僕は影の領域内部の、ラネール地方へ向かう小道をひたすらに走った。
人間の徒歩とは比べ物にならない速度で道を駆けてゆく。
いつしか道は左右にくねり始め周囲の岩壁がだんだん低くなってきている。その分だけ、空がよく見えるようになってきた。
道が右に曲がり、今度は左に、そしてまた右に曲がる。獣の俊足で僕は飛ばしに飛ばした。
だいぶ長時間走ると、やがて、道の真ん中に何かが落ちているのが見えた。
だが僕はそれを注意深く避けると、再びダッシュした。
あれは、イリアとかいうヒステリー女が誘拐者の手から脱出したあと落としていったポーチなのだ。
だが、僕はそれを完全に無視することにしたのである。
転生と冒険を繰り返した僕は知ってしまったのだ。
当初、僕の冒険の大きな目的のひとつは、この手がかりを使ってイリアの居所を探し出し、最終的には村に連れ帰ることだと思っていた。
ところが転生と冒険を繰り返しているうち、この冒険の真の目的はあの人物(ヒント:『ガ』で始まる名前のオッサン)を倒すことであり、
あのヒス女を放置しておいても、その男さえ倒せば冒険は完遂されたとみなされることを発見してしまったのだ。
ともあれ、僕は速度を上げていった。小道がやがて右に、すなわち南に曲がっていく。周囲の植生が少しづつ増え始めていた。
数時間ほど走っただろうか。突然左右の岩壁ががぐんと低くなってきた。走っているとみるみるうちに視界が開けてくる。眼前にはやがて大きな平原が見えてきた。ところどころ灌木や高木が立ち、草も豊かに生えている。はるか遠くは岩壁に囲まれている。かつて見た南ハイラル平原を思わせるような光景だ。
南東の方角を見ると、霞がかかるほどの遠くではあったが人工物が見えた。巨大な建築物だ。白い壁とほうぼうに立つ青い尖塔の屋根。
「やっとここまで..」
ミドナが呟き始めたその瞬間、僕は「スキップ」を心に念じた。たちまち無駄なお喋りが終わり、僕はまた街道を走り始めていた。
今度は道はほぼ東向きになってきた。足元は石敷きの道だ。
獣の足は速い。広大な平原とはいえ、風景が徐々に変化していく。また、次第に標高が下がる下り坂なのも後押しとなった。灌木や高木が近づいてくる。ただ、はるか遠くの霞の中にあるハイラル城の大きさはなかなか変わらなかった。
時折ごろごろとした岩が道の脇に転がっている。それがあの不毛の土地の名残りを思わせたが、やがて僕は左右に木の生えた街道を走っている自分を見出した。
すると、いつか聞いたラッパ音がする。黒い怪鳥どもが近くにいる。
だが僕は完全にそいつらを無視して走り続けた。
すると、だいぶ先ではあったが小さな建築物のようなものが見えた。それと同時に、前方遠くに人影が見える。
進んでみるとその人影は黒い肌をして白い仮面を被った鬼だとわかった。
距離が十メートルほどになったとき相手が顔を上げた。途端にこちらに向き直って右手の棍棒を振り上げ走ってくる。
だが僕は少し迂回してそいつを回避し、前進を続けた。
前方に見える人工物は、近づくにつれ橋らしいとわかってきた。
橋を渡り走り続ける。街道はやがて右に大きく曲がっていった。それと同時に、はるか遠くにあった左右の岩壁が次第に近くに迫ってきた。
岩壁の上にも高木が林立し、街道の左右にも木が散在している。
しばらくの間両側に岩壁が迫る小道が続く。だが、壁の高さは低く、左右に植生も見られる。
すると岩壁が突然切れた。目の前に右側に城下町から続く長大な壁が見えた。
はるか遠くまで続いている。その先に城下町の入り口があるのだろう。
だが、僕は城下町には今は寄らないつもりだった。
