物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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621話 フィリスの運命

 私とレックスは、たったふたりでサジタリウス聖国に侵入することになった。私を王にしたいと言っていたエルフは、確実に敵になる。最悪の場合、国そのものが敵になるかもしれない。

 

 そうと分かっていて、レックスは迷わなかった。ただ私を助けるためだけに、一国を敵に回す覚悟を決めていたということ。

 

 レックスの抱えている感情が恋愛感情かなんて、もはやどうでもいい。そう思えるほどに、行動が愛の証そのもの。誰が、たったひとりのために国を相手取れるというのか。いくら闇魔法を持っていようと、不死身ではない。ミレアルが敵になるのだから、むしろ脅威は深まるくらい。

 

 何一つとして迷うことはなく、私は全力を振るうことができた。エルフに対して、本気の殺意を向けることができた。

 

 サジタリウス聖国に入って、すぐに襲撃を受ける。苦戦しても、レックスの態度は変わらない。それだけで、死んでもいいとすら思えた。レックスさえ居れば、他に何もいらない。心の底から、確信できた。

 

 レックスと一緒に食べるご飯は、どれほど質素だろうと美味しかった。私の用意した料理を食べさせることで、胸が弾んだ。調理する腕に、力が入った。

 

 そして、私たちに最大の転機が訪れる。休息のために立ち寄った村で、レックスが毒を盛られたこと。村の全員が、圧倒的な加護を受けて敵に回ったこと。

 

 通常の手段では、決して勝てない。だから私は、ふたりの合一を混ぜることを提案した。レックスは、一瞬だってためらわなかった。それが、すべてだった。

 

「……歓喜。レックスとの合一は、完璧だった」

 

 私とレックスを構成する魔力を、編み上げる。そしてひとつの魔法になる。私の中にレックスの要素を取り入れる形で、実現した。あくまで、私が主導。

 

 つまり、レックスが抵抗した時点で成立しない。ある意味では、何よりも難しい魔法。信頼し合っているふたりでなければ、絶対に実現できないもの。そして、失敗した時点で人としての形を保てなくなるもの。

 

 それが成功したという事実が、私たちの関係を示している。ひとりになると、つい笑ってしまいそうになるくらいに。

 

「……確信。私をどう思っているかも、強く伝わってきた」

 

 溶け合うことで、レックスの思考も流れ込んできた。どれほど私を必要としているか、尊敬しているか、大事にしているか。そして、女として私を見ているという事実も。

 

 レックスは、やはり我慢しているだけだった。立場上、女に手を出すことが難しい。だから、感情を心の奥底に押し込めていただけ。

 

 だから、状況さえ整えて押し切ることができれば、私の誘惑に負ける。良いことを知ることもできた。戦果は上々。

 

「……制御。隠したい感情も、隠すことができた」

 

 私が主体ということは、レックスとのつながりも制御できるということ。子宮に取り込む計画や、交配の計画、そしてエルフを生贄に捧げるという考えは、伝えていない。

 

 そう。私がレックスを大切にしている気持ちだけが、ぼんやりと伝わる。そのように調整した。だからこそ、私の好意によって、レックスの心にも影響を与えられる。遠回しではあるけれど、確実に。

 

 洗脳のような形ではなく、私の好意に触れることで私を意識する機会を増やす。それだけの話。どんな行動よりも、どんな言葉よりも、直接触れ合った感情は重い。

 

 つまり、私は大きく先手を取ることに成功したということ。

 

「……余裕。このつながりがある限り、ほとんどの相手には負けない」

 

 私と同じ領域でレックスと愛し合える人は、少なくとも今はいない。お互いの感情を直接伝え合うということが、どれほど有利となるか。レックスの感情を味わった私だからこそ、誰よりも分かる。

 

 そう。もはや焦る意味はない。ゆっくりと、合一を使う機会を重ねれば良い。そうすれば、確かにレックスに私を刻み込むことができるのだから。

 

 むしろ、急いだ方が危険。知る必要のないことを知られたり、恋敵を排除しに動いたり。嫌われる危険性が増えるだけ。今は、布石を打つ段階。

 

「……現状。ふたりの合一を使える可能性は、相当な成長の先」

 

 可能性があるのは、カミラとラナ、フェリシア、そしてルース。もしかしたら、他の人も合一を使えるようになるとしても、まだ遠い。

 

 だからこそ、注目すべき相手も絞れる。私に互せる存在なんて、今はいない。未来だとしても、数人だけ。

 

 なら、他にレックスを好きになる人が増えようとも関係がない。それだけ。

 

「……協力。ニッカがレックスを誘惑するのなら、それでいい」

 

 レックスを利用しようとしているのも、確か。レックスに好意を持っていることも、確か。本音と打算が混ざり合って、かなり複雑な感情を抱いているのは分かる。

 

 そして、ニッカは肉体を活用もしている。私にはない武器を、的確に使っている。これまでの私ならば、不利を感じるほどに。

 

 だけど、私はただ笑顔で見守ることができた。理由なんて、単純極まりないもの。

 

「……高揚。レックスとは、体の結びつきより大きなつながりを手に入れた」

 

