黄昏の姫と緑の勇者:転生者チート編   作:nocomimi

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僕は異次元移動の果て鬼の王を可哀想なくらいボコボコにした

僕は目の前の突き当たりの扉を転がして開けた。

 

中に入ると、そこは広い円形の部屋だった。あのポールが、十本ほど円形の配置で置いてある。向こうの天井には大きな穴が開いており、そこから太陽の光が差し込んでいる。

 

部屋の中央にもポールがあり、その上にでかいボス猿が座っていた。

 

本当は、外の吊り橋が破壊されたときに姿を見たはずなのだが、その経緯を「スキップ」してしまったのでこの冒険が始まってからは初対面だ。

 

だが、そんなことはどうでもいい。

 

僕はこいつを瞬殺する決意を固めていた。

 

ボス猿はブーメランを手にしており、こちらに気づくと異様に光る眼でじろりと睨んできた。

 

その途端、背後で何か重いものが落ちる音がした。見ると、入ってきた扉に頑丈な格子のようなものがかかっている。閉じ込められたのだ。

 

だが僕はその瞬間、目の前の情景を強引に「スキップ」した。

 

漫然と構えていたら、ボス猿はブーメランを投げて天井に生えたヘビババを二匹ほど床に落とし、こちらにけしかけてくる。

 

だが、「スキップ」するとそれが起きないのだ。僕は数多く繰り返した転生と冒険の経験から、それを知っていた。

 

ボス猿はポールの上に陣取って、僕が近づこうとすると跳躍して別のポールに移った。

 

だが僕は慌てずに追いかけ、そいつが一つのポールの上に止まってブーメランを振り上げた瞬間ダッシュした。

 

全力で前転を繰り返して肉薄する。飛んで来たブーメランが頭上をかすめた。

 

だが猿野郎がブーメランを回収する前に僕はそいつの乗ったポールに到達していた。

 

思い切りポールに体当たりする。

 

一回、二回。

 

足元のふらついたボス猿は、戻ってきたブーメランに頭部を直撃されポールの上から転げ落ちた。

 

僕は剣を抜くと、うつ伏せで床にだらしなく伸びたボス猿に殺到した。

 

尻の方に回り込むと、その尻に思い切りジャンプ斬りを叩きつける。

 

ボス猿がたちまち悲鳴を上げ跳ね起きる。だが着地するが早いが、僕は渾身の回転斬りを放った。回転の勢いで二度の斬撃が猿野郎の尻を襲う。

 

さらにダメ押しで突きを二度放った。

 

あまりの激痛のせいか、ボス猿はギャアと声を上げのけ反ると、うつ伏せに倒れて震え始めた。

 

終わった。

 

これをある世界では「ワンターンキル」というらしい。面倒な敵でも、何度も攻撃を繰り返すことなく最短で片付けることを言う。これは聖剣を不正に早期取得して初めてできる技だ。

 

僕は剣を納めた。そして猿の背後に奇妙な形をした大きな蟲が転がっている。

 

両掌ほどの大きさで、甲冑のような背中に毒々しい色をしている。

 

そいつはさっきの僕の剣の攻撃で既に致命傷を負ったのか、足を震わせた後動かなくなった。

 

また、床にはボス猿が落としていったブーメランがあった。

 

ブーメランは突然回転し空中に浮いた。同時に声が聞こえる。

 

「勇者よ、私は風の妖精.....」

 

ああ、はいはい。

 

僕はこの喋るブーメランの話を上の空で聞き流し、そいつを掴み上げてベルトに挟むと、床にごろりと寝転がった。

 

今までの行動を思い返し(「セーブ」とも言う)、目を閉じ眠りに入った(「セーブリセット」とも言う。)。

 

もう、このダンジョンの探索は終わりだ。

 

フィローネの影の領域を解決しに行こう。

 

そしてそれが終わったら、さらなる新しい技を試すことになる。

 

それはとても難しい技だ。だが僕はどうしても成功させると決意していた。

 

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気が付くと、僕は巨木の神殿の入り口を入ってすぐあたりにいた。

 

さっきまではボス猿の部屋にいたのだ。だが、不思議なことに上述の手順を経るとダンジョンの入り口に戻ってしまう。

 

だから、ダンジョンを探索していて途中で寝落ちしてしまったりすると、せっかく途中まで行けたのにまた最初からやり直しになってしまう。

 

僕は、転生の経験が浅かったころはこのことにいつもイライラさせられていた。

 

だが、今の僕は違う。ダンジョンは必ずしも全てを全て攻略しなくてもよいと知っていた。

 

最後の敵を倒すという目的さえ果たせばこの冒険は完遂とみなされるのだ。

 

ともあれ、僕はダンジョンの外に出た。

 

そこには、猿が立っていた切り株の左右に例の蟲たちが這い回っていた。

 

僕はすぐにミドナに狼に変えてもらい、手際よく蟲どもを片付けた。遺骸から光の雫が浮遊してくる。

 

僕は歩いて雫を回収すると、今度はミドナに頼んで、フィローネの森南に飛びたい旨告げた。

 