街道沿いに走っていくと、木立の数が増えてきた。左右に散在する灌木や茂みも同様だ。
先にまたぞろあの白い仮面の鬼がいる。しかも手には弓矢を携えていた。
見通しのいい街道上で相手もこちらに気づいたらしい。弓に矢をつがえると放つ。火矢だった。
僕はやや走る軌道を変えて避けると、何事もなかったように走り続けた。
右手には延々と城壁が続いている。ちらりと目をやると、その向こう側は濠になっているようだ。
ようやく街道が右に曲がり始めた。城下町の東門が近いのだ。
だが、僕は逆に左に針路を曲げた。
平原を東に向けて横切ると、やがて岩壁に挟まれた小道への入り口が見えてきた。
迷わずそちらに進む。
小道に入ってしばらく走り続けると、道が右に曲がり、南に下っていく。すると白仮面の鬼がまた向こうから一匹現れた。
突進して衝突しそいつを押し倒すと、また走り出した。しばらく走ったところで左右の岩壁がなくなり、視界が開けた。
右手前方に壮麗な造りの門がある。どうやらハイリア湖の上を通る橋の入り口のようだ。
僕はそこで左に針路を変えた。橋には寄らないつもりだ。罠が仕掛けられているからだ。
その罠を抜けるのは容易だが、いずれにせよ無駄な時間は使いたくない。
僕はしばらく左に、すなわち東に進んだ。少し行くと、左後ろから続いていた崖に差し掛かった。その崖が東に折れると共に、湖を見渡せる崖にかかった柵との間に小道が出来ている。
さらに進むと、僕はやがて奇妙な小屋の戸口に行き当たった。僕はそこでミドナに人間に戻してもらい、戸を開けて中に入った。
中は本来なら鶏小屋だ。ここで店主にルピーを払って鶏を選び、その脚を掴んで湖面に向かって緩やかに落下していくという遊びを提供する施設なのだ。
宝島に着地すれば景品がもらえるというが、これは一種の詐欺で、普通に飛んでいたのでは絶対に宝島には行けないようになっている。(鉄のブーツを使うなどして高度を調整する必要がある。)
だが、今の僕にはどうでもいいことだった。僕は剣を抜いて奥に進んで行った。普通なら何匹もうろついている鶏は姿が見えず、主人であるカマっぽい青年もいない。
左手にある壁沿いに進み、やや斜めに下っている床を降りた先で振り返り、壁際にある壁の出っ張りの裏に入った。
そこで慎重に位置を調整し、壁の出っ張りに向かって剣を振るう。
その途端僕は壁を通り抜けてしまった。
鳥小屋の床を抜け、その下の中空を落ちていく。かなりの高所からの落下なので自然に悲鳴が口をついて出てくる。
だが、すぐに僕は土の上に着地した。やや体が痛むが、死ぬほどではない。
周囲を見渡すと、元々は湖底だったはずの土地が広く干上がっていて緩やかな盆地状になっている。
だがその中央部分にはまだ水がある。
僕は迷わずその水のあるところに向かってダッシュした。走り寄ると、服のまま水に飛び込んだ。
やや西の方に向かって泳ぎながら水面に顔を付けて下を伺うと、深く抉られたような地形になっている。その西側の、壁のように切り立った場所の近くに人工物と見える尖った柱が何本も立っていた。
その中で特に高い柱が二本あった。それが西に面した壁に立った間にはうすぼんやりとではあるが、壁の中途に丸い岩がはめ込まれたようになっている箇所があった。
あれが秘密の神殿への入り口なのだ。
これからやる技は命がけだ。失敗したら溺死は免れない。
だが、何度も転生と冒険を繰り返す過程で僕はそのような技にもチャレンジするようになってきた。
ひと際大きな尖った柱の上の水面で立ち泳ぎしながら慎重に位置を確かめると、僕はミドナに合図して鉄のブーツを履かせてもらった。
僕の身体は急速に沈んでいく。
