チートが一切使えない影の宮殿。だがそこをどうにかして一秒でも早く攻略するのが転生者の腕の見せ所なわけでして
僕は右手の建物から先に侵入することにした。
通路は広場から右手に伸び、そこからまた北に曲がって建物の扉に突き当たっていた。僕は猛スピードで前転ダッシュを繰り返して進んだ。
建物の前にも、影の使者に変身する途中で放置されたような住人が呆然と突っ立っていた。僕はその脇を通り過ぎ扉の前に立った。すると扉の表面に描いてある円の中に複雑な線の組み合わせをあしらった不思議な文様が青色い光を発し、どこにも触れずとも扉が自動的に開いた。ハイラルよりも科学が進んでいるのだ。
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建物の内部は天井が高く細長い部屋だった。幅は十五メートルほどだったが奥行きは五十メートルほどもありそうだ。段差が三つほどあって進むほど床が低くなっている。三つの段差の中央、左、そしてまた中央に斜面がしつらえてあったが、そこにはそれぞれにデクババが鎮座していた。影の領域で見かけた特殊なタイプだ。黒蝙蝠もそこいらを飛び回っていた。
部屋の突き当たりには高い段差があった。段差の上には短い廊下の先に扉があるがよじ登るのは難しいと僕は知っていた。
僕は黒蝙蝠も斜面に生えているデクババも無視し、ひたすら前転ダッシュで段差の手前まで進んだ。
だがその時目を上げると、高さ二メートルほどの物体がいきなり出てきた。ザントの兜と面甲にそっくりの形をしていた。そいつは部屋の奥の床近くに浮遊していた。
僕は剣を抜くと、回転斬りを叩きつけた。斬撃が三度連続してぶち当たる。浮遊していた敵が床に落下し、それから脆くもバラバラに崩壊した。
僕が剣を納めると、突き当りの段差の窪みから光が発せられ始めた。見ていると、ほどなくそこに大きな木の箱が姿を現した。近づいて蓋を開けてみると、中に小さな金属の鍵が入っていた。
段差の上の左右の壁にクローショットが引っ掛かりそうな金網のついた照明装置がついている。僕は鍵を仕舞ってクローショットを片手につけると、照明器具を狙い撃って飛び移り、段差の上に降り立った。
突き当りの扉にはやはり鎖がかけられ錠前で閉じられている。僕が鍵を錠に差し込み捻ると錠が開き、鎖が床に落ちた。
すると、扉は自動的に上がった。
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その先の部屋は同じくらいの面積の部屋だった。
目の前の床を少し行くと、大きな段差で床が低くなっている。僕は段差を飛び降りた。その先は十メートルほどの奥行の床の先に、柵で区切られた広場があった。その広場には黒い煙のような気体が充満しいかにも不穏な雰囲気だった。
次に何か起こるのか既に知っていた僕はミドナに頼んで狼に変えてもらった。
目を上げると、その広場の向こう側の柵の先には再び十メートルほどの奥行の床があり、その先に最初の部屋と同じような高い段差があった。
僕は構わずダッシュで突っ込んでいった。目の前の柵は丁度真ん中が三メートルほど開いている。
その時、黒い煙のようなものの中から赤い魔法弾が発射された。
僕は脇に飛び退いてそれを回避すると、発射元に突進しジャンプ攻撃を仕掛けた。手応えがあり敵がよろめく。
さらに、ミドナに結界を出すよう合図した。ミドナから黒い結界が広がり、敵を赤い稲妻が覆った。跳躍した僕が追撃を加えると致命傷となったようだ。
そいつはザントの兜を模した警備装置だった。そいつはふらふらと飛んだあと床に転がり、そして小爆発を起こして砕け散った。
