幻夢の世界で会いましょう   作:みょん!

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第二十話 繋がり合う仲間と

 アイテム欄の中にあったMPポーションを二本取り出す。表示されているのは、装備アイテムだけとなった。蓋を開けて一気に流し込む。不味いし、急激に摂取したせいで吐きそうになる。でもそのおかげで、意識ははっきりとした。

 マップを確認。ボスと戦った広場の外に吹き飛ばされていたのが幸か不幸か、まだ敵は認識範囲の外にいるようだ。けれど進むべき道の方には、敵を示す赤い点がいくつも見えた。

 光の剣を励起モードへと切り替える。ボスとの戦闘で散々盾として使われた私の光の剣(あいぼう)は、それでも変わらず機能を発揮し続けてくれていた。

「よい、……しょ。……王女。もう少し、我慢してください」

 背中の王女を背負い直し、体勢を安定させる。それまでの戦闘では、光の剣を振り回して物理攻撃を行ったり、転がって回避行動を行ったけれど、これから先は王女を――更には、その背中には、王女の光の剣もある――背負っている分、行動が制限される。できる限り、メインショットで敵を倒すということになる、けれど。

「………………、」

 顔を上げると、勝手にため息が出た。ボスとの戦闘で、文字通りうようよと居た機械型エネミーたち。それと同じくらいの量の敵が、その先にも見えているのだから。

 回復薬、無し。

 火力要因、一人。

 以上。

 ゲームにおける単騎攻略は、王女もやっていたな、と思い出す。針の穴を通すようなギリギリの攻略を、何度も失敗をしながらも進めていた。

 今も状況は似たようなもの。けれど、一回たりとも、失敗は許されない。

 王女を、通信の向こうにいるゲーム開発部の仲間たちに送り届けること、それが私の、役目。

【ケイ、安心して。シナリオの都合でパーティメンバーが抜けた状態の戦闘なんて、よくあることだから!】

【お姉ちゃん、それ励ましになってないよ】

【えー? でもシナリオ的に、その後ちゃんと戻ってくれるって気にならない?】

【それはお姉ちゃんだけだと思うよ……】

 モモイとミドリのやり取りが伝わってくる。まだ接敵前だから、必要がない会話だ。

 だけれど、王女を通じて聞いていた会話が、今は心地がいい。仲間がそこに居てくれると、実感させてくれる。

【ケイちゃん。そのままの速度だと、あと一分くらいで射程に入るよ】

 ユズの、いつものどこか不安げなものではなく、しっかりした声が聞こえてきて――自然と背筋が伸びる。

【ケイちゃん。これからの戦闘だけど、指切りできる? ……え、っと、指切りってのは、トリガーを引きっぱなしにしないで、何発か撃ったらトリガーを戻して止めるってやり方。ケイちゃんの武器の仕様上、五発撃ち切らないで止めれば、リロード時間が短縮できるから、またすぐ撃てるようになるの。三発、止める。三発、止める。……できそう?】