水面下の壁に寄りかかるようにして立っている柱のうち北側に立っている一本の尖った先端が僕の身体の左側をかすめた。これは良い合図だ。
さらに沈んでいくと柱の先端が自分の頭上まで来た。柱は、直径一メートルあまりで、先端の回りだけ少し膨らんだ形になっていて、その下から細くなっている。壁に寄りかかる形になっているから、その膨らんだ部分の下から壁との間に少しのスペースができていた。
僕はミドナに合図してブーツを外した。身体が浮き始めると同時に、僕は姿勢を制御してわざとそのスペースの中に身体を突っ込んでいった。
それと同時に、水中でミドナに話しかけた。もちろん、水の中だから言葉などろくに出てこない。だがそれでもミドナは姿を現し、「どうした、リンク?」と問いかけてきた。(まったく忠実な奴だ。)
息が苦しくなってきた。だがまだ耐えなければ。僕はミドナになんでもない、という風に手を振って合図すると、さらに浮上しながらも柱と壁の間に身体をねじ込んでいった。
すると不思議なことが起こった。
僕の身体は壁を通り抜けた。その向こうも水の中だ。だが、見回すと果てしない虚空が広がっている。空を満たした、影の領域特有の薄オレンジの奇妙な光がここまで届いていた。
左側には、ますます不思議なことに、岩盤を掘り抜いて作ったと思われる長い洞窟が見えた。
(そもそも、なぜ洞窟を横から見て洞窟と分かるのか、僕にはいまだに説明がつかないが。)
息が苦しい。だがもう少しだ。
僕は浮上しそうになるのを、なんとか姿勢を水平にし、ミドナに合図して鉄のブーツを履き、そしてまた脱がせてもらうことを何度も繰り返しながらその洞窟に向かいながら泳いでいった。
洞窟は近づいてはいたが、もう本当に息が足りない。窒息死寸前だ。
もう駄目か、と思い始めたとき、僕は突然体がふっと軽くなり、努力することなくとも自動的に洞窟の中に吸い込まれていった。
成功だ。
次の瞬間気づいたときには、僕は岩を掘り抜いた狭い水中洞窟の中で立ち泳ぎしていた。
やれやれ、死ぬかと思った。
僕は、今までの行動を思い返し(「セーブ」とも言うらしい)そのまま目を閉じた(「セーブリセット」とも言うらしい。そう、この行動は、水中であろうが何であろうができるのだ。)
さらに、次の瞬間気づいたときには、僕は部屋の中に立っていた。
そこは岩をくりぬいて作られたような巨大な部屋だ。灰色の岩肌に精巧な彫りこみがなされており、天井の中心部分から明るい光が射し込んでいた。しかも部屋の奥の壁には燭台がしつらえられている。驚いたことに、その燭台には火が点されてこうこうと明りを発している。
足元には、水路の出口と思しき丸い穴があった。(本来なら水路を泳いで通り抜けてここまで来なければならない。だが内部には電気クラゲやら化け物ホタテ貝などがうろうろしているから、素通りするに越したことはない。)
部屋の奥には、次の部屋に繋がっていると思われる扉がある。そこはやや高い台になっていて、左右からゆるやかにカーブした階段で登れるようになっていた。ただし、扉は頑丈そうな門で塞がれている。
僕は扉のある高い台に進む階段を登った。門を開く方法はわかっている。
僕は扉の正面、高台の前に、巨大なハンドルが天井から下がっている。僕は高台からそのハンドルに飛びついてぶら下がった。
ハンドルが重々しい音を立てて下がった。その後扉を塞いだ門がガラガラと音を響かせて開いた。
僕はは床に飛び降りて再び階段を登ると、扉に手をかけて持ち上げ、向こう側に入った。
