黄昏の姫と緑の勇者:転生者チート編   作:nocomimi

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瀕死の状態のはずなのにミドナが何故か変身だけはさせてくれるので適当に救出したった

湖底の神殿での冒険は終わった。

 

ミドナは、何を勘違いしたのかこれで影の結晶石は全て揃ったと思っているらしい。

 

だが、別に大勢に影響はないので僕はその勘違いを訂正することもなかった。

 

「やり残したことはないな?」

 

ミドナが尋ねる。その足元には小さな黒い渦巻が出現している。彼女の短距離ワープ術で使うポータル(入り口)だ。

 

僕は頷くと、彼女とともにダンジョンの外に出た。飛んだ先はラネールの精霊の泉のほとりだ。

 

だが、ここに着いた瞬間僕は連続して「スキップ」を念じた。

 

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本来ならここで影の王を僭称するザントという奴に襲撃されることになる。ミドナは瀕死の状態となり、僕は狼に変えられてしまうのだ。

 

だが、「スキップ」を念じ終わると、僕は人間の姿のまま夕闇の平原の上に立っていた。

 

これも聖剣を不正に手に入れたことによる副次的効果だ。

 

僕はミドナに話しかけてみた。

 

「どうした、リンク?」

 

彼女は何事もなかったように返事をする。僕は狼に変身したい旨告げた。

 

たちまち僕の姿は狼に変わった。それと同時に、いかにも瀕死の様子のミドナが僕の背中の上にべたりと横たわった。

 

瀕死状態のはずなのに、僕を変身させることだけはできるらしい。

 

だったら、ワープもできるかと思ったら、そうではない。ワープを頼んでも、「は...は..やく...ゼル..ダ..姫の..ところ..へ..」と呻くだけだ。

 

だがまあいい。僕はミドナを背負うと平原を走り始めた。

 

今いる場所はハイラル城下町の丁度北側に位置する平原だと僕は経験からわかっていた。

 

街道を東に向かって走り始めると、道を照らしていた月の光が弱まった。ふと頭上を見ると、夜空に黒雲が広がってきている。ポツポツと雨粒が落ちてきた。生暖かい風が吹き、街道の左右に広がる平原の草が揺らされた。

 

街道の先に、ブルブリンが一匹歩いているのが見えた。こちらに気づき、喚き声を上げて棍棒を振り上げ走り寄ってくる。だが僕はやや進路を迂回させつつ走る速度を上げて相手を回避した。

 

街道に戻ると雨が本降りになってきた。雨に濡れた闇夜の中、やがて前方に岩崖が浮かび上がってきた。その崖の間に城下町への小道があるのだ。獣の足で崖に挟まれた小道をひた走りに走る。(ミドナを助けたいからではなく、ただ単に早く先に進みたいからなのだが。)

 

しばらく走ると、両側の崖が切れて右手に城下町の壁が見えてきた。

 

街道から右手に外れて城下町の壁沿いに走り始めた。草原の中またブルブリンが見える。だが、明後日の方向を見ていて、まだこちらには気づいていない。僕は速度を上げるとそいつの脇を通り過ぎた。相手は僕に気づいたみたいで喚き始めたが後の祭りだ。ぐんぐんと距離が開いていく。

 

城壁沿いに生えた高木や、地表に露出した自然岩を通り過ぎると、歩哨の足場が右手に見えた。城下町の入り口はもうすぐだ。走りながら辺りを見ると、左手にブルブリンの弓兵がいた。距離は五十メートルほど離れているがこちらに気づいたらしい。弓を構え火矢を放ってきた。矢は外れて僕の背後の地面に刺さった。さらに走る速度を上げると二の矢が後ろをかすめた。

 

ほどなく足元が石畳に変わった。城下町の入り口に近いのだ。僕は夜空に浮かび上がった跳ね橋のシルエットに真っすぐ向かった。辿り着くと、階段を登って橋を渡り、半開きになった門を通り抜けた。

 

城下町の東通りに入ったとたん、金を裂くような女の悲鳴が聞こえた。ほかの通行人たちも頭を抱えて逃げまどい始める。

 

