神楽は狭間に奉る   作:debac

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第十二話 自分の体がもう一つあるみたいです

 

 

「では、展開したISの装甲をハンガーにかけてから外してくれ」

 

 自身のISテンダーラヴを展開し終えた海人は、千冬からの指示に緊張した面持ちで頷き背後を囲うハンガーにもたれかかる。ぐいと全身をハンガーへと押し込むとガチャン、と硬い金属音が鳴った。テンダーラヴの装甲がハンガーに強固に固定され動かなくなった事を確かめてから自身の手足を引き抜き、目の前に設置されているかさ上げ用の踏み台へ歩み出る。振り返ると、テンダーラヴの腕部より伸びる白金色の帯がわずかな風を受けながら緩やかに下降していき、ハンガーのあちこちに無造作に引っかかっていく様子が目にとまった。それらを手に取り、何回か折りたたみ整えてからそれぞれをハンガーへと改めてかけていく。

 

「なんだか不思議な気分ですね。自分の体がもう一つあるみたいです」

 

「ならば、尚のこと丁寧に扱ってやらなければいけないな」

 

 抜け殻となったテンダーラヴを一瞥した海人が、そんな感想をぼんやりと漏らす。その様子を、すぐ側で見ていた千冬は静かに口角を上げた。

 

 

 

 今、海人達はIS学園の一角にある整備室にいた。普段、この場所は専用機の調整を行ったり訓練で使用するISの点検をしたりでそれなりに人の出入りがあるのだが、今この時はそのような人影は何処にも見当たらない。

 

 それもそのはずで、これから海人のISテンダーラヴの整備(という名目の調査)が行われようとしていた。その出自すら明らかになっていない特異なIS故に厳に人払いがなされている、という訳である。

 

 異例中の異例とも言えるこの立ち会いに参加しているのは操縦者である海人と、事実上彼女の監督を行っている千冬の他に、もう一人いた。ハンガー脇に据えられている幾つかの機械の前に座り、モニターをずっと睨み続けている整備科の三年、布仏虚だ。海人は、今日初めて顔を合わせる虚が同席している理由を、その整備の腕もさることながら彼女が生徒会の役員でもあるからだと千冬より聞かされた。かいつまんだ内容だったが、虚に今回の立ち会いへ参加しておいてもらった方がきっとこれから何かと都合が良い事、そして、それこそ自分にとって意味があるのだいう事だけは胸に留める事にしていた。

 

「外観では目立つ損傷は無し。内部機構の点検もするけれど、ISを動かしていて何か違和感はあったかしら?」

 

「いえ、特には」

 

 虚がモニターから顔を上げ簡単な質問を投げかける。彼女の穏やかな口調は、海人にとってまるで胸の内を覗かれているようだった。故に、海人は溜まらず視線を切りながら短く応えてしまう。僅かに顔をしかめながら横目で反応を伺うと、虚の視線は既に目の前のモニターに戻っていた。手元にあるキーボードで、手慣れた様子で何かを打ち込んでいる。

 

「では、こちらで点検する中で不具合があったら連絡させてもらいます」

 

「早ければ今日中に整備は終わる予定だ。しばらく手持ち無沙汰になるかもしれないがよろしく頼む」

 

 短い沈黙が挟まれる。結局、それ以上の質問は出てこなかった。海人は、続く千冬からの連絡に淡々と頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「メンテナンス、ちゃんと始まったみたいだね」

 

 整備室への扉が閉まるや否や、すぐ脇の壁に寄りかかっていた神楽が海人の方へと歩み寄る。

 

 神楽がこの場にいたのは至極単純な事で、彼女が海人をここに連れてきたからだった。テンダーラヴの整備の開始時間と場所を海人より聞かされていた神楽は、誰に頼まれる訳でもなく海人を整備室へと案内しずっとここで待っていた。整備室から海人が出てくるまで小一時間もかからなかったが、腰を下ろせるようなものも無いところで待っているとなればそれなりに労する。その証拠に、神楽は時折自身の体をかばうように片足ずつつま先で床を叩いている。

 

「わざわざこんなところで待っていなくても」

 

