黄昏の姫と緑の勇者:転生者チート編   作:nocomimi

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ミドナの激しい思い込みのお陰で、冒険の過程を二つほどスッ飛ばして影の宮殿へ直行するのだ

扉を開けた先は、最上層の一つ下にあるバルコニーだった。

 

横長の構造で、上の階層が庇がわりに覆い被さっている。転落防止の手摺りはあらかた崩壊していた。目の前の空は雲行きが悪くなってきている。来たときは快晴と思えたが、今は湿った風が吹き始め、雨雲が集まってきているようだ。

 

上に目を上げると、左上方に最上層の床から下がっている円柱の名残りが見えた。途中から崩れているので今いる階層には達していないが、濃い蔦がそこらじゅうにびっしりと生えている。

 

僕は右手にクローショットを嵌めると、円柱の表面の蔦を狙い撃った。たちまち身体が引き上げられた僕は蔦にしがみついた。そこから蔦をよじ登っていく。そうしてどうにか最後まで円柱を登り切り、その上にたどり着いた。

 

そこは直径二百メートルほどの屋上庭園だった。手入れされずに一面に雑草が生えている中に、ところどころプロペラの木の実が地面から半分ほど顔を出して埋まっている。鳥人間たちが埋めたものが発芽せず残っているのかも知れない。

 

外縁近くの四ヶ所に高さ五十メートルほどの柱が立っている。柱は見たところ二本一組となっており、ペアとなる二本は互いに近接している一方で他の二本とは離れている。柱の内側には一面に金網が張られている。この柱がクローショットを使った移動に適しているということを僕は知っていた。 

 

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その時、獣の叫び声が空に響き渡った。顔を上げると、庭を囲む柱の頂上のあたりで竜が羽を羽ばたかせホバリングしている。だが竜はすぐに方向を変えて滑空を始めた。広場の上空を一週したあと、四本の柱の間に飛んできてそこで羽を羽ばたかせ滞空し、再び吠え声を上げた。

 

竜はそうしたあと一旦上空から飛び去った。そして悠々と大きく弧を描くように飛び、再び戻ってきた。高度を下げると、両足の爪を大きく広げ、速度を落として地面すれすれに滑空してきた。

 

僕は素早く横に転がって回避した。竜の長い鉤爪が屋上庭園の床材と擦れあって火花を散らした。威嚇効果だけで満足したのか、竜は一度飛び去っていった。

 

だが、僕は翼に風を受けて滑空する竜の長い尾の先端に金属細工でできて先端の尖った武具がついていたのを見逃さなかった。

 

ああいう役にも立たないチャラい飾りをつけてる奴は必ずそのせいで痛い目に遭うのだ。僕は今までの転生で行ってきたように、そこにクローショットを撃ち込んでぶら下がったうえで、鉄のブーツを履いて思い切り引っ張ってやる算段を固めていた。

 

(およそどんな動物でも尻尾を引っ張られて嫌がらない奴はいない。おっと、僕は普段は動物に絶対嫌がらせなんかしないけどね。このような特殊な場合だけだ。)

 

やがて風の力で滑空しながら弧を描き、竜がこちらに接近してきた。竜は四本の柱の間の上空に入ってくると、激しく羽ばたいて滞空しながらまた吠え声を上げた。

 

僕はクローショットを右手に嵌め、頭上に垂れ下がってきていた竜の尾の先端に装着された金属の衝角を狙って撃った。

 

クローショットの鉤爪が引っ掛かり僕はたちまち引き上げられ竜の尾にぶら下がった。その瞬間にミドナに合図し、僕の両足に鉄のブーツが装着された。

 

いかに強い翼を持つ竜といえども突然の荷重で尻尾を激しく引っ張られたらかなわない。慌てて羽ばたきの速度を上げたが間に合わない。竜は引きずり下ろされると、胴体から激しく地面に叩きつけられた。翼を支える腕や胸や脚に装着された黒い金属の鎧が弾け飛んだ。

 

だが、僕はこれ以上の打撃は与えられないことを知っていた。ミドナに合図してブーツを元に戻させ、素早く竜から距離を取った。

 

