てなわけで僕はあの気障ヤロウの隠れている宮殿の本丸と言える中央の建物に足を踏み入れたのである。
内部は奥行十メートルほどの通路になっており、その先は階段で少し下って床が低くなった広間だった。四十メートル四方ほどの大きさだ。その奥の方は床の上に黒い霧が立ち込めている。
剣を抜くと、僕はそれを振り回しながら霧に近づいた。たちまち霧が引いていく。だが、その中から蛸の化け物どもが這い出てきた。蝙蝠も何匹か飛んでいる。
近くに来た蛸の一匹を横斬りで斬り捨てると、僕は剣を振りながら走った。霧が晴れていくとともに、広間の奥にあったものが見えたきた。短い階段を経由して少し高くなった場所に、ソルに似た二つの球体が安置されている。中継球だ。だがその中央にはデクババが生えていた。
階段を半ばまで駆け上がる。
本来なら僕は二つの中継球を床の窪みに嵌めて、上に登るための新たな階段を出現させなければならない。
だがそんな手間は取らないことに決めていた。
僕はブーメランを取り出すと、手近にいたデクババの奥の壁に狙いをつけ、そして部屋の中央に向き直り、今度は右手の壁、そしてさらに入り口に向かった前方遠くの床、そして最後に左手上空を飛ぶ蝙蝠に照準をつけた。
ブーメランを放ち、そして階段を駆け登って、まだ残っていた黒い霧に突っ込み、また元来た方向に戻る。
すると僕の身体は強制的に狼に変身させられた。
しかしこれは意図的だ。僕はミドナに合図して結界を生じさせた。
計算したとおり、ほうぼうを飛んでいたブーメランが最終的に上空の蝙蝠を引き寄せて戻ってきた。
蝙蝠が結界に捕えられる。だが僕はそのまま待ち続けた。
やがて蝙蝠がブーメランの風を逃れて上空に戻った。
今だ。
僕は力を解放した。蝙蝠目掛けて大ジャンプを打ち、僕は十メートルほど上の壁にしつらえられた高台にいつのまにか着地していた。
高台に登ると、僕はミドナに頼んで人間に戻してもらった。
改めて周囲を見回すと高台の北の端にガラス球が設置されているのが見えた。光は発していない。
ガラス球に近づくと、僕は剣でそれを叩いた。するとガラス球が光を発し始め、その右手の床に刻まれていた四角い文様が光りを発した。僕がその文様の上に乗ったと同時にそれは宙に浮かび始めた。
足場の行き先に目をやった。足場は浮上したあと、部屋を横切るように向かい側、すなわち西側に向かっている。対岸には同じような高台があった。その上には、三つのガラス球が中央あたりに設置されている。だがその右側にはデクババの葉が広がっている。
対岸に近づくと僕は足場から飛び降りて高台に降り立った。たちまちデクババが顔を出したところを、回転斬りと突きを放って刈り取った。
ガラス球の方に向き直る。だがその途端、ザントの警備装置が高台の南側に現れた。しかも四体もだ。僕は突進すると、近くにいた三体のただなかに向かって跳躍し、着地と同時に回転斬りを放った。さらに前転すると奥にいた一体に突きを食らわせた。
ザントの兜四体がたちまち床に落下して崩壊した。強い攻撃でなくとも一撃で倒せるようになっている。やはり剣の威力が上がったらしい。
だが周囲を見回すと、今度は反対側に二体が出現している。僕はダッシュして突進すると、ジャンプ斬りを一体に食らわせ、その横にいた奴を袈裟斬りに斬って捨てた。
振り向くと、高台の南側の端にある一角から光が発せられ、大きな木の箱が現れつつあった。近づいて蓋を開けると、小さな金属の鍵が入っていた。
鍵をしまうと、次の場所に向かうべく、三つのガラス球が置かれた場所に近づいた。ガラス球のただ中に立つと、剣で回転斬りをした。三つのガラス球に剣が当たると、すべてが同時に光を発し始め、僕が立っている場所の床に刻まれた四角い文様が光り、そして浮上し始めた。
足場はかなりの高度を得たあと、今度はまた部屋を横切る形で東側に進んでいく。対岸には、今までいた高台よりさらに高い場所の壁に張り出しと扉がしつらえられているのが見えた。
足場がゆっくり進んでいく先に、黒蝙蝠が一匹飛んでいる。足場が向こう岸に着くと僕は飛び降りて張り出しに降り立ち、扉に近づいた。案の定扉は鎖がかけられて錠前で閉じられていた。僕は金属の鍵を取り出すと、錠前に差し込んで捻った。錠が開いて鎖が床に落ちると、扉は自動で開いた。
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扉の向こう側に出ると、そこは東側の空に向かって開いた広大なバルコニーだった。僕のいる場所から少し北にいくと、東に大きく張り出して広間のようになっている。上空を怪鳥どもが飛び回り、奥の方には影の使者が一匹うずくまっている。
