The having Ended Phantom, otherwise A page of our Long-lasting Diary 作:三水レイシャ
原作:ファントムオブキル
タグ:ありがとうファントムオブキル
終わらせたくない幻想の確かな残照。
眼前に見渡す限り一面の黄色い花畑が続いていた。
ほぅ、と美しさに息が漏れる。長い長い旅路の中でも、これほど見事な花畑を見た機会は多くない。そよぐ風に揺れる花々、空気に混じる微かな甘い匂い、そして脳裏に滲むかつての記憶。胸の底からこみ上げる感情に心を奪われた自分は、誘われるように花畑へと足を踏み入れた。
「こんなところで何をしているんですか、マスター?」
自分を呼び止める凛とした声に後ろを振り返る。視線の先には見慣れた彼女が立っていた。
キラープリンセス、ティルフィング。幾度もの出会いと別れを繰り返し、幾度もの戦いで肩を並べて苦難を乗り越えた少女。
そして、記憶に最初に刻まれた人。
彼女は気持ち早足でこちらにやって来ると、自分の隣に並び立つ。
「すごく綺麗な花畑……見惚れてしまうのもわかります」
遠くまで見渡して、彼女は感嘆の声を漏らす。吹いたそよ風に乱れた髪を手櫛で直しながら、彼女はそっと距離を詰めてきた。それから、ふと思い出した様子でこちらを見上げると言った。
「そういえば、私とマスターが初めて出会ったのもこんな花畑でしたね」
彼女の言葉に胸の中に蟠る感情の正体を知った。
あぁ、そうか、だからなのか。この胸が疼くような懐かしさを感じたのは。
はるかな過去、あるいはほんの少し昔の話。確かに自分と彼女はこんな花畑で出会ったのだった。
「異族に襲われたマスターを私が助けて、それから淘汰が始まって……思えば、散々な出会いでした」
出会いの苦々しさを振り返りつつも、彼女は晴れやかでかつてを懐かしむような口調でそう言った。
その理由はきっと、決して悪いものではなかったから。自分と彼女の出会いが酷い出会い方だったとしても、出会ったこと自体は喜ぶべきことだったから。だから、こうして胸に優しく灯る明かりを包み込むように慈むのだ。
彼女の気持ちはよく分かる。だって、自分だってそうなのだから。胸に宿る陽だまりのような優しい温もりを愛しているのだから。
「マスター、どうでしたか。私達との旅路は」
あの鮮烈な出会いから、色々なことがあった。
天上の世界で神々と戦い、赤黒い雲が空を覆う地上で悪魔を討ち、大樹ない時代で人類の尊厳を取り戻すための闘争に立ち向かい、終わりが迫る運命の中では衝突を繰り返しながら新しい運命を切り拓いた。
楽しいことばかりだったわけじゃない。むしろ、苦しみと悲しみの方が多かった。うちのめされて、うちひしがれて、何度も絶望に挫けしてしまいそうになった。だけど、それでも、これまでの長い長い戦いは綺羅星のように輝いている。
彼女はこれまでの旅路を一体どう思っているんだろうか。誰よりも過酷で、残酷で、苛烈な定めを背負ってきた彼女は。
疑問を抱いていると、並び立つ彼女は一歩前に出ると自分と向き合うように立つ。顔に浮かぶのは屈託のない微笑み。それが答えだった。その微笑みだけが全てだった。
なら、もう言葉はいらない。
「行きましょう、マスター。みんなが待ってます」
彼女に手を引かれる。導かれて駆け出す。
彼女の足取りに出会った頃に見せていた躊躇いも懊悩もなく、ただただ確かに真っすぐに進んでいく。
多くの出来事があって、多くの変化があった。この手から零れ落ちて失われたものは数知れないが、手の中に残るものも確かにあるのだ。
旅は続く、続いていく。これまでと何処か似ていて、けれども決定的に違う物語を紡いでいく。
だから、手の中にある大切なものを握りしめてこれからの日々を愛していこう。
繋がれた彼女の手を力強く握り返す。応えるように、彼女もまた握る手の力を強めた。
そんなやりとりに確かな絆を感じて、自然と頬が緩む。
少し切れた息が混じる弾んだ声で、ティルフィングは言った。
「明日はどんな1日になるんでしょう。楽しみですね、マスター!」
柔らかな陽の光、何処までも続く花畑、そして浮かぶ彼女の微笑み。
じゃれ合いながら駆ける2人を、黄色い花々だけが知っていた。
さようなら、ファントムオブキル