竜はやにわに頭を持ち上げると羽ばたきをした。たちまちその体が浮上する。竜は一声吠えると飛び去っていった。僕はその翼が起こした強い風を受けてやや後退させられた。

 

顔を上げると、飛び去った竜のシルエットが遠くの空に見える。だがそれは方向を変えて次第に近づいてきていた。今度は高度が低い。

 

僕は横に走って庭の外縁にある柱の一本の下に身を寄せた。高速で低空飛行してきた竜は、案の定鉤爪を大きく開いて庭園の地面を削り取るように通り過ぎて行った。

 

僕はすぐに柱の一本に向けてクローショットを撃った。柱の側面にしつらえられた金網に取り付くと、隣の柱の少し上方を狙ってもう一つのクローショットを撃ち、飛び付いた。

 

そうしてある程度の高度を確保して待ち構えていると、一旦庭園を離れた竜が上空を遠巻きに一週した後また近づいてきた。

 

やがて竜は僕の少し上方でホバリングし始めた。僕は柱にしがみつきながら竜の尾の先端をクローショットで狙って撃った。身体が引き寄せられ、僕が竜の尾にぶら下がる。同時にミドナに合図すると両足のブーツが入れ換えられ、鉄のブーツになった。

 

凄まじい重さをいきなり加えられ、竜は再び泡を食ったように羽ばたき始めた。その尾はぶら下がる僕の重みにより、胴体から引き抜かれんばかりにピンと真っ直ぐ伸ばされていた。耐え切れなくなった竜は揚力を失って地面に墜落した。胴体から地面に激突することで、また胸や腹の鎧が割れて弾け飛ぶ。

 

僕は着地するとミドナに合図し両足のブーツを皮のブーツに戻させた。

 

用心深い構えて観察していると、竜はガバっと起き上がり、羽ばたいて浮上した。激しい羽ばたきで上昇しながら、また吠え声を上げた。一度、二度、三度と吠えると、滞空しながら身体を激しく揺すり始めた。竜の身体にまとわりついていた鎧の破片がたちまち周囲に振り飛ばされ、庭園の地面に次々と落ちてきた。

 

竜は激怒しているのが明らかだった。彼が二つの羽を思い切り羽ばたかせると、僕のいる庭に強烈な風が吹き付けてきた。風圧でよろめいた僕は、ミドナに合図して再び鉄のブーツを装着した。竜はしばらくの間こちらの上空で羽ばたき続けたあと、方角を変えてどこかに飛び去った。

 

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その時、頭上から雨垂れがポツポツと降ってきた。上空を見上げると、先程から垂れ込めていた雨雲が一層濃くなっている。ほどなく雨が本降りになり、風も吹いてきて雨滴が横殴りに僕の顔に当たり始めた。

 

降り注ぐ雨が地面の草むらに当たって音を立てる。すると、そこここに埋まっていたプロペラの木の実の天辺に生えている葉が大きく開き、次いで回転し始めた。

 

葉の回転で揚力が生じて、プロペラの木の実はひとつまたひとつと埋まっていた地面から上昇していった。やがて木の実の群れが僕たちのいる広場の上空に円を描くように浮遊し始めた。風に煽られながらも、概ね同じ場所に留まっている。

 

僕は、今のうち高いポジションを確保することにした。両腕にクローショットを装着すると、まず手近の柱の側面の金網を狙って撃った。身体が引き上げられ、金網に飛び付くと、そこから対になる柱を狙う。少し上方をめがけてクローショットを撃ち、向こう側に飛び移ると、再び元いた柱のほうを振り返って、現在地より上方の部分を狙ってクローショットを撃った。

 

飛び移った先から、対になる柱の頂上近くの金網をまたクローショットで狙い撃つ。飛び移った先で、柱の天辺までよじ登った。

 

雨がますます激しくなっている。遠くの空に稲光が走るのが僕の目を引いた。

 

同時に、その頃には竜がほとんど目の前の空に来てホバリングしていたのに気づいた。

 

竜は一声吠えると、大きく喉を膨らませながら頭を上に向けた。火炎放射が来る。

 

