~sideケイ~
私の役割は、王女の為の、鍵だった。
その役割を終え、ケイという名を王女から与えられ、箱舟での出来事を経て、王女の中で幽霊のように存在していた私は。王女を視ていく中で、何時しか、一つの願いが生まれていた。
――王女をお守りしたい、と。
私はずっとそう願って、願い続けて――ふとした不具合で、王女とゲームの中で一緒に冒険することになって、その願いは、叶うこととなった。
王女に主導権を握られつづけていたという自覚はあるけれど、最終的に王女をしっかりとお守りすることができた。
私の願いは叶った。そして全ては元に戻った。――私は、それで十分だと思った。
――けれど王女は、そうではなかった。
「ヒマリ先輩! キヴォアカを復活させてください! ケイと冒険したいです!」
「ですから、アリス。このゲームは脆弱性が確認され、現にアリスが――」
論理的に
感情論で人は動かない。ヒマリは決して、そういう人ではない。
けれど王女は、毎日のように、いや、毎日、ヒマリの元へと通う。三顧の礼は三日目で過ぎた。それが一ヶ月になり、二ヶ月になり、それでも、王女の訪問は、止まらなかった。
――どうしてそこまでするのですか、王女。
私は届かない言葉を王女に発し続ける日々だった。
王女曰く『デイリークエスト』のヒマリへのお願いを終え、部室に戻った王女は、机に座らせたロボット型のキーホルダーを指先で揺らしながら、言う。
「ケイ。アリスはケイに会いたいです。ケイにお話したいことはたくさんあります。モモイもミドリもユズも、みんな日記帳を付けてますから」
――視てますから、わざわざお話いただかなくても大丈夫です。王女がお元気なのは、私がしっかり視ています。仲間たちと充実した日々を迎えているのも、王女に向けて眩しい笑顔を向けてくれる仲間たちがいるのも、視ています。
なのに、王女は。
「ケイ。また一緒に冒険しましょう。一緒にアイスも食べましょう。だからお姉ちゃんは、もう少し、頑張りますね」
私に会いたい、と私に言い続ける。
視ているだけで、満足だった。
王女がお元気であれば、それでよかった。
見守るだけの立場でも、十分だった。
だけど、王女と一緒に過ごした数日間が、私の心と体に、しっかりと刻まれていて。
時が経つにつれて、それがじわじわと、恋しくなって。
「アリスは、ケイに会いたいです。ケイは、どうですか? アリスと冒険、したくないですか?」
毎日問いかけられる言葉。『会いたい』と話してくれる王女に。
――したいです。
――許せるのなら、私も、王女と会いたいです。
王女が日々ヒマリに会いに行き、解決する術を探ろうとしているのを視て。
その気持ちが芽生えてくるのに、時間は掛からなかった。
――王女と、一緒に居たい。
――王女と、同じ時間を、過ごしたい。
守りたい、だけじゃない。
王女と、一緒にいたい。
これは、叶わない願いかも知れない。
王女がキヴォアカに再びログインしたときに、私の姿はないのかもしれない。
でも、日々、『ケイに会いたい』と言い、そのために、文字通り走り回る王女を視ていて、こう願わないでは、いられない。
――もし、私の願いが叶うのならば。
――貴女の隣に、だなんて、贅沢は言いません。貴女と一緒に、居させてください。
私は、貴女と一緒に居たいです。――王女。