神楽は狭間に奉る   作:debac

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第四話 今のはナシですかね?

 

 

「テンダーラヴ」

 

 海人が呟くと、自身の親指に嵌められた銀の指輪からいくつもの微細な糸が吹き出し彼女の周囲を取り囲む。医務室で神楽が見た時と同じように、しかしその時とは違い今度は両手両足を覆い、黒鉄の装甲へと変容していく。ISテンダーラヴの全身像をはっきりと見る事が出来た。他のISに比べて装着される装甲の少ない、シンプルな意匠が。

 

 神楽は、外装に包まれた事で身長が一回り程大きくなった海人を見上げる。これまで自分の見てきたISは肩や腰、胸部や両手両足、そして背部に広がる翼が展開されてきた。ところが、眼前に立つ海人へ装着された装甲はほぼ両手両足を包み込むものだけで、無骨な装備はほとんど見られない。更に、肩部に大きくせり出す装甲も存在しない。これらの要素によってIS展開後も人型のシルエットを大きく保ち、結果として全身像は随分とスリムな印象を与える。それでも人間に比べれてしまえば遥かに堅牢だが。

 

 では、テンダーラヴを特徴づけているのはそういうマイナスの要素なのか、と問われれば全く違った。それらに代わり別のモノが展開されているからだ。両手の装甲の端部が白金色の布切れのようなものに変質しているのは医務室で見た通りだったが、肩部から背部に、そして、腰部から足元にかけて何筋かの白金色の帯が体の表面に沿いながらもゆるやかに伸びている。それは、天井からの照明を細かく反射して輝く。両手の装甲を変質せしめているものと同じ材質に見える。ふわふわと無軌道に宙を漂い、今にもどこかへ飛んでいってしまいそうだ。

 

 神楽は記憶を辿り、テンダーラヴの姿に近しいもの探す。そして、宙を漂う帯の美しさに、説話に登場する天女の持つ羽衣を重ねて見た。と言っても、眼前にあるそれを纏う者は、脳裏に浮かぶ華奢で美麗な織物を身に着ける天女の姿からは程遠く、堅牢な装甲に包まれた手足を持っている。そんな二の足で立つ姿は、あるいは山門で人々を見守る仁王像に近いだろうか。今、自分の脳裏には全く異なる二つの姿が浮かぶ。そして、それらがピタリと重なっているような、奇妙な感覚を覚えた。

 

「展開の様子を見る限り、ISなのは間違いないでしょうけど……でも、装甲部は……うーん……見たことがあると言えばあるし、ないと言えばないとも言いますし……」

 

 いつの間にやら真耶が海人の周囲を歩き回り始めている。テンダーラヴの装甲や帯の表裏を覗き込むように屈んでは立ち上がるのを繰り返しながら。怪訝そうな表情を浮かべて時折ぶつぶつと感想を漏らしている事にすら自分で気がついていないようだ。

 

 そして、千冬の方も真耶ほど露骨ではないにしろ似たようにテンダーラヴの姿を無言のまま観察している。その上急に視線が鋭くなるのだから、当然、その観察先である海人の表情には戸惑いの色が浮かぶ。それを象徴するかのように彼女は何かを言おうするものの口ごもり、その度に唾を飲み込む様子が見て取れた。 

 

「えっと、海人君の方も準備は出来たみたいですし。そろそろ始めませんか?」

 

 これは独り合点かもしれない、としながらも神楽は軽く手を叩き場の空気を切り替える。その意図を真っ先に察した千冬が咳払いを一つし、今までの行動を誤魔化すような小さな笑みを浮かべて顎をくいと動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 千冬に案内されるがまま、神楽は鉄骨の階段を上がる。その先、いわゆる中二階に設置されたブースからは演習場の様子を良く見下ろす事が出来た。すでに海人も真耶も、中央の砂地にて互いから距離をあけた所でそれぞれライフルを手にし待機している。こちらの様子に気づいた海人が手を振った。千冬いわく、「ちょっとやそっとではヒビも入らない」という強化ガラス越しで見る彼女の姿を見る限り、気分もすっかり持ち直しているようだ。

 

