幻夢の世界で会いましょう   作:みょん!

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第四話 仲間たちとの出会い

「えっ!?」

「ケ、ケイ、ちゃん……?」

「…………!」

 翌日、再びゲームにログインして、王女の隣に私がいるの目にしたとき、三人の反応は往々にして同じだった。

 私の存在を一切隠してのログインなのだから、驚くのは当然だと思う。

 ――ただ、やはりと言うか。

 ログイン前はうるさい位にはしゃいでいた三人――特にモモイ――が、今は口を閉ざし、私の方を見ている。その表情は固く、友好的な表情とはほど遠い、明らかな、驚きと警戒の様子だった。

 ――やはりそう、ですよね。

 私は、諦めの気持ちの方が、上回った。

 ゲーム開発部の三人から見れば、私は王女を破滅への行動を行わせる【鍵】で。王女を、一時だとしても失わせかけた張本人で。王女と私が共にいることが、キヴォトスを終焉へと導くことになるのだから、その反応は当然の――

「ケイ、ケイだよねっ!?」

 いつの間にかモモイが接近してきていて、私の手を強く握りしめてきた。

 モモイの顔が、ぶつかりそうなほどに、すぐ近くにある。

「お、お姉ちゃん、危ないって……」

「危ないなんてことない! ケイだ! 本当に本当の、ケイだ!」

 ぶんぶんと、手を上下に振られる。そこに嫌そうな顔はまったくなくて、それは昨日見たときの王女の顔に似ていて――。

「本当にアリスとそっくり。目の色以外で違う所無いんじゃない? あ、ほっぺのぷにぷに感もおんなじ!」

 そう言いながら、昨日の王女と同じく、私の頬に触れてきて、比較的強く、その指を押し当ててくる。言葉を発しようとするのが阻害されるくらいには、勢いよく、強く。

 でもそれは決して攻撃でもなければ、排他しようとする行為でもなかった。王女がモモイからされるような、ユウカからされるような、そんな、友好的な、もので。

 だから私は、想定していなかったことに、ただ、目を丸くするばかりで。

「お姉ちゃん、いきなりそれは……」

「えー? だってやっとケイに会えたんだよ!? お礼を言わなきゃいけないじゃん!」

 ミドリの指摘の声に、やっとモモイの手が私から離れる。かと思いきや、すぐ後ろを振り返り、妹であるミドリに反論するのが見える。

「…………お礼?」

 そして、聞こえてきた言葉に、思わず鸚鵡返しに口にしてしまう。

 私は王女と、そしてここにいる三人と、敵対した存在だ。私は嫌われ、疎まれ、忌避されるものだと思っていたから、最初に見た三人の反応は、私の想定通りだった。昨日、王女は『安心してください』と言ってくださったけれど、それでも私は、その言葉を信じられなかった。

 ――なのに、聞こえてきた言葉は、『お礼』。私の聴覚器官にエラーが発生しているのだと思った。私は嫌われることはあれど、歓迎されるということは、まして友好的な対応を取られるということなんて、考えられなくて――。

「えい」

「…………!?」

 モモイが再び振り返ったかと思った次の瞬間、目の前が暗くなった。額に感じる布の感触で、頭を胸に抱き寄せられたということが分かった。

「ケイは、舟の中でアリスと一緒に戦ってくれたんだよね。あの時、アリスに力を貸してくれて、ありがとうね、ケイ」

「――――――」

 頭上から降ってくる優しげな声に、なんのことかと、思った。

「ケイが力を貸してくれたおかげで、私たちはあの、敵がいる舟に入れたんだよね。あの時はさ、ケイにお礼言えなかったから、会えたらお礼言わなきゃーってずっと思ってたんだ。ありがとうね、ケイ」

 遠い過去のようで、すぐ最近の話だ。確かに私は、ウトナピシュティムの箱舟の中で、王女からの助力の請願を受け、それに応じた。王女と共に光の剣を発射した事は、事実かと言われれば、肯定せざるを得ない。

「い、いえ……わた、しは…………」

 ――けれど、私がそれでモモイから感謝される()われはない。だって、王女は、その力の行使と引き換えに――――。

「ううん。ケイにも色々あるだろうけど、言わせて。ケイは、受け取るだけでいいから」

 後頭部に込められる力が強くなる。強く、抱きしめられる。

 その言葉も、行動も、あまりに一方的で、勢いばかりで、自分勝手すぎる行動。今すぐにでも力を入れて、モモイから離れることはできる。――だけどなぜか、振りほどく気には、ならなかった。