まあ、狼がいきなり町に飛び込んできたのだからしょうがない。僕はダッシュすると、東通りを抜けて噴水広場に駆け込んだ。

 

僕の姿を見咎めた兵士たちも、最初は右往左往していたのが、やがてへっぴり腰ながらも徒党を組んでこちらに向かってきた。

 

だが僕は彼らを無視して目抜通りに突入した。

 

すると怯えた群衆の様子は混乱を極めた。金切り声をあげる主婦や小間使いの女たち、商品を放り出して露天の陳列棚の下に潜り込もうとする露店商。

 

僕は通行人たちを押し退けるようにして通りを南下した。駆け込むようにして右手の裏通りに入った。階段を下ると、人気のない広場の隅には雨水が溜まり始めている。

 

トンネルに入り真っ直ぐ突き当りの扉に向かった。そこに酒場があるのだ。

 

(僕は今回の転生で一切酒場に立ち寄ったことはない。だが、酒場からハイラル城への抜け道があることは知っていた。)

 

酒場の扉は半分開いている。僕は鼻先で扉を動かして中に入った。だが、すぐに目の前にゴロンの男が立っていて、「化け物め。出ていくゴロ!」と言うと、大きな手を伸ばして僕をむんずと掴み、もう片方の手で扉を大きく開いて放り出した。

 

僕は水の溜まりはじめた路地に落下した。目の前で叩き付けられるような音がして扉が閉まる。

 

しかし、なぜだかは知らないが、ミドナはちゃんと僕の背中にひっついていたので一安心だ。

 

すると猫の鳴き声が聞こえてきた。顔を上げると、酒場へのトンネルの入り口の左上に設けられた通気孔の際に白い猫がいる。ふさふさした白い毛並みの猫だ。

 

白猫は降りてくると、路面にできた水溜まりを注意深く避けながら近寄ってきた。白猫は僕の顔や前肢に鼻を寄せて臭いを嗅ぐと、おもむろに口を開いた。

 

「間違いない。あんたリンクだね」

 

猫は続けた。

 

「あたしはルイーズ。あんたなんだってそんな恰好してるのかい?そんな恰好でひと様の前に出たら放り出されるのは当然じゃないの」

 

僕は猫は好きだが、長々とおしゃべりするのは性に合わない。辛抱強く聞き流していると、猫は酒場への入り方と城への抜け道を教えてくれた。まずは通気孔から侵入し、そこから「屋根裏」に抜けるのだ。

 

(まあ転生を繰り返した僕は最初から知ってたのだが。)

 

僕は通気孔を見上げた。高さは三メートルくらいだろうか。そのすぐ前に木箱が高く積んであるから、その木箱の上まで上がれれば到達できる。

 

うまいことに、広場に木箱が一つ落ちている。僕は駆け寄って木箱を頭で押した。積んである木箱の前にまで押していく。

 

運んだ木箱に乗ると、上の段は前肢を伸ばせば引っ掛かる距離だ。僕は上に登り、そこから通気孔に入り込んだ。

 

通気孔を進むと店内の明かりが見えてきた。抜けた先は部屋のぐるりを囲むように天井近くにしつらえられた棚の上だった。

 

煌々と灯された明かりに照らされた客席には客はまばらだ。

 

僕は屋根裏への経路を探した。それらしき出口は、自分が今いる側のちょうど反対、部屋の北側の右手の壁の天井近くに開いていた。ここから直接は到達できない。だが、東側の出口の上辺りに小さな棚板があり、幸いなことに現在いる棚からそこに向けてロープが張られている。雨で濡れた客の上着を下げておくためなのだろう。

 

同じようなロープがそこここに張られていた。その小さな棚板からも、部屋の西側にある長い棚との間にロープが張ってある。さらに、その棚板の北側の端に近い場所からも、目的地である天井裏への出口に至る足場に向かってロープが張られていた。

 

僕は抜き足差し足で棚の上を移動した。まずは東側に進むと、ロープの上に前足を乗せ、そこから綱渡りを始めた。まずは出口の上辺りにある棚板に用心深く渡る。そこからまた綱の上に乗って今度は西側の棚板に向かった。

 

ロープを渡り切ると、到達した西側の棚の上には至るところ乱雑に壷が置かれている。静かに移動していくと、次なるロープの地点にたどり着いた。

 