おっと、ここに大事な鍵が隠されているのだ。 僕は思い出した。
僕は後ろを振り向いた。壁にしつらえられた大きな縦の溝に黒い霧のような滝が流されている。
剣を抜くと、僕は注意深く黒い霧の滝に近づき、回転斬りを発した。霧が吹き飛び、その向こう側が見えた。建物が窪んだ構造が高所から縦に続いており、バルコニーと同じ高さで終わっている。バルコニーと窪みの終端となった床の間には幅二メートルほどの間隙が開いており、そこに滝が吸い込まれていっていた。
目を上げると、縦に続く窪みの内側、左手には足場と金網つき照明器具が設置されている。
素早く剣を納めるとクローショットを嵌め、先ほど照明器具が見えた場所を狙った。霧がすぐに降りてきたが、狙いを信じてクローショットを撃つ。鉤爪が金網にかかった。僕はあっという間に器具に引き寄せられ、足場の上に上がった。
窪みの内側の向かい側の壁を見ると、そこにも足場と照明器具がある。僕はもう一つのクローショットで向かい側の照明器具を狙い撃ち、飛び移った。
上を見上げると、天井にも照明器具がつけられ、その下に狭い足場がある。僕はクローショットをそこに向けて撃った。鉤爪がかかり、たちまち体が天井の照明器具に引き寄せられた。
鉤爪を開いて足場に降りる。そこには、黒い石のような材質でできた巨大な箱があった。蓋を上げてみると、中には黒い金属でできた大きな鍵が入っていた。
僕はポーチに鍵を仕舞った。だがそのとき、ラッパのような音が複数近づいてきた。また怪鳥どもだ。
退散する頃合いだ。剣を抜くと、僕はやにわに回転斬りを放った。黒い霧の滝が一時的に払われる。 僕は前に跳躍しジャンプ斬りを放った。そのまま落下していく。下はバルコニーだがやや落差が大きすぎる。
僕は着地したがやや体に痛みが走った。しかし時間の節約のほうが大事だ。
僕は、剣を抜くと東側に突き出た広場にうずくまっていた影の使者に突進して横斬りを叩きつけた。黒鬼はあえなく崩れ落ちた。
バルコニーの東の終端にはガラス球が二つ設置されている。僕はガラス球の間に立って回転斬りを放った。たちまちガラス球が光を放ち始め、立っている場所の床に刻まれた文様が発光しゆっくりと浮上した。
頭上で飛び回っていた怪鳥どもがこちらに気づいたのか、高度を下げてきた。足場は緩やかな速度で南に移動している。見ると、今までいたバルコニーとは別に、分離された小さなバルコニーが南側に設置されていた。
僕はミドナに言って鎖と鉄球を出させた。怪鳥がこちらを襲おうと爪を広げた途端鉄球を放つと命中し、敵は苦し気なラッパ音を立てて墜落し始めた。だが次々に怪鳥どもが群がってくる。僕は鎖をブン回して片端から鉄球をぶち込んでいった。
十羽ほど片付けたところで、ようやく怪鳥どもは諦めて僕の足場を離れた。
やがて乗っている足場は西に方角を変えた。
その時、南側の小さなバルコニーから魔法弾が飛んできた。僕は盾を上げて防ぎ、攻撃の源を見やった。ザントの兜がバルコニーのひと隅にいたが、すぐに姿を消した。
僕の足場は今はその小バルコニーに向かっている。到着すると、僕は飛び降りて剣を抜いた。果たして、バルコニーの奥の壁際にザントの兜が姿を現した。僕は突進すると、間合いを詰めてジャンプ斬りを叩きつけた。ザントの兜は床に落下すると煙を上げて動かなくなった。
今立っている小バルコニーの中央辺りにもガラス球が二つ設置されている。僕はそこに歩み寄るとガラス球の間で回転斬りを放った。予想通り、ガラス球の間の床の文様が光って浮上し始めた。足場に乗っていると、それは浮上したあと北に向かい始めた。元のバルコニーに戻るのだ。
だが目を上げると、さっきまでいたバルコニーの広場に三体ほどのザントの兜が現れている。一斉にこちらを狙って魔法弾を射出してきた。
気に入らない連中だ。僕は行き先のバルコニーとの間隔を見極めると、思い切って足場から跳躍した。
足の下を魔法弾が次々と通過する。ギリギリの距離で僕は向こう岸の床に降り立ち、転がったあと立ち上がった。既にザントの兜たちは消えている。
背中から盾を下ろし、剣を構え直した。バルコニーを前進すると、前方にまた三体の警備装置が現れた。
僕は駆け寄って敵のただ中に入り込み、回転斬りを放った。三体に刃が直撃し、致命傷を与えた。敵は床に転がって動かなくなった。
