黄昏の姫と緑の勇者:転生者チート編   作:nocomimi

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天駆ける馬に乗り空中を散歩した僕は障害物を無視して影の領域へ

落ち着きを取り戻したエポナの上に乗っていた僕は、とりあえず下馬した。なにしろ、狼姿の体の輪郭がなぜだかガタガタに崩れており、尖った棘のようなものが幾つも突き出ていたからだ。

 

馬から降りた途端に僕は気を失った。数秒たつと目が覚め、僕は頭を振りながら体を起こした。

 

まあ、狼の姿で乗馬するなどという無理をしたのだからしょうがない。

 

ともあれ、僕はすぐにミドナに話しかけ、フィローネの森の南に行きたい旨告げた。

 

(彼女が唸り声しか出せない狼の僕の意図をどうやって把握したのかはいまもって謎だ。とにかく有能な奴であることは認めざるをえない。)

 

たちまちミドナがワープを開始した。僕の体は空中に吸い込まれ、何秒かするとフィローネの森の泉に近い広場に立っていた。

 

僕は再びミドナに話しかけて人間に戻してもらった。直ちに近くに生えていた馬笛草をとって吹きならすと、すぐにエポナが駆け寄ってきた。

 

全くこの馬の有能さもハンパない。

 

彼女をカカリコ村に置いてこちらはワープしてきたというのに、あっという間に追い付いてくるのだ。

 

だが、エポナの優秀さは、こんなものではない。

 

後で読者の皆さんに驚くべき彼女の力をお見せすることになるだろう。

 

ともあれ、僕は彼女に跨がり、その方向を北に向けて発進させた。

 

泉を脇に通り過ぎ、洞窟を抜けると突き当たりで左手に抜け、油売りの小屋に向かう。

 

油売りの青年は小屋の前の焚き火の背後に腰かけていた。

 

僕は馬に乗ったまま近づくと、彼からビン入りの油を百ルピーで買った。

 

ふっかけられているのは分かっていたが、これはどうしても必要なのだ。後でエポナの真の能力を開花させるのに使うことになる。

 

僕は馬の踵を返して来た道を戻り、洞窟を南に抜けると、今度はトアル村に向かって思い切り加速した。

 

広場を抜け、崖に挟まれた小道を通って吊り橋を渡る。

 

さらに馬をダッシュさせると、ほどなく僕の家の前に出た。

 

僕は一旦エポナを停めて下馬すると、家の梯子を登り扉を開けて中に入った。奥に進むと、地下室への梯子を降りる。

 

カンテラをつけて辺りを探すと、ヘソクリ入りの宝箱があった。開けて中にあった五十ルビーを財布に移すと、梯子を登り、家から出てまた馬に乗った。

 

中央集落に向かう。まずは、セーラの店を過ぎたところでジャガーの畑に入り、馬を降りた。川を挟んで向こう側にある水車小屋のちょうど正面にある岩に登り、ブーメランを取り出す。

 

僕は川の向こうにある水車小屋の水車の右下あたりに狙いをつけてブーメランを放った。

 

そのあたりにホウボウに生えていた雑草が刈り取られる。そしてその跡に目を凝らすと紫に光るものがあった。

 

僕は服のまま川に飛び込んで向こう岸右手にある釣り用の足場に這い上がると、またブーメランを取り出し、さっき紫ルビーが見えた場所に向けて放った。

 

帰ってきたブーメランは、確かに紫ルビー、すなわち五十ルビーを運んできた。成功だ。

 

僕は次に、前転ダッシュしながら水車小屋の裏手を抜け、野外集会所を横切り、橋を渡ると今度は川沿いに道を進んで師匠モイの家に行った。

 

だが、師匠にも奥さんにも用はない。僕はその家の右手の裏に向かった。背後の崖に接している部分だ。

 

その部分を覗き込んでよく目を凝らすと、オレンジ色に光る何かがある。

 

またブーメランの出番だ。僕がブーメランの狙いをつけて投げつけると、戻ってきたブーメランがオレンジルビーを運んできた。

 