 理由は分からない。明確な理由はない。けれど――このままでいたい、という感覚が、私の中のどこかで声を上げていて。モモイに、なされるがままでいた。

「だからさ、ケイ」

 しばらくすると、突然、顔の圧迫感がなくなった。

 顔を上げると、腰を手に当てて、どこか自慢げな、モモイの満面の笑みがあった。

「せっかく一緒にゲームにログインしてるんだしさ、一緒に冒険しようよ!」

 そう言って、モモイは私に手を差し伸べてくる。手には銃火器も何も持っていない。顔を上げると、口元に猫のような笑みを浮かべたモモイがいた。

「お姉ちゃん、説明も無しにいきなりパーティプレイに誘うのはどうかと思うよ。……ほら、お姉ちゃんの無茶振りに困ってる」

「妹よ、ここはゲームの世界だよ。冒険しなくてどうすんのさ! そして私たち仲間もいるのにパーティ組まないでどうすんのさ! 冒険だよ、ケイ! 一緒に冒険の旅に出かけよう!」

 そしてモモイは一方的に私の手を握ってきて、そのまま私を引っ張り込む。ミドリ、ユズ、王女たちが居る、その中心へ。

 三人の顔が見えた。その中に、怪訝な目をしている人物は、誰もいなかった。誰もが、昨日、王女が浮かべていたような、そんな表情を、浮かべている。

「………………。私、を。警戒、していたのでは……、なかった、のですか」

 こんなとき、どのような言葉を発したらいいのか、分からない。頭を働かせて働かせて――出てきたのは、確認の、言葉だった。今の三人はともかくとして、先ほどの三人は、間違いなく――。

「え? 警戒? なんで?」

「――――え?」

 首を傾げるモモイが見えた。目を先ほどよりも丸くして、私の顔をまっすぐに見つめてくる。純粋な疑問を持った顔、というのは、このような顔なのか、と思う。

「だってケイ、アリスと一緒に戦ってくれたじゃん。そしたら、もうケイは仲間だよ」

「…………」

 仲間。王女がよく使う、その言葉は、王女が一緒に何かをするときの相手に使う言葉というのが、私の認識だ。

 だけれど、モモイは私に向けて、その言葉を使った。…………私に。

「一度共同戦線を張ったら、それはもう仲間入りのフラグが立ったようなもんだよ。それで仲間にならなかったキャラを、私は知らない! だからケイは、もう私たちの仲間だよ!」

 そう言ってモモイは私の手を取る。強く握られた手は、私を離すまいという強い意志を感じるくらいのもので。

 ――王女、私はどうしたらいいですか。

 王女に視線で助けを求めるも、にっこりとほほえむだけ。

「モモイは、一度決めたら止まりません。強制クエスト発生です」

「強制、クエスト」

「はい、強制です。一度イベントが始まったら、終わるまでそのままです」

 王女はにこやかに、残酷なことを言う。

「……え、と、ケイちゃん、いきなりお姉ちゃんに付き合わせちゃってごめんね。……でも、ケイちゃんにありがとうって言いたいのは、私も同じ。…………ケイちゃんがよかったら、だけどさ。一緒に遊ぼうよ」

 逆の手を、ミドリに握られた。逃げようがないところで、正面に、部長のユズが立つ。

「こっ…………ここ、なら、危ないものもないし、ヒマリ先輩の監視もあるし、怖い人も、誰も、いないよ。周りを気にしないで、思いっきり、遊べるよ」

 私の反応を、行くのを渋っている、と思ったのだろうか。ユズの言葉は、遠回しに、けれど『一緒に遊ぼう』と言ってくれている。はね除けられ、拒絶されるとばかり思っていた。王女の言葉は、それでも私は無理だと思っていた。