だが、まだこれで終わりではない。さらに前進しバルコニーの北側のフロアに向かう。案の定、新たな警備装置が三体同時に姿を現した。前方の一体に突進してジャンプ斬りを叩き込むと、右に方向転換して一体に縦斬りを食らわせた。すかさずバックホップすると、敵のほうを見ずに回転斬りを放つ。果たして刃が三体目にも当たった。
三つの警備装置がガラクタのように床に転がり、やがて崩壊していった。
すると、バルコニーの北端にある一角から光が発せられ始めた。大きな木の箱が姿を現している。近づいていってその蓋を開けると、中身は小さな金属の鍵だ。
僕はバルコニーの北側のフロアに面した西側の壁の扉に近づいた。扉にかけられた錠前に鍵を差し込んで捻ると、錠が開いて鎖が床に落ちた。扉の文様が光を放ち、自動的に扉が開いた。
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扉の内部は、短い廊下の先に五十メートル四方ほどはありそうな広間があった。やはり天井が高い。部屋の奥のほうの床には黒い霧が立ち込めている。
この部屋が影の宮殿の中で一番面倒だということを僕は思い出した。
しかし進まねばならない。僕は霧の方に歩いていき剣を抜いた。だがその瞬間、聞き慣れた落下音がした。魔法結界の柱が床に刺さる音だ。前方の霧の立ち込めた箇所の手前に結界が形成された。振り向くと、入り口の方面も塞がれている。
すると影の使者たちがボトボトと落下してきた。僕はまず床に落ちて立ち上がろうとしていた手近の一匹を袈裟斬りに斬った。あと三体いる。そいつらが立ち上がるが早いが間髪を入れず回転斬りを放った。
四体の影の使者たちが床に崩れ落ち、その身体がボロボロと崩壊し始めた。魔法結界の柱が消滅していく。僕は改めて黒い霧が立ち込めた場所に近寄ると、剣を振って霧を払った。奥に進むと、四角い台座の上に四つのガラス球が設置されている。僕はその中心に立って回転斬りを放った。
ガラス球が発光し、立っている場所の床の文様が光を放って半透明の足場が浮上し始めた。足場は十メートルほど高度を得ると静止した。
振り返るといつの間にか同じ高さの足場が背後に浮いている。僕がそちらに飛び移ると、今度はその足場が南に向かってゆっくり移動し始めた。すると前方に二つの足場が現れた。
僕が左側の足場に飛び移ると、果たしてその足場はゆっくりと浮上し始めた。上方の壁を見ると、小さな張り出しがしつらえられており、その少し上には金網つき照明器具が設置されている。その張り出しの左手には半透明の浮遊足場が静止していた。
僕はクローショットを手に嵌めると、それで張り出しの上の照明器具を狙って撃った。だが目的地に飛び移った途端、足場の上にデクババが生えているのに出くわした。僕は鉤爪を開いて飛び降りると、デクババを避けながら浮遊足場のほうに飛び移った。
足場は浮上すると西に向かって移動し始めた。向こう側を見ると、同じ高さの壁に三つほどの張り出しがわずかな間隙を開けて設置されている。足場はそこに向かっている。行き先にある三つの張り出しのうち真ん中にあるものの上の壁に照明器具がついていた。
だが、その目的地にザントの兜が一体姿を現した。その口に赤い光球が浮かび上がり、射出された。光球がこちらに向かって飛んでくる。だが足場も一定の速度で移動しているので向こうの狙いも逸れた。雑なエイムだ。
敵はすぐ姿を消した。僕はクローショットを再び構えると、向こう岸の壁にある照明器具が射程内に入るのを待った。
向こう岸が近づいてきた。僕はクローショットで照明器具を狙って撃ち、飛び付いた。
鉤爪を開いて飛び降りた瞬間に、ザントの兜が今立っている張り出しの縁に姿を現した。僕はすかさず剣を抜いて敵を袈裟斬りに斬って捨てた。
ザントの兜がバラバラになりながら落下していく。剣を納めると、クローショットを再び手に嵌めた。
目を上げると、天井の中央にも照明器具がついている。僕はそれを狙ってクローショットを撃ち、飛び付いた。ぶら下がりながら眼下に目をやると、浮遊足場が規則的に東西に反復移動している。
だが、東側の壁の高所にしつらえられている三つの張り出の一つの上にザントの兜が出現していた。赤い光球がその口から放たれる。僕はクローショットの鎖を伸ばす操作をした。弾が逸れて、光球の灼熱が僕の頭上を通過していった。そうしているうち敵は姿を消した。
僕はそのまま鎖を伸ばし浮遊足場に降り立った。足場が東に進んでいく。ついさっきザントの兜が現れた張り出しの上に照明器具がついている。僕はクローショットでそれに狙いをつけた。その時ザントの兜が左端の張り出しに姿を現した。僕は構わずクローショットの狙いを保つと、敵の口に光球が浮かび上がり、それが今しも放たれそうになった瞬間に撃った。