ロープをゆっくりと渡り向こう岸を目指す。音を立てないよう進む。気づかれずに対岸の足場に到達すると、屋根裏へ通じると思しき穴に入り込んだ。

 

暗く狭い通路を進んだ。しばらく行くと前方に明かりが見えた。出口から顔を出すと、どうやら通路は別の部屋に繋がっていたらしいとわかった。

 

その部屋はいかにも奇妙だった。一般人の居室のようだが、広いわりにはえらく殺風景で、家具らしい家具がほとんどない。高級そうな椅子が北側の壁の前あたりに置いてあり、その上には茶色く波打った頭髪と口ひげが特徴的なユーモラスな顔をした男の人形が鎮座していた。

 

椅子の周囲には金細工でできた装飾品が散らばっている。そういった豪奢な物が置かれている反面、部屋は荒れ放題と言っていいほどの状態だ。埃だらけで隅には蜘蛛の巣がいくつも張っている。

 

この部屋の異様さはそれだけではなかった。どこからか禍々しい雰囲気が感じられる。感覚を研ぎ澄ませてみると、部屋の南側にある戸口の前あたりに白い魂が見えた。

 

幽霊だ。空中に浮遊しているうえに、小柄な人間の形をしてはいるが、縫い合わされた荒布のようなものを着ており、大きな鎌のようなものを携えている。空中に浮いた足の下にはカンテラのようなものが下がっていた。

 

僕は立っていた場所から飛び出すと、その白い幽霊に近づいた。そいつは乾いた声で不気味な笑い声を上げながら鎌を振り上げてきた。

 

僕は幽霊の一撃をバックホップして躱すと、跳躍して狼の顎の一撃を喰らわせた。幽霊は悲鳴を上げ部屋の天井近くに浮き上がった。だが再び武器を構え直すと、こちら目掛けて降下し鎌を振り下ろしてくる。頭を目掛けてきた攻撃を横にステップして回避すると、僕は再び飛び掛かって幽霊に一撃を与えた。

 

幽霊は気を失ったように床に落下した。僕はその上にのしかかり激しく牙を立てた。牙に何か感触がある。丸く、熱く、脈動した心臓のようなものが口に触れると、僕は幽霊から引き剥がすようにそれを食い千切った。

 

断末魔の叫びを上げて幽霊が消えていった。

 

その時、後ろから声をかけてくるものがあった。

 

「ワンちゃん....ワンちゃん...」

 

椅子の上の人形が喋っているのだ。言葉を発するたびにその目玉がわりに埋め込まれた宝石が青やピンク、緑に色を変えていく。

 

「ワンちゃん...君があの幽霊をやっつけてくれたんだね?礼を言うよ...ついでに頼みなんだけど...」

 

また飛ばすことのできないおしゃべりだ。僕は男の話を辛抱強く聞いた。金に目がくらんで悪魔に魂を売ったら人形に変えられてしまったので、元に戻るため幽霊の魂をニ十個集めてくれというのだ。

 

僕は生返事のつもりで唸った。

 

「ああ...ありがとう!ありがとう!この恩は一生忘れないよ!」

 

同時に、財宝の山の中に埋もれていた大きな箱の蓋が開いた。

 

僕はそんな約束を果たすつもりは毛ほどもなかったが、

 

(そして、それを果たさなくてもこの冒険が完遂できるということは転生を繰り返した経験で知っていたが)

 

それでも人形男は地下道への入り口を開けてくれたらしい。

 

僕は箱の中に潜り込んだ。

 

数メートル落下したのち、僕は斜面の上に着地した。だが思ったより急勾配で、そのうえ水が流れている。僕は立っていることができず、斜面の上を滑り始めた。

 

しばらく斜面を滑ったあと、僕たちは中央に柱の立った六角形の部屋の水溜めに落下した。部屋のぐるりに通路がしつらえられている。

 

通路に這い上がると、部屋の北側のあたりに水門があり、その前の天井から先端に輪のついた鎖が垂れ下がっているのが見えた。

 

僕は鎖に近づき、体を一旦かがめると、鎖の先端についた輪に飛びつき噛み付いた。ガチャリと音がして鎖が下がり、水門が開く。

 

