黄昏の姫と緑の勇者:転生者チート編   作:nocomimi

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無理やり影の領域に侵入した僕は、強制バトルからバックレる

妖精コスプレチビの御託が終わると僕はすぐさま泉の出口から外に飛び出た。

 

小道を左に折れてしばらくいると、そこには緑色の顔をして棍棒を持った鬼がいる。(矢筒も背負っているのだが、幸いなことに弓は持っていないから矢を射掛けてくることはない。不用意な奴で助かる。)

 

僕は鬼のすぐ近くまで行って注意を引くと、すぐに道を引き返して北に向かい始めた。

 

鬼が後を追ってきているのを確認しながらゆっくりと小道を北に進む。泉の出入り口も通り過ぎ、吊り橋を渡った。

 

さらに吊り橋の先の道に入ってから感覚を研ぎ澄ませた。

 

右手の壁に黒いシミがあり、そこから地面に斜めの線が走っている。僕はそこで壁に向かって立ち止まると鬼が追ってくるのを待った。

 

ほどなく鬼は僕に近寄ってくると、喚き声を上げながら棍棒を振り上げた。

 

バックホップしてギリギリで回避すると、今度は鬼の南側に立って、相手をぐいぐいと鼻先で押しやった。

 

鬼は押されながらもまた喚き声を上げて棍棒を振り上げる。僕はまたバックホップして身をかわすと、再び鬼に迫って道の奥にそいつを押しやった。

 

だが、その途端あの妖精チビが出現した。

 

「おい、何度言ったらわかるんだ。お前ひとりの力じゃ影の領域には入れないんだぞ」

 

しくじった、と僕は思った。身体が勝手に動き、小道を数メートル南に歩かされた。

 

だがすぐに僕は自分の身体のコントロールを取り戻した。

 

これくらいじゃあ諦めないぞ。

 

僕はまた例の印のある場所まで行くと、そこまで鬼を引きつけ、相手が攻撃してくる寸前にバックホップして回避した。そして鼻先で鬼をぐいぐいと道の奥に押す。

 

不毛に思える攻防が数分続いた。

 

だが、僕はある瞬間を見出した。

 

あの妖精チビの怒りに触れないギリギリのところまで鬼を道の奥に追いやったのだ。

 

鬼がまた喚きながら棍棒を振りかざす。僕はバックホップすると、やにわに跳躍して鬼に打撃を与えた。

 

鬼が後ろに吹っとんでいくのを注目し、僕はもう一度ジャンプして攻撃した。

 

空中にいる敵に目掛けた跳躍は、少し距離が伸びるのだ。

 

跳躍し、鬼に追撃を与えて僕は地面に降り立った。

 

すると、なぜか今度は問題なく道の先に進むことができる。

 

さっきはトアル村で剣と盾を盗ませるべく僕に小言を言っていた妖精チビが、「影の領域に行きたいか?」と尋ねてくる。

 

もちろん僕は頷いた。そしてその先の諸々の出来事は全て「スキップ」した。

 

気が付くと、僕はフィローネの森の影の領域の入り口で目を覚ましたのだ。

 

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フィローネの森を進んでいく。最初の広場を抜けると、早速空中に渦巻のようなものが現れて、そこから黒い塊が三つ押し出され地面に落下してきた。

 

いわゆる「影の使者」と言われる黒い鬼だ。一撃を喰らうと結構痛い相手だ。

 

しかも周囲ぐるりに魔法結界まで現れている。敵を全員倒すまでどこにも逃げられない状況だ。

 

「あ~あ、囲まれた。舐められたもんだよ」

 

妖精チビは呟いた。

 

「こんな雑魚いちいち相手してらんないや。お前ひとりでなんとかなるだろ?じゃ、任せたよ」

 

そう言うと、妖精チビふわりと浮上し、広場の端、泉に至る出口の近くにまで飛んで行ってしまった。

 

だが百回以上も冒険と転生を繰り返してきた僕は奴らの行動パターンを完全に把握していた。

 

三匹の黒鬼にわざと囲まれると、全員が迫ってくるまでわざと何もせずに待った。

 

そして敵が攻撃圏内に近づいてきた途端、僕は空中で身体を一回転させた。三匹のうちの二匹に回転攻撃が当たる。

 

回転攻撃は連続では使えない。何秒か休憩しないと再び出せるようにはならないのだ。

 

僕は敵群の攻撃を避けるためその周囲を走り回った。立ち直った相手が手を振り回して一撃を加えようとしてくるのをギリギリで躱すと、先ほどダメージを与えた二匹のただなかに飛び込んでもう一度回転攻撃を放った。

 

二匹の鬼がバタリと倒れると、生き残った三匹目が凄まじい吼え声を上げた。すると死んだはずの二匹がむくりと起き上がった。

 

だがここまでは想定ずみだ。

 

僕は広場の奥にいた妖精チビのところに走った。

 

「おい、何チンタラやってるんだ」

 

近付くと、彼女がどっかと背中に腰を掛けてきたのを感じた。

 

「奴ら一体だけ残して倒すとあの吠え声で蘇っちまうんだ。手伝ってやるから私が言う通りに動け。わかったな?」

 