たちまち僕の身体が向こう岸に引き寄せられる。身体の後ろを魔法弾が通り過ぎた。照明器具に飛び付くと、僕は張り出しに降り立った。だがザントの兜は既に姿を消している。
僕は剣を抜いた。奴はすぐに現れるはずだ。
右か。左か。前か。後ろか。その瞬間、気配を感じて僕は振り向きざま背後に斬りかかった。まさにその瞬間ザントの兜がそこに出現し、斬撃を喰らってふらふらと床に落下した。
周囲に敵がいないのを確かめて剣を納めた。すると、三つある張り出しの南端の隅から光が発せられ始めた。僕は間隙を飛び越えてそちらに移ると、木の箱が現れるのを待ち、その蓋を開けた。中身は小さな金属の鍵だ。
鍵を仕舞うと、次の移動経路を探した。三つの張り出しのうち中心のもののすぐ前に浮遊足場が静止している。僕がそこに飛び移ると、その足場はゆっくりと高度を増し、ついで北側に移動し始めた。同じ高さの北側の壁には短い階段がしつらえられており、その突き当たりには扉がある。扉は例に漏れず施錠されているようだ。
浮遊足場が階段の前に到達すると、僕は飛び降りて前進した。階段を駆け登り、扉の錠前に鍵を差し込んで捻った。錠が開いて鎖が落ちた。扉の文様が光って自動的に開く。
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扉を抜けると、そこは二つの部屋が繋がったような作りだった。短い廊下に続いて、少し幅の広くなったスペースが一つあり、その奥にもう一つの部屋が直接繋がっている。奥のほうの部屋は、厳めしい柱のような装飾が彫られた壁に囲まれた広間だった。その広間には黒い霧が立ち込めている。
だが手前側のスペースには影の使者が一匹うろついていた。僕は剣を抜くと素早く突進して袈裟斬りに斬って捨てた。敵の死骸を背後にその先の広間に入っていき、剣で霧を払っていった。
だがそのとき、魔法結界の柱が床に刺さる音が聞こえた。たった今通ってきた背後の部屋との境が塞がれた。前方にも魔法結界ができている。
敵は天井から落ちてくる。僕は直感した。何も見ずに回転斬りを放つ。落ちてきた影の使者が一匹痛撃を喰らってそのまま倒れる。さらに一呼吸、二呼吸待って、もう一度回転斬りを繰り出した。もう一匹、落ちてきた影の使者が深手を負って崩れ落ちた。だがこんなものではないはずだ。僕は待った。
背後に落下音がした。僕は振り向きざままたも回転斬りを放った。二匹落ちてきた黒鬼が、二匹とも致命傷を負って崩れ落ちる。油断せずに待ち構え続けた。肩越しに背後を振り返った瞬間、部屋の奥にまた二匹降りてきた。突進し、構えを取る暇を与えずに回転斬りで斬り捨てた。
そのとき、部屋の中央にバタバタと新手が降りてきた。全部で四匹だ。だがいくら来ようと同じ。斬り放題だ。
僕は気合を発すると、手近の一匹にジャンプ斬りを叩きつけ、そいつが崩れ落ちる間もなく二匹目の胴を横斬りで払った。さらに滑るように前進して身を沈め、回転斬りを繰り出して残り二匹の息の根を止めた。
まだ来るか?僕は血払いもせず剣を構え周囲に目を配った。出てくる度に数を増している。だが片端から斬り捨ててやる。
果たして、部屋の奥に新手が次々降りてきた。総勢五匹だ。僕は駆け寄って回転斬りを繰り出し、二匹を一まとめに斬り倒した。残り三匹が起き上がる。その時には裂帛の気合を発してジャンプ斬りを真ん中の一匹に叩きつけていた。ようやく二匹が戦闘体勢をとる。だがそれも回転斬りで吹き飛ばした。
五匹の黒鬼が床に倒れ、その死骸がボロボロに崩れた。それと同時に、部屋の奥を塞いでいた魔法結界の柱も消え去っていった。
奥の扉に進むと、ひときわ大きく複雑な文様が施された扉に、太い鎖がかけられゴツい錠前がついている。
僕はポーチから大きな鍵を取り出すと、錠前に差し込んだ。果たして鍵はぴったりだった。鍵を捻ると錠が開き鎖が落ちた。扉の文様が光を放つと、自動的に開いた。
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扉をくぐり慎重に前進する。短い廊下から階段が伸びていた。その先が王の間のようだ。階段を登ると、その上は三十メートル四方ほどの広間だった。周囲の壁は先ほどと同様荘厳な柱状の装飾が施されており、床の中央にはさらに短い階段がしつらえられていた。その階段の上の台座の上の玉座に腰かける人影があった。
ザントだ。今度は幻影ではない。
僕は素早く「スキップ」を念じた。
するとザントは大きくのけぞりながら両手を広げて言った。
「わが神の望みは一つ」