鎖を離して着水すると僕らはともどもに水路を流されていった。

 

斜面を流れ落ちる水にしばらくの間流され、僕らはさらに下層の水溜めに落下した。

 

水溜めの上の通路に目を上げると、二本の太い柱の間に階段が見える。その造作から、その先は明らかに通常の市民用施設ではなく城の一部だということが見て取れた。

 

僕はミドナを背中に乗せて岸に上がり、階段を登った。

 

階段の上にはしっかりと整備された回廊があった。左右に燭台が立てられ火が点されている。やはり城の内部に到達したのだ。だが、そこには巨大蜘蛛が二匹いた。一匹は通路に陣取り、もう一匹は回廊の終端の出口らしきところに巣を張った上で天井から糸でぶら下がっている。

 

僕は素早く回廊の終端の出口に駆け寄ると、そこでミドナに声をかけ人間に戻してもらった。

 

(瀕死のところ申し訳ないが仕方ない。)

 

僕はカンテラを取り出すと、素早くそれを振って蜘蛛の巣を焼き払い、出口を抜けて先に進んだ。

 

蜘蛛どもを引き離すと、再びミドナに狼に変えてもらった。

 

すぐに僕らは地下広間に出た。上空には吸血蝙蝠が何羽も飛んでいる。だが広間の北西の壁ぎわの一段高くなった場所に出口があるようだ。だがその出口にも蜘蛛の巣が張っている。

 

広場を素早く横切ってその段差に近づいた。段差に足をかけてよじ登ると、再びミドナに話しかけて人間に戻る。同じようにカンテラで蜘蛛の巣を焼き払うと、僕はまたミドナに狼に戻してもらい先に進んだ。

 

(繰り返すようだが、瀕死のところ申し訳ないとは思っている。)

 

その先は同じような広場だった。二メートルほど下がった床に降り立って周囲を見回すと、先ほどの広場より荒れている。柱が何本も倒れて進めない場所がいくつもあった。

 

だが、道なりに進んでいくと経路はすぐに見つかった。北西の方角に出口が見える。天井近くを飛び回っている蝙蝠どもを無視して前進すると僕は出口に向かった。

 

だが前方にブルブリンが一匹立っている。僕は素早く走ってそいつの脇を抜け、出口から短いトンネルを抜けてその先に出た。

 

そこは直径十メートルほどの丸い部屋だった。その先の通路や扉らしきものは見当たらない。部屋の中にはまたブルブリンが一匹いる。

 

だが僕は知っていた。部屋の中央に秘密の穴がある。僕はブルブリンが喚き始めたのを無視し、部屋の中央に走り寄ると前足で穴を掘った。砂がすぐに崩れ、僕はできた穴の下に飛び降りた。

 

降り立った箇所の壁や床の材質には見覚えがある。僕は部屋の北の隅に狭い通路を見つけると、そこから外に出た。

 

ここはかつて最初に狼に姿を変えられたときハイラル城から脱出する際に通った下水施設だ。

 

右手には鉄格子、左手には螺旋階段が見える。僕は左手に向きを変えると螺旋階段を登り始めた。少し登ると階段が欠落した部分の手前にブルブリンが立っていた。弓矢を持っている。僕に気づくと武器を構えた。

 

僕は再びミドナに声をかけて人間に戻してもらった。盾を上げて、鬼の放った矢を防ぐと、剣を抜いて接近し一刀のもと斬り捨てた。

 

再びミドナに狼に変身させてもらう。今しがた鬼を斬り捨てた箇所の手前から、少し上の階段に向けてロープが張られている。

 

僕はロープに足を乗せ渡り始めた。だが、渡った先の地点から少し右にブルブリンがまた一匹立っている。しかし僕は構わずロープを進んだ。

 

渡り切る寸前で鬼がこちらに気づいて喚き声を上げた。僕は素早くロープから階段の上に移り、身体を一回転させる回転攻撃を繰り出した。弾かれた鬼はバランスを崩し下方に転落していった。

 

僕はそこから階段を駆け上った。段が欠けている隙間を二つほど飛び越えて進む。すると、上から落下して積み上がったらしい石材で行き止まりになっている。以前はミドナに助けてもらって飛び越えたところだ。だが幸いなことにそこからもロープが伸びている。