僕は少し上方を浮遊していたプロペラの木の実を狙ってクローショットで撃った。

 

飛び移った瞬間に竜の口から火炎が放たれた。さっきまで僕が居た場所が炎に包まれる。クローショットの鉤爪で木の実にぶら下がりながら、僕は一つ右隣を浮遊するプロペラの木の実をクローショットで狙い撃った。飛び移ると、火炎からやや距離が出来た。見ると、同じ高さにはプロペラの木の実が円を描くような配置で多数浮遊している。

 

僕は火炎から距離を取るべく次々と木の実を移動していった。さすがの竜も、高速で木の実の間を移動する僕の姿を追尾し切れなくなったらしい。竜が火炎放射をやめて辺りを見回し始めたときには、僕は相手の背後に位置するプロペラの木の実にぶら下がっていた。

 

初めて竜の背中が見えた。そこに金属の枠に嵌め込まれた大きな楕円形の宝玉が光っている。あれが弱点だ。

 

クローショットを向けると、僕はその宝玉の枠目掛けて撃った。鉤爪が飛んで行き金属枠に引っ掛かった。僕は木の実にぶら下がっているほうの鉤爪を開くと、一気に竜の背中に飛び付いた。クローショットを手放すと、左手で宝玉の金枠を掴んで右手で剣を抜いた。

 

両足を竜の背中に掛けながら剣を思い切り振るって宝玉に斬りつけた。硬いガラス質を剣の刃が叩く。一度。二度。三度。四度に渡って剣を叩きつけると、破壊音がして宝玉に亀裂が走る。

 

竜は苦痛の吠え声を上げて首をのたうち回らせ、羽をばたつかせて暴れた末、落下し始めた。僕は剣を背中に納めると両手で懸命に竜の背中の宝玉の枠にしがみついた。

 

竜が眼下の庭園に墜落していく。だが、羽ばたきをせずとも羽を広げていたのが落下速度を弱めた。竜が広場にバサリと落ちると、僕はその背から飛び降りた。予想通り、竜はすぐ立ち直って再び羽ばたき上昇した。 

 

方角を変えると竜は庭園の上空から一旦飛び去った。だが旋回して戻ってくるのは間違いない。

 

僕は手近の柱を見上げるとその側面の金網に向けてクローショットを撃った。二本の柱に交互に飛び移り、最終的に一本の柱の頂上によじ登ると、既に竜はこちらに戻ってきていた。

 

四本の柱の間で、その頂点近くの高さでホバリングしながら、竜は咆哮を上げて頭を持ち上げた。僕は横に浮遊していたプロペラの木の実をクローショットで狙い撃って飛び付いた。

 

凄まじい炎の熱が近くを通り過ぎるのが感じられた。さっきまでいた柱の頂上を炎が包んで焦がしている。

 

僕はさらに隣の木の実にクローショットで飛び移り、そこから次々と隣の木の実に移動していった。またも獲物を取り逃がしたことに気づいた竜は火炎放射を止めた。だがその頃には僕は竜の背後に位置する木の実の下にぶら下がっていた。

 

竜の背中についた宝玉を固定する金属の枠に向けてクローショットを放つ。僕はたちまち竜の背中に引き寄せられて飛び付いた。

 

金属の枠に左手でしがみつき、剣を抜くと宝玉に痛烈な打撃を与えた。一度。二度。三度。四度。切っ先が金属の枠に当たって火花が散る一方で刀身が宝玉に強い衝撃を与え、先刻の攻撃で生じた亀裂が広がっていった。

 

竜は苦痛と怒りの咆哮を上げ、どうにか僕を振り落とそうともがいた。だが僕は剣を納めて両手でその背中にしがみついた。竜は苦しげに身悶えしながら高度を下げると、庭園の地面に不時着し、身体をバタバタと引っ繰り返した。僕はその背から飛び降りて転がり、竜から距離を置いた。

 

だが竜はすぐ立ち直った。ひと吠えして首を上げると羽ばたきして離陸し、庭園から一旦離れた。遠くの空を弧を描いて飛び回っていたが、またこちらに近づいてきている。

 