僭王は呻くように言った。
「光と影を一つの闇に返す!」
どうやらやる気のようだ。
だが、生憎僕は転生の経験で知っていた。
ハッキリ言ってこいつとのタイマンは幻影と戦うより楽なくらいなのだ。
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その瞬間、ザントは両手の間に赤い光球を生じさせて気合を発した。ザントの周囲の空中に紋章のようなものが浮かび上がり、すぐ消えた。僕は自分たちが全く別の空間にいることに気づいた。
広大な木の洞のような部屋。奥には紫色の毒々しい沼。
(今回の転生では訪れたことはないが、森の神殿のボス部屋だ。)
僕は懐からブーメランを抜いた。その瞬間、沼の上空にザントが出現する。同時に僕はブーメランを投げた。ザントは両手を前に出し魔法弾射撃の体勢をとったが、高速回転しながら向かっていったブーメランが浮遊するザントの足元にまとわりつく。
ザントは落下すると、毒の沼に片足を突っ込んで悲鳴を上げた。慌てて跳躍しながら、こちらの床に向かってくる。僕は剣を抜いてザントのほうに走り寄った。
ザントが床に着地した瞬間に、縦斬り、横斬り、そして縦斬りを空振りさせ、最後の突きだけを喰らわせた。
(これも転生を繰り返して会得した一つのコツなのだ。)
手応えがあった。だがすぐにザントは姿を消した。
ブーメランを用意して待つ。ザントが空中に出現するが早いが、ブーメランを投げつける。空中でこちらに魔法弾を発射し始めたザントは、またしても高速回転するブーメランに足元を掬われた。
僕は敵の魔法弾を前転して躱すと、剣を抜いた。失速落下したザントが毒沼の上を渡ってくるのを待ち、敵が沼から出るが早いが縦斬り、横斬り、袈裟斬りを空振りし、最後に袈裟斬りを叩きつけた。
次の瞬間、沼の上空にまたザントが現れた。だが魔法弾を撃つのではなく、両手を広げて気合を発した。紋章のようなものが空中に拡散する。
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その途端、僕は尋常ならぬ暑さを感じた。足元の床が青い金属になっている。周囲を見ると、溶岩の上に浮く円形闘技場だ。
(僕は今回の転生では訪れたことはないが、ゴロン鉱山でダンゴロスとかいう奴と戦う場所なのだ。)
ブーメランを仕舞いながら顔を上げると、前方の縁にザントが現れた。嘲りの笑い声を上げながら、上下にジャンプを繰り返し始めた。そのたびごとに足元がグラグラと揺れる。
「ミドナ、ブーツを!」
僕は叫んだ。たちまち足元が鉄のブーツに変わる。目を上げるとザントがいない。再び嘲笑の声がして振り返る。背後だ。ザントがまた上下にジャンプし始めたが、今度は鉄のブーツが床にしっかりくっつき、僕は微動だにしなかった。ザントはすぐに姿を消すと、今度は最初と同じ場所に出現した。だが足場を揺らしても効果がないと気づいたらしい。両手を前に出して魔法弾を射ち出した。
盾を構え受け止める。一つ一つの魔法弾は小さいが、矢継ぎ早の連射で盾を動かせない。だが盾の縁から敵のほうを目を離さず伺った。
ザントはひとしきり連射を終えると、肩で大きく息をし始めた。
「今だ!」
僕が叫ぶが早いがミドナがそのブーツを元に戻した。ザントに向かって全力で突進していき、目の前で三つ連続して突きを外してから四つ目を食らわせた。ザントはよろめいたがまた姿を消した。
僕はミドナに合図して足元を鉄のブーツに入れ替えた。果たしてザントが右手の端に現れて上下ジャンプを繰り返し、闘技場を揺らした。それが効かないと気づくと、ザントは姿を消し、次に向こう側の縁に出現した。魔法弾だ。
盾を構えて防御すると同時に魔法弾が着弾し始めた。左腕をしっかり上げて耐える。身体がグラグラと揺れるのを、鉄のブーツの力を借りて踏ん張った。連射に最後まで耐えると、僕はミドナに叫んでブーツを入れ替え、ここを先途と突進した。攻め疲れで肩で息をしているザントに駆け寄ると、縦、横、袈裟斬りを空振りさせ、最後に縦斬りの刃を叩きつけた。
ザントが唐突に姿を消したかと思うと、闘技場の上空に姿を現し、両手を広げて気合を発した。だがその声は心なしか苛立ちが込められているように思えた。紋章が周囲の空中に拡散する。
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その途端、僕は自分が水中にいることに気づいた。湖底の神殿のタコウナギと戦った場所だ。
