僕はカカリコ村の泉の前に立っていた。時刻はまだ夜明け前だ。
僕はミドナに頼んで人間に戻してもらうと、道を横切って礼拝所に近づき、扉を開けた。
礼拝所の中には、髪の長い祭司の男と、短い金髪の少女が立っていた。
あれ?確かイリアとかいう......
奇妙だ。僕は転生を繰り返した経験から知っていた。
イリアは一度鬼に誘拐されたが、誘拐者の手を逃れたあと城下町の酒場で世話になっていたはずなのだ。
ところが一方、僕は今回の転生ではイリアを城下町からカカリコ村まで連れてきた記憶がない。
しかし、まあいい。
僕は二人の脇を素通りし、堂内中央の地下室に続く竪穴に飛び込んで飛び降りた。
竪穴を降りて地下道を進むと、地下室には壁に作り付けた燭台に火が灯されていた。
僕は地下道から抜け、左手の壁際にある石像に近づいた。
梟を模したその石像は、よく見ると壁に半分埋め込まれたような形になっている。壁と石像の間にはわずかながら隙間がある。覗き込んでみると、どうやら石像の向こう側には地下道が続いているようだ。
僕は石像の立っている低い台座の上に右側から登った。自分の角度をやや左に向けると、ミドナに合図して狼に変身させてもらった。
たちまち僕の服が脱がされ身体が四つん這いになる。すると、僕の上半身が、壁と石像の間にメリ込んだようなかたちになった。
僕はそこでダッシュした。すると身体がすっぽりと隙間から抜けた。
そこは下り階段の地下道になっている。二十メートルほど進むと、円形の広い部屋に出た。
灯りもなく薄暗い。天井には隙間があるのか、地表の月明かりがうっすらとではあるが射し込んできている。
部屋の中央には巨大なものがうずくまっていた。シルエットだけを見るとまるで脚の生えた生き物のようだ。だが、近づくと明らかに機械物だった。高さは七メートルほどはありそうだ。それは超巨大な大砲なのだ。
僕はミドナに合図すると、それをワープさせてくれるよう念を送った。
彼女は僕の念を(驚くべきことに)ちゃんと察してくれたようだったが、同時に奇妙なことを言い始めた。
「だけどあいつが見てるからなあ....」
この地下室には僕とミドナ以外には誰もいない。僕が転生を繰り返し、不正に聖剣を入手したりしてこの世界の法則を捻じ曲げるようになってから、ミドナはこのように時折奇妙なことを口走るようになってしまった。
ある意味、僕のせいでもあるのだ。やや申し訳ない気持ちになった。
だがここで立ち止まるわけにはいかない。
僕は心の中で地図を思い浮かべると、ラネール地方に強く意識を集中し、ハイラル湖湖畔にワープさせてくれるよう再びミドナに念を送った。
今度は彼女はすんなり言うことを聞いてくれた(そもそも狼である僕の心の中を読めること自体がかなり優秀なのだが...)