僕は床に降り立つと息を鎮めた。 辺りを見回すと、部屋の奥の段差の真ん中あたりから光が発せられている。黒い霧の縁にある柵のほうに行くと、柵は手前側と違って左右に隙間があった。そこを抜けて段差のほうに行くと、その中央には先ほどの部屋と同じような窪みがあった。僕はそこに木の箱が姿を現しつつあるのを見つけた。
僕が木箱の前に立つとミドナが僕の身体を元に戻してくれた。服と装備がきっちりと装着された。
僕はその蓋を開けた。やはり小さな金属の鍵だ。鍵を仕舞うと、僕は蓋の開いた箱の前に横向きに立ち、サイドホップして箱の上に乗ると、そこで剣を抜いてジャンプ斬りを繰り出した。
僕は見事段差の上に乗った。本来ならクローショットで壁の照明器具を狙って撃ち飛び付くところを、手順を短縮したわけだ。
先に進むと扉がある。前まで来ると、やはり扉は鎖と錠前で閉じられている。僕は錠前に鍵を差し込んで捻った。錠が開いて鎖が落ちる。すると扉が自動的に開き、僕は先に進んだ。
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先にあった部屋は五十メートル四方はありそうな広い部屋だった。だが、僕が扉を抜けた途端、扉が閉じると同時にその上から太い格子が下ろされた。
少し進むと、床に段差があり低くなっている。
広間の奥の突き当りの壁には、人間の片手を模したような大きな彫像が置いてある。
段差を降りて広間の真ん中あたりに進むと僕は「スキップ」を念じた。
するといつの間にか彫像の前に魔法結界が現れ、奇妙な兜とカメレオンみたいな顔の面甲を被り、寛衣を着た男がやや空中に浮きながら今にも魔法を発動させようとしている。
ザントだ。
僕は今まで「スキップ」ばかりしてきたので、こいつとは初のお目見えだ。
だが、その姿はやや青みがかった半透明だった。幻影なのだ。
僕は全力でダッシュして殺到すると、横斬り、縦斬り、そしてまた横斬りを放った。ザントは幻影ながらも苦し気な声を上げる。僕は本来ならもう一発喰らわせてやりたいところを我慢した。
ザントはすぐに姿を消したが、少し離れたところにまた現れた。だが、近づこうとするとすぐ消える。
僕は部屋の中程で円を描くように走り回りながら敵がこちらを攻撃しようとしている時にカウンターする算段を固めた。そうしながらも、僕は遠くの視界の隅にザントの幻影が現れては消えるのを視界の隅でとらえていた。
ザントは部屋の一ヶ所に現れると、直ぐに腕を振って姿を消してしまう。 焦って近づいた途端、まるでこちらを愚弄するように敵は消えてしまうことを僕は知っていた。
部屋の一角にザントが現れた。だがその動作から、今までの出現と違うことがわかった。両手を高く掲げている。光球を出そうとしているのだ。
僕はここを先途と相手に向かって突進し、部屋を横切った。ザントが掛け声を上げて光球を放り上げようとした瞬間、僕は横斬り、縦斬り、そしてまた横斬りを放った。ザントは苦し気な声を上げて消えた。
僕はここで奴に食らわせるのはきっかり三発にとどめることにしていた。こうしておくと次の攻撃に繋がりやすいのだ。
僕が振り向くと、ザントが部屋の反対側に現れている。僕は近づいていったが、敵はすぐに姿を消した。 その時、部屋の隅にまたザントが現れたのを僕は見つけた。今度は両手を上げて光球を発しようとしている。ダッシュして駆け寄った。
横斬り、縦斬り、そしてまた横斬り。三発食らわせたところで控える。苦痛から立ち直ったザントがまた姿を消す。
しばらくするとザントが部屋の向こう側に現れては何もせず消えた。
だが、何度かそれが繰り返されたあと、現れたザントが高く両手を掲げた。僕は今いる場所から最短距離をとって一気に突進した。ザントの手から光球が発生し膨らんでいく。だが僕は一瞬早く接近し、横斬り、縦斬り、そしてまた横斬りを放ち、ここでダメ押しの袈裟斬りを叩きつけた。
