【逃避行】ワイ将生徒 一年間練りに練った自治区脱走を本日決行   作:ホッケ貝

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 助けを求めるにあたって、なぜ真っ先にシャーレの先生ではなくレッドウインター連邦学園に訪れることにしたのか。

 それにはいろいろと理由がある。

 

 そもそも大前提として、この脱走はただ逃げるだけでは終わらない。

 なぜなら、アリウスの諜報網は"張ってあるところに関しては"極めて緻密であり、私のような脱走者の追跡も仕事であるため、遅かれ早かれ見つかってしまう。

 特に、最精鋭であるアリウススクワッドが出動した場合、どれ程頑張っても48時間以内に捕まる。

 

 そこで私は考えた。

 それは、追手が動き出した時――自治区内に駐屯する兵力が薄くなるタイミングで一気に攻め込み、支配の中枢であるベアトリーチェを挿げ替えるしかないのでは?と……。

 アリウスの統治体制を根底から変えてしまえば、追手自体無くなるだろうという大胆な算段である。

 この作戦を成功させるためには、時間と人員が要となる。

 短期間で大量の兵力を確保し、各地に出払った兵力が反転し集結する前に、敵頭領の挿げ替えを完遂させなければならない。

 

 そういった事情を前提に、色々と各勢力の動きを机上でシミュレーションした結果、レッドウィンター連邦学園の工務部に協力を持ちかけることが最適と判断したのであるのだ。

 

 理由を端的にまとめると、このようになる。

・如何なる権力者も敵視する傾向があるため、生徒が虐げられている事をアピールすることで援助の可能性を底上げできる

・キヴォトスでも屈指の部員数を誇るうえ、戦闘力も申し分ない

・生徒会相手に十分な発言力を保持しており、学園の判断を待つことなく行動に出れる可能性が大

・シャーレに駆けこむことを予想して付近に監視網を築かれるうえ、先生の立場ゆえに迅速な行動ができない可能性が高い

 

 また、安守ミノリ氏はデモ・ストライキといった現体制へ挑むことを趣味としているため、私が掲げる「生徒を虐げる悪の支配体制を打破したい」という目的は、食いつくには十分な餌であるはずだ。

 

 仮に援助が得られなかったり、万が一攻撃に失敗したとしても、同時並行で自治区の機密資料を各勢力に送り付けることで騒ぎを大きくし、遅かれ早かれ動かざるを得ない状況へ追い込む算段である。

 スレ立ても、騒ぎを効率的に大きくするための着火剤のような役割をこなせると見込んでしたことである。

 

「――という訳です。アリウス自治区では現在進行形で大勢の生徒が権力者に虐げられており、1分1秒でも早い解放が必要なのです。どうかよろしくお願いします、同志安守ミノリ工務部部長」

 

「……なるほど……。事情は理解できた。つまり君は、アリウス自治区から生徒を解放するためには、私たちの協力が不可欠と」

 

「その通りです」

 

 会話の流れを途切れさせないよう、私は即座に返事を返す。

 すると彼女は立ち上がり、右手を半分ほど挙げて握り拳を作った。

 

「分かった。力を貸そうじゃないか同志!共に立ち上がり、革命を成功させようではないか!」

 

 そう言うと拳を開き、手を私の眼前に差し述べる。

 望んだ理想の結果を前に、私は昂る気持ちをあえて前面に押し出しながら、「はい!」と返事をして手を握り、熱い握手を交わした。

 

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

――

 

 

―――

 

 

 

「ま、マダム、大変申し訳ありませんでした。これもすべて、私の無能が原因でございます……!」

 

 這いつくばるように土下座をし、震える声で赦すを乞う少女。

 対して、赦す側であるマダム――ベアトリーチェは、さしたる興味を示していないかのよう振る舞いをする。

 強者、あるいは赦す側、はたまた生殺与奪の権利を握る側の余裕といった様相だった。

 

 ――今欲しいのは謝罪じゃない、行動で示せ――

 

 とでも言わんばかりの沈黙。

 

「2時間」

 

「…は」

 

 突然、静かな空間に響く鶴の一声。

 

 彼女の許可がまだないにも関わらず、少女は思わず顔を上げる。

 その行動が命取りであった。

 

バッ!

 

「あがっ!?」

 

 ベアトリーチェはわざわざ屈み、少女の口に扇子を突っ込むと、それを広げる。

 

「2時間以内に探しなさい。さもなくば……」

 

 ミリミリと音を立てて、扇子を広げる力が強くなっていく。

 

―顔面トラばさみの刑―

 

 刹那、少女の脳裏に過る処刑方法。

 まさか、今まで自分がしてきた方法で殺されるのでは?と、少女は半狂乱になる。

 生きたい、死にたくない、痛々しく惨たらしく死ぬなんてヤダ、これ以上マダムを怒らせたらヤバい、絶対になんとかマダムの言うことを達成しなくてはならないと、様々な感情がドッと押し寄せてきて、少女の顔はぐにゃりと恐怖なんて生温い形相に歪む。

 

「あ”う”、う、げっほゲホゲホ……」

 

「あまり私の忍耐を試さないこと、いいですね?」

 

 そんな少女の様子を見て、ベアトリーチェは扇子を引っ込め、そう告げた。

 

「は、はい!わかりました!マダムのご厚意に感謝します!私の無能を謝罪します!必ずやこの挽回の義務を、果たします!!」

 

「よろしい」

 

 再度、少女は這いつくばるように土下座をし、先ほどよりもさらに謝罪の念を込めて赦しを乞う。

 ベアトリーチェは少女の言葉に満足そうな笑みを浮かべると、そのまま踵を返して去っていく。

 その後ろ姿を見届けながら、少女はドッと心労から崩れ落ちた。

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