○
「…あ、ありえません! 普通に国家反逆罪! 我々のく…いや! かの国なら
「「「「「…………」」」」」
周囲が注目するカドルが出した文箱付き書簡とその証に若いエルフ・アーヴ系の武官の青年から荒れた声が上がるが、他の面々はかえって口を動かしづらい感覚に陥る。
「その第三勢力とはそもそも何ですか!? そんなのがあるなら今までどうして話に上がらなかったのです!?」
「…いや、その勢力は君も知っている…。ただ
「……えッ!?」
だが、ついにシーゲルが躊躇いがちだが口を開くと続きを引き継ぐ。
○
プラントのクライン邸で穏健派の要人達が集っていた頃、その彼らが強く注目している帝国の一角で、それとはけた違いな人の集まりと注目が出来ていた。
そこは、地球でいう所の東南アジアや南アジア風の意匠が強い建築物が多くも、それらの土台や基盤にはそれ以上に古くて且つ現代よりも高度な文明を誇った
「…バリハルト神殿総本山よりー…」
「アークパリス神殿総本山よりカルザール様ー…」
「ドイサックのアーファ・ネイ神殿総本山からはー…」
「サンシュームより慈悲の預言者様ー…」
「ラクファカールのアークリオン神殿総本山からー…」
今現在、その地には帝国各所から来た表向きは世俗とは別の要人とその関係者達が従者や護衛を大勢引き連れて集ってきていた。
だが、その面々の多くは世俗の者達からは出身問わず無視できない者達ばかりであり、記者も大勢集まってきている。
「…すげえ顔ぶればかりだ。緊張で胃が固まって砕けちまいそうだぁ…」
「そりゃまあ、マーズテリア神殿にとっては久しぶりの自分らのペテルーラ総本山での“公会議”開催だからなぁ。この星全体がピリピリしてやがる…」
その理由は、帝国においては九割以上が信仰する
そして、その公会議が開かれるこの場所こそ、帝国で信仰される神々で最も信望を集める軍神の総本山があるペテルーラであり、クリュセでラクスと共にいたカドルに書簡を届けた、今現在はメイドだが嘗てはその軍神の聖女として仕えていたルナ=クリアも属しているマーテリア神殿であった。
彼ら現神教と先明道を中心とする帝国国内の宗教勢力こそが、シーゲルとカドルが認識しつつも触れようとしなかった同国内の第三勢力である。
○プラント小銀河 アプリリウス市 首都星系アプリリウス・ワン 首基プラント クライン邸○
「…そ、それが帝国内の第三勢力ですか…」
「だが何で今この時期にカドル氏に接触をー…? それに何と言うか彼女ラクスも一緒にいた時を狙っていたように思えるがー…?」
「…そ、それにー何だか時系列が矛盾してるように聞こえるぞ?」
「ああ、先代のマーズテリアの聖女は確か昨年の血のバレンタインで死んだはずだがー…?」
「…まー、今のところ言えるのはー…マーズテリアの先代聖女の
「それが何故ラクスにも接触をー…?」
「あまり知られとらんがラクスの亡くなった母は先代聖女であるルナ=クリアの一族の出にして彼女の直弟子で、ラクス本人は今回接触してきたその影武者の教え子なのだよ。その縁でウィレンシヌスにラクスは目を掛けられているー…」
話がプラントに戻るとカドルの話は続けられていたが、周囲の表情は概ね期待している色合いになる。
「…で、ですがそこまでのご縁なら話は早いではありませんか。こちらがお頼みすれば教皇はきっと皇帝に講和の仲介で働きかけられてー…」
「そう早く簡単に行くのならとっくにそうしている」
だが、期待に傾きそうだった流れをシーゲルとカドルが引き留めにかかった。
「…そもそもこれまで帝国の宗教勢力に近づかなかったのは…」
「宗教勢力に政治を左右されないようにするためだ」
「大星洋連邦の現政権の最有力支持基盤レヒリオン教聖典派、エレニズムとレスレクシオニズムでそのレヒリオン教聖典派と繋がることで大星洋政界最大のロビー団体を操るサード・サマリアのオルムス教レスレクシオニスト、その二宗教と兄弟関係にあってサブルム諸国で基盤になっているサルース教、この三大宗教いずれも唯一神教であり、多神教の現神教とは異なるが、三大宗教ともにブルーコスモス思想の基盤となって影響力を持つなど無関係じゃない」
「特に銀連軍の元プラント理事国であるエウロパ諸国と大星洋は宗派の違いはあってもレヒリオン教徒が大半を占めていて、両国は過去のオルムス迫害の歴史からくる罪悪感及びに選挙を大きく左右される故、プラント利権奪還に固執するオルムスを強く抑えられる立場にはない」
「以前、メソポタミア戦争で勝利して大人気だった当時の大星洋連邦がサマリアを徹底的に大人しくさせた結果、オルムス・ロビーに邪魔されまくって選挙で負けてしまって一期止まりに終わったからなー…。それでカナン和平はグダグダになって今にまで至ると…」
「宗教が政治に深く絡むと現実の利害や理屈を度外視したそういう凶事が起きやすくなる」
コーディネイターの出自故、オルムス系などほとんどいない、ましてやオルムス教徒で要職に付いている者は居ないプラントとはいえ、銀連中枢である大星洋やエウロパではタブーな言葉を次々に吐く一同だが、それはやがて帝国にも行く。
「それに対し帝国の多数派を占める現神教は一神教的な排他性は強くなくて立法的な拘束力は小さいがその分に宗派が多くて把握と統制が難しい」
「更に魔術を忌避する三大宗教とは異なり、教義の都合で魔術の研鑽にも深く関わるゆえに魔術協会四大部門中最大勢力で唯一帝国に本拠に置く“
「有権者と重なる信者という地盤を半分治外法権の壁としている宗教勢力を政治に深く関わらせれば制御は難しい。だからラマージュも今以上に関係を深めようとしていない…のだがー…」
そうやってますます空気が重くなっていくがゆえに、一同、特にカドルとシーゲルはその送られてきたという文箱に意識が向けられる。
「…そこに立場上は属する
一同が沈黙に陥りつつも固唾を飲んで見守る中、カドルはゆっくりと書簡の
「…!? こ、これは…!?」
「!? どうした!?」
そして、カドルの両眼が開かれた文箱の中身を先に見たその瞬間に大きく見開き、周囲の何名かはそれに掻き立てられるように机上で大きく身を乗り出した。
次回、銀連側制服組のメインキャラ中心で鬱なシーンが中心になります。