彼女がワープを開始し数秒経つと、フィローネの泉の南にある広場に到着していた。

 

僕は狼姿のまま北に広場を抜け、泉の脇の洞窟に入り、浮遊していた光の雫を二つ回収した。

 

途端に周囲に光が満ちていった。意識がやや遠のく。

 

気が付くと僕はフィローネの泉のほとりにいた。(まあ数十メートル動いただけだ。)

 

意識を取り戻した瞬間、僕は思い切りバックフリップした。

 

すると、僕に何か話しかけようとしていた妖精チビが、出鼻をくじかれたような顔をして口をつぐんだ。

 

そうそう、これはうまくいった。

 

僕は、彼女の御託はできるだけ聞かないと心に決めていた。

 

もちろん、変身させてくれたり、ワープさせてくれたりと、ミドナはとてもありがたい存在なのだ。それは理解している。

 

だが、百回以上も転生と冒険を繰り返している僕には、彼女のアドバイスなど必要ない。

 

いや、それどころか、僕は彼女が今は知らないようなことも沢山知っている。

 

そして彼女のとんでもない秘密も。

 

だがそれは今はいい。

 

僕は、次なる行動を既に思い描いていた。

 

とても難しい技だ。だが成功させたい。

 

僕は踵を返すと、南に向かって歩き始めた。

 

影の領域はすっかり晴れ、周囲には明るい日差しが降り注いでいる。

 

広場を二つ横切り、崖に挟まれた小道を抜け、トアル村へ通じる吊り橋に出た。

 

僕は吊り橋に到達すると、左側の崖下を覗き込んだ。底も見えないような高さだ。

 

だが、どうしてもここから飛び降りなければならない。

 

僕は覚悟を決めた。そして助走をつけて、橋から飛び出し宙に躍り出た。

 

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あの時と同じだ。

 

僕は自分の身体が落下し始める前に意識を集中した。集中して全てを「リセット」することを念じた。

 

身体が落下を始めた感覚とともに僕の視界は真っ暗となった。何も聞こえず、また見えなくなった。

 

数秒間すると、僕は呻き声を上げながら上体を起こして立ち上がった。

 

あの場所だ。

 

オルディン大橋の上だ。

 

高所からの落下で身体中が痛む。だが僕はもう一度これをやらなければいけない。

 

僕は橋の上を歩いて縁に向かった。下は真っ暗な奈落だ。

 

歩きながら僕は心の中で「Ⓐ」と念じた。

 

すると、頭の中にぼんやりと「LEGEND OF ZELDA TWILIGHT PRINCESS 2006 NINTENDOⓇ」という文字と共に、狼の横顔のような図柄が浮かんだ。

 

準備はこれでよし。

 

僕は息を大きく吸い込むと、橋の縁から思い切って飛び出した。

 

身体が落下していく。

 

思わず悲鳴が口から漏れてくる。

 

だがその瞬間、僕は心の中で「Ⓐ」と「B」と両方念じた。目の前に三つほど、黒い長方形が浮かび上がる。そのうちの一番上を選び、僕は再び「Ⓐ」と念じた。

 

だがそこで意識が完全に途切れた。

 

成功だろうか、失敗だろうか。

 

この技は失敗の確率が高い。時が停止したように全て固まってしまったり、あるいは何も起きず元の場所に戻されてしまったりする。

 

だが成功すれば報いは大きい。

 

頼む。頼む。成功してくれ。

 

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意識が再び戻ってきた。

 

僕は立て続けに「スキップ」を念じた。

 

すると僕はいつの間にか、馬の上に乗って平原にいる自分に気づいた。

 

成功したのだ。

 

平原は広い。

 

影の領域の内部にあるからなのか、まるで夕暮れどきのような光の具合だ。

 

そして、目の前には、巨大な緑の鬼がこれまた巨大な猪に乗り、その猪から上に突き出た木の棒には、一度も会ったことのない子供がぐるぐる巻きに縛られていた。

 

(本当は僕は以前の転生で会ったことがあるのだが。)

 

僕は馬を加速させると、大鬼に向かって突進した。

 

相手は猪の向きを変えて逃げる。

 

だが距離は既に詰まった。僕は剣を抜いて振り回し、大鬼に一撃を与えた。

 

大鬼が猪を加速させるのに合わせて僕も馬を加速した。

 

相手にくっついてさらに剣の一撃を与える。

 

もう一撃を与えたくらいのころに、後ろからブルブリンたちの耳障りな喚き声が聞こえてきた。

 

猪に乗った騎兵たちだ。だが僕は彼らを無視し、蛭のようにしつこく大鬼に付きまとった。

 

相手が右に行けば右に、左に行けば左に曲がる。

 

後ろからビュンビュン火矢が飛んで来た。だがそんなのは無視でいい。

 

僕は、馬の加速の力を使いつくしてしまわないよう注意しながら敵と距離を詰めて、さらに三回ほど剣を叩きつけた。

 

そのたびに大鬼は呻き声を上げてのけ反る。

 