決め手となった。ザントは力を失ったようによろめくと、ガックリとうなだれた。だが、次の瞬間最後の力を振り絞るようにもう一度気合いを発すると、大量の黒い霧を生じさせて姿を消した。
僕は前転ダッシュして霧のギリギリ脇を通り過ぎて部屋の奥に向かった。奇妙な手の彫像に近づき、クローショットを手に嵌める。
壁際の窪みにある大きな手の彫像は高さ二メートル程で、全体に赤い色の不思議な紋様が彫りつけてある。掌には、淡い光を発するガラスで出来たような球が握られていた。
僕はその球形を狙ってクローショットを撃った。
一発目では、彫像の指が動いてソルがその掌から転げ落ちた。もう一発撃つと、鉤爪が装飾に引っ掛かり、たちまちソルが僕の手元に引き寄せられた。
僕はクローショットを外すとソルを持ち上げた。
だが僕がソルを運び始めると、手の彫像のほうから異様な音がし始めた。小さな風の音のような、笛が鳴っているような形容し難い音だ。
振り向くと、手の彫像の指がピクリと動き、そして次に彫像そのものがゆっくりと宙に浮かび上がった。
やれやれ、追いかけっこが始まるのだ。
僕は広間の中央に駆け寄った。立ち込めていた霧が、ソルが近づくとたちまち引いていく。僕は広間の真ん中にあった円形の窪みにソルを置いた。僕の目の前にたちまち青白く光る不思議な文様が刻まれた階段が床からせり上がってきた。
僕は階段を駆け登った。途中、蛸の化け物が四匹ほど降りきたのを、反射的に剣を抜いて横斬りで斬り捨てると、段差の上に立って剣を納めた。
僕が下の床を振り返ると、クローショットを手に嵌めた。
手の彫像はソルの真上にまで浮遊してきている。僕は光るソルに狙いを定めてクローショットを撃った。飛び出した鉤爪がソルの装飾に引っ掛かり、球はたちまち僕に引き寄せられた。次の瞬間、手の彫像が大きく指を開くと、さっきまでソルがあった場所を狙って中空から床に落下し轟音を立てた。
ソルが取り去られたことで、登ってきた階段が床と同じ高さに引っ込んでいった。クローショットを収納すると、僕はソルを持ち上げて南側の扉に駆け寄った。前に立つと扉は自動的に開いた。
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次の部屋に入り、ソルを抱えたまま走って段差を飛び降りる。肩越しに背後を振り返ると、驚いたことに手の彫像は扉を通り抜けてこちらに向かってきていた。
眼前は柵を抜けたらあの黒い霧の溜まった広場だ。僕は二つある柵の空いた箇所のうち左側に寄り、さらにその脇の壁際に立った。
すると、黒い霧の中で蛸の化け物の群れがうごめくのが見えた。彼らは僕を見咎めたのか、柵の開いたところからこちらに向かってきていた。
僕は立っている場所からやや左後ろに下がり、そこから四十五度程度の角度をつけて広場の中央目掛けてソルを放った。(僕は転生の経験から、どこにソルを嵌めればいいのか見えなくとも分かっていた。)
床に落下したソルが勢いで転がっていく。
同時に僕は剣を抜いて蛸の化け物たちに回転斬りを食らわせて吹き飛ばした。
その途端に、ソルが窪みに嵌まったらしい。僕の立っていた床が高く持ち上げられた。その場所も隠し階段だったのだ。現れた階段は、僕のいた場所から西に降りたあと、広場の西側の端で南に折れて広場の中に入っていた。
クローショットを右手に嵌め僕は数歩前に出た。
彫像がソルを狙って近づいてきている。僕もクローショットを撃った。鉤爪がソルの装飾に引っ掛かり、球が引き寄せられていく。同時に隠し階段は床に引き込まれていった。
あとは脱出だ。僕は南に向かって通路を走った。だが目の前に段差がある。僕はソルを段差の上に投げ上げると、段差に手をかけてよじ登り、再び球を抱えて走り始めた。さらに低い段差を駆け上がる。右手前方に出口扉が見えた。もうすぐだ。