いわゆる「結界攻撃」が使えるようになったのだ。このチビは態度はうざったいが、やはりこういう局面ではとてもありがたい。

 

僕は手近にいた黒鬼の一匹に近づくと、彼女に合図した。たちまち結界が広がって、黒鬼の身体に赤い稲妻のようなものが走る。そこで力を解放すると、鬼は一撃で死んでしまった。

 

生き残りの二匹に近づきもう一度ミドナに結界を張らせる。二匹の身体に赤い稲妻が走った瞬間跳躍すると、敵は次々と致命傷を負って倒れた。

 

黒鬼たちの遺骸がバラバラの破片となり上空の渦巻に吸い込まれる。

 

周囲の魔法結界も消えている。

 

僕は広場を抜け、フィローネの泉に近づいた。泉の上空に白い光の塊が浮いている。精霊だ。

 

僕は精霊の話を上の空で聞いたあと、「光の器」を受け取った。

 

闇の蟲を倒して取り戻した光の雫でこの器を満たせば、この場所の影の領域は晴れる。

 

僕は泉の前の洞窟を北上した。闇の蟲が二匹ほど這いずり回っていたが、今は無視だ(洒落ではない)。

 

やがて、その突き当たりにある小さな洞窟を閉じる門の前に出た。

 

門の脇の柵の下の地面を掘って向こう側に抜ける。そこにも蟲が二匹いたがやはり無視。

 

小さな洞窟に潜り込むと、最初に差し掛かった燭台の奥にある地面を掘って、向こう側に抜けた。

 

出たところは、もう洞窟の出口に近い。

 

光の見えるほうに向かって走る。

 

洞窟を出ると、そこは以前に来た盆地だ。だが盆地は紫色の毒々しい霧で満たされている。

 

しかし、背中に乗った妖精コスプレチビの力を借りればこの霧の盆地を越えられることを僕は知っていた。

 

洞窟出口周辺から続く左の岩壁からはなだらかな斜面が盆地に下っている。その斜面をたどってある程度の距離進むと、途中で斜面が切れた部分には平らな岩が見張り台のような形で張り出していた。

 

「おい、ここから渡ってみるぞ」

 

ミドナが前方を指さした。僕がその岩の先端に立つと、彼女はふわりと浮き上がり、霧の中から突き出ている枯れ木の残骸の上に止まった。追随して跳躍する。これを繰り返し、盆地の西側の岩壁に付随した斜面に着地することができた。

 

僕は自分がいる斜面の一番奥にある、細長い岩が通路状に張り出している箇所に進むと、そこから岩舞台を眺めてみた。距離は四・五十メートル以上離れている。その途中には、真ん中をばっさりと横に切断されたような巨木が二本ほど立っている。

 

僕は即座に妖精チビに合図した。すると彼女は再び浮遊して巨木の上に立った。妖精に向かって跳躍すると、たった二飛びで岩舞台の上に立つことができた。

 

虫の気配がそこここにある。全部で三匹ほどだ。位置が近いのを確認すると妖精チビに顔を向け、結界を出させた。

 

三匹が結界に捕えられると、力を解放した。僕の身体は操られるように三方向に飛び回り、蟲どもを全滅させた。

 

素早く三つの光の雫を回収し、僕は岩舞台を北に横切った。反対の端から向こうを観察してみると、この舞台ほどではないが巨大な切り株が複数、ごろごろと霧の中から顔を突き出している。

 

また迷わずにチビに合図すると、彼女は浮遊して手近の切り株の上に立った。(こういうときは実に便利なやつだ。)

 

後を追って跳ぶ。僕は切り株を伝い、さらに奥にある巨木の枝の上から、見上げるような高さの木の頂上にまで飛びあがった。さらに、枝から枝を伝って盆地の北東部に向かって進む。枝の上にはところどころにデクババが生えていたが、これを無視してさらに北東に向かって高い枝の間を飛び移っていった。北東の洞窟の入り口の門が見えてきた。門が大きく開いているのが枝の上にいても見える。ふと視線をずらすと、虫が一匹門の前の開けた場所を這いずり回っているのが見えた。

 

僕は妖精の後を追って跳躍し、門の前に降り立った。だがこちらの虫のことは完全に無視し(繰り返すが洒落ではない)、僕は北東の洞窟に真っすぐ向かっていった。

 

短い洞窟を抜けその先の広場に到達する。しかしその瞬間僕は嫌な先客を目にした。あの黒い巨大な悪鬼が広場に三匹も陣取っている。途端に、重いものが落下してくるドシンドシンという音がして、二つある広場の出入り口を魔法の壁が塞ぐのが見えた。悪鬼どもは侵入者に気づくと奇怪な面を被った顔をぐいっと向けてきた。

 

また影の使者たちとの強制的な戦いだ。

 

だが僕は知っていた。

 

僕はこの世界の仕組みを利用して、この場所から抜け出す。すでにそうする心算を固めていた。

 

いや、僕の転生の経験から言うと、この広場から抜け出すことこそが、この冒険を早く終わらせる鍵なのだ。

 

(つづく)

 

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