 ――けれど。現実は。

「アリスの仲間たちは、優しい人ばかりです」

「ええ、分かりました。とても。……とても。私なんかを迎え入れてくれる、優しい……」

「いいえ」

 はっきりとした王女の言葉が、私の言葉を遮る。

「それは、ケイだから、です。アリスは、ケイと何回かお話しました。アリスは、ケイが優しい人だと知っています。アリスの仲間たちもきっと、そう思ってるはずです」

 そんなことはないです、王女。と、そう言いたくて、顔を上げて、王女以外の三人を見ると。

 王女の言葉に賛同するように、笑顔で、頷くのが見えた。

 ――皆、アリスの大事な仲間で、とても、優しい人ばかりですから。

 昨日、王女の中で聞いた言葉が頭を過ぎる。

 ――王女。私は謝罪します。王女の言葉を、私は、疑っていました。私なんかを迎え入れてくれる人など、居ないと、思っていました。

 ――王女。貴女が言った通りでした。この者たちは、本当に――。

「皆で遊びましょう、ケイ。冒険が待っています!」

「…………はい。遊びましょう、一緒に」

「――――! ぱんぱかぱーん! ケイが仲間になりました! これで五人パーティ結成です!」

 王女に。そしてゲーム開発部の皆に。私も仲間だと言ってもらえたのが。嬉しいなと、思えた。不思議と、胸の中が、温かくなるのが分かった。

「よーし! それじゃー冒険の旅にしゅぱーつ! 目指すは魔王の首ひとーつ!」

「お姉ちゃん、魔王ってこのゲームにいるんだっけ。まだログインしただけで、チュートリアルもやってないよ?」

「あ、そっか。ヒマリせんぱーい? このゲームどうすんのー?」

【はい、ミレニアム最高の天才病弱美少女ハッカーのヒマリです。そうですね、RPGの基本に立ち返ってみるのはいかがでしょうか。NPCやマップの機能、その他のMMOゲームの基本的な部分はあとクリック一つで実装できます。はい、今実装しました】

 頭の中に、ヒマリの声が響く。ヒマリの言葉を皮切りに、私の視界に変化が起きた。

「…………!」

 突然、視界の右下に、藍色の丸い表示が見えるようになった。円の中には、赤、緑、黄、青の四色の点が浮かび上がっていて、直感的に、これがマップ表示なのだと分かった。目を閉じるとマップ表示は見えなくなり、目を開けば見えるようになる。不思議な感覚だった。

「ふむふむなるほど、これがマップだね、他には?」

【理解が早くて助かります。それでは、人差し指と中指の二本の指を合わせて、空中で二回、円を描いてみてください。あとは、どうぞこの世界を楽しんでください】

「え、何々? 人差し指と、中指を……?」

 ヒマリからの通信による指示にモモイが手間取っていると、隣から歓声が上がった。

「ケイ、見てください! メニュー画面がホログラフィックで出てきました!」

 子どものように私の服の袖を掴むのは、言うまでもなく、王女だった。王女の手元近くには、緑色の平面が空中に浮かんでいた。

 手招きをする王女に誘われて覗き込むと、【アリス ??? Lv.1 30/30 20/20】との文字が見え、その下には、【アイテム】、【スキル】、【メニュー】と言った、王女がプレイしてきたゲームでも見たことのある項目が並んでいた。

「わぁ……これが、キヴォアカのメニュー画面ですね。さぁ、ケイも出してみましょう! いいですか、人差し指と、中指を――」

「王女、大丈夫です、分かっています」

 王女が私の手を掴む。物理的に私の手を動かしてメニュー画面を出させようとしているのを察して、逆の手で止める。王女から見た私は、やり方が分かっていないとでも見えたのだろうか。

 人差し指と中指を合わせ、空中で二回転。作った円を中心にして、緑色の平面のホログラフィック――メニュー画面が現れた。

 そこには、【ケイ ??? Lv.1 30/30 20/20】と、王女と同じような表記が記載されていた。

「――――――」

 その表示を見たとき、ふと、何かがすとんと胸に落ちた気がした。

 ――王女がログインしたときだけ発生する、謎の存在である私が、『ケイ』という名前が与えられて、一人のキャラクターとしてゲームの中に存在している。

 この画面を見るまで、本当に私がゲームに存在しているのか、ただのバグやNPCの一部なんじゃないかと、心のどこかで思っていた。

 けれど、王女と、そして周りにいるゲーム開発部の面々と、一緒のメニュー画面を開けて、私の名前が表示されて。……なんだか、このときになって初めて、このゲームを本当の意味で始められたような、そんな気がした。