その瞬間、頭上から蛸の化け物たちがボトボトと落ちてきた。僕は慌てず右カーブしてから化け物どもの横を回り込んで走り抜け、通路の終端から下に飛び降り、扉の前に立った。
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扉は自動的に開いた。もうすぐだ。出た先の部屋の、段差の中にしつらえられている斜面には、片付けたはずのデクババがまた生えてきている。だが迷わず僕は走った。
扉の前の段差から飛び降りると、目の前の段差の真ん中にある斜面に駆け寄る。デクババの真横をすり抜ける。食人植物がパックリと口を開け、僕の背後すぐの空間に噛み付いた。黒蝙蝠も上空を飛んでいる。だが僕は一切構わずに走り続けた。
肩越しに背後を見ると既に手の彫像は扉をすり抜けている。
二段目の段差の右手にある斜面にもやはりデクババが生えていたが、同じように駆け抜けた。デクババの牙が背中をかすめる。三段目の段差の中央にある斜面も、デクババの牙をどうにか逃れて駆け抜けると、その先の通路に蛸の化け物どもが多数群がっているのに気づいた。
僕は右手に急カーブを切り、それから左に回り込んで回避した。フェイントをかけられた魔物どもが跳躍して僕が一瞬前までいた場所に飛び掛かった。
扉に辿り着くと扉は自動的に開いた。
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ソルを抱えて建物から出ると、入り口の横に立っていた影の使者の出来かけのような男が、突然泣き声のような声をたてた。
見ると、顔に被っていた面もボウボウに伸びた髪の毛も消え去っていた。白く滑らかな肌の顔が露わになっていた。だがその目はうつろで、口もポカンと開いたままだ。
僕は道を進み、円形の野外広場にやってきた。二つある丸い窪みのうち手前側にソルを置くと、その周囲に青白く光る文様が浮かび上がった。
すると、野外広場の西側に伸びる通路を断ち切っている間隙の手前の路面に刻まれた二メートル四方ほどの四角い文様が光り始めた。
僕はその光る文様に近づいてその上に乗った。すると、それがゆっくりと上方に浮遊した。半透明に光る四角い文様が板のように硬い足場を生み出している。
その足場は西に移動を始め、道路の間隙を渡った。僕はそこから向こう岸に飛び降りると、道なりに北に折れて突き当りの建物の扉に向かった。扉の脇には、東側の建物と同じように影の使者への変身の途中で放り出されたような人間が一人佇んでいる。
僕は扉の前に立った。扉が開き、建物の中に入る。
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そこは東側の建物の最初の部屋と同じような広さの部屋だった。
だが構造は多少異なっていた。扉の前の床を少し進むと段差があり床が低くなっている。その床の上空には蝙蝠が二、三羽飛び回っている。低い床は奥行き十五メートルほどで、その先に幅と高さ五メートルほどの狭い舞台があった。
足場の先はやはり奥行き十五メートルほどの床がある。だがそこには黒い霧が充満していた。そして突き当りには高い足場と、その先に扉があった。
黒い霧が満ちた床に落ちたら、強制的に狼に変身させられることになるのを僕は知っていた。
天井を見ると、金網つき照明器具が複数、手前から奥に配列されていた。一番手近の照明器具の真下あたりに先ほど間隙を越えるために乗ったのと同じような半透明に光る足場が手前と奥を往復しながら浮遊している。
また、同じ足場が、霧の充満した箇所の上空にも四か所、浮遊しながら左右に数メートルづつ互い違いに移動を繰り返している。