 海人は呆れたように肩をすくめて整備室の扉に貼られている紙に視線を向けた。そこには、「関係者以外立入厳禁」の赤い文字が目一杯の大きさで書き出されている。仰々しいその書き方は、見ての通り人払いとしての役割を十分すぎる程に果たしている事は疑う余地もない。

「だって、海人君てすぐに道に迷いそうだし」

 

 だが、その張り紙にさしたる興味も示さず神楽はくすくすと笑う。

 

 果たして海人は一度、屋内第三演習場に向かう途中で真耶と逸れて途方に暮れていた事がある。神楽からすれば、海人が迷子になるという事態は想像するに難しくないのだろう。

 

「それじゃあ、行こっか。岸原さんも待っているよ」

 

 パン、と神楽が軽く手を叩いた音を合図に二人は歩き出す。

 

 テンダーラヴの整備が終わるまでの間、手持ち無沙汰な理子もつれて食堂で一息入れる。神楽はそういう予定を立てていた。当初は海人を一年一組まで案内したいと考えていたのだが、どれだけの騒ぎになるかまるで予想がつかない、と千冬の苦い顔と共にあっけなく却下されてしまった。だが、その事を別段気にとめてもいない様子で、神楽は明るい笑顔を浮かべている。

 

 海人がIS学園に来てから間もなく一週間が経つ。サイズが合わずだぼついた制服姿も、今となってはすっかり見慣れたものになった。しばらく歩く内に時折他の生徒達ともすれ違うようになってきたが、海人が特別視線を浴びる事も無い。それらは端から見れば何の意味ももたない程の些細な変化だったが、神楽は自身の胸の内が暖かくなるのを感じ取る。

 

「ISが手元から離れて、何か変わった感じある?」

 

「……そうだな。強いて言うなら何だか体が軽くなったような……そんな感じだ」

 

「そっか。メンテナンス、早く終わると良いね」

 

「……ああ」

 

 二人の会話は、海人の素っ気ない返事を最後にしばし途絶える。少し廊下を進むと他に人影は無くなり、壁や床を靴音が静かに響く。だが、少なくとも神楽の沈黙について言えば。それは彼女が言葉に詰まったからという理由では無かった。

 

「海人君」

 

 神楽は意を決したように頷くと、隣を歩く人の名を呼んだ。

 

 僅かな残響があった。海人の肩がピクリと震える。それだけを神楽は視界の隅に捉えて、顔を真っ直ぐ正面へ向けたまま言葉を続けた。

 

「多分、このメンテナンスって海人君のIS学園への編入にも関わってくると思うの」

 

「そう……なのか?」

 

「うん。海人君だって、ずっと医務室で生活する訳にもいかないでしょ。この間の外出も、本当はそういう為の準備でもあった訳だし。その……うまく言えないけれど。今日のメンテナンスで海人君のISの事が何か少しでも分かって、それで、ちゃんとこの学園にいられるようになってくれたら良いなって私は思ってる。授業、半年ぐらい遅れちゃうけどね」

 

 これに対し海人からの返事は無く、代わりにその足取りがほんの僅か遅くなった。

 

 たった今、神楽が話した事はあるいは希望的な観測によるものでしかない。しかし、整備室から出てきてからずっと不安げな表情を浮かべていた海人に、途方もない孤独をかかるばかりの少女に。これからはきっと、もっと良い選択が出来るようなって欲しいと、そう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 ――思い出は教訓となって助けとなる。神楽が父から聞かされたその言葉は、なるほど真実となって今、勇気という形になって彼女を後押ししている。海人との思い出が、神楽にとって手放せないものになりつつある。神楽の胸が躍るのも、至極当然の結果とも言えた。

 

 だが、同時に。神楽はある教訓を置き去りにしてしまっていた。つまり、思い出がいつか自分にとって都合の良い物だけになってしまう事もある。という教訓を。

 

 

 

 

 

 