ミドナが大砲に魔法をかける。大砲の周囲に赤い稲妻が走った。ミドナが掛け声をかけると、大砲は浮いて宙に吸い込まれた。
僕も自分の身体が中空に吸い込まれるのを感じた。数秒すると、ハイリア湖畔のポータルの下に降り立っていた。大砲は既に傍らにあった。だが、片方の脚が壊れて傾いた無残な姿だ。
僕は人間の姿に戻ると服を着て装備を身に付けた。
さて、これでいい。
この大砲は、天空に行くために必要なものなのだ。
本来なら、天空に行くためには様々な過程を経ないといけない。
砂漠の処刑場を攻略したあと、雪山の廃墟を訪れ、(僕がやったように鎖と鉄球を持った化け物を倒すだけではなく)陰りの鏡の破片に魅入られた女獣人と戦ってこれを正気に戻したり、
さらにはフィローネ地方の森の奥を探索して時を超えた神殿に入り、そこで鎧武者とか超巨大蜘蛛と戦ったり、
加えてイリアとかいう女の記憶を取り戻すため、オルディン地方とラネール地方の境辺りにある隠れ里とかいう場所を訪れ(しかも二度)、
最終的には時の神殿で手に入れた役にも立たない杖を蘇らせ、さらには天空文字というものをハイラル中を駆けまわって集めることで、初めてこの大砲の隠された地下道を塞いでいた石像を動かせるようになるのだ。
だが転生と冒険を繰り返した僕は、そんなことをせずともこの天空砲を入手できることを知ってしまっていた。
ともあれ、大砲を修理するため少し資金を稼がないとならない。
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僕は今いる広場から南西に伸びる狭い坂道を登ると、行き着いた先の岩壁に突き当たったところで左側に伸びる張り出しに移動し、その縁から向こう岸の岩棚に飛び移った。
以前の転生時の記憶でこの辺りに高額ルピーの箱があることを覚えていた。
立っている岩棚の奥に進み、右側の水面を見下ろす。視線を上げると、今いる岩棚から間隙を挟んでもう一つ先の岩棚の右端の下の奥の水面越しに見える水底に箱らしきものが見えた。
僕は水に飛び込むと、箱の見えた場所の上まで泳いだ。そしてミドナに頼んで鉄のブーツを履かせてもらうと、僕は急速に沈んでいった。
水深は五メートルくらいだった。水草の生えた水底にたどり着くと、木の箱に近づいて蓋を開けた。
中にはオレンジルピーが入っていた。僕はミドナに合図してブーツを元に戻して浮上すると、ルビーを仕舞った。
僕はそのまま泳いで、岩棚の間の水路から湖面に戻り、そこから老人の小屋に向かって泳いだ。
小屋の前から伸びる木道に這い上がると、僕はびしょびしょのまま、小屋の前に立っていた老人に近づいた。
「よう兄ちゃん、あんなもんいったいどうやって持ってきたんだい?」
僕が挨拶すると、老人は天空砲を指差して尋ねた。
「自前の大砲を用意するなんざ、よっぽどハマっちまったんだな。ええ?ちょっと俺にも見せてくれよ。自慢の大砲をさあ」
僕は老人とともに天空砲を置いた広場に行った。老人は天空砲の周りを歩き回っていたが、やがて口を開いた。
「こんなもんどこで手に入れたんだ?随分な年代物じゃねえか?」
僕は修理できるか尋ねた。すると老人は少し考えてから答えた。
「まあ起動装置がイカれちまってるがなんとかなりそうだな」
彼は僕に向き直るとニヤリと笑った。
「三百ルピー一括払いでどうだ、兄ちゃん?」
僕がすぐさま財布を開いて即金で手渡すと、老人は少なからず驚いたようだった。
「景気がいいんだな。随分持ってるじゃねえか」
だが、有り難そうにルピーを仕舞うと、老人は両手を打ち合わせた。
「よし、そうと決まったら早速やるか」
作業が始まった。老人はきちんとした工学の知識があるのか、テキパキと作業を進めた。天空砲の周りに足場を組むと、二重滑車を使って砲塔を建て直し、壊れた脚部を修理してつけ直した。
二日目は起動装置の修理に移った。難しそうな作業に見えたが、老人は意外な勤勉さを見せた。工具やらなにやらを駆使し、少しづつ大砲を修復していく。翌朝、老人は砲口から中に入ってしばらく内部を点検していたが、やがて外に出てきた。