僕はクローショットを手に嵌めて手近の天井についた照明器具を狙い撃った。鉤爪が金網に引っ掛かり僕は引き上げられた。眼下を見ながら、半透明の足場がやってきたタイミングで飛び降りた。
足場が奥に移動していく。舞台に近づいてきたところで、僕はジャンプして飛び移った。舞台の左右には白いガラス質の球が一つづ設置されているが、光を発してはいない。僕は眼下の黒い霧に目を落としたあと、もう一度目を上げた瞬間に、前方の空中に高さ二メートルのザントの兜が浮いているのに気づいた。
ザントの兜から魔法弾が発射された。僕はやや横移動してそれを躱した。だが敵の方をみやるとその姿はもう消えている。
僕は目の前の空間に浮遊している四つの足場の動きをよく見据えた。 互い違いとはいえ、手前三つまではほぼ重なる瞬間がある。僕は右から動いてきた足場二つと左から動いてきた足場二つが一直線になる少し前に自分の立っている舞台から跳躍した。飛び石の要領で三つ目まで移動する。
四つ目に飛び移ろうと立ち止まってタイミング計っているところでザントの兜が奥の段差の上に現れた。だが僕は目的の板が近づいてきたところで構わず飛び移り、さらに段差まで跳躍して前転した。ザントの魔法弾が背中をかすめる。
姿を消した兜が現れるのを待つ。果たしてザントの兜は今いる段差の右手の隅に現れた。弾かれたようにダッシュすると、僕は剣を抜いてジャンプ斬りを放った。渾身の刃を敵に叩き込み、着地と同時に回転斬りを放つ。ザントの兜はバラバラに崩壊して床に転がった。
すると、段差の上の反対側の隅の床から光が発せられ始めた。近づいていくと、木の箱が姿を現している。完全に姿を現すまで待ち、蓋を開けてみると小さな金属の鍵が入っていた。北側の突き当りの扉に向かって歩くと、扉には鎖がかけられ施錠されていることがわかった。
僕は鍵を錠に差し込んだ。鍵を捻ると、錠前が外れて鎖が落ちた。僕が扉の前に立つとそれは自動的に開いた。
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目を上げると、その部屋も東側の建物の二番目の部屋と同様、扉の前の床から段差を経て低いフロアとなり、その先に黒い霧の溜まった広場があった。さらにその先に霧のないスペースがわずかにあり、奥に高い段差と扉がある。また、左右の壁と天井には、一つ前の部屋と同様等間隔を置いて金網つき照明器具が設置されていた。
僕はミドナに言うと狼に変えてもらった。ミドナが背中に乗ると、段差を飛び降り進んでいく。黒い霧の充満した広場まで真っすぐ走っていった。だがその刹那、霧の中から異様に背の高い人影が二つ、ぬうっと現れた。影の使者だ。
だが僕は瞬時に思い出した。敵の数がもし三匹なら、二匹を先に倒してしまったら最後の一匹に蘇らせられてしまう。咄嗟に身を低くして二匹の間をすり抜けると、霧に飛び込んだ。その途端に魔法結界の柱が天井から落ちてきた。霧の広場に閉じ込められたようだ。
背後に置いてきた二匹の鬼どもがこちらに向き直った気配がした。だが僕はかまわず感覚を集中した。 残り一匹はすぐ目の前の右手だ。相手が手を振り上げ攻撃態勢を取る。僕はバックホップした。敵の攻撃が空振りする。
背後から残りの二匹が迫ってくる。僕は慌てず再びミドナに合図した。結界が広がってくると同時に相手に向き直って距離を詰める。一匹目、二匹目。そして最初に攻撃して来た前方の個体も敵が間合いに入った。
僕は、相手が手を振り上げ、振り下ろすギリギリまで待って力を解放した。ミドナの魔法の力を借り、僕は宙を飛んで三匹の鬼どもに致命傷を与え、床に降り立った。
影の使者たちが全滅しその身体が崩れていくと、魔法結界の柱も消滅した。だが霧はまだ晴れない。僕はそのまま前進した。