そこも同じくらいの大きさの部屋だったが若干構造が違う。目の前に伸びた狭い通路が下り坂になっている。その通路の左右は五メートルほども下がった低い床だ。よく見ると、巨大なアメンボのような生き物が何匹も群れている。
天井からは直径二メートルもありそうな巨大な鍾乳石が何本もぶら下がっている。巨大なのにその根元が細いため、いかにも不安定で脆い感じだ。
正面向こう側の壁には扉があるが、そこに行きつくまでには、下り坂の通路の終端から、高さ三メートルほどの高い段差を二つ越えなければならないようだ。通路の終端にある床と、一つ目の段差の上には鼠を超巨大にしたような形のずんぐりとした動物がのそのそ歩いている。
僕が通路に足を踏み出すと、鍾乳石の一本の根元が折れたのか天井から音を立てて落下してきた。
「まったく物騒な場所だな。あの鍾乳石は予め落としておいたほうがよくないか?」
ミドナが姿を現して助言した。だが僕はこれを完全に無視するつもりだった。
通路を下っていく。終端にまで行き着くとその先の床にいたずんぐりした動物がこちらを見咎めて威嚇の声を上げた。体格は鼠に似ているが、体色は緑色でまるで南洋トカゲのなりそこないのような奇妙な顔をしている。
つきまとわれると面倒なので僕は盾を下ろし剣を抜くと床に飛び降りた。相手は頭から背中にかけてを硬い金属の殻で覆っている。いきなり突進してきた。
少しサイドステップして攻撃をかわすと、いきなり回転斬りを放った。斬撃が化け物の腰の辺りを直撃する。たちまち敵は断末魔の叫びを上げて果てた。(聖剣持ちをナメるからこうなるんだ。)
僕は剣を納めると目の前の段差を見上げた。
高さは三メートル近くはあるから、飛び上がって縁にしがみついて登るのは不可能だ。
本来なら、これは矢の先端に爆弾をつけて放つか、あるいはブーメランで爆弾を飛ばすかして鍾乳石を撃ち落とし、その落ちて来た鍾乳石を足場に使って乗り越えなければならない。
だが僕は以前の転生でそれ以外の方法でここを登ったことがある。
僕はもう一度目の前の段差をよく観察した。降りて来た通路の前に、長円形を半分にしたような形でせり出した場所がある。その幅は一メートルほどだ。その一方で、奥にはがれきが重なってできた小さな山があった。
その山の向こう側あたりで、さっき倒したのと同様のずんぐりした兜付きの化け物がうろついているのがわかった。(ブタのような呼吸音をしているのでわかる。)
僕はさっき降りて来た通路の終端にまた這い上がると、ブーメランを取り出して、待った。
段差の上の兜ブタ化け物は、がれきの山の裏から出てきて、右に向かってのんびり歩いている。
僕はそいつにブーメランを投げつけた。ブーメランではダメージを与えることはできない。だがそいつは「ブヒッ?」と声を上げると、敵襲だと思ったのかたちまちこちらに走り寄ってきた。
だが、僕は素早く段差を降り、左のほうに移動した。ちょうど、長円形に張り出した箇所の陰になる部分だ。
化け物は僕の姿を見失ったからなのか、突進するのをやめ、長円形の張り出しの上でブヒブヒ言いながら足踏みしている。
僕はさっき倒した化け物の骸が消えていった跡に落ちていた兜を拾うと、また通路の上に登り、そこから張り出しの上の化け物に思い切りそれを投げつけた。
兜がぶち当たり、相手は「ブヒッ」と悲鳴を上げたが、これくらいでは死ぬようなタマではない。
さあここからが勝負だ。
僕は、張り出しの上で足踏みしている相手の位置をよく見定めながら剣を抜いた。
今立っている通路の終端あたりで、立ち位置を微妙に調整する。前過ぎても後ろ過ぎても駄目だ。
タイミングを測った僕は、相手がこちらに背を向けた瞬間に意を決して剣を振り上げ、相手に向けてジャンプ斬りを放った。