 ユズのしっかりとした戦闘指南の声が聞こえる。囁くような、落ち着いた声に、戦いを前にした私の心が、落ち着いていくのが分かった。

「はい。……やって、みます」

【うん。前から小型が三。三発発射で殲滅できるから、やってみよう。大丈夫、失敗してもリカバリーは効くから、落ち着いて】

「…………はい」

【そろそろ射程に入るよ。さん、にい、いち……今!】

 ユズの声と共に、トリガーを引く。小さな反動と共に光の球が発射される。それまでであれば、そのまま引きっぱなしにするところだけれど――。

 光の球が三発出たのを目視で確認し、トリガーから指を離す。タイミングが遅かったのか、四発目も光の剣から発射された。

「…………くっ」

 まっすぐに飛んでいった光の弾は、それぞれ分かれて近くの別の敵に当たって、爆発。

【うん、上手い。三体撃破。ケイちゃん、光の剣のゲージを見てみて。指切りが成功してれば、ゲージがまたすぐにフルになってるはず】

 ユズに言われて手元に視線を落とす。いつもであれば、発射後には残弾を示すゲージが空になって、時間が経たないと戻らないのに。今はゲージがもう元に戻っていた。

「…………! はい、戻り、ました」

【うん、大丈夫そうだね。三発撃ったらトリガーを離す、を心がけて。じゃあ、この調子で倒していこう。指は大変かもしれないけど、頑張ろう】

「――――はい!」

 ゲームを褒められた。今ここで言うのは不謹慎かもしれないけれど。……口元がゆるむのが分かる。ゲームを褒められて嬉しがる王女の気持ちが、分かった気がした。

 三発撃つ。トリガーを離す。回復。三発撃つ。トリガーを離す。回復――。

 一度コツを覚えれば、意識しなくてもできるようになった。トリガーに合わせて照準を合わせ、より効率的に、敵を倒していく。

【ケイちゃん、そこから右前方へ前進。敵を三体倒したら、その先の障害物で遮蔽を取れるはずだから、そこに隠れながら逆側の敵を倒して】

「はい」

 ミドリからは、マップを見ながらの状況判断の声が飛んでくる。

 無理矢理突破すると、王女に負担が掛かりかねない。安全に、かつ迅速に、道を進むためには、ルートのナビゲートをしてくれるミドリが心強かった。

【敵の出現はこっちで全部伝えるから、ケイちゃんは撃つ方に集中して。大丈夫、私が見てる。ケイちゃんに攻撃なんて向かわせないから。……ケイちゃんは、私たちを信じて、前に進んで】

 ミドリの声色に、どこか緊張の色が見えた気がした。

「貴女方は王女の友達であり、仲間です。王女と同じくらい、信用してます」

【――――――うん、よろしくね】

 その声だけは、声の中に、それまでと違う色が混じったような気がした。

 

 ユズは戦闘指南。ミドリはナビゲート。それではお姉ちゃんであるモモイは何をしているか、と言えば。

【ケイ、大丈夫だよ。私たちが付いてる! アリスと一緒に帰ったら、また五人でパーティ組んで冒険して、疲れたら五人で一緒にアイス食べよ! 五段重ねのすんごいやつ! だからね、ケイ。戻っておいで!】

 モモイだけは具体的な指示も何もなくて、ただ、私を元気づけてくれる。

【お姉ちゃん、こういうときフラグ立てるのやめなよ、本当】

【妹よ、フラグはたたき折るものだよ。主人公は立ったフラグを踏み倒してこその主人公だよ!】

 ――だけど。だけど、それが。

「…………言いましたね。約束、ですよ」

 私にとって、ありがたかった。

【うん、約束! だったらね、ケイにはとっておきのドクペ味を味わせてあげる!】

 ――そのアイスは、王女から既に食べさせられました。

 この言葉はきっと、今言う事じゃないから。その時のために取っておこうと思った。

 今をくぐり抜けた、その先の約束がある。

 そう思えるだけで。道の先に、光が見える気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その先の敵は大型だから、四発、四発、二発で仕留めよう。ちょっとリズム変わるから、注意して】

「はい」

 指切りで四発分、すぐさまトリガーを引いて、再び四発分。弾を撃ちきってしまうと数秒のクールタイムが発生してしまう。殲滅(せんめつ)の速度が落ちてしまえば、すぐさま敵に包囲されてしまう。意識を指先に集中させて、続けて二発。中型のエネミーが煙を吐いて倒れる。

【ナイス。次は――左右に一体ずつ。ミドリ、ルートは?】

【左の方。左を倒した後、ケイちゃんはそのまままっすぐ突き抜けて。奥に敵はいないから、走りながら適当に弾をばらまいて。ホーミング弾が右側の敵を勝手に倒してくれる】

「はいっ」

 三発。止める。三発。止める。同じリズムで、光の剣から弾が飛び出す。

 ミドリの指示通り、左側の敵を撃破するのと同時に、全速力。敵の亡骸からコードが伸びてくるのでは――という悪い考えは頭の隅から追いやり、足に力を入れる。もちろん弾をばらまくことも忘れない。私のホーミング弾は、適当な所に撃っても、自動で敵を追尾して、当たってくれる。小型の敵が主体の今に限って言えば、ある意味で最適だった。

「はっ、はっ……はっ…………」

 全速力で走っていると、息が切れる。汗を拭いたいところだけれど、両手で光の剣を持っているし、体勢を変えようものなら背中の王女を落としてしまう恐れがある。

 首を大きく左右に振ることで、汗を飛ばそうとする。全然飛ばなかった。

【ケイ、息上がってるけど、大丈夫? 辛くない?】

 モモイから気を使った言葉が入る。

【小休止入れる場所か、走らなくても済むルートにする?】

 続いて、それを継いだミドリの声。

「…………、いいえ、最短、ルートで、お願いします」

 首を横に向けて視線を少し右に寄らせるだけ、背負っている王女の顔が微かに見える。

 背負ったときとは変わらず苦しそうな顔はしていない、けれど、ヘイローは灯っていないし、その息は決して安定はしていない。

 できる限り早くここを抜ける必要がある。だから私は、止まってはいられないし、寄り道もできないし、手間取ってもいられない。

「少しくらい、危険を、冒しても……、できるだけ、早く着く、ルートで、お願いします」

【…………分かった。ケイちゃん、でも辛かったら言うんだよ】

「ありがとう、ございます」

 私に自己犠牲のきらいがあることは分かってる。でも、それも踏まえて認めてくれる、ゲーム開発部の仲間たちが、心強い、と思った。

 