これは収穫だ。僕は帰村して早々に二百ルビーも稼いでしまった。

 

転生を重ねる前は、僕は草むらを掻き分け一ルピーでもないかと丹念に探すという涙ぐましい努力をしていた。

 

だが、今の僕はそんなことはしない。

 

なぜなら、このハイラルには、思いもよらない場所に高額ルビーが隠されていることを知ったからだ。

 

ともあれ、次の目的地に行かねば。

 

僕は道を少し戻ると、二つ目の橋を渡ってボウの家に行った。

 

家に入り、ボウの独り言を辛抱づよく聞き流すと、いつの間にか奥の相撲練習所の土俵の前に連れてこられた。話がなぜか相撲のことになっている。

 

だがこれでいい。僕は言われるままに土俵に上がり、肌脱ぎになると四股を踏んだ。

 

ボウも同様に準備を整えた。

 

これまたどうしたわけか、どこからかすっとんきょうな合図の声が聞こえた。

 

次の瞬間、僕とボウは土俵の真ん中でぶつかり合った。

 

四つに組んだかと思えば、ボウが僕を突き放して後ろに押しやった。

 

だがこれがチャンスだ。僕はボウが張り手を打った瞬間、ほぼ同時に相手の胸元に飛び込んだ。身長差があるから、ボウの張り手は外れやすいのだ。

 

これは運ゲーだと僕は知っていた。だが、一ラウンド目ではボウもあまり仕掛けてこないことが多い。僕はボウのまわしを掴むとグイグイ押した。

 

するとボウはまた僕を突き放した。次にまた張り手が来る。そう察知した僕はまた姿勢を低くして前に飛び込んだ。

 

思った通りだ。ボウの大きな手が頭上をかすめる。僕はボウの胸元に飛び込み、まわしをつかむと渾身の力で押しまくった。

 

ボウがとうとう土俵を割った。

 

「基本的なことは身に付いているようじゃな。よし。次はゴロンと取るつもりでかかってこい!」

 

ボウが僕に言った。(おいおい、今の一番はなんだったんだ、と心のなかで突っ込んだが口には出さないでおいた。)

 

向き合うと、再び合図の声が聞こえる。僕とボウはまたぶつかり合った。

 

だが、二ラウンド目ではボウは左右に変化してくることを僕は予想していた。まずがっぷり四つに組んだあと、ボウは僕を突き放した。

 

飛び込むか、変化か。僕は右に変化した。読み通りだ。ボウは左に変化してくる。再びがっぷりと組む。ボウがまた僕を突き放す。

 

僕は張り手を放った。ボウも張り手を放つ。相討ちのようになってお互いにのけぞる。膠着状態だ。

 

次の瞬間僕はもう一度右に変化した。ボウも左に変化する。がっぷりと組んで押し込むと、向こうも突き放してくる。

 

次は変化してこない。そう読んだ僕は思い切り前に突進した。

 

当たりだ。ボウの手が僕の頭をかすめ、僕は一気に奥に飛び込んだ。

 

思い切り押し込むと、ボウがまた僕を突き放そうとする。一瞬離れたが、また姿勢を低くして飛び込んだ。こうなればこちらのものだ。僕はなす術もなく押されるボウを土俵から出した。

 

「お前ほどの実力があればゴロンとも戦えるじゃろう‥‥」

 

ボウは荒い息をつきながらそう誉めてくれた。

 

だが、あいにくながら、僕はゴロンと相撲で戦うつもりなど毛の先ほどもなかった。

 

冒険が終わるまで、もう 二度と相撲を取ることなどないだろう。

 

ともあれ、ボウは僕をリビングに連れていき、そこに置かれた宝箱を開けてみろと言った。

 

箱のなかには金属でできた立派なブーツが入っている。

 

これだ。これが必要だったのだ。

 

僕はブーツを取ると、お礼もそこそこにボウの家から出た。

 

すぐにミドナを呼び出し、カカリコ村の精霊の泉までワープしたい旨告げた。

 

