幻夢の世界で会いましょう   作:みょん!

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第二十一話 未来に続く為だけの戦い

 轟音と共に、砲弾が私に向けて飛んでくる。

 足に力を入れて、右へ飛ぶ。次の瞬間、私が居た所を、黒色の砲弾が通り抜けていき、その直後に衝撃波が私を襲う。

「……はっ、は、――――はっ」

 敵は、少し前に王女と戦ったものと形は同じだった。違うところがあるとすれば、機体の色が黒から紫に変わっていること。そして大きさが1.5倍ほどになっていること。

 見える主砲の大きさも、単純に1.5倍。砲弾の威力はその口径の三乗に比例することを考えれば、単純な威力は三倍以上となる。

 王女と共に戦ったときには、光の剣でガードし、吹き飛ばされつつも受けきることができた。――しかしそれ以上となれば、おそらく光の剣が耐えられないだろうと思う。

 私の光の剣は、王女のような高火力を与えられる物では無い。だから、敵の弱点を速やかに見つけ、そこに打ち込む、という手法になる、のだけれど――。

「…………はっ、はっ、く、ぅ…………」

 大きくなっているのは敵の主砲だけではない。あらゆる火器が大型化している。敵の作る弾幕に邪魔され、全く近づけない。

「モモ、イ」

 王女を背負ったまま、動き続けること数分。私の息は上がり続けていた。

「ミドリ、ユ、ズ…………」

 私を見守ってくれている仲間へと、呼びかける。――しかし、声は届かない。いつの間にか、向こうからの声は聞こえなくなっていて、ザザッ、というノイズ音しか、届かない。

 胸の中に、寂しさと、不安が押し寄せてくるのを、歯を食いしばって、耐える。

 王女を守れるのは私だけ、と、気持ちを奮い立たせる。

 声が届かないだけで、きっと、きっと――仲間たちが、見守ってくれている。そう思うことで、寂しさを和らげる。

「――――発射」

 ユズ直伝の指切りで三発の光の球を撃つ。その光の球はエネルギー弾であるものの、敵に届く前に弾幕を受けてしまえばその場で霧散してしまう。三発撃ちを続けて、何回かは敵の弾幕をくぐり抜けて着弾するも、何百もある砲塔の一本を折るだけで、効果らしい効果は見込めなかった。

 これを続ければ、いつかは敵の主砲以外を無効化できるのだろうけれど――。

「王女…………」

 肩越しに王女を見る。目を瞑り、ヘイローは見えない。心音は背中を通じて感じられているけれど、血液が流れ出ていたことを考えれば、余計な時間を使うわけにはいかない。

 短期決戦のためには、王女が行ったことをもう一度するのが手っ取り早い。――しかし、私の光の剣ではそれは不可能だ。

 王女の光の剣のように、単純な高火力を発揮できれば――。

「――――――」

 王女の、ように。

 私の頭に、一つのひらめきが落ちた。敵に攻撃が通じずに敗走したときの、建物の中で。王女は私に光の剣を持たせてくれた。その時にしっくりとした感じを覚えている。

 ――もし、王女の光の剣を、私が、使えるのなら。

 可能性は、ゼロではない。例え可能性が表記上0パーセントでも、可能なこともある、と王女だかモモイは言っていた。荒唐無稽な論理だと思ったけれど、今なら、その論理にすがってもいいとは思った。

 敵の主砲が動き、照準が私の方に向くのが見えた。敵の行動パターンはこれまでで把握している。砲塔が動くとき、その数秒後に敵中央の『目』が強く光り、主砲が発射される。

 轟音。右に飛ぶ。砲弾が通り過ぎ、風圧が私を襲う。

 そして主砲は、一度撃てばもう一度撃たれるまでに三十秒のラグがある。

 私は敵から離れ、副砲が届かない位置まで撤退。そして背中から王女を下ろし、少しだけ身体を屈ませ、その前に私の光の剣を置く。王女の身体が、光の剣に完全に守られる形となる。