 千冬の手招きに従うがまま、窓際にパイプ椅子を広げそこに腰を下ろす。一方の千冬はと言うと、神楽にとっては見慣れない機材を、難しい表情で操作してからスタンドマイクに手をかけた。

 

「今回は海人のISを解析する為にカメラも起動させてもらう。構わないな?」

 

 屋内演習場に、千冬の声が僅かなエコーと共に響く。それに対し、海人は両腕を上げて大きな丸を頭上に掲げる。

 

 神楽の視線に、ほんのわずか、千冬の肩が震えたように映った。

 

「では、間もなくカウントダウンの後にブザーを鳴らす。それが演習開始の合図だ」

 

 天井から吊り下がっているカメラが動き始め、二人のIS操縦者にレンズが向けられる。同時に、ブースの外壁にかかっている電光掲示板のタイマーが点灯する。そして、千冬の手元のスイッチがカチャリと音を立てると、カウントダウンが始まる。空気が一段下がった。二人のIS操縦者がお互いの方へと向き直る。間もなく、重めのブザー音が鳴り響いた。

 

 先に砂を舞い上げたのは真耶の操るラファール・リヴァイヴの方だった。彼女は身を翻しながら空中へと飛び上がり、かと思えば海人へと真っ直ぐ急降下する。だが、さほど驚いた様子もなく、海人は予定通りと言わんばかりに後方へと跳ねる。

 

 しかし、ラファール・リヴァイヴのライフルの銃口が、全くブレる事なくテンダーラヴに迫った。その引き金かかる指に力が込められるのを見た海人は、歯を食いしばりテンダーラヴを真上へと急加速させる。その瞬間、真耶は上体を起こして容赦なく海人を追跡する。

 

「……すごい」

 

 眼の前で始まった機動戦を前にし、神楽は感嘆の声を上げながら考える。この演習は当初想像していたものよりもずっとシビアだと。手持ちのペイント弾には限りがあり、それを相手よりも多く当てなければならない以上、ただ相手を追い続けるものではなく執拗に攻撃を試みても命中しなければ意味を失う。

 

 つまり、短い制限時間内に相手の誤射を誘引しつつ、自身は正確な狙いを要求される。通常の演習とは要求される技能がまるで異なり、ずっと実践的な内容だ。思わず息を呑んでしまう。

 

「海人は山田先生の動きによくついてきている。その上で出し抜こうともしている。ISの動かし方は十二分だな。専用機持ちの面々とやらせても遜色ないだろう」

 

 いつの間にかパイプ椅子に座り込んでいた千冬が、機材に肘をつき食い入るように演習の様子を眺めて素直な感想を口にする。

 

 それは、神楽にとっても同様のものだった。海人の動きは軽快だ。おそらく真耶はフェイントをかけながら狙いを付けている。それでも、未だ一度も発砲に至っていないのは、海人がそうさせないからだろう。ただ、時折海人のライフルを持つ手が若干おぼつかないように見える事だけが気がかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ブース越しではなく、直接海人の動きを目にしている真耶は、いち早く海人の手元で行われている奇妙な行動に気づいていた。テンダーラヴの動き自体は機敏だ。狙いをつける度に緩急の激しい動きで回避行動を取る。単純に相手の今いる場所を狙って射撃をする、で命中させる事は難しいだろう。

 

 だからこそ、わざと射撃をさせようと隙を見せていたのだがそのたびに海人は手元に集中して全体の動きが鈍る。最初は何かしらの策だと警戒していたが、すぐにその正体を掴む事が出来た。

 

 心の内に急速に気まずさが生まれ、一旦地上に降りる。それにつられるように、テンダーラヴも砂地を踏んだ。海人の視線は、彼女の手元とラファール・リヴァイヴとを行き交っている。

 

「……もしかして。ライフルの使い方、分からなくなってたりします?」

 

 真耶は、自分の口から溢れてしまった疑問が、いまいち的を得ていないのではないかと悔やんだ。だが、ブースから激が飛んでいない以上、全くの頓珍漢な発言ではないだろう。

 

「い、いや、その。えっと、そういう訳じゃないんですが……」

 