だが大鬼は立ち直って猪を加速させた。

 

おそらく、少年を人質にして僕をおびき寄せ、ブルブリンどもに包囲させてなぶりゴロしにさせるつもりだったのだろう。

 

だが僕はこの少年のことなど何とも思ってないし、ブルブリンどもに惑わされるほど愚かでもない。

 

僕はつかず離れずで大鬼に付きまとった。

 

ほんの少しづつ速度を上げてまた距離を詰める。

 

さらに剣を振るって、二回ほど刃を叩きつけた。

 

悲鳴を上げた大鬼は、猪の方向を変えた。

 

そう。オルディン大橋に向かっているのだ。

 

僕は大鬼に追随した。

 

いつしか足元の草原が石畳になった。はるか先には石造りの構造物があった。大きな橋が見える。

 

僕と大鬼は橋の入り口にある堅牢な石積みの門に向けてひた走っている。

 

やがて大鬼が橋の入り口に到達した。

 

入り口には、木の逆さ杭が何本も立てられている。大鬼は猪の手綱を操作してそれを飛び越え橋の中に走り入っていった。

 

僕も彼を追尾した。馬に逆さ杭を飛び越えさせる。

 

すると、橋の門の上にいたブルブリンが火矢を射って、逆さ杭に火をつけた。

 

どうやら油でも染み込ませてあったのか、逆さ杭はたちまち燃え上がった。

 

僕と大鬼は橋に閉じ込められたのだ。

 

どうやらあの哀れな大鬼は直接対決で僕をコロそうとしてるらしい。

 

まったく可哀そうな奴だ。

 

僕は馬を橋の通路の左側左に寄せると四度ほど連続して加速の合図を与えた。

 

大鬼も猪を加速させこちらに迫ってくる。

 

だが僕は少し進むと突然馬を停止させ、百八十度方向転換させた。

 

次いで、馬をゆっくりと走らせつつその位置を微妙に横に移動させる。

 

後ろから、大鬼の猪が迫ってくる足音がする。

 

だが向こうの速度が速く、奴は僕を左から追い抜く形になった。

 

その瞬間僕は二度剣を振った。

 

剣は二回とも大鬼を直撃し、奴は大猪から落ちて呻き声を上げながら真っ逆さまに谷底に落ちていった。

 

終わりだ。

 

まったく登場してから一度もいいところのない奴だったな、あの大鬼は。

 

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僕はそれからひたすらに「スキップ」を念じた。

 

感動の再会とか余計な情景はいらない。

 

(そもそも転生前を除けば僕はあの少年に会ったことはない。)

 

気が付くと、僕は赤茶色の砂っぽい岩に囲まれた道の脇にある泉のほとりに立っていた。

 

ここはカカリコ村という村だ。そのことは、何度か転生と冒険を繰り返しから知った。

 

そして周囲は影の領域に包まれていた。

 

僕は泉から離れ、村の目抜き通りを横切ると、近くにあった丸い屋根の礼拝所のような建物に近づいた。

 

建物の扉を開けて中に入り、またすぐに外に出た。

 

するとどうだろう。泉の前の道路に、影の使者たちか三匹ほどいてうろついている。

 

まさしく突然現れた感じだ。

 

だがこれも想定ずみだ。

 

僕は近くにいた一匹に駆け寄ると剣を抜いていきなりジャンプ斬りを浴びせた。聖剣の威力はハンパなく、一撃で相手は事切れた。

 

道の真ん中あたりにいた残り二匹に用心深く近寄る。一匹が振り向いた。

 

そいつが腕を振り上げ攻撃体勢をとったところで、僕は盾を上げた。ガツンと腕に衝撃が走る。

 

もう一匹の位置を肩越しに確かめ、二匹の間に立つように足運びすると、僕はやにわに回転斬りを繰り出した。

 

二匹の鬼がたちまち致命傷を負って倒れる。

 

影の使者たちの遺骸がバラバラに崩れ、上空に浮かんだ渦巻きに吸い込まれた。

 

これが片付いたらさっさと雫集めだ。僕はダッシュして泉に近づくと、その泉の上にいた光の塊、つまり影に力を奪われた精霊に話しかけた。

 

とにかく早く器をくれ。そう念じながら精霊の話を聞き流し、どうにか器を手に入れると、僕は踵を返して村の目抜き通りに戻った。

 

さあ、こらから面倒な雫集めだ。

 

本来なら、この村の各建物に潜む虫どもを狩るために、穴に潜るとか、屋根の破れ目から入るとか、窓ガラスを破るとか、実に面倒な方法で建物に進入しなければならない。

 

だが、今の僕は不正に聖剣を所持している(「不正」という言葉と、「聖」という文字はいかにも組み合わせが悪いが‥‥)。

 

従って、狼の姿と人間の姿とを自由に行き来できる。

 

だから僕は決めていた。もう、七面倒くさい方法で建物に入ることはしないと。

 

男なら堂々と正面ドアから入るべきなのだ。(知らんけど。)

 

(つづく)

 

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