黄昏の姫と緑の勇者:転生者チート編   作:nocomimi

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ダンジョン攻略開始(チートだけど(笑))編
いよいよ湖底の神殿へ。何一つまともに取り組まないチート攻略の極致がここに


気がついたときには、僕は雪山の館の玄関扉を入ってすぐの場所に立っていた。

 

以前説明したとおり、ダンジョンを攻略中に眠って(「セーブリセット」ともいう)しまうと、ほぼ確実にダンジョンの入り口に戻ってしまうのだ。

 

転生を繰り返す前はこのことにイラつかされていた僕だが、今はこの奇妙な法則を利用する術を心得ていた。

 

ともあれ僕は扉を開けて外に出た。

 

外はどんよりとした曇り空だ。館の周囲は雪を被った山々に覆われている。

 

僕はミドナに話しかけ、あの貸船屋の前までワープしてくれるよう頼んだ。

 

すぐにミドナが現れて僕を狼に変身させワープを開始した。数秒後には僕は貸船屋の前の、以前影の使者たちと戦った平原に降り立っていた。

 

僕はすぐにミドナに人間に戻してもらうと、小屋に近づいて扉を開けた。

 

リズは以前と同じように小屋の中で所在なげに立っていた。

 

話しかけてみたが、以前僕が爆弾袋を盗んでいったことなどまるで覚えていないようだ。岩に塞がれて営業ができないと愚痴をこぼしていた。

 

僕はここで、「なんとかする」と答えた。すると以前と同じようにリズは喜び、爆弾袋を取り出して僕に渡した。

 

すぐさま、僕はポーチから「おばちゃん」の息子を取り出し、彼の母親と別れた場所まで戻してくれるように頼んだ。

 

おばちゃんの息子は「はいでちゅ」と返事して羽ばたくと、僕の頭上をくるくると飛び回り始めた。たちまち僕の身体も回転し、空中に浮かび上がった。

 

数秒すると、僕は湖底の神殿の内部のおばちゃんと別れた部屋の入り口に立っていた。

 

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またしても僕は盗みを働いてしまった。だが、わざわざダンジョンを一つ攻略せずともこんなに簡単な方法で爆弾袋を入手できるのだから、もうやめられない。

 

僕は、改めて部屋の中をよく観察した。

 

巨大な円筒形の部屋だ。部屋の上方は、中央に立った柱の上にしつらえられた巨大な歯車のようなもので大部分が塞がれている。また、歯車から何か所か鎖がぶら下がっていて、その先には円形の小さなプラットフォームのようなものがついていた。

 

また、今いる階層の北側と北西部分に、それぞれ壁の中途から小さな張り出しが出ていて、その奥に扉がある。

 

今いるフロアを西の方に進むと、フロアから細い張り出しが突き出ている。その先端に立って覗き込むと、前方は五メートルほど下がった窪みになっていて、中には巨大アメンボがたむろしている。

 

(本来なら、巨大歯車を回転させる機構を復活させたうえで円形プラットフォームに乗って部屋の奥を探索する手順になっているのだ)

 

僕はまず振り向いて部屋の入り口の左手に無造作に置いてあった二つの壺に目をつけた。

 

壺を一つ抱えて、再びフロアを西の方に進む。フロアから突き出た張り出しの先端あたりに壺を置いた。もう一つの壺も拾い上げ、こちらは先ほどの壺のやや手前に置く。

 

次いで僕はブーメランを取り出した。部屋の北東部、壁の中途の今いるフロアと同じぐらいの高さに小さな足場がある。そこにも壺が二つほど置いてあった。

 

僕はブーメランを飛ばすとその二つの壺も手元に引き寄せた。二つの壺を先ほどの二つの手前に並べていく。

 

準備は整った。

 

僕は入ってきた入口の側の壁の二か所ほどに向けて狙いを定めブーメランを放った。そしてすぐに部屋の西側に向き直り、張り出しの一番先端側の壺を持ち上げ、張り出しの縁に立つ。

 