 海人にとっては不幸な事に、手元に集中出来るようになった事でかえって焦りが大きくなってしまったようだ。彼女の肩が震えて額に脂汗が浮かぶ。傍目から見て何度も引き金を引こうとしている。その様子を伺っていた真耶は、たちまちに毒気を抜かれてしまった。

 

 演習が開始して間もなく一分経過となり、眼の前には棒立ちの相手がいる。絶好の攻撃のチャンスである事は間違いないのだが、これをそのまま受け止めようと思うほど真耶は鬼では無い。何より、演習開始前に自分で「勝敗はおまけ」と言っている。自分が今やるべき事は明白だった。

 

「安全装置は引き金のそばの、そのレバーです」

 

「……これですかね? あ、はい……はい。ありがとうございます」

 

 ライフルのあちこちを何度も何度も撫でて、ライフルの安全装置を視線から完全に覆ってしまっているテンダーラヴの指先の装甲を指差ししながら指摘してやる。そして、顔を上げた海人がその意図に気づいた瞬間、「あっ」と消え入りそうな声を上げてレバーをおろし、安全装置を解除する様子を最後まで見届ける。彼女の表情は、長年抱えていた疑問から開放されたようにスッキリとした笑顔に変わっていた。まるで、緊張感も無く。

 

 と、同時に。引き金にかけられていた彼女の指先は、緊張から解き放たれて途端に緩む。その拍子で、ぐいと引き金が引かれた。

 

「……うわっ!」

 

 テンダーラヴの背が大きく後ろに反れるや否や、パン、パン!と音が弾ける。震える空気がラファール・リヴァイヴのそばを駆け抜ける。直後、背後の壁面に青い塗料が叩きつけられた。

 

「……えっと」

 

 気まずそうに苦笑しながら、海人が恐る恐るブースの中に視線を向け、真耶もそれを追う。その先には唖然とする神楽と、瞼を硬く閉じて天井を仰ぐ千冬の姿があった。

 

「今のはナシですかね?」

 

「そんな顔をしても駄目だ。暴発だろうとなんだろうと射撃は射撃。タイマーだって止まっていないだろう?」

 

 絞る出すように海人の口から出たのは、祈るような言葉。だが、顔を戻した千冬からの回答は、あまりにも当然とも言うべきもの。

 

 二人のやり取りを他所に、真耶は電光掲示板を見る。二機のISが事実上停止している一方で、無常にも時間は経過している。千冬は今起きた事をアクシデントだとすら考えていないようだ。演習中のライフルの使用方法についての説明もお咎め無しで進行するという状況は、大盤振る舞いと言っても過言ではない。これ以上の配慮は無用だと暗に言い聞かさせられているように思えてしまった。

 

「……全く。不慣れだからと言って無茶な使い方はするなよ。自分の得物を壊すなど言語道断。失格モノだからな」

 

 心底呆れた様子でそれだけ付け加えて千冬は椅子へ座り直す。マイクを切り忘れているのだろう、ドスンと重たい音が響いた。海人と目が合う。思わず笑いが零れそうになるのを堪えられたのは実に幸いな事だろう。

 

「では、改めて……!」

 

 真耶は頭を振る。それが再開の合図。ラファール・リヴァイヴと共に空中へと跳ね上がった。置き去りを許さず、海人が追跡してくる。手元への雑念はすっかり消え失せて、表情には自信が溢れている。テンダーラヴの速度はぐんぐんと加速されラファール・リヴァイヴの横に並ぶ。

 

 だが、真耶も海人もお互い引き金を引かない。すでにその銃口を向けているにも関わらず。二人共、そろってお互いの意図を理解していた。どうせこの状況で射撃しても当たらないし、そうさせる事で隙を生じさせる事を狙っているのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 ―山田先生、海人のISの性能を調べる為に可能な限り彼女を追い詰めて下さい。ただし、完全に本気にさせるのではなく、かといって余計に手加減しているとも思われないように―

 