「ま、こんなもんだな。直ったぜ」
そう言うと老人は肩をすくめて付け加えた。
「‥‥たぶんな」
老人はいい加減なことを言ってはいたが、僕は心配しなかった。その実大砲はきちんと直っていることを僕は転生の経験で知っていたからだ。
「しかし、こいつはすげえぜ?それこそ天までぶっ飛んじまうかもな」
僕は小屋に戻っていく老人に礼を言うと、改めて大砲を見た。
尾部に穴が空いており、そこに人一人立てるくらいの小さなスペースがある。その壁にはクローショットを引っ掛けられる金属の浮き彫りを施した紋章があった。そこから搭乗するものと見当をつけると、僕はクローショットを右手に嵌めてそれを狙い撃った。
僕はたちまち紋章に引き寄せられた。鉤爪を開いて足場に降りると、クローショットを掛けた紋章のついた壁がが自動的に開き、僕ら半ば強制的に大砲の尾部に転がり込んだ。紋章のついた壁が閉じられる。中に閉じ込められた形だ。
部屋の中は暗かった。扉が開閉したことで自動的に大砲が起動したのか、下の方からガタガタと振動が響いてき始めている。
その瞬間、昇降扉が開いて何者かが中に飛び込んできた。見ると、あの鳥人間親子だ。
「ふう、間に合った!」
おばちゃんは息子を羽の下に抱き抱えると僕の脇に身を寄せた。
「もう、探したわよぉ!どうして早めに知らせてくれなかったのぉ?」
大砲の起動装置から響く轟音に負けないようなよく通る声でおばちゃんが叫んだ。僕が何かを答える前に、大砲がガタンと動いた。両脚で立ち上がったのだろうか。
大砲はまるで独立した生物のように何歩かを歩くと、砲口を持ち上げて角度を調整した。振動と轟音が耐え難いほど大きくなってきている。
僕はそこで「スキップ」を念じた。僕は自分自身の叫び声を聞くと同時に空に打ち上げられていた。
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次の瞬間、派手な音と衝撃がした。僕は自分が水に叩きつけられたのを感じた。
水を掻き浮上する。幸いなことに水深はそれほどでもなかった。水面に顔を出すと、思い切り息を吸いながら立ち泳ぎした。直径五十メートルほどの円形のプールの中らしい。
傍らには鳥人間が水面に浮いていた。両脚をかきながら悠々と周囲を見回している。その息子は小さな羽を羽ばたかせながら母の頭上を飛び回っていた。
「ふう、やっと着いたわ!やっと着いたわ!」
彼女は感嘆の叫び声を上げた。
「お兄ちゃん、ここなのよ!ここは私たち天空人の都なのよ!」
そう言われて僕は改めて周りを見た。東西南北にそれぞれ階段があり、周囲を囲むように設置された通路に登れるようになっている。
今いるプールの北側には長い廊下が伸びて、その終端が背の高い建造物に行き当たっていた。目を凝らすと、どうやらその建造物の東西にも別の棟が一つづつ浮いているようだ。また、プールの西側にも廊下が伸びており、それは小さな半球形の建物に繋がっている。
後ろを振り返ると、南側には短い通路を介して円形の小さな足場があり、その上には僕らがたった今使った大砲と寸分違わず同じ形式の大砲が据えられていた。こちらは壊れてはいないようだ。
「お兄ちゃん、せっかく来てくれたんだから私がここを案内してあげるわ!」
おばちゃんがそう言った瞬間、不気味な叫び声のようなものが空に響き渡った。
巨大な獣が叫ぶような声だ。気配を感じて空を見上げると、大きな翼を広げた生物が南側上空からこちらに近づいてきていた。
その全長は頭の先から尻尾の先までで二十メートル以上、翼の両端は三十メートルはありそうだった。二本の脚先には鋭い鉤爪がある。翼の中途からも同じような鉤爪が生えていた。
竜だ。
竜が近づいてくるとその細かい様子が見えた。頭、首、胴体、両の太腿、さらに翼を支える骨格の一部にまで黒い金属でできた鎧が装着されている。そのパックリ開いた口には鋭い牙が多数並んでいた。
