黄昏の姫と緑の勇者:転生者チート編   作:nocomimi

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地下牢から脱出した狼の僕は、妖精チビの命令を無視することにした

狼の僕の前に現れたのは黒い妖精のようなコスプレをした、こまっしゃくれたチビだった。

 

本当はこいつが僕の鎖を断ち切ってくれたのだが、前述の方法で僕はその出来事を「スキップ」したのだ。

 

そして部屋の右隅にある箱に突進し叩き壊すと、床を掘って鉄格子の向こうに抜けた。

 

そうすると妖精チビが背中に乗ってくる。

 

(いちいち本当にうざいが、今はしょうがない。)

 

廊下を通って隣の房に入り、天井から下がってる鎖に飛び付いて引っ張り下ろした。すると部屋の隅の鉄格子が上がった。僕は床に降りると、鉄格子が上がって開いた穴に体をねじ込み前に進んだ。

 

少し進んで穴の出口から抜け出すと、そこは下水施設だ。床の中央は汚い水がチョロチョロと流れる水路で、天井の高い通路が壁沿い五十メートルほど前に伸びており突き当たりがT字路になっている。

 

「おい待て」

 

妖精が声をかけてきた。彼女の指さすほうを見ると白い炎のような影が通路の隅で揺らめいている。

 

「面白いもんを見せてやるよ。ほれ、よくよく感覚を研ぎ澄ませてみろ」

 

そいつが何か僕はもう知っている。いちいちこんなことで足止めされるのは嫌だったが、これは「スキップ」できない出来事なので仕方ない。

 

妖精チビの御託を聞くだけ聞くと、僕はすぐその白い光に背を向けて水路に降り、つきあたりのT字路のほうに向かって歩き始めた。

 

突き当たったところで右を見てみたが何もない行き止まりだ。そこで左に折れ、水路を塞いでいる鉄格子を避けて通路に登る。

 

すぐ前に十字路があり、右はその先に進むことのできそうな奥行のある水路だったが、床から五十センチくらいの金属の棘が大量に突き出ている。正面はやはりすぐ行き止まりだった。

 

左手の岐路の突き当たりにの壁に水門のような金属の板がはめ込まれている。その水門の左脇の通路には鎖が垂れ下がっていた。僕はその岐路に進むと、鎖に近づいて飛びつき、先ほどと同じ要領でぶら下がった。すると水門が重々しい音を立てて上がっていき、堰き止められていた水が一気に流れ出して水路を満たした。

 

僕は水に飛び込むと道を引き返し、正面に向かって泳ぎ続けた。金属の棘の上を無事通り抜けて新しい十字路に着く。右手を見ると、二十メートルほど先の鉄格子の向こうに螺旋階段のある広間が見えた。出口だ。

 

だが水が満ちているうちはそこから外には出られないことはもうわかっていた。水路の水を抜かなければならない。僕は迷わず十字路の左手に曲がり直進した。突き当りに別の水門がある。水路の左脇の通路に這い上がると、天井から下がっていた鎖に飛び付いてこれを引き下げた。水門が上がり、水が外に排出されていった。

 

僕は空になった水路に飛び込むと、さっき見えた出口に急いだ。妖精コスプレチビが浮き上がって鉄格子の向こうに飛んで行ったが、どうせすぐ合流できるのだからどうでもいい。

 

僕は鉄格子の手前まで到達すると、左側の壁にある穴に潜り込み、骸骨の転がった空間を抜けて妖精チビのいる場所に出た。

 

「はい、遠回りごくろうさん」

 

そう言うと、彼女はまるで当然のように僕の背中にどっかと腰かけた。

 

(まあ今はこんなデカイ態度をしているが、彼女がのちのちしおらしくなっていくのを僕は知っていたので堪忍してやることにした。)

 

「さ、逃げたいだろ。出発出発!」

 

促されるまでもなく、僕は顔を上げて走り始めた。目の前に螺旋階段がある。

 

僕は階段を快速に駆け上っていった。四つ足だけあって、足の速さは以前の倍近くにもなっている。すると、階段が途中で崩壊しているのが見えた。

 

おっとここで注意点だ。

 

ここはどうやって向こう岸まで飛び越えても、絶対に階段が崩れて一旦下に落ちるようになっている。そしてチビに嫌味を言われる。

 

だがしかし、落ちるのは不可避だが、チビの小言を聞かずに済む方法がある。それを僕は知っていた。

 

階段の崩壊している場所の手前まで来ると、僕は角度をやや右に向け飛び出した。左前足が僅かに向こう岸の階段に触れ、それが崩壊し始めるとともに僕も階段下の水溜まりに落下した。

 

だがチビは何も言わない。成功だ。

 

(普通なら「あぁまったく。何をやってるんだか」とわざとらしく肩をすくめ溜息をつくのだが。)

 

僕はまた階段を上っていった。さっき崩してしまった箇所まで行き着くと、妖精チビは僕の背中から空中に浮きあがり、崩壊した段の向こう側にまでふわふわと飛んでいくと、そこで手招きをした。