僕はミドナに合図して鉄のブーツを履かせてもらうと、水底に立つと同時に爆弾袋から水中爆弾を取り出しつつミドナにまた合図してブーツを元に戻した。
僕は浮遊しつつ、点火した水中爆弾を抱える恰好になった。
その状態で少し時間をおいて、それから水中爆弾を手離す。少し苦しくなった息がまた楽になった。
すると、水底から大量の気泡が浮かび上がってきたかと思うと、砂地から建造物のようなものが轟音とともにせり上がってきた。
ザントの兜だ。高さは十メートルほどもある。僕はミドナに合図して鉄のブーツを履いた。たちまち身体が水底に降り立つ。
すると、ザントの兜を模した建物の面甲の口の辺りが巻き上げられるようにして開いた。中にはザントがいる。僭王は両手を前に出して魔法弾発射の体勢をとった。僕は一歩前に進むと盾を構えた。魔法弾が次々と盾に着弾し僕の身体を揺らす。
だがやがて敵の魔法弾が切れた。僕はすかさずクローショットを構え敵に狙いを定めて撃った。ザントの寛衣の直垂についていた装飾に鉤爪がかかる。鉄のブーツを履いた僕とでは体重が比較にならない。ザントがたちまちこちらに引き寄せられてきた。僕はクローショットを手放してミドナに託すと、剣を抜いて縦斬り、横斬り、袈裟斬りと突きを立て続けに放った。
ザントが呻き声を上げてよろめく。だがすぐ姿を消した。次の出現に備え僕は周囲に目を配った。
僕はまた爆弾袋から水中爆弾を取り出しながらミドナに合図してブーツを元に戻した。浮上しながら水中爆弾を抱え、そして手放す。この世界の不思議な法則により、まるで空気中で呼吸をしたかのように息が楽になる。
すると、砂地から四ヶ所にわたって大量の気泡が涌き出てきた。砂を押し分けて巨大なザントの兜がせり上がってくる。全部で四つだ。僕はそれらに包囲される形になった。
だが、僕はどの兜から敵が出現するかを既に知っていた。素早くミドナに合図を繰り返し、鉄のブーツを履いたり、また元のブーツに戻したりしながら、最も離れた場所に出現した兜に近づいていく。
やがて目当ての兜の前で僕はミドナに合図して鉄のブーツを履いて水底に降りた。同時に兜の前面が開く。
僕は砂地に降り立つが早いがクローショットを撃った。魔法弾を発射しようとしていたザントはたちまち僕に引き寄せられた。クローショットを手放して剣を抜くと、相手が泳いで逃げようとするところを横斬りで払い、さらに三度の連続突きを叩き込んだ。
呻き声を残してザントは消えた。だが数秒すると、僭王は僕たちの上方に現れ、水中に浮遊しながら直立し両手を広げて気合いを発した。その声には明らかに苛立ちと怒りが込められていた。紋章が空間に拡散し、僕たちは水中から出たことを感じた。
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周囲を見ると、木の壁に囲まれた円形の大広間に来たことがわかった。森の神殿のボス猿と戦った広場だ。円形に配置された八本の木の円柱と、その真ん中に立った木の柱に見覚えがあった。
広場中央の円柱の上にザントが現れた。両手を前に出し、魔法弾を連射してきた。僕は横っ飛びに転がり、それから斜めに走った。弾幕を回避しつつ距離を詰める。
ザントは奇声を発しながら円柱の天辺を次から次へと飛び回る。こちらを惑わす気だ。僕は追尾しながらも落ち着いてその動きを観察した。ザントは二度、三度と跳躍すると、その先の円柱の上からこちらに向き直り、魔法弾発射の体勢をとった。
チャンスだ。僕は敵に向かって半月形の弧を描くように走った。身体のすぐ横を灼熱の球が次々とかすめる。だが距離が詰まると僕は思い切って前転し、弾幕の下を潜り抜け、敵からの射角が仰角気味になって形成された死角に滑り込んだ。
「ミドナ、鎖と鉄球を!」
僕は叫んだ。手に鎖が握られる。振り回すと鉄球が円柱を直撃し、それをぐらぐらと揺らした。もう一度鉄球が円柱に当たるとザントは耐えられなくなり転げ落ちた。
僭王は頭から床に落下し、だらしなく伸びていた。僕は鎖を手放し敵に駆け寄ると、ジャンプ斬りを叩きつけ、次いで縦斬り、横斬り、袈裟斬りを食らわせた。
衝撃で目が覚めたのか、ザントは飛び上がって再び円柱の上に乗った。だが僕は奴の次の移動場所を知っていた。
すぐに真ん中の円柱の近くに走り寄り、そこでミドナに合図して鎖と鉄球を出させた。
果たしてザントはその円柱に飛び移ってきた。同時に僕は鎖を振り回す。鉄球が円柱にぶちあたると、その上にいたザントはたまらず転げ落ち、床に倒れた。鎖を手放すと、僕は剣を抜いて殺到した。縦斬り、横斬り、袈裟斬り、さらに突きを叩き込む。