竜は僕たちには気づかなかったのか、そのままプールの上を通り過ぎて北側の建物の群れに向かっていった。
その時、プールの西側に伸びる通路からこちらに駆けてくる小さな影があった。
別の鳥人間だ。その鳥人間はプールの際まで来るとおばちゃんに何事か呼び掛けた。咳き込むような早口の言葉だ。
二人の鳥人間はしばらく会話していたが、やがて新しく来た方の鳥人間はもと来た西側の通路を戻っていった。
おばちゃんが僕の方を向いて言った。
「困ったわぁ、今なんでも竜が都の周りで暴れまわってるんですって!」
おばちゃんは息子とともにプールから上がりながら続けた。
「私、みんなが心配だからあのお店の様子見に行くわね」
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僕はおばちゃんにはついて行かないことにした。他のダンジョンではとても使えるおばちゃんだったが、ここではただ単にここに戻されるだけで、以前のように攻略を済ませた場所から再開することはもうできないのだ。
僕は南東のほうに泳ぐと、南側にあるプールから上がる階段の先の水底にあるはずの箱を探した。
果たして、以前の転生の記憶どおり、そこに大きな宝箱があった。僕はミドナに合図して鉄のブーツを履かせてもらった。
水底に沈み、箱を開けると中には水中爆弾が入っていた。
ここでは使わないが、後で再び役に立つことになる。僕はゴロンからもらった爆弾袋の中に、その水中爆弾を入れるだけ入れた。
次に、僕は水から上がるとプールの周囲の通路を回り込み、北側の建物に向かう廊下に入った。
廊下を渡ろうとすると、風が周期的に猛烈な強風になる。吹き飛ばされないようにミドナに鉄のブーツを出してもらった。しばらく身を低くして風をしのぐ。
風が止んだ瞬間に僕は廊下をダッシュし始めた。
進んでいると、草むらから案の定ヘビババの巨大な花弁が顔を出してきた。だがそいつの脇を通り過ぎ進んでいく。
もう一ヶ所ヘビババが生えていたので同じように通り過ぎ、廊下の終端近くにやってきた。
目の前には背の高い丸い屋根の建物がある。扉はついているが、頑丈そうな柵がかかっている。
建物の扉の上を見ると五メートルほどの高さにクリスタルスイッチが設置されていた。僕はクローショットを腕に嵌めてスイッチを狙い撃ってみた。鉤爪が当たるとスイッチが変色し、扉を塞いでいた柵が開いた。
進み出て扉を押し上げ、先に進んだ。
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内部は幅が五十メートル奥行き百五十メートルほどで天井が高い建物だった。四角を描くような配置で四ヵ所に円柱が立てられている。
奥に向かって左手にある二本は途中で崩れ果てており、残り二本には蔦がびっしりと生えていた。それどころか、扉を出たところの少し先は床が丸々抜け落ちており、下に広がる雲海が顔を覗かせている。壁や床のそこここに鳥人間たちが歩き回っていた。
床の脱落した先の向こう岸を見ると、どうやら床が無事な箇所が部屋の真ん中あたりにある。だがそこから先の床もまた途中で抜け落ちている。そして部屋の向こう側まで行くとやっと無事な床があり、そこから段差を登って突き当たりの扉に行けるようになっていた。
僕は目の前の床の縁にまで進んでみた。部屋の中ほどの床が残っているところには湖底の神殿で見かけたのと同じ、兜つきのずんぐりした豚がうろついている。部屋の向こう岸の扉の前の段差の下にも同じ奴が二匹行き来していた。
現在立っている足場の右手の方にある、蔦に覆われた円柱の向こう側まで回り込んだ。部屋の真ん中の岸の同じような箇所にある円柱までクローショットが届きそうだ。
僕はクローショットを手に嵌めて慎重に狙いをつけて放った。鉤爪が向こうの円柱を包む蔦に引っ掛かり、僕は間隙を渡ることができた。
鍵爪を開いて下に降りる。円柱の周囲の床は周りに比べて高い。さらに間隙を一つ挟んだ先の、部屋の北端にある岸を見渡すと、そこへの距離は比較的短く、こちらからの高低差も大きい。
