を同じくして周囲に魔法結界の柱が落下してきて次々と地面に刺さった。女が金を裂くような悲鳴を上げた。

 

だが今の僕にとっては雑魚どもだ。近くにいた一匹に向かっていきなりジャンプ斬りを叩きつけて屠る。

 

さらに、女のいる場所のほうにいた二匹に走り寄り、その間に立っていきなり回転斬りを放った。

 

胴体に深手を負った鬼どもがのけ反りながら倒れる。みるみるうちに三匹の鬼たちの死骸が崩れていき、その破片が上空の黒い渦に吸い込まれていった。周囲を取り囲んでいた魔法結界の柱も消滅した。

 

「ああびっくりした。一体あんた何者なの?あんな化け物と平気で戦ったりして‥‥」

 

僕が近づくと女は名乗った。

 

「あたしはリズ。そこで貸し舟屋をやってんだ。でもちょっと問題があっていまは店休んでるんだけどね」

 

彼女はズボンについた土を手で払うと自己紹介し、背後の小屋を指差した。横に長い赤い屋根の平屋だ。

 

「そういやあんたよく見るといい男だね。何にもないけどちょっと店に寄ってかない?」

 

さっきまでつれなかったくせに姉ちゃんは急に態度を変えた。だが、これにも裏があることを僕は知っていた。だが僕はとりあえず彼女に誘われるまま一緒に小屋に入った。

 

女は貸船屋を営業しているのだという。そして最近川が岩で塞がれてしまい往生していると説明した。小屋の中からは手すり越しに洞窟を流れる川が見えるが、確かにその真ん中に巨大な岩が一つ鎮座していた。

 

「男手があればなんとかなるんだけどね~」

 

いかにも思わせぶりに言う。僕はそれをフルシカトし、そのまま小屋を出て、もう一度小屋に入った。

 

リズは小屋の中で所在無げに立っている。彼女に近づくと、僕は心の中で地図を思い浮かべつつポーチからガラス瓶を出してその場に水を振りまく。そしてすかさず彼女に話しかけた。

 

「男手があればなんとかなるんだけどね~」

 

彼女は同じ話を繰り返したあと、そう思わせぶりに溜め息をついた。そこで僕は「なんとかする」と答えた。

 

「本当?助かるわ~!じゃあ爆弾矢であの岩を片付けてくれる?」

 

リズは壁際の物入れを開けると爆弾袋を取り出して僕に渡した。僕はすぐさまゾーラの里に飛びたいと念じた。その途端、ミドナが現れて僕を狼に変身させ、即座にワープを開始した。

 

僕はリズの目の前で狼の姿になり、空中に吸い込まれていった。数秒たつと、ゾーラの里の広間の泉に着水していた。

 

成功だ。

 

先ほどお話しした通り、ミドナは周囲に人目があるときなどは変身を頼んでも応じてくれない。人間の姿でいるときにワープを頼むと、まずそのために狼への変身を経ないとならないが、これもやはり人目があると応じてくれないのだ。

 

だが、僕はそのミドナさえも騙す方法を知っていた。このリズという女と小屋の中で会話するときに限ってのことだが、地図を思い浮かべながら水を振りまき、すぐさま彼女に話しかけることによって、ミドナはワープをさせてくれる。

 

そして、この騙し技を使えば、リズが爆弾袋を貸してくれた直後にワープして逃走することができる。

 

この爆弾袋も、リズの頼みで岩を破壊する作業を完遂しなければ手に入れることは本来できない。そして、その作業は本来、ゴロン鉱山で弓矢を入手していなければ行うことは不可能だ。

 

説明が長くなったが、僕は二重三重の不可能を打ち破って、ここで爆弾袋を不正に入手したわけだ。

 

僕は泉から水路に出て南へ泳ぎ、滝を落下すると東側の岸に這い上がった。

 

さてこれからどうする?

 

本来なら晴れて湖底の神殿攻略といくだろう。(いや、本来というなら、そもそもここに至るまでにはフィローネの森の神殿とゴロン鉱山を攻略していなければならないのだが....)

 

だが、僕は寄り道することにした。岸の岩壁に開いていた洞窟に入り、真っすぐ進む。

 

やがて洞窟の出口に出ると、外は全くの別世界だった。目の前の道は五十メートルほど先で途切れ、下方に湖が見える。湖といっても半分がた凍り付いていた。

 

道の端に立って眼下を見下ろすと。湖のほとりまで十メートルあまりの落差がある。

 

湖の向こうは、真っ白に雪で包まれた緩やかな平原があり、それが徐々に登り斜面に変わっている。その先はところどころ岩肌が剥き出しになった急峻な山が連なっていた。

 

僕は一体どこに行こうとしているのだろうか?

 

湖底の神殿を本格的に攻略する前に、ある道具を入手しておきたいのだ。

 

本来ならこれから向かう場所は相当冒険が進んでいないと行くことができない場所だ。

 

だが、ある不正な方法を使えば今の段階でも到達できる。そしてそのダンジョンには、この冒険を完遂するのに必須な道具があるのだ。

 

まったくいつになったダンジョンを一つ攻略するのだろう?とイラついてしまった読者の方には申し訳ない。

 

だが、お約束しよう。今はまだ仕込みの段階だが、必要な準備が整ったら僕は一気呵成にダンジョンを攻略していくつもりだ。

 

今しばらくは、もう少しの寄り道をすることをお許し願いたい。

 

(つづく)

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