すると段差の下にザントの兜が現れた。僕は前方にダッシュして霧から出ると跳躍し、一撃を与え着地するとミドナに合図を送った。結界が広がり、よろめいた敵を包む。力を解放すると狼の必殺攻撃を喰らってザントの兜がバラバラに壊れた。
だが振り返ると新手のザントの兜が背後の霧の中に浮遊していた。しかも三体だ。すかさず全力で突進し跳躍すると、その真ん中に降り立ってミドナに合図した。三体の敵が僕に向き直って包囲し、それぞれの口に魔法弾が浮かび上がった。だがこちらからも結界が広がり、三体の敵を包む。
僕は力を解放した。一瞬の間動きを麻痺させられた敵に向かって弾丸のように飛び掛かる。一体に打撃を与えると直線的に方向を変え、二体目、三体目と痛烈な打撃を食らわせた。
三体の監視装置が大きな損傷を被って全壊し床に転がった。
僕は霧から前方の段差の下に進んだ。ミドナに頼んで人間に戻してもらうと、西側の壁の高所にある窪みのほうを見た。あそこに鍵があるはずだ。
手にクローショットを嵌め、まず今立っているスペースのすぐ西側の壁についていた照明器具を狙ってクローショットを撃って飛び付くと、次に天井から下がっている照明器具にもう一つのクローショットで飛び移った。
天井の照明器具を次々に飛び移って部屋の南側に移ると、西側の壁の南側の窪みの壁に奇妙な文様が描かれているが、よく見ると鍵を抽象化した図案に見える。その文様の下に木の箱があった。
僕はその窪みの壁にしつらえてあった照明器具を狙ってクローショットを撃って飛び移ると、床に降りて箱の蓋を開けた。やはり小さな金属の鍵が入っていた。
僕は今いる窪みからギリギリまで身を乗り出し、部屋の北側の突き当りの左側の壁の照明器具をクローショットで狙い撃った。
鉤爪は届いた。僕は目標に飛び付いて、段差の上の床に降り立った。
扉に近づくと、やはり施錠されている。鍵を錠前に差し込んで捻ると、錠が開いて鎖が落ちた。扉が自動的に開く。
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扉の向こう側の部屋は、例に漏れず東側の建物と同様の構造だった。扉の前の床を少し進むと段差があって床が低くなり、その先は広大な広間だ。奥の突き当りには、やはり手の彫像があって、その指には光球が握られていた。
だが、僕が扉を抜け広間の中央近くに走り込むと「スキップ」を念じた。
すると、もったいをつけたように青白いザントの幻が目の前に出現した。
僕が間合いを詰めると同時にザントが両腕を広げ光球を大きく膨らませた。
だが僕は相手に向けて突進し殺到すると、縦斬り、横斬り、次いで袈裟斬りを食らわせた。三発までだ。四発目は控えるのだ。
苦し気に呻きながらもザントは姿を消した。
次はどこだ?僕は身体を回し辺りを確認した。部屋の別の隅にザントが現れ、また消える。次に遠くの壁際にザントが現れた。これもフェイントだ。
次にザントは直ぐ近くに現れた。両手を掲げ光球を生じさせ始めたザントに突進して縦斬り、横斬り、さらに袈裟斬りを食らわせた。三発まで。四発目はいけない。
再び呻き声を上げてザントが姿を消した。僕は武器を構え直して左右に目を走らせた。すると、反対側の壁際にザントが現れた。両手を高く上げる。チャンスと見て突進したが、距離がある。敵の両手の間の光球が大きくなると破裂し、そこから小さな魔法弾が放射状に発射された。咄嗟に前転すると、頭上を魔法弾が通り過ぎていった。
これは間に合わない。僕は追いかけるのをやめた。ザントは直ぐに消えた。
部屋の中心の辺りに戻りつつ、身体を回しながら索敵する。部屋のひと隅に現れたザントがすぐ消える。そしてもう一度。さらにもう一度。今度はザントが広場の奥あたりに現れた。