敵に注目している状態においては、やや高く、長くジャンプできる。それを利用して僕は化け物に斬りかかった。
剣の刃が化け物の背中を叩く。たちまち悲鳴を上げて化け物が事切れると共に、僕は片手で張り出しの縁に掴まった。
どうにか成功だ。僕は左手を伸ばして両手で縁に掴まると、何とか身体を引き上げて段差の上に立った。
剣を納めると、さらにそこから瓦礫の山の上に登り、ミドナに話しかけて狼に変身させてもらった。
そこから前方を見ると、同じくらいの高さの段差がもう一段ある。普通なら、鍾乳石を落として足場にしない限り登れない。だが僕は普通の冒険者ではない。それに狼の跳躍力は、人間の姿でいる時より格段に強い。
僕は前方を見定めると跳躍した。狼の前足がなんとか段差の縁に引っ掛かり、どうやら段差の上に這い登ることができた。
ここまで来れば一安心だ。僕はミドナに人間の姿に戻してもらった。
段差の上には一メートルほどの高さの通路がしつらえてあり、先の扉に至っている。僕は通路に登って扉に進んだ。手を掛けて扉を持ち上げ、先に進むと、そこは細長い廊下だ。
左右に高い柵がかけられており、その向こう、二十メートルほど下方には豊かな水が流れている。廊下の突き当たりには両開きの扉があり、その先には大きな部屋があるようだ。
だが廊下の向こう側に人影がある。人間ほどの背の高さをした何者かだが明らかに人間ではなかった。全身茶色い皮膚で、蜥蜴のような顔をしているが直立して手には武器らしきものを持っている。
そいつはこちらに気づくと、駆け寄ってきた。
だが僕は、前転して難なく相手を回避すると、そのままダッシュして通路の終端まで辿り着き、そこにしつらえられていた両開きの扉を開いて向こう側に出た。
敵は違う部屋までは追いかけてこないということも僕は知っていた。
さて、この神殿でやるべきことをやらなければ。
今いる部屋は、直径百メートルはありそうな巨大な円筒形の空間だった。目の前に下りの階段がある。
今いる階層はどうやら二階のようだ。巨大な部屋の中央は吹き抜けになっており、はるか下がプールになっているのが見える。その吹き抜けを囲うようにしてぐるりと通路がしつらえられているが、今の階層の通路は右も左もすぐに柵が立てられ行き止まりになっていた。壁にはほうぼうに蔦性植物が生えている。
僕は目の前の階段を降りて下の階層に到達した。入ってきた場所が部屋の南側、そして階段を降りた先が北側だ。
そこから右に折れて、円形にしつらえられた通路を進んでいく。
途中、アメンボの化け物のようなものがいたが無視だ。前転を繰り返して進み、入ってきた場所のちょうど真下に位置するところまで来た。そこは、吹き抜けに面した場所の柵が開いており、上から巨大なハンドルがぶら下がっているのが見えた。
そのハンドルに飛び付いてぶら下がる。すると重々しい音がしてハンドルが下がり、吹き抜けにかかっている巨大な階段が回転し始めた。
ほどなく、僕がぶら下がっている箇所に階段の下部分の終端がやってきて、そこで回転が止まった。
僕は階段に飛び降り、登って二階に行ってみた。
これで、最初に入ったときには柵に阻まれて捜索できなかった箇所に行ける。二階の通路を左に進む。
途中、また巨大アメンボがいたがこれも無視だ。前転を繰り返して進み、やがて部屋の真西のあたりに差し掛かった。そこには鎖がかけられ鍵のかかった扉があった。そこを過ぎて少し進むと、通路は柵で行き止まっていた。
だが僕の目当てのものはそこにある。僕は剣を抜くと柵の手前に置いてあった壺にいきなり斬りつけた。
中からは、果たして鶏ほどの大きさの鳥が飛び出してきた。