僕はクローショットで柱の中途を狙い、撃って飛び付くと、そこから向かい側の柱の上方に飛び移った。ジグザグに柱の間を移動してき、柱の天辺に近くに取り付くと頂上によじ登った。

 

竜は怒り心頭の様子で急速にこちらに飛んで来ると、一声咆哮を上げ、柱の頂上近くでホバリングしながら首を膨らませ頭を大きく上げた。

 

僕は迷わず柱の隣にあったプロペラの木の実をクローショットで撃って飛び移った。竜の口から迸る炎の奔流が体をかすめる。竜はこちらの動きを察知し、身体を横に回しならが炎の方向を変えてきた。木の実にぶら下がっていてもあっという間に炎が迫ってくる。

 

僕はミドナに合図し、鉄のブーツを履いた。ぶら下がっていたプロペラの木の実が急激に高度を下げる。それと同時にややクローショットの鎖を伸ばした。炎が頭上を通り過ぎる。僕はミドナに合図し、ブーツを元に戻させると、隣のプロペラの木の実目掛けてクローショットを撃つ。さらにその隣へと次々にクローショットを撃って移動していった。

 

その時、竜が突然火炎放射を止めた。羽ばたきしながら身体をぐるりと横に回したかと思うと、自分の真後ろに方向を変えて再び頭を持ち上げた。

 

相手はこちらが背後に回ろうとしているのに気づいたのだ。

 

だがそれも想定済みだ。

 

二つ目、三つ目から四つ目のプロペラの木の実に移ろうとした瞬間、竜が僕の進もうとしていた先の空間に強烈な火炎放射を始めた。僕は自分も方向を変えてたった今離れたばかりのプロペラの木の実に向けてクローショットを撃って飛び移った。

 

プロペラの木の実を次々とクローショットで元の方向に飛び移っていく。雷鳴が轟き、雨がますます激しくなっていくなか、竜は僕の位置を失ったと見えた。僕が竜の丁度真後ろのプロペラの木の実に到達したとき、竜は再び火炎放射を止めた。

 

僕は顔を後ろに振り向け、クローショットで竜の背中を狙って撃った。飛び出した鉤爪が竜の背中の宝玉の周囲の枠に引っ掛かり、僕はたちまちそこに飛び付いた。

 

両脚で竜の背の上に立つと、僕は剣を抜いた。両手で剣を逆手に持ち宝玉の亀裂に向かって一息に突き立てた。そして渾身の力を込めて刃を突き入れると剣をこじった。宝玉が損傷に耐え切れず真っ二つに割れた。

 

竜は激しい苦痛の叫び声を上げた。そして首を左右に振りながら高度を上げ、それから突然急降下し始めた。僕は剣を納めると必死でその背中にしがみついた。眼下の庭がぐんぐん近づいてくる。

 

竜が激突する寸前に針路を変え床すれすれに飛び始めたとき、僕は咄嗟にその背から飛び降り、草むらの上に転がった。竜は羽ばたくと再び上昇した。だがその軌道はもはや瀕死の蛾のように心もとない。最後の力を振り絞った竜が空中でひときわ高い断末魔の叫び声を上げ、口から炎を吐き出した。すると、次の瞬間突然その体が崩れ始めた。その背中に装着されていた宝玉が溶けていく。

 

上空でバラバラになった竜の遺骸の中から何かが飛び出してきた。ミドナが空中に飛んでいくと、その残滓の中から黒い破片をつかみ出した。

 

影の鏡のかけらだ。

 

竜の身体の破片はもはや紙を燃やした灰のように細かくなって僕の回りに降り注いでいた。あれほど激しかった雷雨がいつの間にか嘘のように止み、空に晴れ間が広がりはじめている。

 

ミドナは僕のほうに戻ってきて言った。

 

「やったなリンク。これで陰りの鏡の破片が全て揃った」

 

ミドナは少しの間その手に持った鏡の破片を見つめたあと、それをどこかに収納した。 

 

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またもミドナが奇妙なことを口走ったので、僕は少し心が痛んだ。