僕はすぐに狼の姿に変えられ、中空に吸い込まれていった。数秒するとすぐにカカリコ村についた。

 

僕は岩壁の近くに身を寄せてミドナを呼び出すと、人間に戻りたいというニュアンスを込めて唸った。すぐにミドナは僕の意図を理解し、人間に戻してくれた(つくづく優秀な奴ではある。)

 

次いで、泉のほとりに生えていた馬笛草をとると吹きならした。

 

たちまち、いななきを上げながらエポナが走り寄ってきた。

 

(この馬も本当に驚異的な奴だ。僕らはさっきまでトアル村にいて、こいつを置き去りにしてここまでワープしてきたのに、一瞬で追い付いてくるのだ。)

 

僕はエポナに跨がると、方向を北に向けて、村の目抜き通りを一気に走り抜けた。

 

道端には、タロとかその他のあまり会ったことのない子供たちがいる。本来ならそんなところで馬をダッシュさせるのは危険極まりないのだが、エポナは賢いので人を跳ねたりはしない。(ただし、ブルブリンやボコブリンは跳ねることがある。その識別ができるのだから、やはりただの馬ではない。)

 

目抜き通りを終端まで北上すると、右に折れた。村出口のゲートを飛び越えて先に進む。

 

崖に挟まれた小道を進んでいくと、やがて右に深い峡谷、左に岩だらけの山道が見えてきた。そこを過ぎると広い平原だ。

 

以前鬼の王と戦った場所だ。(あいつ、いまごろどうしてるかな。)

 

僕は北に向かってほぼ全力でエポナを走らせた。上空からカーゴロックがちょっかいを出してくるが、剣を振り回して適当に追い払う。

 

やがてオルディン大橋の構造物が見えてきた。橋の入り口のアーチをくぐり、橋を渡ると向こう側の平地に出た。

 

ここで僕はカンテラを取り出した。さてと、いよいよ世界の裏側を垣間見る旅に出発だ。

 

僕はエポナを並足に戻すと、灰色の平地を北に向かわせた。はるか前方には、オルディン地方からラネール地方へと抜ける小道の入り口がある。そこには巨大な岩が三つほど押し込められており、塞がれていた。

 

そう、本来ならこの道は爆弾で岩を破壊しない限り通れない。

 

だが、今の僕にはそれさえも関係ない。この岩を無視して通過する方法を知ってしまったからだ。

 

僕はエポナをやや右に進ませた。右手すぐは崖。深い峡谷だ。峡谷の縁までエポナを寄せると、ゆっくりと前方に進む。

 

エポナは賢いので、切り立った崖の縁を歩いていても、足を踏み外すことなどはない。

 

だが、一ヶ所だけ例外がある。

 

エポナと僕は、やがて北方に高く切り立つ岩壁に突き当たる地点に出た。

 

右手には底の見えない深い峡谷。前方には岩壁。

 

僕はここで、フィローネの油売りから買ったビン入りの油を取り出した。片手にカンテラ、片手にビンを持ちながら、手綱を操作してエポナを右手に進めた。

 

エポナが前方の切り立った崖の一歩先に足を踏み出した。

 

僕はエポナに跨がったまま一気に落下していった。だがそれと同時に、僕は左手のビンの蓋をとり右手のカンテラに中身の油を注いでいった。

 

僕らが落下している間も、油がカンテラに補充されていく。カンテラに油が満ちると同時に、僕らは落下を止めて空中に停止した。

 

そう。僕らは空中に停止したのだ。

 

足の下は真っ暗な虚無だ。なにも見えない。その一方で、周囲を見回すと、さっきまで自分達の足元にあった切り立った崖の壁面が見える。やや北西に馬を向けて走らせ始めると、僕らがさっき立っていた平地の下をくぐっていることがわかった。

 

はるか遠くに雪を被った巨大な山脈が連なっているのが見えた。それと同時に、右手のほうに緑色の巨大なカーテンのようなものが広がっているのが見えた。

 

これらは一体何なのだろう?

