かつて鬼退治を成し遂げたという人物を先祖に持つ桃次郎。獄炎島に鬼が住まうという噂を聞きつけた桃次郎は犬、猿、鳩をお供に鬼退治へと島を訪れるのだった。

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鬼と俺と三匹のお供

人の住めぬ島とされる獄炎島。そこに今や鬼が住まうという噂があった。俺は噂を確かめねばならない。かつて鬼退治を成し遂げたというご先祖の名にかけて。

「犬次郎!猿次郎!鳩次郎!ゆくぞ!鬼退治へ!」

木船に揺られて島へと降り立ったお供たちは一目散に鬼のもとへと走り出す、かに思われたが、足元に滾る溶岩に慄いて立ち止まってしまった。犬次郎がきゅうんと鳴いてこちらを振り返る。俺は犬次郎を抱きかかえ、両肩に猿次郎と鳩次郎とを乗せるとずんずんと歩き始めた。

やがて開けた場に広がる赤い池へと辿り着くと果たしてそこにはろうそくと朴訥とした木像とが見渡す限りに立ち並んでいた。寺院の跡に立つ異形の仏像たちとは趣の違うそれらを辿っていった池のほとりにはあぐらを組んだ人がおり、手の中の木片をこりこりと削る音が地響きと波音の合間にかすかに響いていた。

「あっ、お前たち!」

お供たちが我先にと駆け出してその人影に近づくと、一匹は腹を出して寝そべり、一匹はその人のぼうぼうとした蓬髪の毛づくろいを始め、一羽はその膝元へと羽ばたいて留まるとくるると幾度か鳴いた。木像らしきものを彫る手を止めてお供たちを一瞥したその人は、次に首を巡らせてこちらを向いた。途端に身の震えが湧き起こる。人に相対したとは思えない威圧感にご先祖様から受け継いだ血が騒いで教えてくれている。彼の者こそが鬼なのだと。

「この畜生どもは、うぬの連れか」

「そ、そうだ!そいつらに手を出したらタダでは済まさねぇぞ!」

「……ふむ」

うわずった声と止まない震えに内心舌打ちをして動向を見守っていると、大きな手が犬次郎の腹にふわりと沈み、そのままワサワサと感触を確かめるかのように撫で回した。

「野生の欠片もなし、か」

犬次郎は嬉しそうに舌を出してされるがままにしている。鬼と見えたその人の口端に笑みが灯ったのが俺にはわかった。動物好きに悪いやつはいない。ましてや自分のお供があんなにも心許しているならば、鬼であってもいい人に違いない。いつの間にか震えは治まっていた。

「あんたは、ここに住んでるのか?」

「いかにも」

「なら、食うものにも困るだろう。にぎり飯があるが、どうだ」

「施しなぞ受けぬ」

「お供たちに構ってくれた礼だよ。遠慮すんなって」

鳩次郎が乗る膝とは反対の膝ににぎり飯を包んだ竹皮を置き、それからお供たちに向かって指笛を吹いた。指笛はメシの合図だ。仰向けだった犬も毛づくろいをしていた猿も香箱座りをしていた鳩もみな一列に並ぶと、持参の皿にそれぞれのメシが乗るのをよだれを溢れさせんばかりに今か今かと待ちわびていた。

「では食うぞ!いただきます!」

お供たちは待てとよしがわかるやつらだ。号令を機に一様に吠えたお供たちに並んで鬼のようなその人もにぎり飯へと手を伸ばした。

「具なして悪いな。俺のにぎり飯はいつも塩むすびなんだ」

「いや、有難い」

獄炎島に降り立ったときから硫黄臭と火山地帯らしい高温を感じていたが、この池のほとりはそれらを感じさせないような涼やかさがあった。

「ここは一等地だなぁ」

遠くに山のひとつが火を噴いているのが見える。ここならば山を眺めながらメシを食うのも、木像を彫るのも、鍛錬をするにもちょうどよい場所のように思えた。無心ににぎり飯を頬張っていたかに見えたその人から視線を感じて目が合う。問われたわけでもなかったが、バツが悪くなって勝手に白状した。

「俺たちがここに来た目的は鬼退治だったんだけど、俺が思うような鬼はここにいなかった。だから飯を食ったら退散するよ。邪魔したな」

「……そうか。馳走になった」

早々にメシを平らげてしまったお供たちはそれぞれ思い思いにその人に好意を向けていた。また笑みが灯ったのを見つけてこちらもあたたかな気持ちになる。

「でも、こいつらはあんたのことを気に入ったみたいだ。……また、遊びに来てもいいか?今度は塩むすびじゃなく梅とかしゃけを入れて持ってくるから」

「……好きにするがよい」

言葉少なで威厳ある言い方ながら、ちぎれんばかりに振られている犬の尾がその人の尻に見えた気がした。

 


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