「王女、申し訳ありません。叱責は、後で受けますので」

 服は破け、見える範囲の素肌には血がこびりついている。流血は止まっているようだったけれど、見る限り痛々しくて、見ているのが辛い。そしてそうさせてしまった原因が自分だと思うと――胸が激しく痛む。

「王女、貴女の力を、貸してください」

 王女の光の剣の肩紐を外し、手に持つ。私の光の剣よりも重量感がある。力をしっかりと入れていないと、取り落としそうになる。王女はこれをずっと持ち続け、私を守ってくれていたのか、と思うと。頭が下がる。

 ――王女の光の剣よ、私に、力を貸してください。

 願いながら、励起(れいき)ボタンを押す。願いが通じたのか、私の光の剣と同じように、唸りを上げ始め、光の剣が励起モードとなる。

 ――よし。

 胸が高鳴りをかけるのを意識して押さえ、私はすぐさまチャージを開始する。向こうに見えるエネミーの砲塔が、動き始めるのが見えた。

 敵のターゲット取りの条件は、近くにいる人物か、もしくは光の剣をチャージしている側に行くのは、前回の戦いで把握済みだ。私が王女の光の剣をチャージ状態にすることで、攻撃が私に向かう。

 主砲と私の延長線上に、王女がいないように移動。砲塔が動きを止める。敵の目が光る。横に飛ぶ。轟音。

 私がいた場所を、砲弾が通り過ぎる。

 王女の光の剣を盾にしつつ、前進。敵の砲弾を光の剣で防ぎつつ、そしてまた、前進。副砲の砲弾が、何度も何度も光の剣に弾かれる音がする。足に力を入れ、敵の砲弾の勢いで倒れないよう、歯を食いしばる。段々と手が重みで痺れてくるけれど、気力で耐える。

 三十秒。轟音。避ける。光の剣のチャージは継続。

 次の発射までに敵に接触し、砲塔にチャージ済みの光の剣を打ち込めば――それで。

 そう思った私は、ほんの少し前進する歩幅を広くして――直後、轟音が聞こえるのとほぼ同時に、光の剣に強い圧力を感じた。

 次の瞬間には、私の足は地面を離れ、後方へと吹き飛ばされていた。

 ――――え。

「――――ッ! かっ…………は」

 ――なに、が。主砲は、ま、だ。

 何回かバウンドして、私の身体は止まる。身体のあちこちに痛みが走る。王女の光の剣だけは何が何でも離すものか、と手に力を入れ続けていたおかげで、その感触はまだ私の手にあった。

()…………った…………」

 痛みと、そして吐き気。外と内の両方からの苦しみが、私の中を駆け巡っていた。

「――――――!」

 手に握られている光の剣に目が行った途端、息が止まった。

 光の剣が、励起モードから休止モードへと切り替わっていた。当然ながら、チャージは、切れ、て。

 チャージしていないということは、それが意味することは。

 顔を上げる。敵の主砲は――――王女の方へと、向いていた。

「王、女――――――!」

 間に合え。間に合って。私は、王女を、守るのが――――

 敵の様子など見る暇はない、王女の前に立ちはだかって、光の剣を、地面に突き立てる。

 それと同時に、轟音。

 衝撃。ミシリ、と音が聞こえるのと同時、私の身体は簡単に吹き飛ばされた。

 背中に硬い物がぶつかって、前と後ろの両方から、痛みが襲う。

「か――――――っ、かはっ、げほっ――――!」

 呼吸器系のどこかに損傷が発生したのだろう、咳き込むのと同時に、光の剣に点々と赤い液体が付着した。

「ごほっ…………ぁ……う…………」

 ぼたり、と大粒の血痕が落ちる。

 ふと少し前の、王女の姿が頭を過ぎる。私の体も、王女と同じ構造なのだな、と。私の体にも、王女と同じ赤い血が流れていて、怪我をすれば、王女と同様に流血もするのだな、と。どこか安堵するような思考が頭を過ぎって――。

「~~~~~~っ!」

 意識が混濁しかけているのを自覚し、私は舌を噛んで思考を取り戻す。

 立ち上がろうとすると、体に痛みが走り、足に力が入らないのを自覚する。

 痛い。全身のあらゆるところが、痛くて、吐きそうで、そのまま倒れそうになる――けど、王女が感じた痛さに比べれば、こんな――――!

