運命に抗うただ一匹の   作:鴬の囀り

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誰かにとっては取るに足らない日

 

 現実逃避をしていたという自覚はあった。

 

 何も変わらないように見えて、全てが自分の知る日常とはもう掛け離れていることを見て見ぬふりをした。

 

 だって私には関係無かったもの。変わらず私たちの日常はただ平穏で、特に代わり映えのない時間を過ごして、イレギュラーなことが起きないかなと馬鹿な夢を語る。

 

 そんな日常があった。

 あったことを知っているのは私だけ。歪んだ世界を憎むのも私だけ。戻そうと足掻いたのも私だけ。

 

 

 (ゆずりは)…?」

 

 血の雨が振る中私はただ前に戻りたいなとばかり考えていた。止める為に私の足に、腰にしがみつく親友達のことなんてどうでも良いくらいに。

 

 

 「だめ…だめ…」

 「朝霧(あさぎ)ちゃん、もう無理だよ」

 もう無理なんだよ、戻りっこないんだってわかっちゃった。逃げようがないんだってわかっちゃった。

 

 

 だって誰も疑問に思ってなかったじゃない。

 

 誰も抗おうなんて思ってなかったじゃない。

 

 誰も、彼も諦めることばっかり慣れてしまっていたじゃない。

 

 

 「ゆずり、は」

 

 

 「ねぇ朝霧ちゃん、もう壊れちゃったんだって、慣れてるでしょそんなの…今更なんだって」

 

 「私を見て、楪…ねぇお願いよ」

 

 「沢山死んじゃったね、あーあ、やっぱり関わるのも辞めるべきだったんだよ」

 

 

 「楪ってば」

 

 「やだよ、見たくない、みんながそうしてたように私もしてよ…」

 

 もう何もかもが嫌になってしまった。なんで私だけ、どうしてってそればかり。みんなはいつも私を置いていく。そんなみんなに私がいつもしがみついてたのに、今は逆なんだね、朝霧ちゃん。

 

 朝霧ちゃんの声がどんどん弱くなる。腰に回された遥ちゃんの手はとっくに固まってしまっていて、知りたくないのに、だから見ないようにしてるのに。許さないとばかりに実感させてくる。

 

 「関わらなければ、名前を知らなければ、大好きにならなければこんなに辛くなることなんてなかったのに」

 

 ただ誰の名前も記憶せず席についてぼんやりと時間を過ごして、そうやって大人になって、そのあともずっとそれで良かったのに。

 

 「ゆず…り…」

 

 ピタリと私の名を呼ぶ朝霧ちゃんの声が止まって、堪えきれず、ダメだって嫌だって思ってたのに、見てしまった。

 

 両足が無くなって動かなくなった朝霧ちゃん、お腹が抉られてとうに死後硬直しちゃった遥ちゃん。

 そして地面だったはずの場所にみんなの死体があって、目の前に大きな目がある。

 

 大きな牙と、大きな舌が私を絡め取り、砕いていく、痛みと熱がやがて命を失う。

 

 それは世界のどこかで起こる誰かにとっては言葉でしか届かない日常(・・)だ。

 

 『ニュースをお知らせします、雪白高校に通う高校生49名と教師4名の死亡が確認されました────』

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