 真耶は、演習場の外で迷子となった海人が神楽に連れられて姿を見せる前に、千冬から聞かされた指示を思い出していた。彼女の言わんとする事はわかる。海人のISテンダーラヴを調べる為に、ただ展開させてハイ終わり、とはならない。かといってISの初歩的な動作だけでも足りない。かと言って、やりすぎたら海人が何をするのかか全くの未知数という問題もある。最後については千冬より「最悪の場合自分がなんとかする」と背中を押されてしまったので今更どうにもならないのだが。

 

 だが、幾つもの懸念事項は眼の前のISの動きの前にかき消されそうになる。あれの動きは非常に滑らかだ。今回の演習のようにリアルタイムで変動する予測を含めた行動を要求される際は、通常ISの動きに若干のもたつきが出る。迷い、という形で。IS操作に不慣れならばなお顕著となるのだが、海人にはそれが全く見られない。

 

 きっと、ブースから観察する千冬も同じ事を考えているだろう。技量は十二分だ、と。そんな事を思いながら、真耶は一旦海人と距離を取る。向こうもまた、この動きで次を察したのか追ってこようとせず空中で静止した。

 

「二分経過、お互い命中はまだ無し。でも、引き分けも無しですよ」

 

 壁面にかかる電光掲示板をちらりと見て言葉を漏らす。だが、その言葉と裏腹に、もう三分しか残されていないという寂しさがあった。楽しい時間はあっという間だという。つまり、自分は今、この時間が充実していると思っている。

 

「……それはさすがに大人げない気がするんですが?」

 

 海人からの緊張感のない返事を受け、自然と口元に笑みが浮んだ。そして、海人の眉間にシワが寄るよりも早く、左舷より回り込まんとラファール・リヴァイヴを再度加速させる。

 

 今度は最後まで食らいつく。遠慮なく、逃がすつもりもない。ラファール・リヴァイヴの姿勢が反れて、緩やかにきりもみ回転へと変化していく。。視界が目まぐるしく回転する。しかし、視線は全くブレない。手にかかっているライフルの先もまた、狂う事なくテンダーラヴを追っている。

 

 海人から、鋭い視線が返ってくる。不規則に上下左右へと空中を舞う緩急織り交ぜた動きで、テンダーラヴの羽衣がせわしなく揺さぶられている。だが、真耶の目を惑わせるには至らない。自ずと、ライフルの引き金にかかる指に力が込められる。その瞬間、カクンとテンダーラヴが強い減速をかけながら落下した。決して機体トラブルではない。

 

 自由落下に伴う回避行動。しかし、迷いのない真耶はもはやそれを見逃すつもりは無かった。断続的に二度、演習場に破裂音が響く。残響音が僅かに残るもののたちまちにに消え入る。海人の表情が苦悶に歪んだ。

 

 身を翻し、両足で砂地へ着地したテンダーラヴの右脚と左肩に、赤い塗料がべっとりと付着している。それは、真耶の放ったペイント弾が二発、テンダーラヴへと命中した事実を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 海人の額に、冷や汗が浮かぶ。真耶がライフルで今まさに発射しようとする瞬間は自身の目ではっきりと捉える事が出来た。だからこそ急制動をかけて強引にテンダーラヴの軌道を捻じ曲げた。真耶からの射撃の誘引と、あわよくばカウンター攻撃を仕掛ける為に。

 

 だが、真耶はその動きすら容易に追いかけ、狙いが振れる事も無かった。その上で、ペイント弾をこちらの動きに完全に合わせて、『先に置いて』きた。寸分の狂いもない予測射撃だ。

 

「マジですか。さっき神楽さんも言ってましたけど。山田先生、強いですね」

 

「はい、先生ですからね。これで2-0ですよ。お互い残弾は、もう3発だけ」

 

「そうは言っても、まだ3発残っていますからね……!」

 

 なるだけ嫌味っぽく言ってみたものの、真耶からの反応は実にそっけない。楽しげですらある。途端に悔しくなり、彼女の言葉を借りながら心の奥底に燻ったものを混ぜ彼女へと返す。

 

 幸い、テンダーラヴに付着した塗料はISの動きを阻害するものではない。ただ、着弾時の反動はそれなりに存在し、何より重力に従って地面へと落下する塗料は着弾の事実を文字通りべったりと見せつけてくれる。追い詰められるという意味で、肉体的よりも精神的なダメージが大きい。