思いきり飛べば届く。僕は深呼吸すると、助走をつけて向こう岸に向かって飛び出した。高低差のお陰でかなりの距離を稼げた。さらに僕は空中で剣を抜いてジャンプ斬りを放った。
剣の重みを慣性力として使い、跳躍距離に不足があったのをどうにか補って向こう岸に降り立った。
だが、そこの床は脆く、体重が乗るとすぐ脱落してもらうことを僕は転生の経験で知っていた。
ガタリと音がして足元の床の一メートル半四方ほどの石材ブロックがゆっくりと落ち始めるところを、僕は剣を納めて前転し、素早く前方に移動した。
兜付き蜥蜴の化け物がこちらに気づいて突進してくるのを横に回り込んで回避する。
再び前方にダッシュし建物にしっかり固定されたブロックに乗る。だがもう一匹の化け物が僕を見咎めてこちらに向き直る。相手が豚のような声を上げてこちらに突進してくるのを再び回避し、僕は突き当りの右手の奥に進み段差を登った。
さらに左手にあったもう一つの段差を登って僕は扉の前にたどり着いた。
さてここで一つの技を行う必要がある。
僕はミドナに頼んで狼に変身させてもらうと、北側正面の扉に向き直った。
慎重に位置を調整し扉の真正面に立つと、ゆっくりと前進し近づき始めた。
じれったいほどの遅い足取りで扉に近づいていく。
僕は、僕の鼻先が扉に触れるか触れないかのところで、心の中で「開く」と念じた。
その途端、扉が開いた。この扉は自動なのだ。
僕らは扉を抜けて次の部屋に入った。
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そこは直径二百メートルほどの巨大な円形の部屋だった。
部屋の中央には、兜を被った豚の巨大版がうろついていた。右手と左手に外に出る扉がある。正面、すなわち前方にも、短い階段で高くなった場所の先に扉がついていた。
部屋の高い天井を見上げると、その中心には大きな穴があり、そこに巨大なプロペラが設置されていた。
だがそのプロペラは回転していない。
技が成功したのだ。このことは後で大きな違いを生むのだ。
僕はすぐにミドナに人間に戻してもらうと、部屋の中を改めて見回してみた。
壁の高所には、所々広い出窓がついている。窓にはガラスではなく金網がかかっていた。
右手の壁の手前の出窓の金網に破れがある。僕そちらに歩いて近づき、クローショットを手に嵌めて金網を狙った。
金網に鉤爪がかかり、僕は出窓に引き寄せられて飛び移った。破れ目から外に出ると、壁に生えた蔦を伝って下のバルコニーに降りられるようになっていた。
出窓に立って眺めると、現在いる建物の東側に浮いている棟がよく見えた。丸い屋根がてっぺんに乗った構造物を複数組み合わせた形をしており、底部には巨大なプロペラがいくつも設置されていて回転していた。
バルコニーに降りると、右手はすぐ行き止まりになっていたが、左手は途中で床の脱落した間隙を挟んで先に続いている。どうやらバルコニーはこの建物の東側の扉の前まで続いているようだ。
僕はバルコニーの右手の行き止まりの前にスピナーを嵌め込むための穴があることに気づいた。砂漠の処刑場で見かけたのと同じだ。
ミドナにスピナーを出してもらうと、穴に嵌め込んで起動させた。足でステップを押し込んで回転を加速させると、重い物が動く音が足下から響いてきた。床下にある何らかの機械装置が作動し始めたらしい。
床の板が剥がれている箇所に露出している歯車が回転し始めた。巨大な何かが転がるような音とともに、建物の東側の扉の下あたりから渡り廊下がせり出してきた。
スピナーを回し続けると、どうやら百メートルほどの渡り廊下が東側の棟まで伸びて到達したらしく、衝撃音がして全ての機械が止まった。
僕は出て来た窓から見て左側の、床の抜け落ちている場所まで移動すると、対岸を見渡した。脱落した部分の切り口に蔦がびっしりと生えているのでクローショットで渡れそうだ。
クローショットを撃つと蔦に鉤爪か引っ掛かり僕は向こう岸に飛び移った。床に這い上がると、せり出してきたばかりの渡り廊下に入った。