だが、顔はどうみても人間だ。頭髪はなく頭はツルツルしており、また眉毛も睫もなく、目には瞳もない。それ以外の身体の部分はほとんどが鶏なのだが。
「ふう、助かったわ。お尻が詰まって出られなくなっちゃってたのよ。お兄ちゃんありがとねぇ」
鳥は当然のように話し始めた。
「おばちゃんね、ここで探し物してたのよ。お兄ちゃんもそうなの?だったら、ねえ、おばちゃんと一緒に行動しない?おばちゃんね、お兄ちゃんを外にワープさせてあげられるの。それでそのあといつでも同じ場所に戻れるのよ。使える女でしょ?」
異存はない。僕はおばちゃんと名乗ったその生き物を歓迎する意味で手に抱き上げた。
(だが、心とは裏腹に、どうしてか顔をしかめてしまった。転生するごとに、最初にこの生き物と出会うと、どうしても「ウエッ」という表情をしてしまうのはどうしてだろうか。僕は彼女は自分で言う通り実に役立つ女だということをよく理解しているつもりなのだが。)
僕はミドナに彼女を仕舞ってもらうと、今度は剣を抜いて道を引き返し、部屋の真西にある扉の真向かいの、柵の切れた場所の右側に立つと身構えた。
少し位置を調整し、左方向に向く。そして思い切ってジャンプ斬りを放った。
空中に飛び出した僕は、眼下にあった斜めの斜面を滑り落ち、そこで左に方向を変え、また空中に飛び出した。
まるで過激な滑り台のようだ。だが、放物線を描いて飛んだ僕は一階の柵の上に辛うじて降り立ち、そこから通路の上に滑り降りた。
成功だ。もしこれが失敗したら、部屋の一番下部にある中央のプールに落ちてしまうところだった。
そうすると、人食い魚はいるし、プールから上がっても通路に戻るまで時間がかかるから大変だ。
ともあれ僕は、さっき二階で見た扉のちょうど真下にしつらえられた扉の目の前にいた。
僕は扉を開けて向こう側に出た。
先は十メートルほどの廊下だった。だが先客がいる。ずんぐりとして兜をかぶった、南洋トカゲの出来損ないの顔をしたあの化け物だ。
化け物は豚のような叫び声を上げながら突進してきた。だが僕はサイドステップして攻撃を躱すと、前転を繰り返して進んだ。廊下の終端にある扉を開いて先に進む。
扉を出たすぐの場所には、空の浅い水路のようなものが掘られ、その先にある直径五十メートルくらいの円筒形の窪みに繋がっていた。
窪みの中央に太い石の柱がある。その上に、円筒形と重なるように巨大な金属製の歯車のような形のものが鎮座している。その歯車のちょうど周囲を囲むようにして壁から張り出しが削り出されていて、天井が覆い隠されていた。その上が二階部分なのだろう。その巨大歯車からは直径二メートルほどの円盤がいくつか鎖でぶら下がっていた。
僕はここで、おばちゃんの息子にワープを頼んだ。
出て来た息子は頭から直接羽が生えており、胴体がないのだ。だが、見慣れれば可愛いものだ。
「じゃあ行きまちゅよ」
そうこうしているうちに息子鳥がそう言って僕の頭の周りをくるくると飛び始めた。
次の瞬間僕の身体もくるくる回転し始める。身体がフワッと浮いたかと思うと、周囲が一旦暗くなり、すぐまた光が見えた。
気が付くと、ハイリア湖畔にいた。光といっても、影の領域の光だから薄ぼんやりとしているわけだ。
さてと、だが湖底の神殿に自由に出入りする手段は手に入れた。
しかし、これから一番面倒な雫探しをしなければならない。しかもその前に、ラネールの精霊から雫の容器をもらうため、ゾーラの里まで行って水源を蘇らせる仕事もだ。
おそらく、ここいらが一番面倒な作業だろう。読者の皆様にはどうか忍耐を持ってお付き合い願いたい。
(つづく)