部屋の上を塞いでいる巨大歯車からぶら下がっている円形プラットフォームのうち、一番近くにあるものを見据える。方角は西北西だ。

 

近くといっても、三メートル以上は離れており、到底飛び移れる距離ではない。

 

だが、そこを敢えて飛び移るのだ。

 

ブーメランが戻ってきた。背後から旋風を巻き起こす音が近づいてくる。

 

僕はタイミングを見て、円形プラットフォームのほうに飛び出した。

 

するとどうだろう、ブーメランに巻き上げられた壺が僕を背後から押し、僕は見事目的の場所に着地した。

 

僕はさらに先の目的地を見据えた。次は、部屋の北側の壁にある扉の手前にある小さな張り出しだ。

 

こちらも今いる場所からの距離がやや長く、普通に飛び移るのは困難だ。

 

僕は、やや後じさりすると、天井からプラットフォームを吊っている鎖の手前に爆弾を二個ほど置いて点火した。

 

そしてまた目的地の方角に前進しプラットフォームの手前に立つ。

 

爆弾の重さでやや後ろに傾いたプラットフォームが、僕の体重がかかって平行に戻る。

 

だが爆弾が爆発すると、その衝撃で一瞬プラットフォームがまた後ろに大きく傾いた。

 

僕はその機を逃さず、大きく跳躍し、見事目的の足場に着地した。

 

すぐ壁際の扉に向かい、手をかけてそれを持ち上げる。

 

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そこはやや薄暗い廊下だ。左手にも通路が伸びているが途中で行き止まっている。だが正面の十メートルほど先、突き当たったところに扉がある。

 

またその扉の前に、兜を被ったずんぐりした化け物がウロついていた。

 

僕は正面の扉は無視し(どうせ進めないとわかっていた)左に伸びた通路を進んだ。

 

通路沿いの北側には高い柵がしつらえられている。その向こうには暗い水路らしくものがあった。柵は普通なら乗り越えられない高さだ。(だが、普通なら、と言っても僕は普通の冒険者ではない.....。その含意はすぐ読者の皆さんにはお分かり頂けるだろう。)

 

通路の突き当たりに頑丈そうな木製の大きな箱がある。箱に近づくと、天井からまた細長いゼリーの化け物が落下してきたので剣を抜いて片端から切り刻んだ。

 

僕は剣を納めると箱を開けた。金属の小さな鍵が入っている。

 

だが鍵には用はない。僕は、蓋の開いた箱の脇に横向きに立つと、サイドホップして箱の上に登った。さらにサイドホップすると、僕は開いた蓋の上に微妙なバランスを取って立つことができた。

 

僕は爆弾を一つ取り出すと、導火線に点火して床に落とし、そして剣を抜いた。

 

秒数を測ると、僕は思い切って跳躍しジャンプ斬りを繰り出した。

 

途端に床に置いた爆弾が爆発し、僕は上方に吹き飛ばされて高い柵の上に落下した。

 

ダメージは喰らったが、何とか成功だ。僕は柵の上で立ち上がった。

 

本来なら、巨大歯車を動かす機構を蘇らせたうえで、先刻開けた箱の中の鍵を持ってプラットフォームに乗って移動し、さっきの部屋の北西の壁にあった扉からこの水路に入らなければならないが、この強引な方法を使えばそんな手間はとらずとも前進できると僕は知っていた。

 

僕は柵から前方に飛び降り、水路の中に着水した。左に進路をとって泳いでいくと、水路は床が登り坂になっており水底が浅くなっていく。僕は水深がじゅうぶん浅くなったところで泳ぐのをやめて立ち上がると、爆弾袋を取り出して全ての爆弾を水の中に捨てた。

 

次いで、再び水に入り水路を東の方に泳いでいった。だが少し進んだところで巨大なクラゲが浮かんでいでいた。僕はミドナに合図して鉄のブーツを履くと、水深を下げて水底に立ち、クラゲを回避して前進した。このクラゲは電流を流すから面倒なのだ。