 ドサッ、という奇妙な不快音が唐突に耳に入ってくる。神楽は眉をひそめた。それは、すぐそばでそれなりの大きさと重さを持った物が落ちるような音だった。だが、ここは人影の無い廊下で上から何かが落下してくるような心当たりなどどこにもない。何だろうか、と小さな思案を経て、嫌悪感が腹の底から猛烈に湧き上がる。口の中に酸味が滲む。それらをなんとか堪え、恐る恐る視線を横に向ける。

 

 恐ろしい悲鳴が廊下に響き渡ったのは、そのすぐ後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「装甲の外観は、確かに打鉄とほぼ同じですね」

 

 テンダーラヴの腕部装甲を撫でながら虚は言う。

 

 彼女は、数日前に奇妙なISが操縦者とともに学園にやってきた事、そして、件のISの調査が芳しくない事も生徒会長である更識楯無より聞かされていた。自分達生徒会の、否、更識の協力をすぐに求めなかった事は、虚にとってすら学園に対して少なくない不信感を抱かせていたが、その発端を目の前にした今となっては事の重大さを察するにはあまりにも容易いものがあった。

 

 件のISを解析にかけてもエラーを返されるという報告の通り、テンダーラヴの内部データにアクセスを試みるもモニターにはひたすらエラーのみが表示されている。いつどこで製造され、どの国によって管理されているかという情報を辿る事が全く出来ない。何重にも情報がブロックされている事で真相に辿り着けない、というよりもそれらがそもそも存在しないような不気味さがあった。

 

「……それで、更識としての見解はどうだ?」

 

 これまで出尽くしてきた情報を再びなぞるだけで、何一つ建設的な情報は出てこない。閉塞感が整備室に漂い始めていた。だが、千冬がパイプ椅子に深く座り直す事が合図かのようにこの空気はがらりと変わる。

 

「こちらでも所有者不明のISについて調べていますが芳しくありません。せめて何かしらの情報が残っていれば追跡も出来たのですが……。言うまでもありませんが、私達も、むやみに蛇を出すわけにはいきません」

 

「そう、か」

 

 虚はため息を漏らしながら頭を振る。その苦い顔に、千冬は極めて短い相づちで応える。

 

 更識。裏の事情に通じるこの組織ですらテンダーラヴの正体はまだ掴めていないという事実に、どこか千冬は安心していた。上着の内ポケットに仕舞っている私用の携帯は、銀の福音事件の後でまだ一度も鳴っていない。厄介な友人は今回の事件に関わっていないとみて間違いないだろう、と。

 

「ただ、八城亜麻という人間についてですがこちらはある程度人となりが掴めました。この少女はつい最近までとある福祉施設にいたようです。

 生後間もない頃に、匿名で施設に預けられたと記録が残っていました。両親は不明となっています。さらに追跡したところ、公立の中学を卒業済みという事まで分かりました。そちらも併せて調べましたが、良くも悪くも人並み程度の成績だったようです。中学卒業後の進路は施設の閉鎖もあって住み込みの仕事に就く予定だったとか」

 

「行方不明になった事について誰も疑問に思わなかったんだろうか」

 

「あまり大きな声で言えた事ではないのでしょうけれど。所謂捨て子だった事で施設以外では腫れ物扱いだったようです。本人もそれを分かっていたのか人付き合いは悪く無愛想だった、という証言もあったぐらいですし。幸い素行不良とまでは行かなかったようですが、連絡がつかなくなっても、それはそれで……と。誰も不審に思わなかったのかもしれません」

 

 虚の話す言葉の端々に、諦めが混じっていた。

 

 千冬の座っているパイプ椅子が、ギシリと音を立てる。八城亜麻という少女の心情をかがい知る事はもはや叶わない。誰からも見捨てられた少女が、いかにしてISを所持する事になったというのか。不条理さに、千冬は苛立ちを覚える。そして、袋小路に突き当たったような気分を晴らすような大きなため息をついて顔を伏せる。

 

「これは私の個人的な見解ですが」

 

 頭の上から、虚の声が聞こえた。

 