【右前方から三体来るけど、左方向に向けて撃って。小型が五。右側はその後でも間に合うから!】

【リズム崩さず三発から三発で撃とう。余った方は右側に飛んでくから、そのまま右に向けて三発を二回。それで殲滅できるよ】

【ケイ、もう少し、あとちょっとだからね!】

 三人の声を受け、向かってくる敵を殲滅。動いている敵が居なくなるのを確認し、一つ大きく息を吐く。

 王女と組んでいた時とは別の意味で、心強いと思った。

 王女と共に歩んでいる時も成長していたと思ったけれど、今三人のサポートのおかげで、より強くなれている自覚がある。あり得ない想像かもしれないけれど、こう、思ってしまう。

 ――また、この五人で冒険できたら、きっと、楽しいのだろうな、と。

 ゴールが近づくにつれて、気が緩んでしまっているのを自覚して、舌を噛む。最後まで、本当の最後まで、気を抜いては駄目だ。私が気を抜いてしまったから――王女を負傷させてしまったのだから。

【ケイ】

 心の中に暗雲が立ちこめかけている時に、ふとモモイの声が聞こえる。

【ケイは、頑張ってるよ】

 まるで、私の心の中を読まれたかのように言われる。

 その言葉は、心強くて、優しく感じた。

「それは――――戻ってから、言ってください」

【分かった。戻ったら、思いっきり褒めてあげる】

 モモイの、姉としての言動が、王女に似ていると思った。――いや、逆か。王女の言動が、モモイに似ているのだ、と思えた。

【ケイ、周りに敵はいないから、そのまま直進。もうすぐ目視でワープゲートが――――や、ちょっと待って!】

 ナビゲートするミドリの声が、突然切羽詰まったものになった。

【え、何々どうしたの? ミドリ】

【この敵の色…………ネームドだ】

【――――――】

 通信の向こうで、息を飲む音がした。

 まだ私の方からは何も見えない。けれど、道の向こうに、何かが――――

【ケイ! そこから離――右に飛んで!!!】

 ミドリの刺すような声が耳に入り、私は反射的に足に力を入れ、大きく飛んだ。

 次の瞬間――ドンッと、重い音が響き渡って、私が立っていた場所を、何かがえぐり取っていった。

「…………――――っ!」

 背中を冷や汗が伝う。ミドリの声に反応できなければ、私はそのまま、それの餌食になっていただろうということが、ありありと分かった。

 ――…………何か、なにか、この感覚、感じたことが、ある、ような……。

 前方を警戒しながら、足を進める。視界の向こうに、黒く、大きな、球体が見えた。

 それは、見上げるほどに大きく、中央部に赤い光が灯っていた。そして球体のあらゆる所からは砲身が伸びていて、その中の一際大きな砲身が、私の方に向いていた。

「――――――ッ!」

 ギリ、と歯が鳴るのが、自分でも分かった。

 ネームドの名を冠した、先ほど見たものよりも一回り大きな、それは。周りに赤いオーラのような物が見える、それは。

 ほんの少し前に見たことのある、それは――王女を、負傷させた。諸悪の根源。

【ケイ!!!】

 ミドリの声が聞こえるのと、私が横に飛び退くのはほぼ同時だった。

 砲撃音とともに、私の脇を砲弾が通り過ぎる。

 周りに敵は、居ない。

 けれど、ワープゲートに向かうための道は、ネームドエネミーによって、封鎖されていた。

「……ミドリ。確認です。回避して抜けるルートは、ありますか」

【…………無い、みたい】

 返答までに少しのタイムラグがあったのは、ミドリの優しさなのだろうと思う。マップを見れば一目で分かるのだろう。それでも時間がかかったのは――どう言えば私を傷付けないで言えるか、と。そう、考えたんだろうと思う。

「ありがとうございます。覚悟ができました」

 大きく息を吸って、吐く。

「奴を、倒します」

 敵を見据える。

 王女は、体を張って、私を守ってくれた。

 今度は――――私が、王女をお守りする番だ。

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