 

僕は歩いて前進すると、左手の壁に開いていた洞窟に入った。息が苦しくなってくるが、少しの辛抱だ。

 

僕はさらに、洞窟内部の右手に開いている横穴に入ると、そこにあった大きな木箱を開けた。

 

内部には爆弾が五個入っていた。それも水中爆弾だ。僕は戦利品を自分の(とは言っても盗品の、だが)爆弾袋に仕舞った。

 

まさかこの水中爆弾が、この湖底の神殿で命を繋ぐ鍵となろうとは、何度も転生を重ねるまで僕は知らなかった。

 

息が苦しく、限界が近い。僕は水中爆弾を一つ、点火し途中まで取り出しながらミドナに合図して鉄のブーツを外してもらった。

 

途端に、僕は洞窟の奥から流れてくる水流に運ばれ始めた。手には爆弾を抱えたままだ。

 

だが僕が爆弾を手離した瞬間、今まで詰まりそうに苦しかった息が再び楽になるのを覚えた。

 

僕は流されて洞窟から押し出された瞬間にまたミドナに合図して鉄のブーツを履き、水底に立った。背後では水中爆弾が爆発する音が聞こえた。

 

これはこの世界の不思議な法則なのだ。

 

本来なら、水中で自由に活動するには、瀕死の重傷を負って城下町の酒場で看病されているゾーラの王子をカカリコ村まで護送し、ゾーラの女王の霊からゾーラの服をもらわないとならない。

 

だが、その服がなくとも、水中爆弾をある条件で取り出すだけで、呼吸を一回分回復させられるのだ。

 

僕は水底を東に向かって歩き少し洞窟から離れると、ミドナに合図してブーツを元に戻し、水面に浮上した。

 

一息つくと、また鉄のブーツを履かせてもらって水底に降りた。少し東に前進すると水路が天然の珊瑚のような粗い造りの柵で行き止まりになっているようだ。岩がその柵の真ん中に食い込んでいる。

 

僕は水中爆弾を取り出し、導火線のキャップをひねって点火すると岩の下に転がした。次いでミドナに合図してブーツを戻すと、浮上して距離をとった。

 

鈍い爆発音とともに、岩がいくつかの断片に割れた。人が通れる隙間ができたようだ。

 

一旦息継ぎをすると、再び鉄のブーツを履いて潜り、岩が砕けたところから前方を覗き込んでみると、細く真っ暗な水路が続いていた。

 

僕は泳いで前進した。鉄のブーツを履いたり脱いだりして水深を調整しながらだ。水路の中はところどころ水草が生えている。その間に巨大ホタテ貝が潜んでいるのも見えた。僕はそいつを回避すると先に進み続けた。

 

また息が苦しくなってきたが、今回は大丈夫だ。出口は近い。

 

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数秒すると、僕はいつの間にか上にカーブした水路の出口に到達していた。水面から顔を出し、出口の縁に手をかけて這い上がる。

 

直径五十メートルはあろうかという広く丸い部屋だ。床の上には数センチほどだが水が張っている。

 

僕はすぐに天井を見上げた。天井には家ほどもあろうかという凄まじく巨大な蛙が逆さになって張り付いていた。

 

気色の悪い奴だがこいつとは戦わなければならない。

 

僕が「スキップ」を念じると、巨大蛙はやおら天井から飛び降りてきた。

 

ドシンと音を立てて着地し、醜い鳴き声を上げる。大きな口から木ほどの太さのありそうな舌を突き出していた。

 

そいつはぶるぶると身体をゆすった。見ると、背中に多数の卵がくっついていて、そこから人間の頭ほどありそうな特大のオタマジャクシたちが次々と孵化して飛び出してきている。

 

いまや、オタマジャクシの化け物がみるみるこちらに押し寄せてきていた。十匹以上はいる。

 

僕は敵を引き付けて回転斬りを放った。だが生き残ったやつが飛び付いてきて噛み付いてくる。

 