 

今でこそ見慣れているが、僕は以前の転生で最初にエポナと空中に飛び出しこれらの風景を見たときは心底驚いた。

 

そして、これらの壮大かつ奇妙な風景をつぶさに眺めるため、飽きもせず一日中空中散歩をしていたこともあった。

 

だが、今、結論から言おう。

 

このハイラルでは、全てのものは虚無の上の空中に浮かんでいるのだ。

 

遠くに見えた山脈もそうだ。それらは、大地の上に立っているのではない。その下を見てみると、そこには全く何もなく、ただ空中に浮かんでいるだけなのだ。

 

信じられるだろうか?もしこんなことを町なかで大声で言い触らしたら、僕は気違いとか陰謀論者とかいったレッテルを貼られてしまうだろう。

 

だがこれは事実なのだ。僕はこの目で見た真実を偽るわけにはいかない。

 

もしも嘘だと思うのなら、読者の皆さんも、馬に乗り、カンテラとビン入りの油を用意して、オルディン大橋を北上した先の平地に行ってみるとよい。

 

そして、右手の崖ギリギリの縁が北方の岩壁に突き当たる地点で、馬と一緒に落下しながらカンテラに油を補給してみるとよい。そうすれば僕の言ったことが真実だとわかるだろう。

 

ともあれ、今までの転生で何度も空中散歩をしたことのある僕は、今回は時間を無駄にするつもりはなかった。

 

頭の中に地図を思い浮かべ、ラネール地方に向かう小道に沿うようにエポナを走らせた。

 

すると、ある瞬間に僕らは移動させられた。虚空の上を走っていたのが、真っ暗な道の上に移されたのだ。それも一瞬で。

 

僕はいつの間にかエポナから降りてその手綱を引いていた。

 

周囲は夜のような暗闇だ。崖に挟まれた小道の前方には、妖しくオレンジ色に光る紋様が浮かんだ黒い壁がある。

 

「影の領域に入れてやろうか?」

 

ミドナが姿を表して尋ねてきた。

 

僕は頷いた。それと同時に心の中で連続して「スキップ」を念じた。

 

すると、次の瞬間には僕は狼の姿になっており、影の領域の内側で目を覚ました。

 

ミドナがどっかりと僕の背中に腰を掛ける。だが腹は立たなかった。

 

成功だ。ラネールの影の領域に不正にたどり着いたのだ。

 

本来なら、ここにたどり着くためには、ゴロン鉱山に登り、ボウからもらったブーツを履いてゴロンと相撲をとり、

 

さらには鉱山の中を駆け巡って仕掛けを解いたり、もう一人のゴロンと果たし合いをしたり、

 

しまいには魔物に変身してしまったゴロン族長と戦って勝たねばならない。

 

それらのミッションを果たさないと、僕がオルディン地方の影の領域で虫狩りをしている過程で物置小屋を吹き飛ばしてしまった影響で休業に追い込まれてしまったバーンズ爆弾工房が営業再開できないのだ。

 

そして、上述したように、本来なら爆弾を手に入れなければオルディン地方からラネール地方に抜ける道を通ることはできない。

 

だが、僕は転生を繰り返すようになってから久しくこれらのことをしていなかった。しなくても冒険を進められるからだ。

 

僕は、前方を見据えると小道をダッシュし始めた。

 

これから、ラネール地方の影の領域を晴らすための雫集めをしなくてはならない。面倒な仕事だが、雫集めはこれで最後だ。

 

さらに、僕はその後の冒険の過程を早く進めるための布石を考えていた。僕はどのダンジョンもまともに取り組む気などさらさら無かった。

 

いや、そもそも考えてみると、僕はこの冒険を始めてから、ダンジョンをまともに攻略したことさえ一度もない。

 

だが、次のダンジョンは攻略しなければならない。それは経験上わかっていた。

 

だがそれは最短かつ不正なやり方で行う。

 

それが僕の決心だった。

 

(つづく)

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