 背後を振り返る。王女の身体は、私が寝かせたときと同じ姿なのが見えた。

「――――、」

 安堵を覚えるのと同時、体が一瞬言うことを聞かなくなり、王女の方へと倒れ込みそうになる。身体を支えようと、地面に手を置こうとして――手に硬い物が触れた。私の手の先には、王女を守るために盾として寝かせていた、私の光の剣があって――。

 

 その時。

 

 突然、私の光の剣が光を発し始めた。眩しいくらいの光に目を細めると、それと同時、私の前方からも眩しさを感じた。

 視線を動かす。王女からお借りしていた光の剣と、王女を守るために置いた私の光の剣が、強い光を発していて――私の光の剣がガチャリと音を立てていくつものパーツに勝手に分離したかと思うと、そのパーツは私の前方へと勝手に動き出す。王女の光の剣へと、パーツが、くっつき始める。

 それは、それは――まるで――――。

 『合体』と、私の頭には二つの文字が浮かんでいた。

 その変化は、ほんの数秒で終わった。それまで持っていた王女の光の剣は二回りほど大きくなり、その長さは私の身長をゆうに越えるものとなっていた。

「ごほっ……、…………これ、は…………?」

 宙に浮いた光を纏う光の剣は、私の元へと近づいてくる。立ち上がって構える位置に制止したそれを手に取ると、ずしりとした重さを感じた。

「……う、ぅ…………」

 足に、体中に、全力で力を入れていないと、光の剣を取り落としそうになる。力を入れるのと同時に体に痛みが走る。歯を食いしばる。足に力を入れ、光の剣を、支える。

 何が起こったのかは、私にも分からない。光の剣が変形し、王女のものと私のものが、一つになったということだけは、客観的事実として、言えた。

 ――二人で一つの光の剣。

 武器の説明を受けたとき、そのようなことを言われた気がする。これが、そうなのだろうか。王女が持っていた勇者の証である光の剣と、私の光の剣が、一つになって、今私の手元にある。

 ――ケイは、勇者です。勇者であるアリスがそう言うのですから、ケイは勇者です。

 王女は、勇者の資格などないと言った私に、かつてそう言った。

 ――ならば、今の私は。

 光の剣を手にして、余計なことを考えている自覚を覚えて、首を振って思考を取り戻す。今はそんなことを気にしている余裕はない。敵の主砲は、今も私に向いていて――。

 意識を敵に向けたのと同時、轟音。主砲が放たれ、私へと、背中の王女へと、砲弾がまっすぐに向かってくる。

 その砲弾を、私は目視できていた。頭の中の演算能力が加速して、やけに世界がスローモーションに見えた。

 光を帯びている光の剣は、既に励起モードだった。指切りで弾を三発発射し、砲弾の右側へと当てる。放たれた大きな光の弾は砲弾とぶつかり、弾ける。そして砲弾はほんの少し軌跡を変え、私たちの僅かに左側を抜けていった。

 トリガーを長押し。チャージ開始。銃身が長くなった光の剣の先端に、光が次々と集まってくる。それまで感じたことのないほどの眩い光が、光の剣の内側からあふれ出すのが見えた。

 ――王女。力を、貸してください。

「魔力充填、百パーセント」

 ――私に、貴方を、守らせてください。

「ターゲット確認。出力臨界点、突破」

 ――貴方は、私の守るべき大事な人で。そして。

「悪を撃ち砕く、正義の一撃――――」

 ――認めたくは、ありませんが。私の、お姉ちゃん、なんですから。

「貫け――――――バランス、崩壊!!!」

 まっすぐな光が、光の剣から放たれる。

 ウトナピシュティムの船の中で見たような、眩くて、強くて、そして誰かを護るために使われる頼もしい力が、まっすぐに、ネームドエネミーへと向かっていって。

 光が、エネミーを包み込んだ。

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