僕はひたすらに剣を振り回した。斬り裂かれたオタマジャクシどもが次々と4んでいく。

 

多少の傷は負ったが、なんとか残りを斬り捨てた。

 

オタマジャクシどもが全滅すると、巨大蛙はやおらジャンプした。床に奴の影が映る。上から押しつぶす気なのだ。

 

僕は敵のシルエットを見て逃げる方向を判断し、前転ダッシュした。蛙お化けが地響きを立ててボディプレスしてくるのを何とか回避する。

 

蛙は衝撃で気絶してしまった。口からはだらりと舌が突き出ている。僕はすぐさま相手の顔の前に回ると、ミドナに叫んだ。

 

「ミドナ、鎖と鉄球を!」

 

たちまち鎖が僕の手に握られた。僕はそれを振り回し、蛙化け物の舌に鉄球を叩きつけた。一度、二度。

 

化け物は体を大きく反らして悲鳴を上げた。しばらくのたうちまわっていたが、やがて力尽きバタンと床に伏した。地響きも収まらないうちに、その体がみるみる真っ黒になっていく。

 

終わった。

 

化け物の崩れた遺骸の中から、大きな木の箱が現れた。近づいて蓋を開けると、中には籠手のような道具が入っていた。軽い金属と皮を合わせて造った大きめの籠手の先端に、鉤爪が三つ向かい合わせについている。

 

クローショットだ。これもまた、鎖と鉄球同様、この冒険を完遂するために必須の道具だ。

 

僕は部屋のひと隅にある階段に近づいた。その上には門で塞がれた通路がある。その天井部分に、金の地の中心に赤い宝石のようなものを象嵌にした直径一メートルほどの紋章のような装飾がついていた。

 

金の地には蔓草模様で網のように凝った彫り込みをしてあるので、鉤爪が引っ掛かることを僕は知っていた。

 

僕はその紋章に向けてクローショットを狙って撃ってみた。鉤爪が引っ掛かると、たちまち体が引っ張り上げられる。次の瞬間、ぶら下がっていた紋章そのものがガチャンという作動音とともに下がった。すると通路を塞いでいた門がガラガラと音を立てて開いた。

 

僕は鉤爪を開いて飛び降りると、通路を先に進み突き当りの扉を開くと、以前に通った薄暗い廊下だとわかった。

 

廊下を進み、また兜付化け物がイキって突進してくるのを避けると、突き当たりの扉を開いて向こうに出た。巨大歯車の下側の部屋だ。

 

僕はここでちょっとまた寄り道することにした。

 

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おばちゃんを呼び出し、外に出たい旨告げた。すると息子が登場し僕の頭上で飛び始めた。

 

僕はくるくると回転しながらワープし始めた。数秒経つと、ハイリア湖畔に立っている。僕はそこでミドナに話しかけ、ゾーラの里まで飛びたい旨告げた。

 

ミドナはすぐに僕を狼に変身させワープを開始した。数秒たつと、僕はゾーラの里の広間の泉に着水していた。

 

北側に泳いで岸に這い上がると、玉座の脇を抜けて左手に進む。泉を取り巻く柵の陰の、ちょうど人の目からこちらの姿を隠してくれる場所に立つと僕はミドナに人間に戻してくれるよう頼んだ。

 

人間の姿になると、僕は目の前の泉に飛び込み、ミドナに合図して鉄のブーツを履いた。

 

たちまち水深が下がる。僕は泉の水底の中央に屹立したかつての火山噴石に近づいていった。

 

息が次第に苦しくなってくるがもう少しの辛抱だ。僕は水底に降りて噴石の足元に立つと、水中爆弾を点火して途中まで取り出しつつミドナにブーツを元に戻してもらった。

 

水中爆弾が手を離れると、息が途端に楽になる。

 

数秒すると、水中爆弾が爆発し噴石が破壊され、その中から何者かが飛び出てきた。

 

ゴロンだ。僕は再びミドナに合図して鉄のブーツを履くと、相手に近づいた。

 

