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ザフト軍によるパナマ攻撃が現地の銀連兵にも発覚する十数分前、フレイ・アルスターはパナマ星系惑星ジャブローの軌道上にあるゲート防衛要塞兼宇宙港でもあるその衛星の中を隠れながら進んでいた。
(…ここも…誰もいない?)
その中で彼女は司令室やそれを補佐する高官の部屋を見て回っていたが、ほとんどの部屋で誰もいなかったか、もしくは後始末もまずまずで慌ただしく人が出ていく場面ばかりであった。
(…こっちも書類ばかりで片付ける時間も勿体ないという感じ…まるでこの場に長く留まること自体がま隋状況出るようなー…!?)
宇宙港の管制室中枢も人一人いない状況でフレイが不審以上に不安を募らせていたその時、そこに緊急着陸を試みる機体の反応がレーダー画面に生じた。
「…え!? ちょっとここにこんな無茶な乗り方を何のつもりで…!?」
「…のわぁアア~~~~~ぶべぇ!?」
その反応がどれだけ危ないかアークエンジェルでの生活で否応なしに知らされたフレイがギョッとしたその時、彼女がいる管制室の窓の向こうでその反応を示していた宇宙小型戦闘艇が宇宙港の中をスリップするように不時着し、そこでパイロットは脱出するがその勢い余ってフレイの眼前で管制室の強化大窓に叩きつけられてへばりついてしまう。
「!? りょ、両さん!?」
『!? フレイか! ちょうどいい所にいた! 開けて儂を中に入れろ―!!』
「…あ! こっちに修理用の小型通路があるので出入り口を空けるからそこからー…!!」
自分と同じくアークエンジェルからの転属組に選ばれつつも、それに不審を覚えて共にここへ残って、衛星要塞を調べていた自分とは異なって惑星ジャブローの地下要塞を調べていた両津の思わぬ再合流に驚きつつ、フレイは彼を室内に入れた。
「おい! ここの指揮官は!? 司令官はどの部屋にいるどいつだ!?」
「そ、それがこの部屋も含めて誰もいないかもしくは急いで出て行った後で…」
「何だとぉ!? くそ…ここのお偉いあほ面共も…グルだったか! よし! さっさとスエズ行きの船に行くぞ!」
「えぇ!? な、何が…!?」
誰もいない管制室とフレイの言葉で両津は確信と怒りを強めた表情で彼女の手を掴んで大急ぎで要塞内を走りだす。
「…おい! このUSBデータは絶対に無くすな! それと中の名簿にいる連中を除いて誰にも見せるなよ!」
「…え!? こ、これに何が…!?」
「載ってる連中に見せればわかる! 他の連中には絶対に見せるな! それと儂らがここであちこち調べて回っていたことも名簿にいる連中以外には知られるな! 知られたらほぼ消されるぞ!」
「ええ!? 本当に何を見てて…えぐぅ…!?」
通路を走りながら両津は何やら怪しいUSBメモリをフレイの懐に忍び込ませると、彼女を腹パンして気絶させてその身を担ぎ上げ、港の方へ大急ぎに乗り込んだ。
「おい! この嬢ちゃんさっきズッコケて頭を打って気絶したから中に連れていってくれ!」
「ああ!? お、お前はさっきの…お、おい! 何処へ行くつもりだ!」
「儂はまだ忘れ物があるんだ!」
両津はちょうど列の最後尾が乗り込もうとしている、スエズ行きと表向きは発表されている一隻にフレイの身を押し付けると、踵を返して道を戻っていった。
(…くっそぉ! 何処も彼処も偉い連中は身勝手でアホなことばかりしやがって!!)