 

僕は再び綱渡りを開始した。渡りながらも前方を注視すると、向こう岸に敵はいないようだ。渡り切り、そこからまた階段を登る。その階段の終端から伸びるロープをさらに渡っていくと、螺旋階段の終端が近づいているのが見えてきた。だが渡った先の階段を駆け上っていると、再びブルブリンに行き会った。そいつには正面から飛び掛かり嚙み倒した。

 

そこから螺旋階段を一周近くも走り抜けると、再び段が欠落した箇所からロープが張ってある。渡った先の近くにブルブリンが歩哨に立っているのが見えた。

 

だが僕は構わずロープを渡り始めた。僕がロープを渡り切ろうというときに敵はやっと気配に気づいてギョッとした表情で振り返った。

 

僕は全力で速度を上げてロープを渡り切り階段の上に乗った。その瞬間鬼が棍棒を振りかぶってきた。だが僕はその脇を通り過ぎ、先に進んだ。

 

前進すると、また階段が大きく欠落していて、その間に二か所ほど小さな足場がある箇所に出た。その間はロープで結ばれている。

 

僕がロープを渡り始めると、階段が再開している箇所に歩哨がいるのが見えた。だが構わず前進だ。一つ目の足場に到達すると、そこからまたロープ渡りを始めた。

 

ロープを渡り切ると、ブルブリンまでの距離は二メートルもなかった。だが僕は先を急ぐことを選んだ。ブルブリンの脇を通り過ぎると、相手はこちらに気づいて棍棒を振り上げたが、僕は走って階段を登り切った。

 

最上階の金網の床の上には弓矢を携えたブルブリンがいた。だがそれも無視すると、僕は開け放たれた扉から外に出た。

 

扉の外は城壁の上だった。前方に、ブルブリンが二匹立っているのが見える。一匹は警告の叫び声を上げてすぐに弓矢を構えた。

 

僕は真っすぐ突進すると弓兵が矢を放つ前に体当たりして突き倒し、そのまま突破した。城壁を駆け抜け、終端まで来た。

 

左手を見ると、そこにあるもう一層の城壁との間をつなぐ塔の上端にしつらえられた木の足場の下に、木箱が置かれている。

 

最初に僕が動かした位置から変わっていない。僕は木箱によじ登り、そこから足場の上に這い上がった。

 

そこから隣の城壁に飛び降りると、前回と同じ箇所にカーゴロックが止まっている。

 

怪鳥はラッパ音を立てて飛び立った。こちらを付け狙ってくるつもりだ。僕はその城壁の終端まで走り抜けた。

 

城壁の終端まで来ると、正面にある別の塔の上端から、大き目の木の板で組まれた簾のようなものが垂れ下がっているのが見えた。

 

周期的に吹く強い風に煽られ、その端がこちらの城壁の近くにまで吹き上げられている。

 

ぼやぼやしている暇はない。僕は怪鳥が襲ってくる前に、正面の塔から垂れ下がった簾が吹きあげられた瞬間を見極め、城壁の床を蹴って跳躍し簾の上に飛び乗った。

 

強い風の力で支えられた簾の上を駆け抜けると、僕は塔の上に立った。さらに右に方向を取り、僕はジャンプして脇にあった大屋根まで飛び降りた。

 

大屋根の端の、尖塔へ通じる歩哨用の見張り窓を目指し大屋根を斜めに駆け抜ける。もう一匹のカーゴロックが大屋根から飛び立ち、僕を追ってきた。

 

僕は尖塔の足元に達すると、素早く段差を這い上がって見張り窓に駆けこんだ。

 

僕は尖塔の中の狭い螺旋階段に降り立った。階段を駆け上ると、ミドナに声をかけて人間に戻してもらった。

 

特に意味はない。だが、こうしておくと、無害ではあるが世にも不思議な怪現象が起きるのだ。

 

僕は階段の終端にある両開きの扉の隙間から中に滑り込んだ。

 

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部屋の中では何とかいうお姫さんが僕らを迎えてくれた。

 