「やっと出られたゴロ~! ありがとな~~! 昼寝してたらあの溶岩に閉じ込められちゃって、大変だったゴロよ!」

 

水中であるにも関わらずゴロンの男は平気でしゃべった。

 

「そんなことより お礼ゴロ!手持ち、こんなのしかないけどこれでいいゴロ?」

 

ゴロンは爆弾袋を差し出した。僕はありがたくそれを頂くと、元の爆弾袋から水中爆弾を取り出しながらミドナに合図してブーツを元に戻し、呼吸を楽にしてから浮上した。

 

これでよし。

 

借りもの(というより盗品の)爆弾袋は、不思議なことにある条件下では忽然と消えてしまうことがある。まあ不正に手にいれたものだからしょうがないのだが。

 

だがこのようにして人助け(ゴロン助け)をして入手したのなら問題はない。

 

僕は水面に浮上すると、岸に泳いで這い上がり、おばちゃんの息子を呼び出して戻りたい旨告げた。

 

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数秒すると、僕はおばちゃんと別れた部屋の入り口前に立っていた。

 

「さ、行きましょ!」

 

おばちゃんが合流すると、僕は今度は今までの行動を思い返し(「セーブ」とも言うらしい)、ごろりと寝転がって目を閉じた(「セーブリセット」とも言うらしい)。

 

しばらくして気が付くと、僕は初めてにこの神殿に侵入したときに入った最初の部屋に立っていた。

 

僕は念のため装備を点検した。予想通り、盗品の爆弾袋は消えている。だが、ゴロンからもらった袋は健在だ。

 

僕はその袋に入っていた全ての爆弾を捨てると、部屋の南端の壁際に近づいて、そこに置いてあった金属の箱を開けた。

 

中には水中爆弾が十個入っていた。爆弾を仕舞うと、僕は今度は北側の階段を登って扉を開け、二番目の部屋に出た。

 

下り坂の通路を進み、終端まで行くと、爆弾を取り出して点火して床に置き、次にブーメランを出して、すぐ上方、やや左の天井からぶら下がっていた巨大な鍾乳石に狙いをつけて放った。

 

旋風に運ばれた爆弾が目標にぶち当たり、鍾乳石を落とす。さらに、右の奥の天井から下がった鍾乳石を一つ同じようにして撃ち落とす。

 

僕は武装を仕舞うと、床をうろついている兜付豚化け物にやられないよう注意しながら通路から飛び降り、今しがた撃ち落とした鍾乳石を足場にして素早く上の段差に登った。

 

登った先でも同様に、右手の天井から撃ち落とした鍾乳石を足場にして最上段に登る。

 

さらに、真ん中の通路に登って、北側の正面の扉を開ける。

 

そこに立っていた蜥蜴男がまたぞろ襲ってくるのを回避し、廊下を渡り切って正面の扉を開けた。そこは中央階段室だ。

 

僕は目の前の柵が切れたところから飛び降り、器用に前転しながら着地すると、下部のプールの縁にしつらえられた狭い通路を右回りに進んだ。もうすぐでこのダンジョンは終わりだと知っていた。

 

壺が二つ転がっているのを脇に通り過ぎ、やがて僕は壁面の幅五メートルほどにびっしりと蔦が生えている場所に出た。

 

僕は蔦の生えた面の左端に立つと、クローショットを取り出して構え、蔦の生えた面の反対側の端を狙った。

 

慎重に狙いをつけ、クローショットを撃つ。

 

すると次の瞬間不思議なことが起こった。

 

飛び出したクローショットの鉤爪が目標地点に引っ掛かり、僕の身体は最初そこに引き寄せられていたのだが、途中で蔦の生えた面の真ん中あたりで降りてしまったのだ。しかも僕の身体は、壁に半分ほどメリこんでいた。

 

僕は転生を繰り返す過程で何度もこれを経験した。だがこの現象がなぜ起こるのかは、今でも言葉で説明できない。

 

ともあれ、僕はミドナに合図して鉄のブーツを履かせてもらうと、そのまま真っすぐ壁面の外に進み出た。

 

