私の体が、重力を感じる。それ以上、何も分からない。
上も下も。右も左も。分からない。
音も、聞こえない。体は動かそうとしても、動かせない。
「……………………ぁ」
声を出そうとして、
腕を動かそうとして、ズキッと痛んだ。
「~~~~~~~~ッ!」
全身に、悶絶するような痛みが走った。
痛みがあったおかげで、意識が戻った気がする。
目を開ける。空が見えた。地面に寝転がっているようだ。
――何が、あった?
体がズキズキと痛む。そのおかげで意識がはっきりとしてきたのが分かった。
何やら腹部の上に重さがある。光の剣でも乗っているのだろうか。けれど光の剣の重さは相当なものだし、こんな軽いものでは――と視線を、降ろして。
「――――――――」
声にならない、声が出た。
「お――――――ごほっ、ごほっ!」
私の体の上に、王女が乗っていた。
けれど、その王女は――全身が、傷だらけで、頭から、血が流れ落ちてきていて――。
やっと、記憶が確かになった。
そうだ、私は。倒したボスの様子を見ていて、脇を通り過ぎようとしたら、コードが伸びてきて――。
そうだ、王女が、王女が、私、を――――。
「王女。――――王女! しっかり、してく、ださい、王女!」
あの音は。あの衝撃は、きっと、ボスが、自滅したときの音なのだと、今になって気づくには、全てが遅すぎて。
体を起こす。体に痛みが走る。でもそんな痛みは、関係無い。王女は、無事? 王女は、王女は――!?
王女の頭に、青色の四角形のヘイローは、灯っていない。ヘイローがないとき、それは本人の意識がないか、もしく、は――――。
「王女! 起きて、ください、王女。おう――――」
頭の中で冷静な自分が問う。倒れた相手を揺さぶるな、と。
でもそんなの知らない。王女は無事なのか、私にはそれだけだった。
「王女…………」
揺すぶっても揺すぶっても、王女からの反応はない。先ほど密着したときに確認した心音は、と胸に手を伸ばした、その時。
「――――っ! こほっ、けほっ」
王女の体がびくっと跳ねたかと思うと、その口から、小さく咳をする音がした。
「王女。……王女、私が分かりますか、王女」
声を大きくしたら、王女の声が聞こえなくなる。静かに、けれどしっかりと伝わるように、王女へと、声をかける。
うっすらと、王女の目が開く。その頭上に、青色の四角形のヘイローが灯る。しかしそれは綺麗なものではなく、所々にノイズが走っていて、色も、薄くて、今にも、消えそうで。
「………………け、い?」
「王女、私です。ケイです。……おう、じょ…………!」
いつの間にか、視界が歪んでいた。瞬きをすると、視界がクリアになる分、頬に冷たい感覚がある。
「ケイ。…………ふふ、よか、った」
王女は、弱々しく、けれど、私に、笑ってみせる。
「ケイが、無事で。よかった。アリス、は、ケイを、守れ、たん……ですね」
「お――――~~~~っ!」
王女を呼ぶ声は、喉につっかえたもののせいで、上手く言葉にできなかった。
――どうして。私を助けたんですか。
――王女、貴女は元の世界に戻らなきゃいけないんですよ。
――私は、戻る場所がないんですよ。
――どうして。あんなことを。
――私は、王女を守るための盾なのに。
――王女を無事にお帰しするのが、私の役割なのに。
――どうして。
――王女、貴女は、どうして。
王女の手が、私の頬に触れる。指の腹で、私の頬を撫でる。冷たい感覚があった。
「泣かないでください。お姉ちゃんは。可愛い妹を、守るもの、ですから」
弱々しく笑って、言う。泣いている? 誰が?
「ケイは、アリスの、可愛い、妹です。ケイが危ないときは、お姉ちゃんが、守ってあげなきゃ、いけないんです」
「王女、貴女は戻らなきゃいけない。無事に、戻らなきゃ、いけないのに、貴女は、どうして――――!」
顔を左右に振る。どうして、と問うけれど、王女は弱々しくほほえむばかりで。
「妹が、危ない目に、あってる、のに。心配、しない、お姉ちゃんなんて、いない、ですよ、ケイ」
息も絶え絶えに、言う。
「ケイは、アリスの、自慢の、妹、ですから」
弱々しく、今度は左の手も私の方へと伸ばし。両手で、私の頬に手を添える。
感触を確かめるように、小さく抓んで、ほんの少し、左右に伸ばす。
イタズラをする子どものように、にこりと笑った王女は。
「ケイ」
私の名を、呼ぶ。
「ワープゲートは、その、先、です。ケイは、…………だっしゅつ、して、くだ、さ」
その言葉を最後に。
「おう………………じょ………………?」
王女の頭から、ヘイローが消えた。