ミドナの姿はどうしたわけか顔が気色悪いほど生白くなっている。しかも人間の姿であるはずの僕の身体は、見る影もないほど目茶苦茶にひん曲がり始めた。まるで人間が無理やり四つ足の狼の姿勢を取っているような恰好だ。

 

お姫さんが一しきり喋ったあと、ミドナはすっかり回復した。

 

そして僕らはいつの間にかハイラル城下町の北の平原に戻っていた。身体のひん曲がった僕の背中の上にはミドナが乗っている。

 

その瞬間、ハイラル城の周囲を黄色い正八面体の魔法結界が覆った。

 

「くそっ....」

 

ミドナは悔しそうに呟いた。

 

さらに「スキップ」を念じると、ひん曲がった僕の身体はいつの間にか元に戻っていた。ミドナはまた僕の影の中に隠れたようだ。

 

周囲は夜明けだ。

 

さてと、本来ならここからやっと聖剣を探しにいくところなのだが、不正な方法で既にそれを手に入れている僕は、その部分を飛ばして先に進むことができる。

 

僕は、すぐさまミドナに声をかけ、ハイリア湖畔に飛びたい旨告げた。

 

元気になったミドナは快く応じてくれた。僕は狼に変身させられ、たちまち空中に吸い込まれた。

 

数秒後、僕らはハイリア湖畔の広場に降り立っていた。

 

僕は広場から南東に進む木道を渡ると、ミドナに人間に戻してもらい、梯子を登って崖の上に上がった。

 

そこから見渡すと、はるか向こうに高い塔が見える。僕は塔目指して歩き始めた。ふと左手を見ると、風の力で狼の遠吠えを模した音を立てる石碑が立っている。だがそれを無視し先に進み、途中二つほど段差をよじ登った。

 

しばらく走ると僕は塔の下にまで辿り着いた。見上げるとかなりの高さだ。

 

僕は塔の壁にしつらえられた梯子に手をかけて登った。時間をかけてようやく登り切ると、塔の頂上には頭にフードを被った大柄な男が東のほうを向いて立っていた。

 

「リンク殿...ですな?」

 

男は言った。初老の逞しい男だ。僕はその話を辛抱強く聞き流すと、男からメモを貰った。

 

すぐさま塔の天辺から湖に向けて飛び降りる。着水すると僕はここが影の領域だったころ見かけた老人の小屋に向けて泳いだ。

 

しばらく泳ぐと、老人の小屋の手前の木道にまで辿り着いた。老人は尖り屋根の小屋の前で手を後ろに組んで立っている。

 

僕は今回の転生では一度も利用したことがなかったが、この老人は大砲で人を遠くに飛ばす商売をしているのだ。

 

僕は木道に這い上がるとビショビショに濡れたまま老人に近づき、塔の上の男からもらったメモを見せた。

 

「ゲッ....ラフレルの爺さんからじゃねえか」

 

メモを見た老人は頭を掻くと呟いた。

 

「参ったなあ。あの爺さんには頭が上がんねえんだよ」

 

老人は顔を上げて僕を見た。

 

「しょうがねえ。今回特別に裏メニュー用意してやる。オアシスコース、な?代金も一回限りタダだ。んじゃ、今すぐ行くか?それとも後にしとく?」

 

僕はすぐに出発すると答えた。老人は僕を大砲小屋の扉に案内し、中に入れるとバタンと扉を閉めてしまった。

 

そこで僕はまた「スキップ」を念じた。

 

次に気が付いたときには僕は太陽の照り付ける砂漠の上に立っていた。

 

すると、ミドナが「ちょっと話を聞いてほしいんだ」と言ってきた。

 

だが僕は再び「スキップ」を念じた。

 

ミドナの話は一瞬で終わった。これでいい。

 

さて、僕はこれからこの砂漠を横断し、砂漠の処刑場というダンジョンを攻略するつもりだ。

 

だが、その過程でやはりいくつかの技を行使するつもりだ。

 

湖底の神殿と同じで、あらゆることをまともに取り組まずに攻略する決意を固めていた。

 

その過程で、読者の皆様はこの世界の裏側をまたも垣間見ることになるだろう。楽しみにしていていただきたい。

 

(つづく)

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