途端に僕の身体は落下し、着水した。

 

外部には果てしない漆黒の闇が広がっている。虚無の空間だ。

 

僕の身体は急速に沈んでいった。だが、後ろを振り返ると、中央階段室の下部プールの円筒形の形状が見える。

 

僕は、自分がそのプールの底部の少し下に到達した瞬間、ミドナに合図してブーツを元に戻した。

 

その途端にまた体が浮きそうになる。だが僕は、鉄のブーツを履いたり脱いだりを繰り返して浮上を防ぎつつ、身体を横に向けて、円筒形のプールの底部のすぐ下を、部屋中央に向けて泳ぎ始めた。

 

目標地点には、下方に真っすぐ伸びる竪穴のようなものが見える。

 

その下にこの神殿のボスである魔物がいると僕は知っていた。だがそこに真っすぐ突っ込んで行っても駄目だ。

 

僕は竪穴が近づくと、やや右に進路をとって、竪穴の横辺りで浮上した。

 

途端にまた不思議な事が起こった。

 

気が付くと僕は直径五メートルほどの円形のスペースに立っていた。周囲を見回すと、今自分は中央階段室の下部プールの底にいることがはっきりとわかる。

 

それなのに息は詰まりもせず、鉄のブーツを履いていなくても両足はしっかりと床についている。

 

ともあれ、僕は摺り足で慎重に位置を調整すると、横移動してその空間から外側に飛び出した。

 

これもまた難しい技だ。間違えると、プールの内部に逆戻りしてしまう。

 

だが、今回も成功した。

 

次の瞬間、僕の身体は今まで立っていた空間の中央に向けて吸い込まれていった。下方に向けて落下していく。周囲が一気に暗闇に変わっていった。

 

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気が付くと、僕は薄暗い水面に着水していた。

 

どうやら、水を湛えた途方もなく巨大な円形の空間が下方にあるようだ。僕はミドナに頼んで鉄のブーツを履かせてもらった。

 

たちまち体が沈んでいく。はるか下を見下ろすと、砂の溜まった底面に、高い石造りの円柱が円形に配置されている。その中心から周囲に向かって砂が波状に堆積していた。その堆積した砂の中心近くから、十メートルほどの長さの半透明の触手状のものが一本伸びているのが見えた。その内部で大きな目玉がうごめいている。

 

息が苦しくなってくる。だがもう少しだ。無限と思えるほどの時間だったが実際は数十秒だったろう。僕はとうとう水底に辿り着いた。

 

その途端に苦しかった息がまた楽になった。それと同時に僕は心の中で「スキップ」を念じた。

 

次の瞬間気が付くと、目の前の砂地に巨大な生き物の頭部が顔を出していた。

 

沼地に住むヤツメウナギのようなおぞましい形だ。(なんでもこいつはオクタイールという名らしい。別の言語では蛸鰻と言うべきか..)

 

鋭い牙の生えた円形の口が二重に連なっている。その周囲には半透明の触手が十本近くも生えている。その巨大化け物は口を上に向けたまま、頭部に生えた触手を周囲を探るように動かし始めた。

 

触手の一本の内部を大きな目玉が移動している。僕はクローショットを手に嵌めて目玉お化けを狙い撃った。

 

目玉が引き出されて近くに引き寄せられてきた。僕はクローショットを外し、少しバックステップしながら剣を抜くとやおら回転斬りを放った。

 

剣先が逃げようとする目玉お化けに当たった。目玉はほうほうのていで跳ね回りながら触手の中に逃げていく。

 

それと同時に僕は水中爆弾を袋から途中まで取り出しつつ、ミドナに頼んでブーツを元に戻してもらった。僕は点火された水中爆弾を抱えながら少し浮上するかたちになった。

 

一方、目玉を収納してしまうと、化け物の触手も頭も砂の中に引っ込んでいった。すると次の瞬間地響きがした。激しい。目の前の穴からウナギの化け物が姿を現した。触手、頭。そして硬い鱗に包まれた体が穴から出てくる。全長は百メートルはあろうかという大物だ。