 

僕が、聖剣を不正入手するなどしてこの世界の秩序を捻じ曲げていることの副作用なのか、彼女はひどく思い込みが激しくなってしまったのだ。

 

本来、陰りの鏡、つまりザントのいる世界でありミドナの故郷でもある影の国にワープするための道具である鏡の破片を回収するには、この天空都市だけでなく、雪山の廃墟であの女獣人と戦って正気に戻したり、さらにフィローネ地方の森の奥にある時を超えた神殿で超巨大蜘蛛を倒さねばならない。

 

そうして手に入れなければならない二つの破片をまだ手にしていないのに、ミドナはもう破片が全て揃ったと思い込んでいるのだ。

 

だが、僕はそれを訂正せずにおいた。

 

「やり残したことはないな?」

 

ミドナが尋ねてきた。僕は頷くと、彼女の足元に出現した黒い渦巻まで歩を進めた。

 

僕らはミドナの短距離ワープ術で、天空都市まで飛ばされたとき最初に放り込まれたプールのやや南側にある、大砲を据えた足場まで飛んだ。

 

僕はミドナに頼んで鉄のブーツを履かせてもらうと、大砲の末尾部分の壁に嵌め込まれた金属の紋章をクローショットで撃った。引き寄せられてその足場に降り立つと、昇降扉が自動的に開いてリンクたちは発車室に滑り込んだ。起動装置が動き始めた。

 

僕が「スキップ」を念じると、次の瞬間自分の叫び声が聞こえ、僕らは勢いよく空に撃ち出されていた。

 

気が付くと僕はハイリア湖の上空に戻っていた。もはや大砲に与えられた推力を失った僕は真っすぐ下に落下している。覚えず悲鳴が口をついて出る。

 

だが、僕は下に老人の大砲小屋が見えたところで剣を抜きジャンプ斬りを繰り出した。

 

ジャンプ斬りの慣性力により、僕の落下地点はうまいこと大砲小屋の木道の前に位置が合った。僕はガシャンと派手な音を立てて木道に着地した。

 

あんな高所から飛び降りたのに、完全に無傷だった。まったくもって不思議だが。

 

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僕はミドナに頼んでブーツを元に戻してもらうと、木道が曲がるところまで走り、柵の陰に隠れてミドナにワープを頼んだ。

 

行先は砂漠の処刑場の鏡の間だ。ミドナが僕を狼に変身させ、すぐワープを開始した。

 

数秒すると、僕らは鏡の間の広間の砂地に降り立っていた。僕は広間の中央に立っている女神像に走り寄ると同時に、心に「スキップ」を念じた。

 

すると不思議なことに、次の瞬間には情景が一辺していた。

 

砂地には数メートル四方の台座が出現していて、その上に大きな鏡が鎮座している。

 

(本来なら、最初に砂漠の処刑場を攻略しこの鏡の間で影の使者たちを倒したあと、スピナーを使って女神像に登り、その頭部の上でまたスピナーを回して陰りの鏡の台座を出現させるという七面倒くさい手順を踏まなければならなかったのだ。だが、僕はそれをスッ飛ばして無理やりワープしその場を離れたのは皆さんご存じの通り。そのせいか、天空で陰りの鏡の破片を回収したあとこの鏡の間を訪れると、なぜか僕のいない間にこの飛ばした手順が行われたことになっているらしい。)

 

破片は一つしか回収していないのに、なぜか枠に残存した鏡の部分に加えて合計三つの破片が真円形をぴったりと構成していた。しかも鏡は不思議な光線を発している。

 

以前は、外壁沿いに立つ背の高い円柱から伸びる鎖でちょうど向かい側に吊るされていた巨大な岩盤は、いつの間にか砂地に突き刺さっている。

 

そして、鏡から発した光線が岩盤に直接照射され、幾重にも重なった円形の文様がその黒い表面に浮かび上がってきた。その文様は一層づつが互い違いに回転している。

 

僕らは岩盤のほうに進み出た。鏡の台座からはいつの間にか半透明の階段が岩盤のほうに向かって伸びている。その上に登ると、やはり半透明で円形の足場がそこにできている。

 