「八城亜麻が施設に預けられた経緯は不明ですが、時期的に考えて白騎士事件……ISとは無関係と見て良いでしょう。実際、ISとは何ら関わりがありませんでしたし。

 それと、気になる点もありまして。この施設は彼女が引き取られてから何度かそれなりの額の資金援助を受けていたようです。手がかりとしては薄いかもしれませんが、今はその経緯を調べているところです」

 

「……そうか。面倒をかけてすまないが、引き続きよろしく頼む。学園としてもいつまでも海人を保護という形でここに置いておく訳にはいかなくてな。学園に編入させるという方向で話を進めている。八城亜麻との照合がとれれば話も早いだろう」

 

 つばを飲み込み、腹の底に苛立ちを押し込めて千冬はようやく感謝の意を伝える。不意に漏らした編入の話はまだ決定事項では無く不用心だったかもしれないが、聞かされた少女の顔が僅かに柔らいだのを見て、考えすぎだと割り切った。

 

 

 

 

 

 

 整備室のドアが叩き付けるような鈍い音と共に開け放たれたのは、千冬がまさにこの決断を下した瞬間だった。

 

 金属質のドアが金切り声のような音をかき鳴らし、鼓膜をひどく震わせる。不快な音に千冬達は顔をしかめ、視線を入り口へと向ける。そこには神楽と理子、そして彼女らに両脇から抱え上げられ、だらりと頭を垂れる海人の姿があった。

 

 はじめ、千冬は関係者以外立ち入り厳禁と扉に貼り出していたにも関わらず、それを無視して整備室に入ってきた事についてどう厳重注意してやろうかという事を考えていた。だが、その異様とも言える光景に、彼女の中から職務への忠実さは瞬く間にかき消される。

 

「せん……せい……。海人君……が……」

 

「落ち着け。一旦海人を横にするぞ」

 

 神楽の肩は大きく上下し、なんとか声を絞り出すもののあまりにもかすれていて聞き取る事も難しい。千冬は彼女の元へ駆け寄り静かに言葉を投げかけると、虚へ目線で合図をかわす。壁際に積まれていた養生シートを何枚か重ねて広げて仮設マットを急造し、その上に海人を横にさせた。

 

「あ、あの。織斑先生。海人君なんですけど、突然倒れちゃったみたいで。あ、私はその場にはいなかったんですけど。でも悲鳴が聞こえて。そ……それで、ここは今入っちゃいけないってのは分かっていたんですけど」

 

 額に脂汗を浮かべる理子が、経緯を話し始める。だが、何度も言い淀むその口ぶりに、状況の理解が全く追いついていない事は明らかだった

 

「いや、緊急事態だ。谷原、四十院。お前達の判断は決して間違いではない」

 

 そう言いながら、千冬は海人の手首に指を当てる。脈はある。胸元を見ればゆっくりとだが上下に動いている。だが、肩を軽く叩いても顔が左右に揺すられて頭が垂れるだけだった。ここまで連れてこられる中でそうであるように、目を覚ます様子は全く無い。医務室に連れて行くよりも、ここに戻ってきた方が遙かに距離は短く事情の分かる者もいる。果たして神楽達の判断は妥当と言えた。

 

 いずれにせよ。二人がかりとは言え、気を失い完全に脱力する人間一人を運ぶ事は体力的にも相当厳しいものがあったはずだ。虚が、パイプ椅子を二脚並べて神楽達に座るように促す。

 

 しかし、実際に腰を下ろしたのは理子だけだった。神楽は、まるで周りに誰もいないかのようにゆっくりと海人の側に歩み寄る。そして、倒れるように膝から床に着くと、海人の手を握りしめた。

 

 力なく海人の側で座り込むその姿に、声をかけられる者などいない、

 

 

 

 

 

 

「……海人君」

 

 神楽は呟くように目の前で横たわる海人に呼びかける。

 

 彼女は、決して千冬や虚からの呼びかけが聞こえなかった訳では無い。今も背後から突き刺さるような視線を浴びている事や、理子がすぐそばのパイプ椅子に腰掛けて息を整えている事も理解出来る程に冷静だ。端から見て自分が気だるそうに見えるのは、単にここまで海人を連れてきた事に肉体的に疲労しているだけにすぎない。

 