悲鳴を上げて姿を消したザントはすぐに広場の上空に現れた。両手を広げて気合いを発する。だがその声はもう自暴自棄の喚き声のようになっていた。
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紋章が空間に拡散し、周囲の光景が一瞬にして変化した。気温が低い。僕は自分の息が白いことに気づいた。足元はツルツルに凍りついている。広い円形の床を囲むのは装飾窓のしつらえられた石造りの豪奢な壁だ。
(僕は今回の転生では訪れていないが、ここは雪山の屋敷で鏡の破片に魅入られた女獣人と戦う部屋だ。)
ザントは床の上空に浮遊すると、唸り声を上げた。その身体は巨人のように大きい。
落下して押し潰す気だ。僕にはすぐわかった。滑りやすい床の上を走り出した。凍りついた床を見ると、上空の様子が映っている。ザントは気合いを発すると、一気に高度を下げてきた。予想通りだ。
僕は瞬間的にダッシュすると前転した。背後の床に巨人ザントが地響きを立てて着地する。
「鎖と鉄球だ!」
僕は叫んだ。たちまち鎖がその手に握られる。振り向くと、鎖を振るって鉄球を巨人ザントの足に叩きつけた。
ギャアと悲鳴が上がった。僭王は片足を手で押さえながら飛び回って逃げ始めた。逃げているうちにみるみるうちに縮んでいく。僕はすぐさま鎖と鉄球をミドナに預け剣を抜いた。
やがてザントは巨人化魔法の反動なのか、子供ほどの身長になってしまった。僕は不規則に跳躍して逃げるザントを追った。床が滑る。右、左と方向を変える相手に追いすがる。前転して距離を縮めると、渾身の突きを放った。小人ザントが悲鳴を上げると、僕はさらに剣を払い、次いで二度続けて袈裟斬りにした。
ザントが唐突に姿を消した。だが上だと見当がついた。唸り声が聞こえる。凍りつく床を見ると、再び巨人化したザントが浮遊してこちらの上空に向かってきている。
僕は剣を納め走った。もうすぐ落下攻撃が来る。飛行してくる敵の姿を床越しに見極め、ザントが気合いを発した瞬間ダッシュした。頭上に落下してきた巨人ザントを、前転して躱した。立ち上がるとミドナに合図し、鎖を握る。敵に向き直ると、鎖を振り回し鉄球を巨人の足に叩きつけた。
悲鳴が上がり、ザントが片足を押さえて逃げ始めた。鎖を手放し剣を抜いて、縮んでいく僭王を追いかける。小人化した僭王は不規則に左右に飛び回りながらどうにか逃れようとしていた。僕は滑る足元を前に転がりながら追いかけた。
距離が詰まった瞬間に放った突きが刺さった。次いで袈裟斬りと回転斬りを叩きつけた。さらにもう一度突きを放つ。僭王は斬撃を食らうたび苦しげに呻く。だが、僕がさらなる追撃を与えようとした瞬間に突然姿を消した。
次の瞬間ザントが空中に現れた。両手を広げて気合いを発したが、その声にはもはや悲痛なものが混じっている。紋章が拡散し、肌を覆う冷気が消えた。
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僕はいつの間にか石畳の上に立っていた。城下町の南門の外だ。だ不思議なことに、本来そこから見えないはずのハイラル城が見えた。
ザントも姿を現していた。その背後に魔法結界が見える。見渡すと、周囲二十メートル四方ほどを結界が囲っているのだ。ザントは自分も左右を見回していた。どうやら自らの魔法の制御も失いはじめているらしい。
だが僭王は気を取り直すと、どこからか長い半月刀を二本取り出して両の手に構え、二つの刀身を打ち合わせた。
そしてザントはやおら奇声を発すると、しゃにむに刀を左右交互に振り下ろしてきた。
だが、わずかに先んじて僕は回転斬りを発した。すると斬撃を喰らったザントがよろめき、くやしそうな声を上げると姿を消した。
数秒を見計らい、また回転斬りを放つ。やはり死角に現れて襲ってこようとしていたザントに当たった。
僕はすでに気づいていた。ザントは剣がヘタ過ぎる。ただ魔法で剣の威力を水増ししているだけなのだ。
再び回転斬りを放つ。すぐ背後に現れたザントに当たった。
僕はザントが姿を消すと、感覚を研ぎ澄ませ、次の瞬間また回転斬りを放った。
その刹那斜め後ろから高速回転する独楽のようなものに僕の斬撃が当たった。
ザントだ。二本の刀をかざして体を回転させている。僕の斬撃で弾かれたザントは、明後日の方向に進んでいきながら、やがて回転の勢いが尽きていった。
ザントは棒立ちになった。攻め疲れで肩で息をしている。僕は縦斬り、横斬りからジャンプ斬りを敵に叩きつけ、さらに突きを食らわせた。ザントは呻き声を上げ、すぐ姿を消した。