 

しばらくかかって化け物がやっと全身を現し、辺りを睥睨するように泳ぎ回り始めた。

 

僕は落ち着き払って水中爆弾を抱えながら泳ぎ、やや高度を上げると、ウナギ化け物のやや上方に位置したところで爆弾を手離した。苦しくなり始めた呼吸がまた楽になる。

 

ミドナに合図し鉄のブーツを履く。また高度が下がってきたが、オクタイールがこちらに近づいてきたところで、手にクローショットを嵌めて敵の背中についた例の目玉の辺りを狙い撃った。

 

鉤爪が化け物の目の縁に引っ掛かり、たちまち僕の身体は引き寄せられた。

 

化け物に取り付くと、素早く剣を抜き、その目玉に四発ほど斬撃を喰らわす。化け物が苦し気に身悶えし始める寸前に、僕はミドナに合図してブーツを元に戻してもらった。

 

化け物が僕を振り落とした。だが、僕は化け物のやや上方に飛ばされただけで済んだ。

 

だが息がまた苦しくなってきた。限界が近い。

 

すぐにミドナに合図して鉄のブーツを履き、水底まで降りると、僕は点火した水中爆弾を途中まで取り出しつつミドナに頼んでまたブーツを元に戻してもらった。

 

浮上しながら水中爆弾を手離すと途端に息が楽になる。

 

僕は敵の高度のやや上方まで浮上すると、また鉄のブーツを履かせてもらった。敵が下方に近づいてきたところで、その目玉目掛けてクローショットで狙いをつけた。

 

クローショットを撃つと、また鉤爪が敵に引っ掛かり僕は引き寄せられた。再び剣を抜いて敵の目玉に四度の斬撃を食らわせた。

 

そして振り落とされる寸前でミドナに合図してブーツを元に戻す。

 

化け物が激しく身悶えしたが、やはり僕は少し上方に飛ばされただけで済んだ。これで最後だ。僕は下方の化け物にクローショットで狙いをつけて撃った。

 

敵に引き寄せられて取り付くと、剣を抜いて渾身の力で止めを刺す。

 

刀身が鍔に至るまで化け物の目玉に沈み込む。断末魔の唸り声を上げたオクタイールは、最後の力を振り絞って全速力で泳ぎ始めた。

 

(不思議な事に、それと同時に僕の息もまたすっかり楽になっていた。)

 

怪物はでたらめに旋回を繰り返し、上昇したり下降したりながら泳ぎまわった。僕は化け物の頭にしがみついていた。やがてオクタイールは底面近くに下降し、壁際にまだ残っていた石の柱を押しのけると、物凄い勢いで壁に激突した。

 

壁に大きな亀裂が走る。オクタイールは力を失ったように動かなくなり、水底にゆっくりと横たわった。

 

壁の亀裂から水が流出していく。僕は化け物の頭から降りた。水位がみるみるうちに下がっていくのがわかる。しばらくすると部屋の水がほとんど抜けてしまい、目の前に横たわる化け物の巨大な死骸はやがて真っ黒に変色していった。

 

化け物の体がボロボロと崩れ始める。ミドナは空中を浮遊してその頭部あたりを捜索していたが、すぐに戻ってきた。片手に黒い石でできた頭飾りのようなものを持っている。

 

「でかした!最後の影の結晶石・・・約束通り、もらっていくぞ!」

 

ミドナは言った。

 

最後の影の結晶石?まったく奇妙な話だ。

 

この湖底の神殿は今回の転生で僕が初めて攻略したダンジョンだ。ましてや、影の結晶石なんてものを以前に集めたことなど一度もないのに。

 

だが、このミドナという女の中では、この神殿を攻略することで、その他の結晶石も全て集め終わったという話になるらしい。

 

まあ、思い込みの激しい女にはよくある話だから細かいことは問わずにおこう。

 

(つづく)

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