僕は直感に駆られ突進した。果たして、今度は敵は両手を上げた。その手の中に光球が現れて膨らむ。だが僕は横斬りを叩きつけた。ザントの幻影が術を中断した。さらに追い討ちで縦斬り、袈裟斬りを放つ。
ザントは呻き声を上げると消えた。そろそろ仕上げの時間だ。
部屋の中ほどでクルクルと回転しながら走っていると近くにザントが現れた。縦斬り、横斬り、次いで袈裟斬りを食らわせ最後に突きを放つ。
強い手応えがあった。ザントの幻影は苦しげにうなだれたあと、叫びながら黒い霧を撒き散らして姿を消した。
魔法結界の柱が消滅した。剣を納め、荒い息を鎮めながら僕は部屋の置くに置かれた手の彫像に近づいた。
僕は東側の棟の広間で行ったのと同じように霧をギリギリ避けて彫像に近づくと、手にクローショットを嵌めた。彫像の指の間に光るソルに狙いをつけて撃つ。球が引き寄せられると、僕はソルを抱え挙げて走り始めた。
予想通り、彫像が異音を立てながら動き始める。僕は広場の中央に向けて急いだ。霧が引いていく中、広場の中央にしつられられた円形の窪みが見えた。
だがその瞬間、左右から蛸の化け物どもが挟み撃ちに迫ってきた。僕は咄嗟にソルを床に転がしながら前転し、敵群の攻撃をかわした。ソルが床の窪みに嵌まり、たちまち隠し階段がせり上がってくる。
背後には蛸の化け物の群れだけではなく、影の使者が一匹現れ、追いすがってきた。目の前の隠し階段は左右に分かれている。咄嗟に左手を選んで駆け上がった。
段差の上から振り返ると、彫像が空中に浮き上がりソルを求めて飛行し始めているのが見えた。すかさす右手にクローショットを装着しソルを狙って撃つと、飛び出した鉤爪が引っ掛かって球が引き寄せられた。
ソルを抱え上げると僕は踵を返して出口に走った。扉の前に立つと、自動で開いたところですぐにすり抜ける。
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目の前の床を走り抜け、段差を飛び降りた。
次に行くべき場所は分かっている。
広間の右手の奥だ。
霧の立ち込めた広場に突進していく。霧が引いていくとともに、黒蝙蝠がその中から飛び出してきた。ひた走ってその真ん中を突っ切ると、目当ての場所にたどり着き、広間中央に向き直った。
僕は立ち位置を微調整しソルを放り投げた。ソルは真っ直ぐ転がっていくと、中央の窪みに嵌まった。
たちまち広間を囲むように隠し階段がせり上がってきた。僕のいた場所はその最も高い終端近くだった。南側を向くと、僕のいるところはすぐに高いテラスに接している。
僕はテラスに登ると振り返った。彫像がソルの上空に近づいてきている。
手にクローショットを嵌め眼下の広間の中央に置かれたソルを狙ってクローショットを撃つ。
鉤爪がソルの装飾に引っ掛かり、ソルが引き寄せられてきた。僕はソルを抱え上げてテラスの上を出口に向かって走った。テラスの端から下の床に飛び降り、突き当たりの扉の前に立った。
扉が自動的に開き、僕はその向こう側に進んだ。
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扉の前の床の縁まで急ぐと、そこから霧の立ち込めた低い床の上を浮遊する最初の足場の動きを見定めた。
だが、すぐに背後で物音がした。肩越しに振り向くと、彫像が既に扉を通り抜けていた。
僕は助走をつけて最初の足場に飛び移った。
彫像がこちらに向かってくる。僕は二つ目の足場との距離が縮んだのを見て飛び移った。
だが足場の位置が好適になるタイミングを計っているうち、彫像は頭上に来ていた。僕は焦りを抑え、今いる足場と前方の足場が一直線に並ぶ瞬間を見越して、やや早いタイミングで飛んだ。