 

「ちょっと手伝ってやるからここまで跳んでみろ」

 

僕は迷わず彼女に向かって跳躍した。次の瞬間には向こう岸に降り立っていた。このチビはこういうときには本当に役に立つ。

 

その先を見るとそこでも階段が幅広く崩壊している。妖精はすぐさま次の目的地へ浮遊していく。その手助けを借りて僕はさらにその向こう岸に飛び移った。

 

しばらく上っていくと、その先は螺旋階段そのものが一周分ほど消失している。

 

目の前には上から崩落した石材が五メートルほど積み上がっており、さらにその上で階段が再開しているのが見える。妖精はまた空中に浮きあがり、僕に手招きした。

 

僕がジャンプすると今度はまるで巨大な手で持ち上げられたかのように石材の上に降り立ち、それから再開している階段の開始点に飛び移ることができた。

 

先に進む。途中、階段がまた途切れていたが、建設物資をやり取りする目的で階段の間に張ったまま放置されたロープがあった。綱渡りの要領で進んでいく。

 

綱渡りと魔法の助けを借りたジャンプとを繰り返し、僕は尖塔の最上部に辿り着いた。予想していたとおり上空にいた蝙蝠どもが目を付けてきた。

 

面倒なことになる前に退散だ。僕が近くにあった四角い大きな石のブロックの上に立つと、妖精チビが勝手に壁にある階段の跡まで浮き上がっていってくれた。

 

僕は妖精チビを追って跳躍し、壁の上の見張り窓に到達した。

 

張り窓から外の歩哨台に出た。

 

僕は城壁の上を迷わず直進し、それが途切れる場所までやって来た。

 

ここでも白い炎のようなものがゆらめいていた。妖精チビがもったいぶった口調で僕の注目を促したが、僕は彼女の御託を聞くだけ聞くとすぐに左に進路をとった。

 

左手には、その向こうにある別の城壁への接続部分にあたる見張り塔があるのだ。僕はその見張り塔の手前にあった木箱を頭で押し、その上に乗ると、そこから見張り塔の上に飛び乗り、そこからもう一層の城壁に飛び降りた。

 

右に進路を取って一目散に走る。近くにいた怪鳥が飛び上がって、ラッパのような鳴き声を上げながら追いすがってくる。だが全力疾走すれば追いつかれることはないと分かっていた。

 

僕は城壁の上の通路を走り抜け、突き当たりの右手にあった足場の上に立った。

 

妖精チビが空中をふわりと飛ぶと、二十メートルほど離れたところにある建設中の足場の頂点に飛び移った。僕はそこに向かってジャンプした。妖精の後を追ってさらにもう一度ジャンプすると、僕は巨大な青屋根の上に降り立った。

 

そこから斜め右に進路をとり、巨大な屋根の向こうにある尖塔に向かう。途中屋根の上にもう一匹怪鳥がいて、追いすがってくる敵の数が増えた。

 

だが僕は構わずに青屋根を横切り、通期辺りの歩哨台の上に登り尖塔内部に滑り込んだ。

 

歩哨の見張り窓から内部の螺旋階段に飛び込む。階段を登って突き当りの両開きの扉の僅かに開いているところから中に入った。

 

そこからは何か重要な会話があったような気がした。だが僕はそれらを全て「スキップ」した。

 

気が付くと、目の前に王女のような恰好をした女が立っていてこちらを見ている。

 

この女、誰だったっけな?

 

まあいいか。

 

僕はすぐに彼女に背を向けて扉から出て、階段を下った。

 

そこから先も、あの妖精チビと色々な会話をしたような気がするが、覚えていない。それらも「スキップ」したからだ。

 

というわけで僕はトアルの泉に立っていた。時は日没直前だ。

 

僕は泉の出口から外に出ようとした。するとあの妖精チビがまかり出てきた。

 

「おいちょっと、どこに行くつもりだ?」

 

妖精チビが意地の悪い含み笑いをしている。

 

「私がいなくなったと思ったのか?ああ、言っておくけどひとりで探しに行ったって無駄だからな。あの橋の向こうは影の領域さ」

 

彼女はフィローネのほうを指さした。

 

「あそこに出入りするには私のような影の者の助けがなければ無理だ。だからお前は私の言うことを聞く以外にないのさ。ま、あとはお前の態度次第かな。口先じゃなく誠心誠意でやってもらわないといけないがな」

 

はいはい。言いたいことはわかってますよ。

 

「今私は自分に似合う剣と盾が欲しいんだ。言ってる意味はわかるな?」

 

僕は彼女が言っていることを完全に理解していた。

 

だが、それと同時にそのクソ面倒くさい命令を完全に無視する決意を固めていた。

 

この彼女の命令を無視して先に進む方法は簡単ではない。

 

しかし方法があるにはあるのだ。

 

僕はそれを試すことにした。

 

(つづく)

 

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