 

 つのる焦りの中、海人は無意識に内に指先を擦っている事に気づいた。テンダーラヴの装甲に包まれている為に金属の擦れる鈍い音が僅かに鳴る。すでに残り時間は二分を切った。その間に残弾を撃ち切る。その上で、理屈の上では残弾全てを当てなければ勝ち目は薄い。真耶が残弾の狙いを全て外すとは考えにくい。きっと狙いにくるし、当ててくるだろう。

 

 ならばこそ、やりようはある。その為の準備はした。通るかどうかは結果次第だが、勝ちは目指したほうが良い。そう宣言もした。その覚悟を確かめるように、テンダーラヴの分厚い装甲越しに今一度砂地を大きく蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 通常、リードを奪われた側が取る行動は二つ。負けを取り返そうとがむしゃらに突っ込んでくるか、あるいは勝ちを諦めてながらも少しでも差を縮める為に遁走し、わずかな反撃のチャンスを狙うか。

 

 だが、真耶から見た海人の様子は、そのどちらにも属さなかった。正確な表現が思いつかなかった為に確信こそ避けたが、少なくとも彼女はまだ勝ちの目があると極めて冷静に考えている。

 

 と、なれば。海人はこちらからの攻撃は全て避けて自身の残弾を全て命中させる算段を持っているのだろう。それはつまり、千冬との当初の目論見が達成する目処が立ったという事でもあった。テンダーラヴが何を出来るかは未だわからないが、仕掛けてくるならこのタイミングをおいて他に存在しない。にわかにブースの中からの視線が強くなった事を感じ取る。

 

 自然と、ライフルを握る手に力がかかった。銃口を、急接近するテンダーラヴへゆっくりと向ける。

 

 テンダーラヴは回避行動へと移行していたが、すでに折込済みで狙いを付けている。軌道の変化するテンダーラヴの中心、即ち、海人自身の胸部へと。彼女の表情が強張る。あえて銃口を目で追える程ゆっくりと向けたのはそこに意識を向ける為。ISスーツや、或いは当人が塗料で色々と大変な事になってしまうだろうが、これもまた実際の演習を想定したもの。

 

 わずかな罪悪感は、好奇心によってたちまちにかき消される。真耶は、興奮気味に奥歯を噛み締めて引き金を引いた。銃口からペイント弾が弾き飛ばされ、真っ直ぐ、狙い通りにターゲットへと飛翔する。海人の胸部へと吸い込まれていく。そして、海人の視線がそこに集中した瞬間に、素早く銃口を上げてもう一度引き金を引いた。ちょうど、彼女の視界から外れた位置を狙って。すでに一発目の弾道に対しての回避姿勢は取られている。二発のペイント弾を完全に避ける事は極めて困難だ。

 

「……そう、それが良いんですよ」

 

 だが、今まさに着弾せんとした瞬間、海人は笑みを浮かべた。同時に、テンダーラヴの腰部を漂っていた白金色の帯が動き出す。それらは、自らの意思を持つかのように今まさに海人へ激突せんとするペイント弾のすぐそばへと寄り添った。

 

「えっ?」

 

 真耶が、演習を開始してから始めて驚愕に目を見開く。

 

 きらきらと輝く羽衣が、海人の脇へと逸れていくようなゆるやかなカーブを作った。そして、二発のペイント弾もまた、帯の形に沿って滑るように徐々に弾道を変えていく。やがて、テンダーラヴの背後へと通り抜ける頃には発射された時に存在していたであろう慣性はまるで失われ、中身をぶちまける事なく重力に寄り添うように砂地の上へと落下してしまった。

 

 そして、ペイント弾の奇妙な弾道変化を最後まで見届けてしまった真耶は苦虫を噛み潰す。自身のラファール・リヴァイヴの右肩に青い塗料が広がっている事に気づいたからだ。

 

「これは、反撃。勝ちを取るための布石」

 

 見上げた先で、海人が笑っている。つい数分前までライフルの使い方で泡を吹いていた少女の姿は、もうどこにも見当たらなかった。

 

 

 

 

 

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