作戦が当たった。僕は三つ目の足場に降り立つと、その勢いで四つ目の足場に飛び乗り、さらにその先の舞台に飛び移った。
彫像が追いすがって来る。すると、舞台の左右にしつらえられたガラス球が突然輝き始めた。かと思うと、舞台中央にあった四角い紋様が青白く光り、それが僕を乗せたまま浮かび上がって足場となった。
足場は自動運転のようだ。出口に向かって浮遊し、低くなった床の上空を進んでいく。僕はソルを抱え上げたまま、足場が向こう岸の段差の上に到達するのを待った。
後ろを見ると彫像がほぼ同じ速度で追尾してきている。さらに、前方上空には黒蝙蝠たちが飛び回っていた。僕は冷や汗をかきながら足場が目的地に着くのを待った。
足場はようやく対岸の上にたどり着いた。床に飛び降りると、僕は扉の前に立った。扉は自動的に開き、僕たちは外に出た。
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扉の前にいた影の使者になりかけていた男がみるみるうちに元の姿に戻る。だが、やはり呆然として立ち尽くしているだけだった。
僕は道を南に下り、道なりに左に折れた。道を断ち切る間隙の手前の路面に刻まれた四角い紋様の上に立つと、すぐにそれが浮き上がって足場になった。足場が東に浮遊していく。やがて、対岸の上にたどり着くと僕は足場から飛び降りて円形野外広場に向かった。
既に据えたソルの隣にある窪みに、新しいソルを置いた。ソルの周囲の床に刻まれた紋様が青白く光り始めた。すると、二つのソルの間にもやや大きな円形の輝く紋様が現れた。
何かが変化したようだ。背中につけた剣を抜くと、その刀身が光輝き、光の粒のようなものが発散されていた。
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「すごい・・・ソルの力が 剣に宿ったんだ」
ミドナが言った。
「この世界の守護神も 味方してくれてる!やっぱり、リンクは選ばれし者・・・真の勇者なんだ!」
ミドナが独り言を言う。どうにかして「スキップ」を念じて飛ばすことができないかと試したが、ダメだった。
しおらしくなったのは良いのだが。僕はさしあたり最後までミドナの独り言を聞いた。
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どうやらソルの力によって僕の聖剣がパワーアップしたらしい。良いことだ。
野外広場のそこここに立ち尽くしていた、影の使者に変身する途中で放置された男たちの姿がいつの間にか人間に戻っている。
僕は剣を納めると、中央棟に続く坂道を見上げた。坂道を登っていくと、もうひとり影の使者に成りかけの男がいたが、僕が近づくとみるみるうちに人間に戻っていった。目もうつろで呆然と立ち尽くしているだけだが。
坂道は一度平坦になったあと再び続いている。頂上に近づくにつれ、中央棟の入り口を阻む黒い霧の滝が見えてきた。その周辺には黒い影がいくつかうずくまっている。その姿に見覚えがあった。頭がラッパのような形になった怪鳥どもだ。
僕が坂の頂上に近づくと、怪鳥どもが羽ばたきして浮上した。だが僕は構わず坂の頂上に立って黒い霧の滝にギリギリまで近づくと、裂帛の気合を発して回転斬りを放った。
まるで暴風に吹かれたかのように黒い霧が散った。霧が消えたところに、中央棟の入り口まで続く道が見えた。途中が一メートルほど断ち切られたような間隙になっていた。そこに霧が流れ込んでいたのだ。僕は間隙を飛んで渡ると、建物の入り口に向かって歩いた。中央棟の建物は他の二つより格段に大きい。そして壁面には赤い光を放つ文様が刻まれている。
扉の前に立つと、それは自動的に開いた。
さあ、これからあのキザ野郎をボッコボコにしにいかねば。
(つづく)