 私たちは、魂で結ばれた。それができる存在が、どれほど居るというのか。少なくとも、ニッカは違う。だから、何も問題はない。

 

 ニッカはレックスを利用しているけれど、だからこそ本気でレックスを破滅させることはできない。あれほどの大きな力を捨てることなど、打算的であればあるほど難しいのだから。

 

 そして、いずれレックスの好意と信頼に負ける。自分が打算的であると自覚しているのなら、無条件の信頼がどれほど貴重なものか。レックスは、決してニッカを本当の意味で疑わない。自分の敵になるだなんて、少しも考えない。

 

 だからこそ、勝ち負けなんて分かりきっている。時間は、レックスの味方。そして、私の味方。

 

「……愉悦。ニッカとも、協力できる。交配だって、すればいい」

 

 レックスとの子供を生むのならば、サジタリウス聖国にとっては優位に進む。レプラコーン王国やスコルピオ帝国には、不利な影響があるのかもしれない。

 

 けれど、レックスが不利になるわけではない。ニッカが策を練れば練るほど、レックスからの好意に触れ続ける。そして、子を生むのならば情愛にも近づく。

 

 どれほどの策略家でも、他者を道具と思っていようとも、完全に情を切り離すことはできない。むしろ、そういう人間だからこそ、本性を含めて受け入れられることには弱い。

 

 だって、自分の本質を知った上で好意を抱く存在など、いる可能性すら想像できないのだから。ニッカにとっての最大の弱点は、レックスそのもの。

 

 ならば、ニッカの存在に警戒する意味は薄い。適度に状況を整えれば、それで勝てる。私の目的に近づくためには、むしろ好都合。結ばれたいのならば、結ばれれば良い。

 

「……先手。合一にたどり着くことが、最低条件。そうでなければ、私には勝てない」

 

 ニッカには、確かに魔法の才がある。だからこそ、合一にたどり着くことは難しい。自分の魔力操作すべてを見つめ直すことなど、実力者であればあるほど厳しいのだから。

 

 だからこそ、カミラが最も早くたどり着いた。私よりも、早く。やはり、最大の強敵は合一にたどり着いた存在。その結論は、変わらない。

 

「……結婚。誰としようが関係ない。必要な相手とすればいい」

 

 ニッカだろうと、ミーアだろうと、ユフィやロニアだろうと。レックスが政治的立ち回りとして必要とするのなら、いくらでも構わない。

 

 もはや、結婚程度を優先するようなことはない。レックスの本当の心を手に入れるためには、契約では足りないのだから。

 

「……計画。むしろ、レックスを縛る材料が増えた」

 

 レックスが大切なものを抱えれば抱えるほど、私の存在は重要になる。レックスが誰かを守るための力は、私が与えてきた。そして、戦力として重要な存在でもある。ふたりでの合一の出力を考えれば、決して無視はできない。

 

 そう。他の誰かとの子供も、愛そうとする誰かの存在も、私にとって優位な条件になるだけ。私はただ待つだけで、最良の結果に近づける。

 

 もちろん、油断は禁物。ふたりでの合一での優位は、完璧なものではない。

 

「……戦術。ニッカの誘惑は、学びになる。体の触れ合いも、大事」

 

 実際に、レックスは顔を赤くしたりしている。性的な欲求も、レックスにとっての魅力につながるということ。

 

 ならば、ニッカよりも近しい存在である私が実行すれば、もっと効果的。ニッカが新たな手を打てば打つほど、私の策は深まっていく。

 

「……成長。私とレックスは、まだまだ先に進める。それは、分かりきっている」

 

 ふたりでの合一も、もっと出力を高められる。他の魔法だって、きっと生み出せる。レックスと私ならば。

 

「……観察。私とニッカは、協力できる。レックスの居場所となることで」

 

 ニッカにとっても、レックスの居場所となることは望みのはず。信頼と依存を手に入れることができたのならば、サジタリウス聖国の運営にも都合が良い。

 

 レックスから信頼を手に入れるために、どこまでもニッカは策を練る。そして、サジタリウス聖国をレックスの居場所にしようとする。だからこそ、私にとっても都合が良くなる。

 

「……環境。サジタリウス聖国には、まだ人間は入り込めない」

 

 そう。エルフの国に人間が入植するのは、レックスだって避けたいこと。種族間の違いが、すれ違いの原因になる。一歩一歩理解を深めていかなければ、悲劇が起きるだけ。

 

 正しくレックスは理解できている。なら、サジタリウス聖国は箱庭になる。私にとっての。

 

「……状況。私とレックス、そしてニッカ。加えてアリア。それが限度」

 

 それ以外の人間は、そう簡単にサジタリウス聖国には入り込めない。つまり、ニッカの打つ手は私にとっても利益のある手。

 

 どれほどレックスをサジタリウス聖国に縛り付けるか。それを傍観するだけで、私が漁夫の利を手にいれられる。

 

「……利用。お互いに都合のいい形を目指す」

 

 そうすれば、ニッカの願いも私の願いも叶う。

 

 だから、レックス。私たちは結ばれる運命にある。そんな未来を、紡いでみせる。

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