頭上にはカーゴロックが何匹も飛んでいる。僕は急ぎ足で渡り廊下を進み、渡った先の建物の扉を開けて中に入った。
内部は一転して静かな部屋だった。鳥人間も魔物どももおらず、二、三個の壺が右手の壁際に転がっているだけで特段資材も置かれていない。
幅二十メートル、奥行き五十メートルほどの大きさだ。天井が高い。蔦類は蔓延っていなかったが、それがかえって殺風景な印象を与えている。
奥の方に向かうと、突き当たりの右手には床が吹き抜けになっている箇所がある。その奥右手には狭い足場が壁の角にくっついていた。
足場の上には大きな木の箱が置いてある。足場の周囲には柵がかかっているので飛び移るのは難しそうだ。だが、ちょうど足場の真上の天井にクローショットが引っ掛かる金属の浮き彫りの紋章がついている。
僕は天井の紋章を狙ってクローショットを撃った。鉤爪が引っ掛かり、たちまち天井まで引き上げられた。鉤爪を放して足場に降りると、木の箱を開けてみた。中身は小さな金属の鍵だ。これも役に立つ。僕は鍵をポーチに仕舞っておいた。
次に僕は、蓋の開いた箱の横に立つと、二度サイドホップして蓋の上に微妙なバランスを取って立った。
そこから跳躍すると、狭い足場の西側の欄干の上に着地し、さらにそこからジャンプしつつジャンプ斬りを放った。
僕は足場の前の間隙を越えて床の上に降り立った。ここでの作業はこれで終わりだ。
僕は部屋に入ってきたとき使った扉から外に出ると、吹きさらしの渡り廊下をダッシュして渡った。
だが、渡り切る前に僕は足を止めた。
ここに罠があることを僕は知っていたからだ。
僕は、南側にある低い転落防止塀の残骸の横に立つとサイドホップしてその上に登った。すぐにミドナ合図して鉄のブーツを履かせてもらう。
やがて強風が吹いてきた。ブーツのお陰で大丈夫だったが、今度はあのしつこいカーゴロックが目を付けてきた。
怪鳥が近づいてきたところで僕は剣の一撃を喰らわせた。怪鳥が大人しくなった束の間の間に、僕は向きを変えて、中央棟の扉に続く階段の左右の手すりに目を向けた。
風が止んだところでミドナに合図してブーツを元に戻してもらうと、方向を見定め、その手すりの上に飛び乗る。
さらにそこから手すりの傾斜を登って左に進路をとり、僕は南に伸びたバルコニーの上に飛び降りた。
僕はクローショットを取り出すと、バルコニーの欠落部分の手前に立った。その向こう岸を見ると、先ほど出てきた中央広間の窓の下に蔦が生えている。
僕はクローショットで蔦に狙いをつけて撃った。引き寄せられて蔦にしがみつくと、僕はそこをよじ登って窓の金網の破れ目から中に入った。
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僕は窓枠に立つと、再びクローショットを手に嵌めて部屋の中央部近くに残っている蔦だらけの円柱の一本を狙った。
クローショットを撃つと、鉤爪が蔦に引っ掛かった。円柱に引き寄せられ、蔦にしがみつくことに成功した。
蔦を横移動していき、円柱の正反対にまで来ると、下方は床ブロックが一列だけ西に向かって続いていて、中央部分の床に繋がっている。
僕は下に飛び降りると床ブロックの列の上を移動し、広間の床に辿り着いた。
さてと、今度は西側の棟を探索しなければならない。それが終わったら、北側の棟もだ。
だが、僕は今までの転生の経験から、それぞれの場所には空も飛べて剣も使える厄介な敵がいることを知っていた。
僕はそいつらと戦わずに済ましてこの天空都市での冒険を完遂する算段を固めていた。
(ただ、竜とはどうしても戦わなくてはならないが。)
怖いからでも、平和主義だからでもない。
ただ単に非効率だからだ。
転生を繰り返し経験を積んだいま、僕は勇者のように正々堂々と戦うのが立派だとは考えてはいなかった。
むしろ、人知れず潜入し、欲しいものだけをこっそり頂く、そんな冒険の仕方を志すようになっていたのだ。
(つづく)