※pixivに以前投稿していたものを多少加筆して再投稿したものとなります。
貴女の存在が眩しかった。
いつまでもいつまでも、遠く離れた場所で、貴女の輝きを見続けていたかった。
貴女の物語で、私は端役以下の存在であればそれでよかった。
それだけで、ずっと幸せだった。
だった、のに。
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貴女が私の元へ来た。
動転を必死に押し込めて応じる私へ、貴女の放った一言は「惚れた男がいるから、力を貸してほしい」だった。
あの時の私の感情は、どう表せばいいだろう。
ああ、私でも貴女の役に立てるのだ、と思わなかったと言えば嘘になる。
だけれど、それよりもずっと嫉妬の念が優っていた。
どうしてあんな男を選ぶのだと、私の方が余程貴女を想っていると、貴女に相応しいのは私だと、表に出さずにずっと考えていた。
酷く、悩んだ。
貴女の力になりたい。けれど貴女の恋が実るのは許せない。
どうすればいいのだろう。どうすればよかったのだろう。
あの時の私は悩み、苦しんだ。
そして決めた。
伝わらぬ恋ほど苦しいものはないと、私が誰より知っていたから。
だから。
私は貴女の、声を奪った。
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地獄のような日々が続いた。
貴女の声で紡がれる美しい歌声は、しかし何の感情も宿してはいなかった。
いつもの貴女の歌声のように、世界に対する感謝と慈愛に満ちたものではない…風のさざめきを聞いているような、そんな歌声。
焦がれた貴女の億分の一も満たさないその天使のような歌声は、私を苛んでやまなかった。
甘い言葉を囁かせた時などは死にそうになった。
冬の海のように冷たいその声は、私の浅ましさを刺すようだった。
貴女から奪ったその声で私が何を言わせている、という自責を抱えながらも、どうしようもなく頬に血の登る自分が情けなくてしょうがなかった。
何故声を奪ったのだ、と過去の自分を恨みもしたが、仕方がなかったのだ。
貴女にあの王子を諦めさせるには、それしかないのだと信じていた。
それだけすれば、貴女も諦めるだろう、とも。
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しばらくして、貴女の姉達が訪ねてきた。
まだ諦めていないのだ、と聞いた時は素直に驚いたものだ。
このままでは妹は死んでしまう、と言われた時にはどうしてそんな話になっているのだ、とまた驚いた。
私が貴女に掛けた魔法は、単に足を与えるだけのものだったはずだ。
だけど同時に好都合だ、とも思った。
命が掛かっていれば、貴女も諦めるはずだと。
だから、あの王子を殺せと唆した。
彼女がそのナイフで王子を殺せば、貴女は元の姿に戻る、と。
それだけを口に出すのが、やっとだった。
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船が通り掛かる音がした。
程なく何かが落ちてくる音が聞こえて、慌ててそちらへ泳いで行った。
貴女が、胸から血を流しながら、落ちてきた。
貴女のその、人のままの足を見て、ああやはり駄目だったのかと思った。
貴女の心からあの男を退ける事は、ついにできなかったのだと、あの時私は悟ったのだ。
きっと貴女は優しい人だった。
王子に心を寄せた他の女を見て、自ら身を引いてしまうくらいには。
自分の恋心よりも、他人の恋心を優先してしまうくらいには。
ならば、何故。
何故私の恋心は打ち捨てられてしまったのだろうか。
愚かしい問いが浮かんだ時には、その答えももう決まっていた。
彼女にとって、私は他人ですらなかったのだ。
そもそも彼女の物語の中に、私は存在してすらいなかったからだ。
だから、私は。
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ぱたん、と本を閉じた。
これは私の独白記だ。
いつまでも捨てられない未練を綴った、それだけのものだ。
だけど、どうか許してほしい。
最後まで貴女の物語に私が介在することはできなかったけれど。
終わった後の貴女と寄り添う、愚かな魔女の後日談も。
それくらいの幸せは、どうか許してほしい。
もう私が望むことは、それだけしか残っていないから。