 王女や、モモイや、ミドリや、ユズから、だけでなく――私の存在を、世界(ゲーム)から認められたような、そんな気がした。

【ああ、そうです】

 自分のメニュー画面を、そしてメニュー画面を見て騒いでいる面々を見ていると、ヒマリから再び通信が入った。

【一つ、伝えそびれていたことがありますので、これだけはお話しておこうかと思います】

「なーに? ログインボーナスでもくれるの? 最強武器とか!」

【違います。……こほん、私はこうやってみなさんと会話していますが、私はあなた達を映像で見ているわけではありません。あなた方の視界の、画面右下にあるマップと同じく、それぞれの位置関係を把握できる程度に制限しています。全て見てしまえば、プライバシーの侵害になりますから。今は……そうですね、アリスのすぐ近くにケイがいて、その後ろにモモイとミドリが隣り合っていて、そしてその右側にユズが居るような配置、でしょうか】

「当たってる……」

 モモイの呟く声。そして改めて辺りを見回すと、ヒマリが言ったのと同じ位置関係になっていた。

「ねー、本当にマップ表示だけ? 実際に見てるんじゃないのー?」

【私はキヴォトスのあらゆる情報を観測できる天才美少女ハッカーですが、TPOは(わきま)えます。私に懐いてくれている可愛い後輩たちが楽しそうにゲームをしているのを監視するほど、私は性格は悪くありませんから。見られることとすれば、私は皆さんの位置をマップで、皆さんの状態をステータスバーで確認できるくらいです】

「そう、なんだ。ずっと見られてるわけじゃないってのは、なんか、安心かも」

「良かったー! 皆や、ケイとの内緒話とかも聞かれるんじゃないかって思ってた。じゃあここなら、ユウカやヒマリ先輩の悪口も言い放題だね!」

 ミドリが安心そうに息を吐く一方で、モモイが腕を組んでそれはそれは鬼の首を取ったかのように、そんな事を言い出す。

【なお、音声は聞こうと思えば聞けますので、言動には注意した方がいいかもしれませんね。特にモモイは】

「…………ふゅー」

「お姉ちゃん、吹けてないよ」

 モモイが唇をすぼませて何か言っているかと思いきや、ミドリ曰く口笛を吹いたつもりらしい。――何と言うか、どこまで行ってもモモイだな、と思う。

 ともあれ、一応、通信は繋がっているようだ。もし何かがあったとしてもあちら側には伝えられる、というサポートがあるのは安心だと思う。

 私というイレギュラーを見つけてもすぐに王女をログアウトさせたり、処置に動かなかったのは、サポート体制が充実しているからかもしれない、と思った。

「――――あ、ねぇねぇねぇ!」

 すぐ後ろから、なにやら騒がしい声がした。かと思うと、私の思考を邪魔するかのように、モモイが私の背中を何度も叩いてきた。危うく、反射的に蹴ってしまうかと思った。

「ねぇここ見てここ! マップにビックリマーク付いてる!」

 モモイが、メニュー画面に表示させたマップを指差す。

 私が視界の隅で見ているものよりも広域の、今居る町全体を表示したのだと思われるマップの中に、五色の点――おそらく私たち――が表示されていて、そこから北方向に『!』のアイコンが表示されていた。

 モモイの言葉に、ヒマリからの通信は入ってこない。おそらくはメニューの出し方を教えた時点で、後は任せた、という立ち位置なのだろう。

「これはシナリオ上で必要なポイントですね! 行ってみましょう!」

「タイミング的に、何かのチュートリアルかな」

「そう、かも。まだできることは少ないから、チュートリアルを進めて行けば、できることが増えそう、だね」

「よーし、そうと決まれば出発だー!」

 モモイが拳を上げ、それからずんずんと進んでいく。

 その後ろを、慌ててミドリが付いていく。その後ろを王女が――私の手を握って――歩き出す。後ろからはユズが「楽しみだね、ケイちゃん」と高揚感が隠しきれないような声をかけてくれる。

 

 ――ゲーム開発部の仲間たちは、みんな優しい人ですから。

 

 王女が私にかけてくれた言葉は少なくとも、間違っていないと、そう思えた。

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