両津が港の宇宙小型戦闘艇区画を目指していたその最中、
「…まさかここパナマに攻撃を仕掛けられるなんて…!?」
数分後、統合作戦室のサザーランドからザフトの大攻勢がスエズではなくここ本部にされていたことを知ったアークエンジェル側は緊迫の中にあった。
当然、アークエンジェルを含めたパナマ防衛艦隊は防衛出動命令を課せられ、続々と応戦を始めていく。
「…セレーナ先輩もキラちゃんもリュールもいないのにこんなの無茶っしょ~~!!」
当然、バッチグーを始めとして少なくない悲鳴や泣き言が漏れ出るが、それでもスメラギやマリューはこの時点では本部を落されるわけにはいかなかった。
「…ええい! くそぉ!!」
ザフトのスピットブレイクがパナマに炸裂して数十分後、惑星ジャブローの地表にある本部要塞の一角でムウは何か良からぬことに気付いた険しい顔でバイクを走らせていたが、そこでも戦火は及び始めていた。
空に見える遠方からつなげられてきた短時間ゲートを通して、ザフトのナスカ級MS搭載高速巡察艦、ローラシア級MS搭載巡察艦、ムサイ級の護衛艦や突撃艦、ゴンドワナ級機動母艦を中心とした数万隻の大艦隊が、砲火を上げながら姿を現し、それら各艦から数十万、数百万ものMSが出撃していく。
宇宙空間ではザクがそれぞれの装備をフルに活用して、スエズに戦力を吸い上げられた銀連艦隊の防衛線に次々と穴を開けて広げていく。
その穴を通し、宇宙からの艦砲射撃で地上の対空装備も焼き払われていき、そこへ続々と強襲用カプセルが投下され、それは大気圏内で種子のように弾けて中からバビが姿を現し、他の対空兵装やトーチカを空爆していく。
そうして安全を確保したと判断すると、宇宙から揚陸艦が続々と降下して地上に降り、中からも地上戦用や水中専用のMSを出していった。
ガズウートが重砲を実弾やビーム問わず浴びせていく中、バクゥは餓狼の如く疾走して跳躍し、アッシュは港湾やそこを守備する海上兵力を攻撃していく。
「ローエングリン! ゴットフリート撃てー!!」
「アイゼンハワーが開けた穴を埋める! ドワイトの右側を付いているローラシア級にバリアント発射!!」
ザフトが地上にも進出して数十分後、アークエンジェルは銀連軍のパナマ防衛宇宙艦隊に加わって必死な応戦を続けていた。
「オレーグ撃沈!!」
「スエズに向かった戦力はいつに戻ってくるんだぁ!?」
「本部からは相変わらず“各部隊それぞれ現状に応じて臨機応変に応戦し、それぞれの担当前線を守備せよ”としか…」
だが、如何せんに戦力が質量ともに差があり過ぎて次々と銀連側のそれは急速にすり減らされていく。
近づく終わりの時が自分達にも足音を着実且つ急速に強めつつあるのを、スメラギとマリューは否応なしに感じさせられていた。
○大星洋大星域 大星洋連邦左下端部 銀河中心領域付近 パナマ星系付近平面宇宙 銀河連合軍艦隊○
「…う? ここは…?」
「気が付いたか」
一方その頃、両津に腹パンで気絶させられたフレイ・アルスターが意識を取り戻したのは、パナマを既に出て隣の大星洋領域内星系に向かう銀連艦の一隻の大勢でごった返している倉庫の一角で、最初に目にした人の顔はナタルのものだった。
「…あ! バジルール副艦長! ここは…!?」
「スエズに向かう船の一隻だ」
「両津中尉は!?」
「両津中尉なら意識を失っていた君を届けて忘れ物があると戻っていってー…」
パナマで目にした不自然すぎる状況を共に確認し、自分よりも遥かにその深淵を知っただろう男の姿が無いことにフレイは顔をこわばらせ、ナタルは仲間達と別れたことによる動揺を抑えきれなくなったのだろうと宥めようとする。
「はぁ!? ふざけたことを言わないでよ! 何処のアカやアオ連中のでたらめよ!!」
「「!?」」
だが、それ以上に動揺と不審を隠さない叫びが彼女達も知る声音で鼓膜を痛めつけてきた。
「…あ、あんまそんなデカい声を出すんじゃねーよ! 関わってる従兄の技師から聞いたやばい話なんだからさー…」
「…え? あの子ってー…?」
そのビビって腰を仰け反らせている兵士に詰め寄っている荒げた声の主は、フレイと同年代だが彼女達とは違って始めから軍の志願正規兵として入っていたキルケ・シュタインホフであった。
「それならパナマに残ってる皆はどうなるのよ!?」
「…だ、だーから声が大きいって…。そりゃまー…“奮戦するも全滅”だろ。そうなりゃおえらいさんたちが取る最後の手段はー…」
「「「……………」」」
オロオロとしながらも言葉を続ける兵士に、詰め寄るキルケも、その様子を盗み見るナタルとフレイも背筋を悪寒に似た電流が駆け上がる感覚を強めていく。
「…全て“ボン”だよ“ボン”」
「!? ちょ! ちょっとその話…!?」
その言葉が暗示する予想される中で最低の結末に今度はフレイが思わず声を荒げた。
○
「…本艦スラスター87パーセントまで低下!」
「左舷ローエングリン被弾! 使用不能ですー!」
フレイが目を覚まして数十分後、現場のアークエンジェルも含めたパナマに残っている銀連軍はその苦境をますます強めていっていた。
「まだスエズに向かった友軍が来ないのかよー!?」
「!? 我が艦に向けて緊急着陸を求める信号を放つ友軍戦闘艇確認!」