 今、彼女の頭の中にあったのはただ一つ。何故、海人は突然意識を失って倒れたのかという事だけだ。

 

 海人は倒れる直前まで、自分と並んで歩いていた。ならばこそ、目の前で起きている事はあり得ない。普段とは違う出来事があったとすれば、それは何だ。神楽は記憶を、思い出を辿っていく。

 

 やがて、波打ち際で海人を見つけた時まで記憶が遡る。そこで、神楽だけが知っている、今見ている光景と重なるものを見つけた。

 

「まさか」

 

 震える言葉がこぼれた。それに続くものは、彼女自身ですら到底受け入れられるものではなかった。だが、自身に投げかけた何故という疑問は次々に結びついていき、一つの仮説として自然な形に収まっていく。

 

「……織斑先生。海人君のIS。それ、を」

 

 呆然とした表情を浮かべたまま、神楽は立ち上がる。そして、一瞬だけ千冬と目線を合わせると、ふらふらとした足取りでテンダーラヴの置かれているハンガーに歩み寄る。

 

 その場に居合わせた中で、神楽の意図を察したのは千冬ただ一人であった。千冬は戸惑う虚に向けて顎をくいと動かし、二人で海人をテンダーラヴのかかっているブースへと運び海人の両手両足にそれぞれ装甲を装着させていく。

 

 海人の姿はメンテナンスが始まる前まで戻る。神楽は、儀式にも似た光景を真正面から見つめ両手を合わせた。

 

「……う……ぁ」

 

 どれだけの時間が経ったかは定かでは無い。皆が固唾をのんで見守る中、海人が息苦しそうな声を上げた。瞼がピクリと痙攣し、瞼がゆっくりと開く。

 

「海人君!」

 

 その瞬間、神楽は堰を切ったように海人の元へと駆け寄り、鋼鉄の手を取った。

 

「……分かる? 私の事……!」

 

「……神楽さん? ここは、整備室か。俺達は食堂に向かってたんじゃあ」

 

 神楽が目元を真っ赤に腫らす一方で、海人はけだるそうに体を起こす。そして、怪訝そうな表情を浮かべてあたりを見渡した。今の今まで意識を失っていた事すら、まるで気づいてもいない。

 

 理子も、虚も、そして千冬ですら困惑の表情を浮かべ、何も言葉を発する事が出来ない。ただ鋭い視線を神楽へ向けるだけ。そんな視線を一手に引きつける中、神楽は語り始めた。確信めいた、はっきりとした口調を以て。

 

「思い出したんです。私が海人君と初めて出会った時の事。あの時も、海人君はすぐに気を失って。それで、医務室で私が銀の指輪を……テンダーラヴを海人君のすぐ近くで取り出した時。海人君は目を覚ましました」

 

「ま、待て。そんな馬鹿な事があるものか!」

 

 それがさも当たり前のように言いよどむ事無く出てくる神楽の話に、思わず千冬は声を荒げた。

 

 だが、神楽は気圧される事無く、真剣な眼差しを返す。

 

「……私だって、とんでもない事を考えている事は分かります。でも、ISは操縦者の生命を守る為の機構が備わっている事も、授業で学びました」

 

 ISには、絶対防御のように操縦者の生命を守る為の幾つもの機能を搭載している。ISに触れる者ならば誰もが知っている初歩的な知識だ。ならば、これらの機能は生命維持装置の役割を担っているとも言える。神楽の言いたい事とは、つまりそういう事だった。海人にとって、ISとはまさに文字通りのものなのではないか。ISが無ければ意識を保つ事すらできない、と。

 

 しかし、それらは全て肥大化した焦燥感から生まれた絵空事でしかない。真っ向から否定する事はいくらでも出来る。ただの偶然だ。

 

 

 

 

 そのはず、だった。

 

 ISから離れた事で気を失い、そして、ISが手元に来た事で再び目覚めた少女。その瞬間を、目撃してしまった。

 

 もはや海人という人間は、単にISを所持しているという理に収まらない。どうしようもない事実を、その場にいた誰もが認めざるを得ずにいた。

 

 

 

 

 

 

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