足場に乗ると、周囲の音が遮断され静かになった。その直後に、その場に静止していながら高速で進んでいるような風の音が聞こえ始めた。

 

僕らはワープ用のポータルに吸い込まれるように、岩盤に映された模様に吸い込まれていった。

 

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鏡の間で岩盤の中に吸い込まれた僕は、数秒経つと別の場所に立っていることに気づいた。

 

目を上げると、一面の空は紫ともオレンジともつかない美しい色に染まっている。遠くまで続く視界には地平線も水平線も見えない。ただただ同じ空が続いているだけだ。そしてその空のところどころには黒い雲が漂っている。

 

自分たちが立っている場所は石造りの床だった。足元には、転送される前に立っていたのと同じような円形の足場がある。だが、よく周りを見回すと、その石造りの床は背後で切れて崖になっていた。崖の下は底も見えないほどの深さなのか、濃い影だけが広がっている。

 

前方に目を上げると、巨大な建物が三つ聳え立っていた。ハイラルで見たようなものと違い、四角く細長い箱をそのまま立てたような形状だ。

 

建物のほうに向かって歩いていく。周囲の地形は極めて特殊だ。前方には長い坂道があり、それが中央の建物に向かって続いている。だがその建物の前には奇妙な滝のようなものがあり前進を阻んでいるようだった。その滝は水ではなく、真っ黒な煙のような気体を上から下に流したものだった。

 

階段の手前には円形の野外広場があるのが見えた。その広場には何人かの人影が見える。そこから右手に道が伸び、北へ折れてからやや小さな建物の入り口に繋がっている。左手の建物に向かっても同様の道が伸びているが、それは途中で崩れており、渡れないほどの広い間隙が出来ていた。

 

これらの構造物の下には何もない。支える地面どころか柱のようなものさえも見当たらない。浮島なのだ。

 

「リンク、お前に頼みがあるんだ。しばらくの間私をお前の影の一部ということにしておいて欲しい」

 

ミドナが話しかけてきた。

 

「私は一度民を見捨ててここを逃げ出したんだ。それなのに私を慕ってくれた民は今もザントの圧政の下で苦しみながら助けを待ってる。それで助けに来たのがこんな怪物のような姿だったら彼らもがっかりするだろ?」

 

僕が黙って聞いていると、ミドナは言った。

 

「ザントの奴を倒せば、この呪いは消える。私は元の姿に戻れる。だからそれまでの間、そうしておきたいんだ。いいだろ?」

 

僕は頷いた。彼女は安心したように僕の影の中に入った。

 

だが顔を上げて広場のほうを見ると、僕は様子がおかしいことに気づいた。二、三人の人影が見えるが、皆が皆炭のような黒い身体をし、ぼうぼうの長い髪の毛に平らな面をつけている。

 

ミドナがまた出てきて叫んだ。

 

「リンク、待て!手を出すな!あいつらはまだ人の心を無くしていないはずだ。洗脳と変身が完成していない。だいいち私たちを襲ってこないだろ?」

 

彼らは、被った面や髪型、身体の色は影の使者にそっくりだが、見慣れたあの黒鬼どもとは違って体形はまちまちだ。

 

「私は絶対にザントを許さない。絶対に」

 

ミドナは呟いた。

 

僕は広場に足を踏み入れた。直径二十メートルほどの円形の文様の中に、小さな円形が二つ刻まれている。

 

それを見ていると僕は以前の転生での経験を思い出した。

 

この影の宮殿は、いかに転生と冒険を繰り返し多数の経験を積んだ僕と言えども、この世界の法則を悪用して攻略の過程を短縮できる部分が全くないのだ。

 

おまけに、「ソル」というわけのわからない球体を運ぶという副次的任務をこなさなければ先に進まない。しかも、ザントが仕掛けた巨大な手のロボットに追いかけられながらだ。

 

だが、仕方ない。これはやらなければならない。

 

僕は覚悟を決めると、まずは右手の建物から先に捜索することにして、広場から伸びる通路を走り始めた。

 

(つづく)

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