「ええ!? 何処の馬鹿よ! 破損したカタパルトデッキに緊急不時着陸の準備をさせて…!?」
その混乱の表れと思える一報が入って来ても、もはやスメラギとマリューはそれ以上驚かない嫌な自身が
「し、司令に艦長! 防衛艦隊旗艦より緊急命令が全軍に対して発せられています!」
「!? すぐに繋いで拾えるだけ拾って!!」
だが、それ以上の驚愕と呆然を与える報せがすぐにやってきた。
『…こ…ら…パナ…マ…防衛艦隊…司令…である! 我が…軍は…課せられた…極秘任務の…囮部隊を果たしたと見做し…本星系を…離脱する…!!』
「…え!?」
『この通信を聞いたものは…全て…我に…続くべし…! 繰り返…す! こち…パナ…』
「何を言って…!?」
Nジャマーの影響から所々で強くノイズはかかっているが、それの聞き取れただけの内容でもアークエンジェルの艦橋メンバーらを困惑させるには十分過ぎたが、そこで別れたばかりなはずのあの男が乱入してきた。
「よっしゃー! 両さんの方もどうにか向こうの旗艦の艦橋に到着して上手く伝えたようだなー!」
「フ!? フラガ中佐!? どうしてここに!?」
「さ、さっきに右舷カタパルトデッキに不時着したのってもしかしてあなた!?」
「そんなこと今はどうでもいい! さっさと俺たちもパナマを脱出するぞ!!」
艦橋にズカズカと乗り込んできたムウには普段の陽気な余裕は感じ取れず、アークエンジェル全体に激震を走らせる報せを口にする。
「聞き逃すなよ! 地上総司令部の地下深くに“サイクロプス”が拘束設置されている! 一度封印を解けば直ちに暴走を起して地表を突き破って出てきて半径100万キロの物質を分子レベルで吹き飛ばしちまうサイズの代物がな!!」
「「「「「!!!???」」」」」
その内容にアークエンジェル艦橋のその場にいた全員が凍り付き、それは通信を介して艦内中と同艦所属のMS部隊全員に伝えられる。
『…え、えーーっと…サイクロプスって…あれっすか!? 髪もチ○毛もない白いのっぺらぼうな一つ目の馬鹿でかい巨人みたいなのでー…
ウィンダムの一機に乗ってアークエンジェルや周囲の味方艦を護っていたが、補給のために一時戻って来ていた銀時が大きくひきつった顔をモニター越しに見せる。
「…そっちみたいに勇者パーティーだけが道連れにされるのならまだ可愛いものなんだがな…。こっちはお偉いさん達がザフトの戦力の大半を奪おうってつもりの規模のがな…」
「…俺たちにここで死ねと?」
「…撤退したことを悟られないようにするための奮戦を続けながら…な」
ノイマンの悲痛なつぶやきにムウは沈痛とした顔しか浮かべられない。
「…軍隊って…作戦って…こういうものなの?」
「「「「「……………」」」」」
若い恐れと悲しみを宿した声が艦橋の一角よりも小さくも立ち昇るが、周囲の大人と呼ばれる者達はそれに返す言葉が無いままその紬手に振り向く。
「…戦争なら…そういう命令が来たなら………あたし達…死ななきゃいけないの………??」
「「「「「……………」」」」」
その言葉に普段は大人として彼ら子供達に頼られる者達は返す言葉を持たない。
「………あたし達…パチミリア達…って?」
「…あ、あのね…ここ最近は何かギャグパート的な明るさが無い…悪い意味的なシリアスパートばかり中心だったけど…こんな時まで…そんなふうに和まそうとしなくていいからね…」
言葉の紬手がミリアリアのヘアーを模したような鬘をかぶってその丸が基本なボディーに合わせたようなピンク色が基調である女性用軍服に身を包んだ首領パッチで、それに負傷と疲労が原因で一時医療室にて治療を受けていたが戻ってきたミリアリアが涙付きの乾いた苦笑を向けている状態であったとしても、普段のような突っ込みを上げる気力もなかったのだから当然である。
「…先の命令がザフト軍の意識と目をこの地へ釘付けにする任務は終わったというここに残ってる上官たちの命令なら、私達にはそれに抗う理由も必要もないわね…」
「…司令…」
「本艦も先の命令に従って今こそ撤退の時と見做して防衛艦隊旗艦に従って現戦闘領域を極力友軍支援しながら撤退開始する! なおこの判断はこの私スメラギ・李・ノリエガ大佐が下したものであり、本艦において私以外に責任を取れる者はいないとする!!」
「…まーそーきばりなさんな、俺の機体も残ってるから俺もまた出るからさ」
その少しの沈黙の後に、スメラギが残された気力を奮い立たせて放ったその宣言に、先ほどゲーム脳的発言を情けない顔でしていた男がいつもの気怠そうだが余裕さも感じさせる皮肉屋な笑みも添えて返事する。
「…銀時…」
「忘れてないよな? ここにはよー“不死身の白夜叉”だっていることをさ」
慣れ親しんだ男のいつものその自慢が、今この場にいる面々や通信で聞いている者達には僅かながらその身にかかる重圧を減らしてくれたような心地を覚えさせた。
「あれ? 何か“不可能を可能にする男”を忘れてない皆?」
いつの間にか短時間だが自分を忘れられた感じを覚えたムウの苦笑も今のこの場では一種の清涼剤となった。
次回、ガンダムSEEDでも有数の名シーンであるあのパートにこの世界での要素も加えながら入る予定です。