ザントの技は全てハッタリだということを僕は転生の経験から見透かしてた。
(転生を繰り返す前「あいつなんか凄そう‥‥」と恐れていた自分を思い出すと、恥ずかしくて恥ずかしくて死にそうになる。)
一呼吸置くと、やおら回転斬りを放つ。やはり、死角から襲おうとしていたザントに剣が命中した。独楽のような回転をしながら、ザントはあらぬ方向へ進んでいった。
回転速度が落ちていく。やがて停止したザントは棒立ちになって荒い呼吸をし、肩を上下させはじめた。僕は駆け寄ると思い切りジャンプ斬りを食らわせた。着地と同時に回転斬りを放つ。さらに渾身の突きを二度繰り出した。
ザントが悲鳴を上げつつも姿を消す。だが、次の瞬間死角に姿を現したザントが自棄糞とも思える絶望的な声を上げながら回転攻撃をしようとしたとき、僕の五感はそれを逃さなかった。
裂帛の気合いとともに回転斬りを放ち、独楽となったザントを弾き返すと、その回転が遅くなっていくのを待ち、棒立ちになったところでジャンプ斬りを叩きつけた。
それまでとは何か違う手応えがあった。さらに横斬りで胴を払う。僕はさらに突きを放った。
駄目押しの袈裟斬りを叩きつけると、僭王は両の刀を取り落とし、悲鳴とも喚きともつかぬ声を上げ、何とか立ち続けようともがいた。だがすぐに耐えきれなくなり、ガックリと膝をつくとうつ伏せに倒れた。
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やれやれ終わった。
「スキップ」を念ずると、ミドナが短距離ワープ用のポータルの上に浮いて「やり残したことはないな?」と聞いていくる。
僕が頷くと彼女はすぐにワープを開始した。
数秒すると、僕らは王宮の前の円形野外広場に立っていた。
もうここには用はない。僕は前転ダッシュすると、陰りの鏡による転送場がある場所まで急いだ。
広間を通り抜け、南に走ると、以前と同じように回転する紋様が空中に浮かんでいる。その手前の地面には半透明の円形の足場があった。
僕が足場に乗ると、途端に僕の身体が回転する紋様に吸い込まれていった。転送されるのだ。
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気が付くと僕は砂漠の処刑場の鏡の間にいた。鏡の前の円形半透明の足場から、鏡のある台座まで降りると、僕はミドナに声をかけカカリコ村まで飛ばしてもらうよう頼んだ。
ちょっとした野暮用を片付けないとならない。
ミドナはすぐに僕を狼に変身させ、ワープを開始した。
数秒すると、僕らはカカリコ村の精霊の泉の前に降りたっていた。
僕は狼姿のまま走って礼拝所の裏を抜け、墓地の方に向かう小道に入った。坂道を登っていくと、いつもは昼間でも陰鬱な墓地にちょうど西日が射してきているところだった。
墓地に足を踏み入れて周囲を見回してみた。墓石と、枯れかかった木と、その上を飛ぶ烏の群れだけだ。僕は突き当りの石階段を登ると石舞台の上に出た。その奥に進むと、金色の狼が座っている。だがやや像がぼやけており、実態のない幻影だとすぐわかった。
僕はミドナに頼んで人間に戻してもらった。そして狼に近づいた僕は、反射的に剣を抜いてしまった。僕自身はもう転生を繰り返す過程でこの狼に危険はないということをよく知るようになっていたのだが、どうしてもやってしまう。
狼が僕に飛び掛かり、その途端僕は気を失った。
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しばらくすると、突然狼の遠吠えが聞こえた。周囲を見回すと、さっきまでカカリコ村の墓地にいたはずなのに、僕は白く薄い霧の立ち込めた平原にいた。遠くにはハイラル城のシルエットが見えた。
もう一度狼の遠吠えが聞こえた。背後からだ。振り返る。すると、牛ほどの大きさはあろうかという金色の毛をした狼が十メートルほどの距離に座っている。
もう一度瞬きして狼を見たときには既にその姿はいつの間にか、背が高く、左手に円盾、右手に剣を持ち、兜と甲冑で身を固めた剣士になっていた。
剣士の顔は骸骨だった。顔だけでなく、胸当ての下にあるはずの腹は肋骨と背骨だけだった。腰回りの太い帯についた草摺りの下と脛当ての間も骨だった。
そう、この剣士は僕の師匠であり、また(ネタバレをしてしまうと)僕の先祖でもあるのだ。
僕はこの人からある技を教わらなければならない。
ハッキリ言ってかったるいのだが、ある一つの技だけは教わっておかないと「ガ」のつくオッサンを倒せないのだ。
だから仕方ない。僕は覚悟を決めた。
(つづく)