「さぁー、今日も冒険の旅に出かけよー!」
ログインを終えるなり、モモイが両手を上げながらそう叫ぶ。
「モモイは、今日も騒がしいですね」
「元気なのはいいことですよ、ケイ」
独り言を呟いたはずなのに、王女には聞かれてしまっていたようだった。少しだけ恥ずかしい。
「ケイは元気そうですね」
「ええ、毎日こうやって王女と会えていますし、不都合ありません。ログインしないときでも王女を通して視てますので、状況把握には事欠きません。…………ただ」
「ただ。……なんですか?」
「…………」
言わなくてもいいことを言ってしまった気がした。けどここで誤魔化せば、逆に違和感が生まれてしまうから、言うしかないのだけれど。……なんだか毎日王女とお会いできるというだけで、気が緩んでしまっているのかもしれない、と思った。
「…………こうして、王女とお会いできることは。…………嬉しい、です」
「………………」
口にしてしまった。言わなくてもいい思いを、口にしてしまって。
王女の顔が見られない。王女の口から、何も言葉が返ってこないことに、段々と不安になってきて――
「むぐっ!?」
後頭部に手が当たる感覚があったかと思うと、私の頭は王女の胸の中にあった。
「ケイは可愛いですね。本当に可愛いです。そんなケイのお姉ちゃんで、アリスは嬉しいです」
――ですから私は貴女の妹ではありません! そして離してください何も言えません!
そう言おうとしても、王女の力は思いのほか強く、私の力では解放されそうもなくて。
「アリスちゃん」
囁くような声が聞こえたかと思うと、後頭部への圧力が少なくなった。
「ケイちゃん苦しそうだよ」
「ぷはっ」
王女の胸から解放された私が見えたのは、困ったように笑うユズの姿。
「ごめんね、ケイちゃん。アリスちゃん、ここにログインできるようになってから、毎日そわそわしてて……」
「ええ、分かってます。皆さんの反応を見れば、おおよそは」
王女を介して視ているし、聞いているから、それがどれだけ嬉しいか。どれだけ私にとって救いになっているかは言うまでもない。
「私も、皆さんと冒険するのは、楽しいですし…………」
ユズや王女になら、言えると思う。少なくとも、あの騒がしいお姉ちゃんよりは――
「ケイ、嬉しいこと言ってくれるじゃんー!」
「ぐふっ!」
背中に、バシンという音と共に、程ほどの衝撃。
こんなことをするようなのは一人しかいない。
「モモイ。…………急に人を叩くのを止めてくださいと何度言えば分かるのですか。蹴りますよ」
「なんでよー? ケイが嬉しい事言ってくれてるんだから、私も応えようとしただけだよ!」
しっかりと聞かれてしまっていたらしい。――なんとも、今日は緩みっぱなしだ。言動に注意しようと思う。
「さぁ、今日はどこ行く? ワープゲート通って、昨日進んだところの先に向かってみようか?」
「お姉ちゃん、大丈夫? 町に着くだけで大変だったのに、レベル足りてない?」
「妹よ、案ずるなかれ。私たちは五人パーティだよ。足りないものは連携で補えばいいの!」
「昨日、そう言って連携崩れてたじゃん……」
「だいじょーぶだいじょーぶ! 皆と一緒ならきっとできるし、きっと楽しいよ! というわけで、しゅっぱーつ!」
モモイはそう言うやいなや、ワープゲートを潜り、見えなくなった。
「ちょっとお姉ちゃん! ……もう!」
「じゃあ、私たちは行ってるからね。アリスちゃんたちも来てね」
「はいっ!」
ミドリも、ユズも、ワープゲートを潜っていった。
そして、王女と私だけが残される形になる。
「さぁ、ケイ。私たちも行きましょうか。冒険の旅へ!」
王女が、私に向けて手を伸ばす。
その動きは、これまでと変わらない、王女の姿で、そして、お姉ちゃんの姿で。
私は、王女の手を掴む。にぃっと、王女が朗らかな笑みになる。
今はまだ、ゲームの中だけ、だけれど。
いつか、現実の世界でも。こうやって手を繋いで行けたら、と思う。
「ええ、行きましょう、王女。共に、冒険の世界へ」
二人並んで、ワープゲートに入る。
一瞬の視界のブレの後、新たに見えた景色の中に、先にワープしていったモモイ、ミドリ、ユズの、ゲーム開発部の頼もしい仲間たちの姿が見えた。
「さぁ、わたしたちのクエストを、開始しましょう!」
王女の朗らかな声が、キヴォアカの空へと、響いていった。